障害のある従業員と障害のない従業員が
ともに家庭的な雰囲気の中で仕事に取り組む


1.事業所の概要
宮崎県の西南に位置する人口第2の都市、都城市。その市街地から北へ車を走らせることおよそ40分。ゆったりとした志和池の町並みを通り過ぎたところに、株式会社宮崎南部食鳥がある。
ここ、(旧)高崎町は、平成18年(2006年)に都城市と周辺4町が合併し、66年間の歴史に幕を閉じ、新政都城として新たな船出を切った街である。
牧畜業と農産物加工業が盛んなこの街は、霧島連山のふもと、山紫水明と澄んだ空気の豊かな自然と食資源に恵まれた地域で、環境省の実施する「スターウォッチングコンテスト」で過去7回(昭和63年から6年連続)日本一星空の美しい街として選ばれているところでもある。
株式会社宮崎南部食鳥は、昭和49年に「宮崎県経済農業協同組合連合会」の直営工場として操業を開始した。その後、昭和57年に株式会社宮崎チキンフーズの食肉処理加工の委託工場となり、株式会社宮崎南部食鳥として設立され現在に至っている。鶏肉の加工から調理まで一貫した処理工程をもち、現在では年間1,272万羽(1日当たり45,900羽)を処理している鶏肉処理加工の専門企業である。
従業員195人(男36人、女159人)のうち障害者は6人を雇用している。従業員の平均年齢は46歳であり、年齢別の構成は、50代が67人と最も多いものの、20代46人、30代20人、40代25人と、若い人から高齢者まで幅広い年齢層が就業している。
若年層の厚さに加え、60代も34人の人が従事しており、茨木総務部長の話によると、60代は長く働いているベテランが多く、スムーズな処理作業ができ、後輩へ処理方法の指導もしてもらえることから、再雇用で来てもらっているとのことである。
当社は、消費者に「安心・安全」と「価値ある食」を提供することを経営理念とし、「家族的な雰囲気の中で仕事すること」を社是としている。年齢層に関係なく定着率が良いのも納得できる。
2.取り組みの内容
これまで障害者雇用には関心はあったが、“他社はどうやって労務管理しているのだろうか、すごいな”とは思うものの、“何かと手がかかるのでは”と、躊躇していたそうだ。
平成20年11月、ハローワークから障害者雇用のための合同面接会の案内があり参加、同年12月に、2名の鶏肉処理経験者をトライアル雇用として受け入れたのが始まりである。
当初は、受け入れたものの、周囲の従業員が“戸惑いを感じたり不安を感じたりするのではないか”また障害のある従業員にも、“仕事もさることながら職場の環境や雰囲気になれてくれるだろうか”と、正直不安もあったという。
そこで、職場での受け入れがスムーズに進むよう1週間程度の職場実習をして、本人の性格や能力、障害特性を把握するために簡単な作業から始め、職場での受け入れについては、ジョブコーチのアドバイスを受けて、指導員と研修担当者を配置し、体制を整えることから始めた。
指導員は作業状況を見守りながら、その都度指導を行うこととし、初期の段階では作業工程が一連の「流れ作業」という事もあり、職場の雰囲気に馴染みやすくする為、ラインスピードにあまり影響されない、最初の工程である「もも掛け作業」から開始した。
そして作業に慣れたところで、作業適性を見極めながら作業スピードと熟練度を要求する「調理工程」へと作業内容をステップアップしながら、障害のある従業員各人の能力を発揮できる作業工程へ適性配置を行った。
このような当初の取り組みが効果的に行われた事から、以降の雇用に際しては雇用の初期段階から職場定着にいたるまでの一連の流れがワークフローとして構築されている。
現在では、重度の障害のある従業員については「もも掛け作業」や「ささみ取り作業」といった比較的簡単な作業を担当し、重度以外の障害のある従業員については、その先の「調理工程」で、熟練者として障害のない者と同等の業務に取り組んでいる。
業務遂行援助者でもある指導責任者は、「見守り」を基本に障害のある従業員の作業についてフォローをしながら、現場において一方通行のコミュニケーションになりやすい業務上の意思疎通を円滑にするため、本人からの愚痴や不満の聞き役になる一方、日常的な朝会や連絡会議の場で従業員への理解促進を図っている。また、イレギュラーな状態が発生した場合の対応や、手順を定めて周囲からの協力支援体制を整えるとともに、就業・生活全般にわたり、家族や授産施設との情報交換など細やかな対応を行っている。
その結果、予想以上に早く、ラインでの業務に従事することが可能となった。これには、本人の業務経験や努力もさることながら、工場長はじめ現場部門の理解と援助、そして総務部長を中心とした労務管理部門の全面的なフォローアップと授産施設の担当者や家族との連携など、障害のある従業員の就業を支えるための、献身的な支援があったことが大きな効果に繋がったといえる。


このように、採用に当たって「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業」やハローワークの「トライアル雇用制度」など公的支援制度や、「障害者介助等助成金」「特定就職困難者雇用開発助成金」などの助成金を積極的に活用し、行政や関係機関と緊密な連携のもと、的確な指導や助言を得たことが会社側の受け入れの自信となり、一人の退職者も出すことなく、その後の継続的な採用につながっている。
3.取り組みの効果
障害者を雇用したことによる効果は次のとおりである。
会社としては、
○ 職場での障害のある従業員への意識や理解が深まり、障害のない従業員も志気が高まり、周囲への気配りをする風土が生まれた。
○ 単調な仕事でも、まじめに忍耐強く取り組む姿勢は、他の従業員への模範となっており製造現場の戦力として欠かせない存在となっている。
○ 休みも少なく出勤率がよいことから仕事があてにでき、計画的なスケジュールや固定的な業務に取り込めることができるようになった。
○ 障害者雇用を積極的に取り組んだ事により、地域からの理解と信頼を得ることができた。
障害のある従業員個人としては、
○ 仕事に自信がつき、自らの社会的行動に責任を持つようになった。
○ 賃金を得ることにより、働く喜びや生きがいを持つようになってきた。
○ 自ら進んで、作業工程の改善や作業道具の修理、改良を提案するようになった。
○ 生活基盤と安定した職業を得たことにより自立に向けての筋道ができた。
障害のある従業員の声を挙げておこう。
○ 以前の職場では差別されたが、ここでは分け隔てなく一人前に扱ってくれていることがうれしい。
○ 仕事が楽しく、会社に行くのが楽しみ。給料日も楽しみ。
○ 長期間雇用されると思っていなかったので、うれしい。一生懸命頑張る。
○ 就職できて、両親や授産施設、支援センターの人など周りの人たちがよろこんでくれているのがうれしい。
4.今後の展望と課題
株式会社宮崎南部食鳥が今日まで継続的に障害者を雇用している背景には、
① 障害者雇用を賃金や勤務時間、福利厚生面でも同じ職場の仲間として特別扱いしない経営方針が、職場の他の従業員の理解と協力を後押ししている。
② 厳しい作業現場の中にあって、社長・総務部長、工場長そして生活相談員、指導員の人柄と気遣いがうまく回っている。
③ 有能なジョブコーチの存在があり、行政との緊密な連携が構築でき、支援制度や助成制度を積極的に活用している。
そして何よりも障害のある従業員と障害のない従業員とのコミュニケーションがとれており、「家庭的な信頼関係が醸成されている」ということに尽きるのではないかと感じた。
今後の課題は、現在は単純な作業に限られているが、新たな作業へステップアップできれば、新たな職域での雇用も開けてくるので、そのための指導やスキルアップをいかにして展開していくかだという。
5.おわりに
今回の取材で、株式会社宮崎南部食鳥を訪問すると、工場内の作業現場では障害のある従業員はもちろん、出会うすべての人から、明るい表情で礼儀正しく挨拶を頂いたのが印象的であった。
これは、茨木部長や田中工場長、宮本係長、福岡係長達とのインタビュー中でも、障害者を受け入れた経験に基づく自信に満ちた会話の中でも、明るい声が弾み、終始笑いが堪えなかったことからも納得できた。
どんな会社にも、多かれ少なかれ人間関係や仕事上の悩みはある。働きやすい職場は、はじめからあるわけではない。
逃避せず、自分の努力により働きがいを見出すことの大切さを、障害のある従業員のひたむきな姿勢から教えられた気がした。
(平成23年4月1日付、宮崎くみあいチキンフーズ株式会社に社名変更)
(九州地域環境・リサイクル産業交流プラザ 統括コーディネーター)
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