地域との連携で障害者雇用の定着を目指す
~共に働き、共に学び、共に生きる~


1.事業所の概要
ノーマライゼーションの理念の社会的浸透から、障害をもつ人々の社会参加が進み様々な場所で活躍する人も多いが、このような状況があるものの障害者が生き生きと働き、生活していくためには会社で共に働く人、地域の人々の理解と支援が必要である。ノーマライゼーションの原理は、より具体的になり、障害者の住居、教育、就労などの環境を正常化し、すべての人と同様の法的、人間的権利を保障することであると定義づけられている。
当時、岡山県から障害者雇用の企業立地の誘いがあり、県が進めていた吉備高原都市の一角に県誘致第一号の企業、日本で最初の第3セクター方式により吉備松下株式会社を設立した。
パナソニック株式会社(旧松下電器産業株式会社)の特例子会社であり、重度障害者多数雇用事業所として昭和55年10月1日に設立、翌年5月よりビデオ電気回路部品の組立加工を主として操業を開始し、平成20年10月より現在の社名に変更した。会社では、障害のある人もない人も共に力を合わせて働いており、快適な環境のもとで、モノづくりに励んでいる。
出資割合(岡山県:24.5%、吉備中央町:9%、パナソニック:66.5%)
2.障害者雇用の経緯
人間にとって、働くということは生きがいの一つである。
障害者が働くことが出来る条件を整えることは、職業を通じて社会参加への途を拓くことに外ならない。リハビリ訓練を経て機能を回復し、職業能力を身につけた障害者が、働く意欲と能力がありながら職業に携わる機会に恵まれない時に、重度障害者の働く場と経済自立(社会復帰)の場を提供し得るという、願ってもない機運に恵まれ、身体障害者は京阪神から九州にかけて、(全員車いす)25名を採用し、障害のない者は地元の町から50名採用して発足した。
現在は、身体障害者だけでなく、知的障害者、聴覚障害者、発達障害者も働いており、障害のある従業員35名、障害のない従業員57名である。障害者の採用に当たっては、ハローワークを始めとし、近隣の関連施設であるリハビリテーションセンター(医療・職業)や障害者授産施設や障害者職業センター等と情報を密に交換しながら進めている。また、トライアル雇用、企業内実習、各種助成金制度を運用しながら、雇用の定着を図っているところである。
3.仕事の内容
岡山市にあるパナソニック株式会社AVCネットワークス社岡山工場と直結した関係会社として、材料供給を受け、ビデオ関連部品の組立加工を行っている。
①ビデオムービーの組立
②ビデオムービーの液晶部組立
③ビデオムービー、デジタルスチールカメラの付属品組立




4.障害者の仕事紹介
当社の従業員は、パナソニック製品を真心込めて、高品質のモノづくりに真摯に日々励んでいる。会社設立当初は身体障害者、中でも下肢障害者のみであったが、岡山県からの要請も有り、昭和59年には知的障害者の受入れ開始、平成22年にはハローワーク等の紹介により発達障害者の受入れも行っている。
(1)身体障害者:Yさん(重度身体障害者)の紹介

平成18年3月に入社、勤続5年となり、生産活動も安定し、新たに入社してきた後輩スタッフの相談にものってくれている。入社当時は自宅が遠いということもあり、会社近くの身体障害者福祉ホームに入居して通勤していたが、昨年結婚し、現在は市内から1時間ほどかけて車で通勤している。業務終了後の研修会にも積極的に参加し、組立ラインのリーダーとして育成している。
会社の生産活動以外でも、スポーツ大会や技能競技大会にもチャレンジしており、平成21年には全国障害者技能競技大会(アビリンピック)電子機器組立の部に出場、活躍している。



(2)知的障害者:Fさん(重度知的障害者)の紹介

平成21年10月からトライアル雇用を開始し、平成22年1月より正式採用となった。トライアル雇用に至るまでは社会福祉法人の授産施設より職場体験実習を行ってきた。会社近くのグループホームから通勤している。新しい日常生活並びに職業人としての生活に問題なく慣れるために、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構(当時)の助成金制度を活用し、業務遂行援助者を配置し指導している。非常に前向きな性格で職場を明るくしてくれている。
(3)聴覚障害者:Kさん(聴覚障害者)の紹介

ビデオカメラの組立経験や知識もあり、責任感が強く仕事に対応している。また、年長者としての人生経験を活かし、他の聴覚障害者の相談に乗り、面倒を見てくれている。会社への提案・改善活動等も積極的に行い、働きやすい環境づくりに一役かっている。就業後は定例会の手話教室に参加し、手話の指導をしている。
(4)発達障害者:Uさん(発達障害者)の紹介

国立吉備高原職業リハビリテーションセンターの企業連携職業訓練制度を活用し、職場実習を経過した後、平成22年5月に入社した。材料伝票のPC入力を主業務としている。材料搬入時には荷物の積み下ろしも行う。現在では電話応対、校内放送も行えるようになり、仕事の巾が広がってきている。当社では発達障害者は初めての取り組みということもあり、実習受入時にリハビリテーションセンターの指導員に講習会を依頼した。職場では障害の特性、本人の特性をよく理解し、指導やフォローにあたっている。また3ヶ月に一度、主治医、障害者職業センターの障害者職業カウンセラーと就業・生活支援センターの就労支援ワーカー、並びに職場関係者による懇談会を実施し、情報交換を行ない、職場定着につながるよう支援している。
(5)社会貢献活動について
①実習生の受入

当社の地元には、授産施設、リハビリテーションセンター(医療・職業)という重度障害者等の関連施設があり、連携を密にし、職場実習生を受け入れ就労支援を行っている。実際の会社現場で実習を経験することにより、就労に結びついている。これまでの障害者雇用のノウハウを活かし、障害の特性を理解し、個々に合わせた指導を行っている。
また、組立作業の実習現場では、画像認識装置を導入している。この画像認識装置とは、組み立てた商品に欠品がないか、確実に勘合しているかを、短時間で一台ずつ全数について検査することができる機械である。このことにより多くの実習生に安心して職業体験をしてもらうことが出来ている。こうした機器を通じて、働く人がスムーズに職場に入れ、環境に慣れていくことの支えになっているのは確かなことであり非常に効果的である。



②ボランティア活動による地域貢献
1)アルミ缶の回収活動
「全員参加・社会貢献・継続性」をコンセプトに、岡山パナソニックファミリー会をはじめ地域事業所、地元住民の協力をいただき、ボランティア活動としてアルミ缶回収を行っている。
アルミ缶リサイクルの収益金は、「岡山吉備高原車いすふれあいロードレース」や「吉備の里ふるさとまつり」など地元の障害者交流活動事業の運営資金の一助に充てられている。
平成8年から開始したこの活動も今年で15年を経過し、地元に根付いた事業として益々評価されている。
・地球温暖化防止活動大臣表彰(環境庁) 1999年
・岡山県知事表彰(岡山県) 1999年
・アルミ缶回収協力者表彰(アルミ缶リサイクル協会) 2000年
・リサイクル推進功労者表彰(リサイクル推進協議会) 2000年
・リデュース・リユース・リサイクル推進功労者等表彰(3R推進協議会) 2003年

2)「岡山吉備高原車いすふれあいロードレース」事務局
毎年10月に吉備高原都市で開催される「岡山吉備高原車いすふれあいロードレース」は、緑あふれる吉備高原で、障害のある人もない人も、同じフィ-ルドで共に参加し、競いふれあうロードレースを開催することによって、お互いの理解を深め交流を広めるとともに、競技力向上と、健康や体力づくりを目的としており、1988年からスタートし、地元の一大イベントの一つとなっている。
この大会の事務局を1998年から担当している。岡山県、地元町、陸上競技協会、山陽新聞社、吉備高原都市内各事業所で構成された委員会運営や大会全般の調整業務をボランティアで行っている。事務局活動を通じて、障害のある者とない者相互の理解、交流を深めることや自然豊なあたたかい町のPRに努めている。また官民一体となったユニークな大会運営は他の大会からも注目されている。

③厚生労働省認定『障害者雇用優良企業』
当社では、障害者雇用や就労環境づくり等の活動実績をはじめとした障害者雇用に関する積極的な取り組みが評価され、平成21年10月、厚生労働省の障害者雇用優良企業として認証された。これは、厚生労働省の委託団体である社団法人全国重度障害者雇用事業所協会が運営する障害者雇用優良企業認証制度の基準を満たした企業が認証を受けるもので、認証された企業は「ハートフル・リボン・マーク」を使用することができる。

障害者・企業・社会を表す3本のリボンを結び合わせることで 強い絆によるノーマライゼーションの実現を表している。
④重度障害者職業コンサルタント
常務取締役は社団法人全国重度障害者雇用事業所協会の理事を歴任し、平成21年9月には「重度障害者職業コンサルタント」を委嘱され、その業務にあたっている。障害者雇用を開始する企業の相談をはじめ、視察に来社する団体からの各種質問に回答、対応している。
このような機会を得て、社会的な使命を果たすことは、地域の障害者雇用の創出のみならず、事業所における透明性確保にも繋がっている。

5.今後の展望として
パナソニック株式会社の特例子会社として今後も発展し続ける為に、障害者のある人もない人も一緒になって、明るく働きやすい環境のもとで自立した生産活動をしていきたい。また、吉備高原都市では周辺地域でも温かいコミュニティー活動が積極的に進められており、「心のふれあう、生き生きした職場づくり」を実現するために全員参画で共々に努めていきたいと希っている。
社会的に障害者を取り巻く雇用の状況は大変厳しいものがあるが、このような中で声をあげにくい障害者から、その声を少しでも受け止める機会を設け、労働環境や処遇改善に少しでも歩み寄り前進することで、働く人の笑顔に結びつけば大変うれしいことである。
事業を管理する側としては、環境との関係も視野に入れながら、障害にはいろいろな次元・側面があることを理解すること、別の言い方をすれば障害を構造的に把握理解することは大前提として考える。
我が社の満足は、顧客の幸せと労働者の幸せを結びつけることであり、その探求は絶えることはない。障害者が働く環境が当たり前の社会として存在する世の中にするためには、人を財産とし、経営的にも戦略的に動くことの視点が必要であると考える。勿論、個人の働きを見ることも大事であるが、その前に働く職域を開拓し、働く人の意欲をわかせる環境づくりに事業経営者が、トップマネジメントで参画することこそが、内的生産性を高めることにも繋がることに間違いはない。
採用については、今後もハローワークや障害者職業センター、障害者支援施設、その他の関係機関との連携について、単に利用するということだけではなく、いかにして連携を図るかという視点が大事である。障害者と職場との関係においても、個々の生活状況を把握しながら、障害のある者もない者も共に働き、共に学び、共に生きることで、喜びや幸せを全員が感じられる、夢の創造基地「吉備」をこれからも発信したい。

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