ジョブコーチを始めとした支援者と進める障害者雇用
~ 一生懸命働くことが全ての基本 ~
- 事業所名
- 株式会社アレフ
- 所在地
- 北海道札幌市
- 事業内容
- ハンバーグレストラン「びっくりドンキー」、イタリアンレストラン「ぺぺサーレ」などを中心とした飲食店経営
- 従業員数
- 1,538名
- うち障害者数
- 29名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 2 一般事務 肢体不自由 2 一般事務、清掃、開梱調理補助 内部障害 5 店舗マネジメント、開梱、清掃 知的障害 16 調理補助、接客、清掃、食器等洗浄 精神障害 4 調理補助、清掃 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
昭和43年12月に岩手県盛岡市で「ハンバーガーとサラダの店・べる」を創業。その後ハンバーグのスペシャリティレストラン「びっくりドンキー」を確立させ本社を北海道札幌市に構える。現在、北海道から沖縄まで310店舗出店しておりFC展開と合わせ出店を続ける。また食の安心安全には早くから取り組むと同時に環境事業にも力を注ぐ。びっくりドンキー以外の業態としてイタリアンレストラン「ぺぺサーレ」やローストビーフ専門店「ハーフダイム」また地ビール「小樽ビール」事業などにも取り組む。
【企業理念】
一.人間の尊重を原点に置き活力ある経営をする。そして偏りや歪みのない経営をする。
一.よりよい品をより安く大衆の側に立つ。
一.損得よりも善悪が先。
一.お客様我々全ての幸福を目的とするが、お客様あっての我々と言う姿勢を守る。
【使命】
一.人間の健康と安全を守り育む事業の開拓。
一.人間の福祉を増大する事業の創設。
一.自然を大切にする事業の展開。
(2)障害者雇用の経緯
①障害者雇用の経緯、背景
当社の障害者雇用は十数年前から行ってきたが、主に内部障害者が中心となっており、思うような雇用を進めることができなかった。一方当時社内にはアジア系、ヨーロッパ系などの外国人社員や中途入社社員、女性社員比率の向上による女性の採用も活発に行われており、ダイバーシティマネジメントの下地はできつつあった。また創業社長の庄司の「何かがあるとかないとか、何かができるとかできないとか、そう言ったことではなく、人としての存在そのものが尊い。人は誰でも大切な使命を持っている。」と言う考えもあり、障害者の雇用に弾みがつき、身体障害に限らず、知的障害、精神障害を持った人々即ち障害者への採用と幅を広げ、それぞれの特性に合わせた職種で皆と一緒に働き活躍してもらおうと考えた。それが自然であり違和感がなかった。
②障害者の採用と職務内容の決め方
障害者の雇用形態はパート雇用が中心となっている。採用については多様化を念頭におき、画一的なものではなく、様々なところから採用している。A.特別支援学校 B.施設 C.デイケアクリニック D.ハローワーク登録者 E.地域障害者職業センター登録者 F.各事業所での一般求人に応募した人などである。ただし必ずトライアル雇用制度を活用するためにも最終的にはハローワークを通じての採用としている。またトライアル雇用には必ずジョブコーチ支援制度を活用し専門家としてのアドバイスを貰いながら雇用を進めている。従事する業務は基本的には新たにその人のために業務を創るのではなく、今ある仕事に就いてもらうことを原則としている。その人のために新たな仕事をつけても業績次第では仕事がなくなる場合があり、結局不幸な結果を招くことが多い。できなくても諦めるのではなく、どうしたらできるのかを皆で考えることを基本としている。結果うまくいくことが多い。それは本人だけではなく、一緒に働く従業員も一緒になって考えることで一体感が生まれ、双方の職場定着へとつながっている。
また職務内容は基本的に本人が何をしたいのかをベースとしている。確かにできる事とやりたいことは違うが、まずはやりたい事をすることで本人も精一杯頑張れる。頑張ったのだからできなくても納得できる。自分に置き換えれば尚更分かりやすい。ただ初めから事業所が求めていない業務をさせて欲しいと言うのは論外であり、それは我がままである。与えられた仕事を一生懸命することで、その姿を見た皆が応援してくれる。放っておかない。だから成果がでやすい。じゃ他の仕事もやってもらおう。と言う具合に好循環が生まれる。全てはここにあると考える。
③障害者の従事業務、職場配置
職場は店舗、工場、本社としているが、主に店舗と工場となっている。工場では荷物の開墾作業、場内清掃、パッド洗浄など。店舗ではホールとキッチンで業務内容が分かれ、概ね2:8でキッチン業務に就いている者が多い。現在のホール業務では個人差はあるもののほぼ障害のないパート従業員(以下「Pn」と言う)と同じ作業内容を行っている。共通しているのは会計を実施していないこと位であるが、今後本人の適性を見ながら検討することはできると考えている。その他、案内、オーダー、配膳、テーブル片付け、清掃などは多少の質の違いはあるが行えている。キッチン業務で共通しているのは食器洗浄である。ここが一通りできた段階で、ライス洗浄、ライス釜あげなどのライス管理、簡単な仕込みや清掃が中心業務となる。更に次のステップとしてハンバーグを焼くコックを担当している者や最終盛り付けを行い提供するディシャップを担当する者もおり、障害のないPnと何ら変わりなく従事している。本社では一般事務に4名(内部障害者、上下肢機能障害や聴覚障害)働いているが、特に聴覚障害のある従業員のコミュニケーションはパソコンを利用したチャットを使い部内の従業員及び社外関係者とコミュニケーションをとっている。また手話講師を担当し店舗での手話普及活動にも力を入れ、店舗に来店される聴覚障害者のお客様へのサービス向上にも一役買っており、また併せて聴覚障害者の職域拡大へと繋がっている。その他本社では従来は外部業者へ依頼していた清掃業務を新たに2名の障害あるパート従業員を雇用し実施している。


2. 取り組み内容
(1)面接
人事部で1回目の面接を行い、就労可能かどうかの判断をする。(通勤は安全に、確実に通うことができるか。自分のことは自分で処理できるか。挨拶はできるか。分からないことを聞くことができるか。などを重視する)、次に作業能力よりも働く目的やコミュニケーション面を確認する。作業能力は一生懸命に働くことで、後でもついてくると考えている。スタート時は作業能力(早く、正確など)はない方が良いとさえ考えている。何回も繰り返すことで、よりしっかり習得できるからである。
また面接の基本は保護者も同席していただくことにしている。2回目に各ブロックのリーダー、店長、一緒に働くパート従業員2名程度と人事部が加わる。2回目では特に一緒にPnに対してコミュニケーションがどの程度とれるかを確認してもらい、勤務初日までの不安を軽減する事を主目的としている。もちろん本人へ勤務の詳細説明と職場見学は必須である。
(2)説明会
多くのPnは障害者と勤務した経験を持っていない。そのためPnの不安軽減また勝手な憶測や偏見などが事業所に蔓延らないようにするため勤務開始1週間程度前に次の内容で説明会を実施している。①会社のノーマライゼーション実現に向けての考え方。②その障害の特徴。③障害ある従業員の特長。④質疑応答。この説明会には地域障害者職業センター、ハローワーク、施設、特別支援学校教諭、病院スタッフなどの全支援者と人事部が参加し行っている。この説明会はPnに対して非常に有効に働いており、全従業員参加を基本としている。
(3)勤務初日
会社概要や職場のルールなどを説明するオリエンテーションに力を入れる。3障害の採用が基本であるため、全ての障害者が使用するわけではないが、通常使用するものとは別に知的障害者用にハートフルクルーパスポートを準備している。通常の表現では分かり辛いものを簡単に、また図やイラストを多用し工夫している。
(4)トレーニング
基本はPnが行う。当然ながらジョブコーチの指導を仰ぎながらであるが、彼等の存在がパート従業員に対して、何かあっても大丈夫という安心感を与えてくれている。欠かせない存在である。ジョブコーチの指導において事前に作業習得をお願いする場合もある。すぐには理解できないものや、作業習得に時間がかかる場合がそうである。
(5)職場定着
定着には一緒に働くPnの理解が欠かせない。一番の問題は障害のあるPnの課題が放置された場合や、障害の無いPnが自分で何かしようと頑張りすぎたため過度のストレス状態に陥り、退職に追い込まれるなどした場合である。どんな小さな問題でも放置しないこと。そのために自分達で何とかしなくてもよいことを説明会でも話している。問題発生時にまずは店長に報告しその後人事部に連絡が入る。又は担当者の訪店時にPnより状況の説明を受け、担当者から支援者全員に伝えられる。一見関係のなさそうな作業上の問題でも、就業・生活支援センターに連絡をとり情報を共有し、全員で問題解決をする。現場だけで何とかしなくても大丈夫と言う雰囲気が大切である。
また問題がなくても1年に1回は関係者が集まり、現場のPnの意見を聞くことも大事になってくる。何もなさそうでも、現場では何か必ずある。サイン(Pnの表情や障害あるPnの言動の中で特に口数が少なくなったり服装の汚れや作業の丁寧さ)を見逃さないことである。
3. 取り組みの効果
① | 全社的に障害者の雇用のきっかけとしてノーマライゼーションの実現の為の取組全般について考えるようになった。例えばA.授産施設への優先発注をすることで、施設で働く障害者の工賃支援ができる。B.授産施設製品の販売協力。C.施設、特別支援学校などの職場見学、実習の受入拡大。D.手話が使える店の拡大。E.児童養護施設の児童の食事招待。F.社内に環境や福祉を考えるチームが発足。などであり今後も継続した取組をすることにより、企業風土創りにも良い影響を与えることができると思われる。 |
② | 店長や社員、Pnからは次のようなコメントが寄せられている。 |
- 障害者が店舗で働くのは良い影響を与えてくれるので必要な人材と考えています。
- 店舗で働くPnは障害をもったPnにも関係なく接してくれています。確かに同じことを何回も伝えることはありますが、目標を設定し面談やミーティングを行なえば大丈夫です。
- Kさんは店で行っているセミナーにも全て参加してくれます。一生懸命仕事をする人は障害のあるなしに関わらず必要な人です。
- 障害者へのトレーニングは時間と技術も必要です。でも上手くいかないときは障害のないPnも一緒になって考えてくれます。そこが大事です。だから成長するんですね。
- 障害者雇用は奇麗ごとだけではありません。でも彼を支える仲間達は技術もさることながら人間的に大きく成長してくれます。その成長が店の成長であり、思いやりのある店が創れます。
- 障害のないPnのスキルがアップします。より丁寧に分かりやすく説明する力が身につきます。
- ハード面では分かりやすさを意識し、ハート面(気持ち)では理解する、許容することが店の中に浸透しています。このように店の環境変化をさせてくれる人材は店舗にとって必要な人財なんです。
- 一緒に働くことで職場環境を整え人を活かすことを考えられるようになってきました。
- 障害者と共に働くことで自分達が思った以上に普通に色々なことができると感じました。
- 挨拶や返事もしっかりでき作業終了時や解らない時などは必ず聞いてくれるので安心感があります。また一度覚えたことはきっちりできます。
- 障害者と言う気持ちで接しているわけではないので普通に仕事をしています。できないときのフォローは皆でする。ただそれだけのことで当たり前のことです。
- 彼女の卓番の覚えるスピードやハンディの配列を覚える速さと正確さは群を抜いており、またオーダーミスのなさには驚かされる。
③ | 障害のあるPnからは次のようなコメントが寄せられている。 |
- 仕事をする上で挨拶はすごく大事だと思います。
- 慣れてきたこともあり仕事は楽しいです。また挨拶や声かけは大事だとおもいます。
- 将来自分で働いたお金でお母さんをハワイに連れて行くことが夢です。
- 仕事をする上でコミュニケーションは大切です。自分が暗かったら周りも暗くなってしまうので積極的に話して行こうと思います。
- 課題は、すぐに助けを求めるので自分の作業範囲を広げること。オープン作業とナイトの片づけ作業を習得したい。
- 仕事をする上で大切に思っていることはスピードと正確さです。
- 将来は結婚をして家庭をもつことです。
④ | 保護者や支援者からのコメント |
- 懇親会に参加して普段の様子がわかり良かったです。想像通り工場長さん始め皆さん優しく安心しました。
- 蓋洗い枚数の目標を達成して本人も喜んでいます。「よく頑張っているね。」と褒めています。今日が誕生日で25歳になりました。素敵な1年を送れることを願っています。
- 失敗して注意されたときは元気がなくなりましたが、頑張ってやっていくうちに元気になりました。
- 困っているときに周りの方がアドバイスして頂ける環境で本当に有り難いです。
4. 今後の課題
① | 現在の障害者の雇用数において本社が北海道と言うこともあるが、半数は北海道に集中している。当初は雇用管理上から本社近辺での採用を主に行ってきたが、これからは北海道、東北、関東、九州の5ブロックにわけた事業所があるので均等に雇用をすすめる。それが一緒に働く従業員にとっても良い姿だと考える。 |
② | ある特定の障害に特化するのではなく、あくまでその方自身の人間的魅力や障害特性に応じた職種の採用を行っているため、3障害及び発達障害を持っている人々を採用している。現状は知的障害者が半分近くを占めている。バランスよく雇用するためにも発達障害者も含めた精神障害者の雇用を増やしたい。 |
③ | 高等特別支援学校3年生の企業就労前提の職場実習は来春入社の合否を決定するわけであり双方にとって極めて重要な実習となる。例えば、障害者採用担当者が近隣に入れば一緒にトレーニングできるが、いなければ殆ど現場に任せっきりになる恐れがある。今後企業としても障害者への教え方、接し方など教育研修などを充実させる必要がある。 |
組織開発チーム採用担当 丸山 明博
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