関係機関との緊密な連携により障害者雇用を推進
- 事業所名
- 株式会社名物かまど
- 所在地
- 香川県坂出市
- 事業内容
- 和洋菓子の製造・販売
- 従業員数
- 165名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 コンテナ洗浄 内部障害 1 資材発注、在庫管理 知的障害 2 和菓子製造工、洋菓子製造補助 精神障害 - 目次

1.事業所の概要
(1)背景、経緯
昭和11年10月、坂出市にて個人企業として菓子製造販売を開始したことから始まる。その後、坂出市本通店を開店、工場を新設し、昭和26年6月に有限会社荒木屋に改装する。坂出駅前店を開店し洋菓子工場を併設、続いて高松店も開店となる。昭和44年には本社工場を新設、昭和45年6月に株式会社名物かまどを設立し、これまでに20店以上の店舗を開店してきた。現在、直営販売店は16店舗、本社工場と洋菓子工場にて製造を行っている。
(2)方針、特徴、組織構成等
事業所の経営方針は「心の菓子作り、心のサービス」としている。お客様に「心のこもったお菓子、心のこもったサービス」を提供するためには、従業員自身が心豊かに、生き生きと働けるような職場環境であることが大切と考えている。
平成21年6月には厚生労働省所管の財団法人21世紀職業財団より「職場風土改革促進事業実施事業主」の指定を受け、従業員が両立支援制度を積極的に利用でき、仕事と子育てを両立できる職場環境の整備と職場風土の情意に積極的に取り組むこととした。子育てを行う男性・女性従業員が、両立支援制度を利用することができ、その能力を十分に発揮できる雇用環境の整備を推進している。
事業所の組織構成は総務部・製造部・営業部に分かれており、障害のある従業員は総務部と製造部の本社工場・洋菓子工場にそれぞれ配置されている。

2.障害者雇用の経緯・背景・理念
障害者雇用については、昭和40年代に特別支援学校卒業後に就職した知的障害のある従業員がいたことから始まる。平成21年、その従業員は定年まで勤務して退職となり、また同時期に重度の身体障害のある従業員も退職したことから、障害のある従業員は8年前から勤務している身体障害のある従業員1名のみになった。
現場の従業員たちは障害のある人たちを自然に支援し、本人たちも生き生きと仕事をしていたことから、今後も障害者雇用を積極的に行うことを人事担当が決定した。
障害者雇用については設備や機器のようなハード面ではなく、実際に必要なのは会社の社風や経営者・従業員の意識の問題であると考えている。現在の工場の現場すべてにスロープや手すりを付けることはなかなかできないが、障害の内容や程度によっては充分に就労可能な仕事があるといえる。各工場責任者・社長や役員の了解も得て、受け入れに関しての取り組みを始めることとした。
まずはハローワーク(公共職業安定所)の障害者担当者に障害のある人を求人したいと相談し、すぐにハローワーク、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターの担当者が集まり、現場の作業を見学することとなった。仕事の内容を説明し、その作業に合う人を探して欲しいと依頼、また、それぞれの支援機関が行う職場定着支援の内容の説明も受けた。ジョブコーチと就業・生活支援センターで定着支援を行うこととし、同時に3部署3名の受け入れを決定した。
最初、1週間程度の職場実習を経て本人たちの現場での適性を見た。実習は障害者職業センターの職務試行法を利用し、就業・生活支援センターや相談支援事業所の職員、職業センターのカウンセラー等が交代で職場を訪問し、現場従業員や本人への助言等を行っている。
その後、障害者トライアル雇用を利用し、終了時には関係機関でケース会議を行い、本採用となった。3名のうち洋菓子工場に従事した女性は、現場でのコミュニケーションがうまくとれずに半年ほどで退職したが、その後再び関係機関が集まり相談し、就労移行支援事業所で訓練をしていた知的障害の女性を採用。現在も継続して働いている。
3.障害者の従事業務・職場配置
(1)従事業務と職場配置、工夫等
現在、障害のある従業員は、総務部と製造部に配置されている。
総務部に従事する内部障害の男性は、総務部で資材発注や在庫管理等の事務作業に従事し継続している。
あとの3名については製造部に配置し、それぞれの障害特性に応じたそれぞれの部署で作業を行っている。初めに作業内容を考えて準備し、それに合う人を考えて配置した経緯があるため、各自がその能力を無理なく発揮することができていると考えられる。
製造部の和菓子工場に従事する19歳男性は、軽度の知的障害でコミュニケーションを取るのは苦手であるが、静かに黙々と作業を行うことができる。実習開始時は、本人にアトピーがある関係で工場の熱気で「かゆい、かゆい」と言っていた。そのため他の部署への配置変更も考慮する必要性や、また交通手段についてもJRとバスで通勤しようか等、両親を含めて話し合いも行った。
実習の結果、作業部署については以前にも知的障害のある従業員が行っていた、和菓子の餡を作る作業をそのまま引き継ぐことが良いと現場からもOKが出た。作業を単純化していることで力を発揮することができ、繁忙期には残業することもある。また通勤手段については電動自転車を購入し、毎日片道1時間かけて通勤している。
今では、中心商品であるかまどの生地、餡の投入の他にも製造部門でいくつか作業工程を担当し、大きな戦力となっている。また勤務態度も真面目で、出勤も安定している。


製造部和菓子工場のコンテナ洗浄に従事する58歳男性は、脳性まひで両上下肢・言語機能に麻痺が残っており、聴覚にも障害のある重度身体障害である。比較的軽作業で移動が少なく、短時間勤務の仕事を希望だったため、コンテナ洗浄の部署へ配置した。歩行はできるが下肢が不自由であるため、作業時の踏ん張りがきかず、障害の状態に対してややハードな仕事内容ではあった。そのため、作業現場の改善として、コンテナが落ちないように輪留めを設置し、簡単な階段を作るなどの工夫も行った。
実際は、作業現場の改善を行っても何度か転倒し擦り傷をつくっていた様子であった。また、難聴であることから通常の生活では補聴器を使用しているが、コンテナ洗浄の作業では水蒸気が入るため仕事中に補聴器を外していた。そのため、作業の指示をしても本人は聞こえていないことがあるなど、現場としては困ることも何度かあったようである。
そんな頃、同じ洗浄作業に従事する従業員が深夜緊急入院してしまい、次の日の早朝に代りに出勤できないかと連絡したことがあった。すると快く承諾し、すぐに駆けつけてくれた。彼は今でも転倒することが多いため、擦り傷が多く、絆創膏も絶えないが、その指を隠しながら「大丈夫、たいしたことない」と言いながら真面目に出勤する姿は、仕事仲間にも良い影響を与え、互いに成長している様子がうかがえる。

製造部洋菓子工場に従事する24歳女性は、知的障害があり、これまで就労移行支援事業所で訓練をしていた。作業内容については、以前同じ部署で働いて退職した人の状況を汲んで関係機関と現場の工場長と一緒に業務を検討した。以前働いていた人は、現場の従業員と同じ仕事を一緒に行っていたため、スピードや正確さ・丁寧さ・周囲を見て仕事を判断すること等が必要であった。
今回は、作業はローラーがけと清掃等を行うこととし、直接他の従業員と同じスピードで協同作業をしない配置とした。結果、作業の分担ができ、現在も継続できている。職場実習の後トライアル雇用を経て常用雇用になり、本人をよく知る就労移行支援事業所のジョブコーチが職場訪問することで、現場の従業員との連絡調整もうまくできたといえる。
また、毎日バスで通勤することを考慮し、勤務時間についてはバスの時間帯に合わせて設定した。今では工場内でのムードメーカーとしての役割も果たしている。
(2)取り組みの内容
はじめに、障害者の就労を支援する関係機関に相談し、仕事を準備し説明した上で、その作業に合う人を考えてもらったことが、適切な職場配置につながったと考えられる。また、職場実習を行い、それぞれの適性をみることができたこと、本人と面識のある関係機関の職員が職場訪問したことで現場の従業員の不安感が軽減されたようだ。
職場実習については障害者職業センターの職務試行法を利用し、作業現場での支援は職業センターと就業・生活支援センター等関係機関の職員によって行った。トライアル雇用以降は、ジョブコーチや就業・生活支援センター、就労移行支援事業所職員の定期的な職場訪問、本人との継続した関わりが問題の早期発見や早期対応につながり、継続できている要因といえる。
また、障害のある人たちの特性を理解した関係機関が実習開始から関わり本人と現場との連絡調整を行うことにより、個々の性格や特性等をスムーズに伝えることができたことが、他の従業員の障害者への理解に繋がった。
これまでに活用した助成金等は、次のとおりである。
・トライアル雇用奨励金
・特定求職者雇用開発助成金
・業務遂行援助者の配置助成金(申請予定)
4.取り組みの効果、障害者雇用のメリット
障害のある従業員を別々の部署に配置し、現場の責任者が対応していることは、作業現場の従業員の情操教育に大きな効果があったといえる。自分の任された仕事に責任を持ち、やりがいを感じて真面目に仕事に取り組む姿勢は他の従業員の良い見本となり、事業所にとっての大きな戦力となった。
当社の経営方針は「心の菓子作り・心のサービス」である。菓子を売るという利益追求だけでなく、商品ではないものでのサービスが大切と考えている。地域の方を対象にお茶会を開催するなど地域密着型の取り組みも行い、心のこもったサービスを提供することが顧客満足に繋がると考え、会社内の人間関係を良くしていくことや家庭状況を把握することも大切にしている。そのためには従業員一人一人の土壌づくりが必要で、障害のある従業員のいる環境の中で、自然と関わり合いを持つようになったことが大きな効果につながったといえる。
5.今後の展望
元々は、法定雇用率をクリアするため始めた取り組みではあったが、結果として大きな戦力を手に入れることができ、現在では障害のある従業員は、なくてならない存在となっている。当社は、誰に対しても就職機会を設けること、その人を信じて仕事を任せることが大事であると考えている。
障害者雇用については、今後も社会経験を積んだ人の採用を検討したいため、障害者の就労支援を行っている機関からの紹介を考えているが、今年度は、近隣の特別支援学校から職場実習の受け入れも行った。今後もさらに、障害特性に応じた職務や職場環境を考える柔軟性をもち、職業体験を含めた就労機会を増やす努力をしていきたいと考えている。
センター長・主任就業支援ワーカー 高田 裕子
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