障害者雇用継続の一翼を担う障害者職業生活相談員の役割
1．事業所の概要
（1）事業の概要
株式会社三勢は、総合ビルメンテナンス業務を柱として、土木建設業務、廃棄物処理業務や保安警備業務、人材派遣業、スポーツ事業等、幅広く業務を営んでいる。
昭和54年ジュータンクリーニング業のサンテック熊本として創業。その後、ビルの清掃から貯水槽清掃管理や害虫駆除等関連業務へ事業領域を拡大し、総合ビルメンテナンス企業へ成長した。それに合せて組織改革を行い、昭和55年に有限会社三勢設立を経て、平成13年に株式会社三勢へと変更した。
三勢の企業理念は「人に快適で、自然に優しい環境づくり」である。
今ではいたるところで目にするこのエコロジカルコンセプトだが、株式会社三勢では数十年前からこのテーマに取り組んでいる。
現代において、人が活動する際に自然環境に全く負荷を掛けないことは困難である。しかし、人のための快適な空間づくりと自然環境への配慮の両面から最良の答えを導き出すことが重要である。次代の為に今できることを考え、時代を創造する力になること、それが株式会社三勢の目指すところである。
（2）現在の業況と今後の展開
現在は、得意分野である建物の維持管理業務を活かし、自治体が管理運営している公共施設等の指定管理者制度に力を入れ、すでに管理運営の受託をしている公共施設は10施設を超える。さらに、ハード面の維持管理だけでなく、その施設に従事するスタッフの雇用管理、いわゆるソフト面の充実を図るべく、NPO法人との共同運営体制を整えている。つまり、メンテナンス業務や人材派遣業務を本業として営む企業が指定管理者となることで、施設の総合的な管理ができるのはもちろん、さらに運営コストの軽減にも寄与することができる。
また、より幅広い業務に対応できるように、積極的に許認可取得を進めている。従来なら複数の業者に委託しなければならなかった業務を、1社で対応できるように多機能化を図ることで、発注者の利便性向上やコスト軽減といったニーズに応えていこうという取り組みである。最近では、土木建設業務の許認可を受け、管理している施設の改修工事なども受注できるようになった。
平成22年7月に株式会社三勢は新たな事業として熊本市内江津湖湖畔にスポーツジムを開設した。企業理念「人に快適で、自然に優しい環境づくり」の延長上に「人の健康づくり」の大切さを見たからである。理念をしっかりと持ち、多様な業務領域を開拓していきたい、と当社は考えている。
（3）採用状況
現在は、定期採用を行っておらず、増員が必要となった際に随時募集を行なっている。
2．取り組みの概要
（1）障害者の現状と従事業務
現在雇用している障害者は8名である。
障害の内容としては、知的障害1名、精神障害1名及び下肢や内部の機能障害6名となっている。
主な業務は、施設の清掃であり、障害の種類や程度に応じて配属する施設を選定している。例えば下肢障害がある人には、階段を使わずにすむ職場を選ぶといったことである。
職員の定着率は高い方だと思われるが、高齢での中途採用者も多く、定年退職による入れ替わりも多い。65歳定年制を取っているが、他の企業で定年を迎えた障害者を雇用する場合があり、数年で退職するというケースが少なくない。
（2）障害者の採用
障害者の採用は主にハローワークの紹介による。障害者の雇用が増えるに従って、周囲の期待が大きくなってくる。最近では障害を持たない人の募集を行なっている時でも、ハローワークから「こういう障害者の方がいるのだが、面接してもらえないか。」と問い合わせがくることもある。
面接の際、重要視しているのは「仕事がしたいという思いが強い。」ことである。これは障害のない者でも同じであるが、誠実に働いてくれるという期待を持ちたいからである。
雇用に際しては、障害の有無に関係なく3ヶ月間の試用期間を設けている。その期間中に仕事に対する姿勢を確認し、また、障害の程度も併せて見極めていく。
また、当社では、特別支援学校からの実習を積極的に受け入れている。
実習受け入れ
（熊本県福祉総合相談所周辺の
清掃業務）
（3）障害者雇用のための環境整備
現在、社内に障害者職業生活相談員の資格者が3名いる。この障害者職業生活相談員が現場責任者と連携を取ることで、各現場で働いている障害者の現状を常に把握し、何かあった時にはすぐに対応が出来るような体制をつくっている。これまでにそのような緊急対応をすべき事態は発生していないが、このようなフォロー体制があることで、定着率が向上したと思われる。
また、知的障害、下肢障害、心臓疾患及び聴覚障害等、多様な障害者を雇用しているため、それぞれの障害に合った現場の工夫を行う必要がある。例えば、聴覚障害の場合には、筆談が必要になる事がある。その時に備えて休憩スペース等にホワイトボードを設置している。心臓疾患の場合は外見では障害があるとは分からない為に、重労働をさせてしまう場合があり、そうならないような配慮を心がけている。下肢障害の場合には、前述したように階段や床に配線が多い現場等は危険なので避けるような配慮を行なっている。
但し、障害には配慮するが、仕事の評価やその他のルールについては、障害のある者とない者を区別するものではない。仕事の厳しさ等も充分に理解し、誠実に取組んでもらうということに、障害の有無は無関係なのである。
（4）障害者職業生活相談員の活動
前述したように、障害者職業生活相談員が3名いる。1名は面接から雇用管理を行う管理課長、1名は現場を巡回して業務指導監督を行う役員、もう1名は管理課長の部下である。この3名は常に情報交換を行い、各障害者の現場での働きぶりや問題点を話し合い、課題が見つかれば、関係各所ですばやく対応できるように連絡できるようにしている。
もし問題が起きれば、本人の健康に害が及ぶことも考えられるし、顧客企業との問題にも発展することもありうる。問題を如何に早期発見し、適切な対応が迅速に取れるということは重要なことと言える。但し、現在までに大きな問題は発生していない。
（5）最後に：障害者雇用と企業の社会的責任
このような当社の障害者雇用に対する積極的な姿勢の背景には、福原英喜社長の「企業は売上や利益だけではなく、社会的責任を果たしていかなければならない。」という経営方針がある。
「自宅の清掃の為に障害者を雇用する等、少しでも雇用の機会を増やしたいという思いの強さが感じられるように、弱い立場の人々に手を差し伸べたいという意識がとても強い。」と、海老原管理課長は語る。
企業活動というものは、経営者の意識によって大きく変化する。このような意識を持った企業が増えていくことを願ってやまない。
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