事業所名

株式会社ラグーナ出版

所在地

鹿児島県鹿児島市

事業内容

障害福祉サービス事業（就労継続支援A型）

従業員数

34名

うち障害者数

26名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由
内部障害
知的障害
精神障害	26	出版・手製本制作

目次

1. 事業所の概要
2. 障害者雇用の経緯と背景
3. 取り組みの内容
4. 今後の展望と課題

事業所外観

1．事業所の概要

株式会社ラグーナ出版は、メンタルヘルスに関わる出版事業を中心として、2008年2月に設立。精神病の知識を広め、早期発見・早期治療につなげて重篤な障害を防ぐこと、仕事や社会的役割を通して、日々充実と誇りを感じながらともに成長することが目的である。2011年2月現在、精神障害者の就労継続支援A型事業として、現在精神障害者25人と障害のないスタッフ8人が働いている。

「ラグーナ」とはイタリア語で「干潟」のことで、かつては不毛の地であるとされていたが、実は多様な生物が共存し海水の浄化も営まれる場である。満ち潮では海面下に沈み、引き潮では陸地となって現れるラグーナのように、それぞれのつながりと個性の両面を失わず、これまで不毛と思われてきた場所を照射する姿勢を持ち続けたい、という願いが当社の屋号に込められている。

海を基調とした外観

2．障害者雇用の経緯と背景

心の病のリハビリは、社会の中でこそ必要であり、生活をしながら回復していくことが望ましいと考えられている。しかし、現在33万人の入院患者を抱える日本の精神医療の現状では、社会の中での生活支援の場は乏しく、就労は一層困難な状態である。会社設立以前、当社の代表取締役社長の川畑は、精神科ソーシャルワーカーとして長く認知行動療法にも携わり、筆者森越は精神科医として共に精神科病院で働いていた。目の前にいる患者が社会に出るにはどうすればよいのかという、日々の模索の中の臨床現場であった。

そのような時、デイケアで始めた本作りに多数の投稿作品が寄せられた。精神障害の体験を綴った言葉は、その困難を生きる力に変え、同じ障害を持つ人を励まし、障害を知らない人に、ともに生きることの大切さを伝えていた。情報を受ける側である患者という立場から社会にベクトルを発信していこう、と私たちの活動が始まった。

2006年5月NPO法人『精神をつなぐラグーナ』を発足、精神障害体験者の投稿文芸誌『シナプスの笑い』を刊行した。NPOとして一歩社会に踏み出してみると、多くの方々があたたかく支援をしてくださり、私たちに自信を与えてくれた。

『シナプスの笑い』最新刊13号

座談会の様子

その活動のなか、「就労が困難なら自分たちの技能や体験を活かせる仕事を自分たちで作ろう」と考えるようになり、川畑は病院を退職、2008年2月、株式会社ラグーナ出版の設立となった。病院の現場から生まれた当社の活動にとって、障害者雇用は会社設立の大きな目的の一つであり、設立と同時に障害者自立支援法の就労継続支援事業A型事業を開始した。

3．取り組みの内容

当社では、年3回の雑誌『シナプスの笑い』、単行本「風の歌を聴きながら」などの刊行に加え、自費出版、広報誌や印刷物の作成、製本など行っている。今後もメンタルヘルスに関わる本の刊行を予定している。また手作りのオリジナル商品のラインナップも企画している。現在従業員は各々の技能をいかし、以下の4つの部に所属して業務を行っている。設立時は制作部を除く3部門で開始したが、それぞれにあった仕事を考えると手作業や物作りが必要であると感じ、新たに制作部を加えた。

①編集部  雑誌『シナプスの笑い』は13号を重ね、全国から投稿作品が集まっている。精神障害体験を知に変え、体験者自らが、入力、編集、校正、イラスト、パソコンを駆使して仕事を行っている。

広報誌に加え、自費出版の依頼も受けている。

45年間の闘病生活を綴った短歌エッセイ集
『風の歌を聴きながら』

全国から寄せられた投稿作品
投稿者も大切な存在だ

②営業部  近隣の病院やクリニック、書店を営業し、本の販売委託を行っている。 また、ネットを利用したオンラインでの販売促進活動を行っている。

③制作部  製本家を講師に迎え、手製の製本、ノート作り、古本の装丁や修復、また音声付フォトスタンドなどのオリジナル商品の製作を行っている。

④事務部  会社業務一般を担う。

制作部の作業風景

フォトスタンド

般若心経

従業員は、就労経験前に発症した者が多く、それぞれに合った仕事といっても、入社してすぐに即戦力となるわけではない。あいさつ、コミュニケーションの取り方など就労場面での基本的スキルから、個別の仕事に関わることまで職業指導を行う必要がある。そのために、利用者の長期、短期目標を中心にすえて、個々の個別プログラムを話し合いのもと作成し、業務終了時に、当人とスタッフ双方の評価を記録している。「あせらず、ゆっくり、確実に」「健康第一」をモットーとして、体調の自己管理（睡眠、服薬管理、体調、気分の安定、集中力）を記録し、従業員自らの対処技能が高まるよう支援している。

入社時は1日3時間、週2日～3日の勤務からスタートし、1カ月ごとに勤務時間の増減について相談している。現在、週20時間以上が8名になった。また、月に1回、全体での就労支援会議を開き、個々の社会スキル、従業員間での問題解決能力が高まるように努めている。

4．今後の展望と課題

会社設立後3年を経た現在、仕事のために会社の近くに転居したり、独居を始める利用者もおり、就労支援事業とは、働くことだけではなく生活全般にわたる支援が必要であると感じるようになった。また、勤務時間だけでは充分な職業訓練に至らず、カリュキュラムを立てた学びの時間がほしいと考えるに至った。

そこで2011年4月から、就労継続支援A型を多機能事業に変更し、生活訓練を開始することとした。自立支援法に基づく生活訓練とは、社会参加に不安を抱いている方々が社会のなかに居場所を作り、社会と関わりながら自立した生活を行い、就労希望の者にはその支援を行う場所だ。この展開には、各種助成金を受けてより広い事務所に転居できたことが大きい。福祉事業所は、敷居が低く、多くの人が利用しやすいアクセスの良さが必須であると考えている。このことで、社会との距離も近くなり、地域とネットワークを作ることで、偏見を減らしていくことができると考えている。

今後の課題として、土地の利を活かして、地域とつながり、人も会社も地域のなかで発展することを目指したい。そしてまず何より、従業員、利用者一人一人が健康で安定して仕事を続けられる会社でありたいと願う。

就労支援、自立支援を行いながら、病気の症状そのものの改善を目指すには、主治医や医療とのつながりは欠かせない。病気の再発の予防や症状の改善に努めるために、家族や医療との連携を作り、事業所の支援者も医療チームの一員となって力を合わせるシステム作りが、今後の大きな課題であると考えている。

これまでの経験から、精神障害の有無に関わらず、ともに働くということに一層の希望を抱くようになった。つらい病の体験を経て今ここにある方々は、人とともに生きる大切さや喜びを知っており、働くということが全く違う生活への意味につながることを教えてくれる。

当社の仕事が地域に根付き、福利を受ける側と見られている障害者が自ら社会貢献を果たしていく、そのような仕事を志している。

生活訓練室
定員8名からスタート予定