障害者の職場での成長と周囲の環境
- 事業所名
- 医療法人わかば会 俵町浜野病院
- 所在地
- 長崎県佐世保市
- 事業内容
- 医療業および高齢者介護福祉事業
- 従業員数
- 203名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 介護業務・看護補助業務 精神障害 - 目次


1.事業所の概要
俵町浜野病院(以下、本院)は地域住民のための病院であり、職員全員が患者や家族の信頼と安心に応えることを基本理念としている。
そのため診察は24時間体制(緊急告知病院)で行っており、急性期医療から慢性期医療、生活習慣病の予防・管理・指導ならびに機能回復・健康増進の為のリハビリテーションまで、積極的に行っている。また、東洋医学的アプローチも取り入れ、患者のあらゆる健康相談に応じている。
さらに、退院後の在宅介護支援まで一貫した診療体制を整え、患者を中心にして家族、病院が連携を密にしながら、健全な地域医療、地域介護を目指している。
平成22年9月には佐世保市踊石町に有料老人ホーム「わかばテラス」を開設。植物が人間に与える効果を活用した非薬物療法である「里山療法」によって、入居者の身体機能の改善や認知症の改善・予防にも取り組んでいる。
2.障害者雇用の経緯
本院における障害者雇用は、過去に身体障害者の経験はあるが、知的障害者については、平成20年が始まりである。現在では3名(男性2名、女性1名)の知的障害者を雇用しており、うち2名はデイケアセンター、1名は病棟にての勤務に従事している。
障害者雇用の経緯にあたっては、平成19年に佐世保市内の特別支援学校より、知的障害を持つ学生1名の就業実習依頼があり、教員同伴のもとに学生との面談を行った。その後、院内で事務長を中心にして実習生を受け入れるにあたり、どのような業務が適切なのかと、実習受入部署についての検討を重ね、その結果、本院のデイケアセンターにおいての利用者との触れ合いや話し相手、また身の回りの世話などが適切であろうと判断し、実習の受け入れとなった。
実習当初においては、学生本人の戸惑い、そして何をしてよいのか分からないといった不安があったが、担当職員のマンツーマンによる、まずは業務を行って見せたうえで真似をさせるといったことから始め、根気強く何回も反復させるなど丁寧な指導により、少しずつ仕事にも慣れ、高齢の利用者にかわいがられる存在となっていった。1年の間に数度の実習を経験し、特別支援学校卒業後には、本院に就職したいという本人の希望があったことや、まじめな勤務態度、および積極的に利用者と関わっていこうという姿勢や遅刻・欠席がないことなどが評価され、平成20年4月からハローワークの障害者「トライアル雇用制度」(3ケ月間)や「特定求職者雇用開発助成金」の施策を活用し、7月からは本院職員として採用され、現在もデイケアセンターにて勤務している。
その後、前者と同様な実習やハローワークの支援制度を活用し、平成21年に特別支援学校より新たに1名の実習生を受入れ、平成22年4月に正式雇用、また同年11月には地域就業支援センターからの紹介・研修を経て、さらに1名の雇用を行い、現在3名の知的障害者を雇用している。
3.取り組み内容
3名は本院のデイケアセンターと病棟に、それぞれ勤務しており、取り組み内容については分けて説明する。
まずデイケアセンターにおいて就労している2名(Aさん、Bさん)についての取り組み内容を紹介する。デイケアセンターでの勤務は週休2日制の不定休で時間は8:30~18:00となっており、利用者との昼食後に一時間半の休憩をとっている。2名は他のスタッフと同様の労働条件で就労しており、遅刻・早退・欠勤もなくまじめに勤務している。
【Aさんへの取り組み】
Aさんは平成20年7月採用の女性である。採用当初から1年間、介護支援担当職員によるマンツーマンでの指導を行ってきた。デイケアセンターの主な業務内容であるレクリエーションの支援、入浴介助、食事介助、排泄介助など、一つずつ確実に理解できるよう、まずは手本としてやって見せ、次に口頭での指導、それからさせてみせてからの助言と根気強く指導した。
現場指導の過程で特に医療用語の理解が難解であるという点があったが、担当職員が用語の意味を行動で示すことで少しずつ理解させ、また本人も参考書により自主的に理解しようという姿勢があった。この結果、利用者とのコミュニケーション作業だけでなく介護技術も身につけ、現在では入浴介助や排泄介助が単独で行えるまでになっている。
また必要に応じて家族、特別支援学校の担当教員、地域障害者支援センターの担当者を交えた連絡会議を設け、就労上の課題のみならず日常生活の指導・健康管理面においても互いに情報交換を行うことにより、本人に対し適切な指導やアドバイスを行った。
【Bさんへの取り組み】
平成22年4月採用のBさん(男性)についても、基本的にはAさん同様の取り組みを行いデイケアセンターの業務に必要な技術の取得を目指している。Bさんは温厚な性格ではあるが、採用当初は担当者が現場にて指導したことに対して、理解してなくても、時として「分かった」との返答があり、実際にさせてみるとミスを起こす場面もあった。そのようなときは、Bさんに作業の振返りをさせ、仕事の段取りや手順について本人が正しく理解できるように、業務を分割化した指導を行うように心掛けた。
次に、病棟勤務のCさんについての取り組み内容を紹介する。
【Cさんへの取り組み】
平成22年11月に採用されたCさん(男性)は、病棟にて看護助手として就労し、シーツ交換や食事配膳等の業務を主に行っている。Cさんは理解力も高く、他の従業員と変わらない程の動きをするが、常に先輩看護助手と行動を共にするようにしており、食事の配膳や病室内の周辺業務においては、特に患者の名前取り違えが無いように注意している。
また3名の通勤方法については、採用当初は家族が付き添って通勤していたが、現在では公共交通機関を各自で利用している。事業所としては通勤途上のアクシデントを心配していたが、現状は特に問題は無い。
尚、退社時刻が遅くなった場合には、家族と連絡が取れるように院内の連絡網を整備している。



4.取り組みの効果
障害を持つ3名は、担当職員はもちろん他部署の職員とのコミュニケーションも良好であり、元気な挨拶・明るい笑顔で業務を行っている。彼女らの明るく真剣な業務に対する姿勢は利用者を笑顔にするだけでなく、我々職員にも良い影響を与えてくれている。
デイケアセンターにて勤務しているAさんは職場での着実な成長をとげており、最初は時間がかかっていた業務も、今では障害のない職員と変わらない時間でできるようになっている。彼女は業務を重ねるごとに自主性を発揮し、採用してから1年後には担当職員を特に必要とせず周りの職員に相談しながら仕事を行うようになっていた。我々職員もこの様子から様々な業務を与え、たくさんの経験をさせようと意図してきた。初めて経験する業務には、とまどいながらも彼女なりに努力して成功させようという意志が見られ、周囲の職員も自然と援助していこうという姿がみられた。
このような取り組みの効果がみられたのは、仕事や日常生活で悩みが無いかなどの相談や業務の様子を、定期的に訪問してくれる家族や地域生活支援センター等の協力ならびに職員が、採用当初から続けて指導してきたことの成果でもあるが、何よりも障害者本人が熱心に業務に取り組んでいる事が大きな要因だと思われる。当院では障害者のみならず職員の全てに医療サービスとしてのコミュニケーション技術の基本や報告・連絡・相談の習慣作りを徹底して教育している。なかでも彼女は教育内容を素直に実行しており、周囲に良い影響を与えてくれている。
5.今後の展望と課題(今後の課題、まとめ)
【課題】
現在、デイケアセンターにて勤務3年目となるAさんは、他の従業員と変わりなく業務を行っている。とりわけ記憶能力に関しては我々障害のない者以上の時もあり、驚かせてくれる。
彼女(Aさん)は平成22年4月入社したBさんにとって特別支援学校での先輩でもあり、業務上でも先輩として彼の指導に協力している。彼女は自分の経験を基にして仕事でも生活上でも共感できるアドバイスを与えており、新たに入社してきた障害者にとって頼りになる存在になっている。入社1年目のBさんCさんはまだまだこれからではあるが彼女を見習い、今後の成長を期待している。
現在、障害を持つ3名は「仕事が楽しい」と言っており、休まず真面目な態度で毎日を勤務している。彼女らが楽しいと答えている理由については周囲の職員の指導や協力、職場環境もあるだろうが、一番には利用者からの「ありがとう」という感謝の言葉が仕事の励みになっていると思われる。彼女らは本院の業務を通じて存在価値を確立し、自立した社会人として仕事に生きがいを感じている。
彼女らは通常の介護業務は得意だが、反面書類作りやパソコン入力などのデスクワークは苦手としているので、日々の指導育成を通して潜在能力を引き出しながら今後も彼女らが楽しく業務を継続できるように、また、本人の能力が十分に発揮できるように、支援体制と職場環境をより良くしていくことが大切だと考えている。
【職場定着の推進】
障害者雇用を進める中で、障害者の職場定着の推進も今後取組むべき課題であると認識しており、障害者の職業生活全般に亘る相談窓口として「生活相談員」の配置を現在検討している。
【新たな雇用計画】
新たな雇用計画としては、佐世保市内の特別支援学校より紹介を受けている視覚障害者(Dさん)の雇用を現在検討中である。Dさんは音楽活動に秀でた才能を有しており、採用となった場合には本院の有料老人ホーム「わかばテラス」にて、利用者をピアノ演奏で楽しませる業務に従事予定である。また採用時には、Dさんの職場適応措置として、「職場介助者」の配置、施設内の安全確保など就労環境整備を行うことを考えている。このような障害者の特に秀でた能力に注目し、障害を持っている人の能力が最大限発揮出来るような職務の開拓や、職場環境の整備にも力をいれていこうと思っている。片方で職員同士の連携により障害者の能力に合わせ、苦手な部分を補い長所を伸ばしていけるようにも努めていく。
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