社内コンセンサスの形成と各関連機関との連携による障害者雇用

1.事業所の概要
(1)事業所の内容
株式会社西部技研(以下「西部技研」という)は昭和37年に創業し、昭和40年に株式会社西部技術研究所として設立された。昭和47年に社名を現在の西部技研に改め、現在へと至っている。
福岡県古賀市に本社と第一工場をもち、同市内に第二工場と第三工場もある。その他、東京支店、名古屋営業所、大阪営業所があり、埼玉県川口市に関東技術サービスセンターをもっている。さらにスウェーデン、アメリカ合衆国、中華人民共和国に子会社をもつグローバルな企業である。
西部技研は「ハニカムコア技術」を活かした企業向けの空調機、除湿機、熱交換機等の開発・設計、製造、販売を行う環境機器製造事業を展開している。平成22年現在で保有特許は、国外では商標出願中4件・登録済25件、特許出願中25件・登録済44件、国内では商標出願中2件・登録済22件、特許出願中96件・登録済56件(実用新案含む)など高い技術力を誇っている。
(2)経営方針
「独創と融合」を経営理念としており、具体的には「個々の独自性と創造性を尊重し、それらをあらゆる次元で発展的に融合させる事により、新しい価値を継続的に生み出していく」こととしている。経営目的は「我社は創意工夫をもって空気と水を科学し、アメニティー空間を創造する」であり、環境企業として特徴をうかがわせる。
ミッションが5つあり、その第5として次のミッションが目を引く。
ミッション-5:地域国際社会に対するコミットメント
当社は地域社会及び国際社会における良き企業、良き市民としての社会的責任を全うする為、下記の事を約束します。
○関連する法令を遵守し、高い企業倫理及び社会ルールに基づいて行動します。
○環境マネジメントシステムに基づき環境方針を定め、事業活動による環境負荷を最小に抑え、環境改善に貢献する製品の開発と普及拡販に努めます。
障害者雇用もこのミッションから来ているものと想像される。その他、環境活動やCSR活動にも力を入れている。
(3)障害者雇用の理念
法定雇用率の遵守だけでなく、企業には多様化が必要と考えている。女性、障害者、外国人など、多様な人と一緒に働くことで企業が成長すると考えている。そのことから障害者雇用を考えている。
2.障害者雇用の経緯
障害者雇用を企業として考える以前から身体障害者である従業員がいた。障害者雇用を始めたのは平成17年頃である。肢体不自由の身体障害者を2名雇用した。しかし、企業として積極的に障害者雇用に取り組んでいたわけではなかった。
公共職業安定所(ハローワーク)の指導もあったが、西部技研としての障害者雇用の理念を明らかにし、平成22年にさらに2名の障害者雇用に取り組んだ。1名は精神障害者保健福祉手帳を取得しているので精神障害の分類になるが、発達障害のある教職免許をもつ20代後半の大学卒男性である。トライアル雇用を経て本採用となった。公共職業安定所からの紹介で、トライアル雇用期間中は職場適応援助者事業を活用し、ジョブコ-チの支援を受けた。
もう1名は聴覚障害のある30代後半の男性である。補聴器を使用し、コミュニケーションは口話と筆談である。本人の話は聞き取ることができる。聞き取りにくい場合でも再度聞けば問題ない。時々携帯電話で話しているようなので、少しは聞こえるようである。以前から採用していた障害者は上肢障害と脳性まひの障害がある。
「どうすればやれるのか」を考えて障害者雇用を考え、実行した。
3.取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
パートタイマー従業員と障害者である従業員は同じ待遇としている。勤務時間は9:00-17:30で残業もある。発達障害のある男性従業員には、残業について本人に確認し、本人の希望に応じて処遇している。
(2)障害状況に配慮した取り組み
ア 障害者に配慮した内容
○ 発達障害のある従業員
会社の飲み会にも誘い、みんなと一緒に出掛けている。昼休みも他の従業員と一緒にサッカーに興じている。まわりの従業員も本人に発達障害があることは知っているが、トラブルとなったこともないし、特に不都合もない。作業も問題なくこなしており、戦力になっている。
作業では、2つのことを担当すると混乱するので1つの仕事に限定している。作業は細分化して教えた。最初の1~2週間はジョブコーチの支援を受けながら行ったが、その後は現場の従業員が対応している。担当者を2名に決めて、混乱しないようにした。
一つの仕事に集中させ、終わったら報告させて次の指示を出す、というやり方を行った。作業はやってみせればすぐに覚える。ただし複雑な作業では、初めはスムーズさに欠けることもあったが、時間がたつにつれて慣れていった。本人は当初は妙な遠慮があったようだが、周りの人や仕事に変化がないことが分かると安心して張り切るようになった。
ジョブコーチがフォローアップの支援として、わからないときにはすぐに来て助言を行う。また、担当従業員がよく関わっている。
○ 聴覚障害のある従業員
自動車運転による運搬を週に2日(各3時間)行うほか、機械操作による製造加工及びパソコン入力の作業を担当している。運転に関しては、1ヵ月間は他の従業員が付き添ったが、問題ないのでひとりで担当してもらっている。1ヵ所のみなので、先方に本人の障害状況を伝えている。
機械操作の時に音が聞こえない為に操作終了の音に気づかないことがあり、音を不要とするラインに配置した。その後は問題ない。
イ 従業員に対する障害者の理解について
当初、現場の従業員は不安が大きかった。しかし、企業の障害者雇用理念を強力なトップダウン方式で全従業員に降ろした。現場は「どうすれば障害者が行うことができるか」を考えざるを得なかった。そのうち、従業員たちも「一緒にやっていける」という感じを持ち始めた。


(3)取り組みのまとめ
取り組んできた工夫について、ポイントをまとめると以下のとおりである。
○ 「多様な人と一緒に働くことで企業が伸びる」と考える。
○ 就職後も含め、支援機関の専門職を活用する
○ トライアル雇用などの雇用支援制度を活用する
○ 「どうすればできるか」を考える、やってみて考える
○ 最初は強力なトップダウンによって全社の取り組みとする
4.取り組みの効果
(1)職場の雰囲気の改善
全社的にグローバルな視点をもち、多様な人と働くことで、他者への思いやり等が出てくるのではないかと考えられる。
ジョブコーチなどの専門職のアドバイス・支援によって、従業員たちが「一緒にやれる」という自信をもったことが大きいようだ。
(2)職場の活性化等
障害のない従業員が働きやすい環境にあることも大きい。パート従業員が休みを取りやすい、従業員の希望を企業がよく聞いてくれるなどの企業姿勢は障害者雇用に大きく影響しているようだ。企業として、すべての従業員に対して「長く働き続けてほしい」と考えており、事実、正社員の離職率は低い。
5.今後の展望
企業としては、「元気」をモットーに、従業員に喜んで働いてもらいたいと考えている。風通しの良い組織であること、困った事への対応が迅速であること、従業員からの提案なども取り上げられやすいことなどの社風からか、従業員全体が意欲的な企業であることを感じさせられる。
法定雇用率を達成したので、今後の障害者雇用については一段落としたいと考えている。従業員の離職が少ないので欠員補充がなかなかない。欠員補充の求人が出たならば積極的に障害者雇用を検討していきたいと考えている。
6.おわりに
「障害のない従業員が働きやすい職場は障害者である従業員も働きやすい」
「専門職を上手に活用することで、従業員に障害者の受入れに自信が出てくる」
そのことを、株式会社西部技研は実証してくれた。
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