事業所と福祉機関が連携して支援し続ける職場
- 事業所名
- 山口県貨物倉庫株式会社 山口物流センター
- 所在地
- 山口県山口市
- 事業内容
- 貨物運送・倉庫業
- 従業員数
- 280名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 保安作業員 内部障害 知的障害 4 倉庫内作業員 精神障害 1 フォークリフトオペレーター - 目次


1.山口県貨物倉庫株式会社 山口物流センターの障害者雇用
山口市江崎の地に広大な敷地を有する山口県貨物倉庫株式会社 山口物流センターは、貨物輸送トラックが次々と出入りする山口県内屈指の大型物流センターである。ここでは、人々の日常生活を支える食料品はもとより、地域産業の発展に欠かすことの出来ない膨大な数の商品の配送が、24時間体制のもとで進められている。当社による物流サービスの展開は、地域経済の活性化はもとより、雇用の創出にもつながっている。従業員数280名の当社では、6名の障害者が就労しており(平成22年10月現在)、障害者法定雇用率を達成している。
2.事業所からの支援と福祉機関からの支援
障害者雇用の陣頭指揮をとっている総務課課長 福重一成氏に、当社の実践についてお聞きした。
「当社は物流サービスを展開しておりますが、企業としての社会貢献も大切に考えております。当社では、以前から身体障害の方が働いておられましたが、知的障害や精神障害の方を雇用し始めたのは平成15年くらいからです。」と福重課長は語る。
知的障害者や精神障害者の就労を実現させ、さらに安定就労に結びつけていくためには、就業面への支援と同時に、生活面への支援を欠かすことはできない。当社では、こうした幅広い内容の支援を、福祉機関との緊密な連携のもとで実現させている。

「障害のある6名の従業員の安定就労を支える柱として、就労移行支援事業所アミーチ(山口市)や光栄会障害者就業・生活支援センター(宇部市)などからの支援を、現在も定期的に受けております。」
3.対応の基本
障害のある従業員に日々接している共配センター課長 亀井幸治氏に、その対応のあり方についてお聞きした。
(1)「当たり前に叱る」という方針
「知的障害のある従業員だから遠慮して叱る、といった接し方はよろしくありません。私は、当たり前に叱るということを心がけています。障害の有無に関わらず、分け隔てなく指導し、叱るということです。ただ、叱った後、その従業員の様子をよく見るようにしています。顔が引きつっていたりしていないか、といった確認です。『次には気をつけます。』などの言葉がその従業員から出てくれば、まずは安心ですね。」と亀井課長は語る。
職場での部下への叱り方については、一般的に上司が抱く悩みの一つと思われるが、分け隔てなく叱りつつ、その後のフォローも忘れぬという方針が、当社の従業員の安定就労を支えていることが伺われる。
(2)「大きい声で互いに挨拶する」という方針
「また、私は従業員に『大きい声で挨拶しなさい。』と伝えています。小さい声での挨拶はダメです。近頃は、この大きな声での挨拶が従業員に定着してきました。」
互いの目を見て大きな声で挨拶することを通して、互いの志気を高めることもできる。さらに、挨拶時の様子からその従業員の心の状態を上司が察することもでき、早期対応も可能となる。
亀井課長は、以上のように従業員への接し方を語った後に、全員に向けての信頼の言葉を続けた。
「障害のある従業員は、当社を支える戦力になっています。もし彼らがいなくなると、私たちの職場は困ります。」
4.従業員への支援の具体
福重課長と亀井課長に、障害のある6名の従業員一人一人の勤務の様子や、具体的な支援の実際をお聞きした。
(1)Aさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Aさんは山口県内の特別支援学校の卒業生である。卒業後に勤務した水産加工会社が倒産し、その後、福祉作業所アミーチ(現「就労移行支援事業所アミーチ」)からの支援のもとで約2ヶ月間の職業委託訓練を体験し、平成14年10月に入社の運びとなった。近隣にある自宅で家族と一緒に生活しながら、自家用車で通勤している。現在、常勤社員として①商品をカーゴ内に仕分ける、②所定の位置まで搬送する、という作業に主に従事している。(註:常勤社員は保険有・勤務時間は7時間半・給与は時給計算)


一時期、複数の退職者が続いたことがあった。その時の雰囲気に影響を受けたためか、Aさんも退職を申し出ようとしたことがあった。その時、亀井課長はAさんに向け、次のように語りかけた。
「君(Aさん)は、これまで努力したから常勤社員になることができたんだよ。もし仮に君がここを辞めて他社に移ったとしても、簡単には常勤社員になれないと私は思うよ。君の周りにいる多くのパート社員さんたちは、君のような常勤社員になりたいという願いを持ちながら、毎日この会社で働いているんだよ。」
亀井課長は、Aさんの本意を聞き出すよう努めながら、雇用情勢の厳しいこの社会で再就職することの難しさを真摯に伝えた。この言葉によって、Aさんはそれまでの気持ちを切り替えることができた。これ以降、気持ちが揺れ動くことは無くなった。Aさんは今日も一連の作業にてきぱきと取り組み続けている。
「納得できる理由が無い限り、私はその社員を退職させたくないのです。」
従業員の主体性を尊重しつつも、安易な退職や転職をくり返すことがないよう、亀井課長は努力することの大切さについても従業員に語りかけている。

(2)Bさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Bさんも山口県内の特別支援学校の卒業生である。当社への就労までに数社の就労経験があり、就労移行支援事業所アミーチからの支援のもとで平成21年3月に入社の運びとなった。山口市内にある知的障害者通勤寮で生活しながら、当社までの片道約12㎞の道のりを毎日自転車で通勤している。


現在、常勤社員として倉庫内の補助作業全般を受け持っている。
その作業としては、①オリコン(商品を入れる箱)に貼られた番号シールを剥ぎ、オリコンをたたみ、積み重ねる、②使用済み段ボール箱をたたんでカーゴ内に積み重ね、所定の位置まで搬送する、といった内容が中心である。膨大な数のオリコンや段ボール箱を慣れた手つきで次々と取り上げ、仕事を進めるBさんの姿からは、この部署を取り仕切ってきたことからの自信が伝わってくる。
「Bさんには、無断欠勤や無断遅刻などがありません。私たちはBさんに信頼を置いています。」と福重課長も目を細める。
(3)Cさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Cさんも山口県内の特別支援学校の卒業生である。AさんやBさんと同じく、当社への就労までには数社の就労経験があり、就労移行支援事業所アミーチからの支援のもとで、平成20年10月に入社の運びとなった。現在、光栄会障害者就業・生活支援センターからの支援を受けながら、宇部市内のアパートで生活し、バスで通勤している。Bさんと同じく、常勤社員として、倉庫内の補助作業全般を受け持っている。その作業としては、①カーゴに貼られた配送用シールを剥ぐ、②カーゴに取り付けられた小黒板(商品情報が白チョークで記載されている)の数字などを消す、といった内容が中心である。次から次に届くカーゴの間に分け入り、Cさんは黒板消しを片手に迅速に作業を進めている。


Cさんにはてんかん発作があり、現在も通院と服薬を続けている。発作によって職場で倒れたことがこれまでに数回あったが、その時の対処法について光栄会障害者就業・生活支援センターから事前にアドバイスがあった。そのポイントの一つに「発作が生じた時、Cさんを安全な場所に移し、体を横にして安静にさせる」という対応がある。こうしたアドバイスの内容は書面で職場の従業員に伝えられた。この取り組みが功を奏し、周囲の従業員は発作を起こしたCさんに対し、落ち着いて対処することができた。現在も、センターからは1ヶ月に2回のペースで当社への訪問があり、必要に応じて支援策が講じられている。センターの存在は、Cさんにとっても当社にとっても心強い支えとなっている。
(4)Dさん(知的障害・療育手帳「B」判定・知的障害者判定機関にて「重度」判定)
Dさんも山口県内の特別支援学校の卒業生である。入社は平成21年9月である。Cさんと同じく、光栄会障害者就業・生活支援センターからの支援を受けながら、宇部市内にあるアパートで生活し、バスで通勤している。現在、常勤社員として、倉庫内の補助作業全般を受け持っている。センターからの1ヶ月に2回の訪問は、Dさんにとっても心強い支えとなっている。

(5)Eさん(精神障害・精神障害者保健福祉手帳「3級」判定)
Eさんは山口県内の高等学校を卒業し、一旦他社に就職したが、夜間勤務を経験する頃から精神的に不調となり、医療機関で統合失調症の診断を受けた。その後、就労移行支援事業所アミーチからの支援のもとで、当社で職業委託訓練やトライアル雇用を体験した。この訓練期間では、勤務時間をまず4時間くらいに設定し、その後時間を少しずつ増やし、約6ヶ月かけて常勤社員としての7時間半の勤務時間にまで伸ばしていった。こうしたスモールステップによる訓練はEさんに対して必要以上の心理的負荷をかけず、Eさんは徐々に仕事に慣れていくことができた。そして平成22年4月に入社の運びとなった。現在も医療機関への通院と服薬を続けている(服薬についてはEさん自身で正しく管理できている)。宇部市内の自宅からバイク(50CC)で通勤するEさんは、リフト免許も取得しており、当社での活躍の場は広い。現在、常勤社員として、①リフトで荷を運搬する、②商品をカーゴ内に仕分ける、という作業に主に従事している。
他社での夜勤経験の頃から精神的に不調になったという事実を勘案し、Eさんに残業をなるべくさせぬ方針をとっている。


仮に残業が必要とされる場合であっても、それが1時間以内におさまるよう配慮している。
「Eさんは元気に働いています。今のところ、心配はありません。」と福重課長は語る。
(6)Fさん(身体障害。身体障害者手帳「2級」判定)
Fさんは41歳の時に脳梗塞で倒れ、現在も右手・右足に麻痺が残る。日常生活では左手を使用し、ゆっくりと歩く。当社には平成9年4月に入社した。現在、常勤の守衛として、①正門脇にある守衛室で、入構するトラックの会社名や時刻をチェックする、②構内にある給油スタンドで給油したトラックの伝票を整理する、③構内を定時に巡回して安全点検をする、という業務に就いている。1ヶ月のうちの約20日間が出勤日で、その半分が夜勤である。
「給油するトラックは、1日平均60台くらいです。1台につき300リットルくらいの給油量ですね。」とFさん。大型トラックが全国から当社に集い、荷物を積載し、燃料を給油し、Fさんの目の前を出発していく。
夜勤の日の巡回時刻は、19時、22時、1時、3時、5時の計5回である。懐中電灯を左手に、深閑とした社屋内の廊下を歩き、開いていた窓を閉める。続いて、巨大な倉庫内を点検し、暗く広大な構内を隅々まで点検する。敷地境界線の向こうの草むらが、懐中電灯の光に浮かび上がる。不審者のいないことを確認しながら、Fさんはゆっくり歩む。このようにして、酷暑の夜も、厳冬の夜も、Fさんによる夜間巡回は続いている。



5.自分の人生を自分でつくる
障害のある6名の従業員は、当社からの支援、並びに、就労移行支援事業所アミーチや光栄会障害者就業・生活支援センターなどの福祉機関からの支援のもとで、当社内のそれぞれの部署で今日も勤務している。その働く後ろ姿からは、就労を通して社会参加していることの誇りとともに、これからも働き続けていこうとする覚悟も伝わってくる。自分の人生を自分でつくっていこうとする姿がそこにある。
厳しい雇用情勢が続く時代である。しかし、福祉機関が事業所に丁寧に働きかけ、事業所を背後から支え、この連携のなかで事業所が障害者をきめ細かく支えるという取り組みのなかで、障害者の就労は実現し安定就労も可能となることを、山口県貨物倉庫株式会社 山口物流センターと二つの福祉機関は実証している。
また安定就労には、働く本人自身の力も必要とされることは言うまでもない。この点について、福重課長は次のように語る。
「これから社会に巣立つ学校の生徒さんには、是非とも持続力を身につけてほしいですね。すぐに諦めたりせず、持続して取り組む姿勢が職場では必要です。また、社会はやはり厳しいところですので、学校の先生にも親御さんにも、子どもに社会の厳しい側面も教えておいてほしいと願います。」
障害の有無にかかわらず、人は皆、その持てる力をこの社会で発揮し、社会参加したいと願っている。山口県貨物倉庫株式会社 山口物流センターは、就労を通した社会参加という理念の実現に向け、企業としての社会的責任も果たしていく経営を今日も続けている。
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