障害者雇用納付金制度の理解から雇用拡大へ

1. 事業所の概要
(1)沿革
盛運輸株式会社は、「安全・丁寧・確実・笑顔」を基本に、1972年に設立し、以来、40年間お客様の信頼を得、地域に密着した輸送業者として発展を続けている。
これまで、24時間・年中無休体制を業界でいち早く確立し、現代社会の複雑な要請に応え、満足を頂けるよう、柔軟に対応してきている。そして、その業務の品質を高め、評価を得るために、2003年にISO9001・2000を認証取得、また2008年にプライバシーマークの認定を受けている。
今後とも、より質の高いサービスをお客様に提供するべく、更なる合理化、効率化を図り、グローバルな企業に成長させるため、顧客満足を最重要テーマとして捉え、事業を展開させていくことを方針としている。
(2)事業内容
当社では、事業の全ての答えは、お客様のニーズの中にあるということを確信しながら、次の各部門で、事業を展開している。
① | 輸送部門 |
お客様のニーズにお応えするために、次の輸送業務を行っている。
○チャーター 1車単位での月契約でのサービス提供
○飼料配送 各メーカーより各農場へ飼料専門のバルク車での配送
○陸送 選ばれたドライバーによる、各ディーラーのご依頼に基づく製造工場からの車両陸送
○レッカー 事故及び故障のトラック(大型・中型・小型)の全国各地からのけん引作業
② | 整備部門 |
安全輸送を第一のモットーにしている。そのために常に車両の安全整備を心掛けており、専門の整備士がきびしいプロの目でいつも車両をチェックしている。
③ | 板金塗装部門 |
常にきれいな車両での輸送を心掛けている。塗装がはげたり、車体が凸凹のまま走ったりすることがないように、板金塗装部門を設けている。
(3)地球環境への配慮
「自動車から排出される窒素酸化物(NOx)および粒子状物質(PM)の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」(自動車NOx・PM法)などの施行により、トラック運送産業にも、大きな環境対策の改革が必要とされている。
当社においても積極的に無駄を無くし省エネ運転を実施し、環境保全に努める事が我々の使命と考えている。当社は、商品の輸送・保管業務に携わり燃費の効率化や消耗品の節約と資源のリサイクルに努力し、物流企業としての責任意識のもと、地球環境保護の重要性を認識し、人の健康、動植物の保護、省エネ化に対し一役を担う企業を目指している。
2. 取組みの内容
(1)障害者雇用の経緯
事業の拡大を続ける内に、従業員数が300人を超えていたが、障害者雇用納付金制度についての理解不足もあり、障害者雇用を促進しておらず、法定雇用率は達成していなかった。そんな折に、納付金について、当時の高齢・障害者雇用支援協会の障害者雇用納付金担当者から熱心な説明を受け、制度の趣旨、内容を納得するに至った。その後は、一念発起し、制度の理念に従い、青森、八戸、仙台と3か所ある事業所において、障害者の雇用を促進し、法定雇用率を達成し、維持するよう社長からの指示が飛んだ。この指示によって、それぞれの営業所では、職員の採用に当たって、障害者の採用を積極的に検討し、採用を行った。これらの努力によって、雇用率は平成22年6月には2.86%と急速に高まった。さらに、当業種の除外率が30%から20%と低くなった平成23年6月においても2.64%と法定雇用率を上回る雇用率を維持している。また、この積極策を推し進める中で、これまで業務に従事していた職員の中に、障害者手帳を持っている職員がいることまで明らかになり、全社をあげて障害者に対する理解とその雇用についての理解が急速に高まるとともに、障害者自身の意識変革も行われた。
従業員の採用状況、業務内容は次の表の通りである。
配属 | 氏名 | 年齢 | 障害 | 採用年 | 退職年 | 業務内容 |
本社3 | SH | 50代 | 右股関節機能 | H16 | H21 | 運転手 |
本社1 | SK | 50代 | 右膝関節機能 | H17 | 運転手 | |
仙台1 | HM | 50代 | 右母・示指切断 | H19 | 運転手 | |
八戸1 | KT | 40代 | 聴覚・心機能 | H21 | 運転手 | |
本社2 | SM | 40代 | 左肘関節機能 | H21 | 運転手 | |
八戸2 | KK | 50代 | 心機能 | H21 | 運転手 | |
仙台2 | MT | 30代 | 精神 | H21 | 事務職 | |
仙台3 | HM | 50代 | 身体 | H22 | 運転手 | |
八戸3 | SM | 20代 | 身体 | H22 | H23 | 運転手 |
(2)障害者の従事業務内容
当社は運送業務が主業務であることから、運転手を募集する機会が多く、運転免許(大型含む)を所持している人であれば、障害がある、無いに係わらず、面接を行い、採用するようにしている。現在、業務についている障害者は運転については、全く問題がなく、日々、業務に励んでいる。また、平成22年に運転業務とは異なる職種に障害者を雇用することを検討している時に、仙台営業所において公共職業安定所からの紹介があり、事務職として一人を採用した。
(3)取組みの内容
当社では、障害者に対する配慮をことさらに意識することなく、同じく仕事をする仲間、職員として接している。
実際働いている人からお話しを伺うために、本社佐藤総務部長にお願いしたところ、現在、仙台営業所で勤務しているMTさんと八戸営業所で運転業務をしているKKさんから、コメントをいただいたので、その内容を次に紹介する。
MTさんは、以前、自己管理の甘さから不規則な生活となり心身共に疲れた状態が長く続いた結果、幻覚を伴う障害が現れ、障害を持つことになってしまったとのことである。現在は自己管理を徹底し継続する事で、幻覚等の障害もなく普通に暮らしているとのことだった。
障害を持ってからは、就職活動のために、パソコンソフトの操作を勉強し、MCAS word2007とMCAS excel 2007を取得した。また、小規模作業所での訓練(i コープから委託業務 野菜の小分け等)に参加し、就労の機会を伺っていた。
そして、平成21年に、盛運輸に応募した。応募の動機は、PCの基本操作ができ、コンスタントに日常業務を行えるという会社側の要望と自分の身に付けたものを生かそうという思いが一致し、採用になった。また、当社が障害者職業センターからのジョブコーチを受入れ、就労支援の体制を設けたことも支えとなったようである。
(当該職業センターでは1週間に1回の訪問を行い、問題無く職場適応が進んだとのことだった。)
現在の仕事の内容は運転日報の勤怠、車輌の給油データ、毎月の走行距離等をPCに入力し管理することであり、ファイリング等も行っている。また、日々の仕事は、定時通りの業務体制であり、残業はなく、安定した勤務が継続できている。また、毎月の通院日には休みを貰えていることに感謝しており、自分の障害に対して会社が配慮してくれていることを実感しているようだ。加えて、社員の皆さんが、本人のメンタル面へ配慮しながら接してくれていることに安心感を持っているようだった。
(本社の佐藤総務部長によると仕事は正確で、しかもスピーディーであり高い評価を得ているとのことだった。)
KKさんは、心室中隔欠損症という生まれつきの障害があり、18歳の時手術をして、身体障害者4級(心臓機能障害)となった。手術後は、通院もなく、投薬もなく過ごしている。
高校卒業後、大手電機メーカーに入社、28年間勤務していたが、会社の縮小、工場閉鎖に伴い、長野県に転勤ということになり、退職することにしたとのことだった。退職後に大型自動車免許を取得し、ハローワークに障害者登録をして就職活動をしていたところ、盛運輸の募集があり、応募したところ採用され現在にいたっている。
現在の仕事の内容は日配品の配送で、岩手県の久慈市、普代方面の食品搬送をしており、午前2時から12時まで、冷凍冷蔵車(3t)を運転し日々の業務に励んでいる。
障害を持っていることを特別意識することなく、また、意識させることもなく、ごく当たり前に、一従業員として、与えられた業務をこなし、責任を果たしているKKさんを始めとする手帳を持っている皆さんの姿勢と、そのことを普通に受入れている職場環境こそが取組みの原点だと感じた。
当事業所がこれまで活用した障害者雇用支援制度は上述のMTさんについてジョブコーチをお願いしたことだけであり、それ以外の障害者雇用に関する助成金制度は活用していない。現在では、前述したように、各事業所における障害者雇用の促進、雇用率の維持の方針が功を奏し、平成22年度、平成23年度においては調整金の支給対象事業所となっている。
(4)取組みの効果、障害者雇用のメリット
MTさんの業務遂行姿勢、能力に接し、全従業員の中に、障害者とともに働くときは、ことさらに障害に目を向けるのではなく、仕事で接し、ごく当たり前に、同じく業務目標に向かって努力している仲間として、受け入れていることが大切であるという考えが定着した。
また、障害者手帳を所持している人も、自分の障害を直視し、自分も、共に業務を進めてゆく職員に一員であるという姿勢に変化し、お互いの理解が深まっている。
ノーマライゼーションという言葉をことさらに意識するまでもなく、お互いに一人の人間として、職業人としての自覚と義務の履行が当たり前に求められ、行われている当事業所のありようがノーマルな状況であると思った。
3. まとめ
最近では、企業を取り囲む経営環境が大きく変化し、サービス品質の評価の習得、環境への配慮の評価基準、個人情報配慮に対する基準、社会活動への参加など事業所としての品位(品格)が第三者から求められるようになってきており、多くの企業においてはその評価を得るために努力している。これらの、評価基準とは視点が異なるかもしれないが、現在、企業における定年の年齢の引き上げ、障害者の雇用率の引き上げなども企業の評価に繋がる要素となってきている。
当社においては、沿革で述べたようにISO9001・2000を認証取得し、プライバシーマークの認定も受けており、企業としての品格を高める努力を進めている。また、今回は、障害者雇用納付金制度について理解不足であったことを認め、説明を受け納得をした上で、障害者雇用促進を決意し、全社に指示を出したとお話しをしていただいた盛社長に敬意を表しながら、その経緯と雇用されている障害者のお話しを掲載した。
企業が第三者から一定の評価を得るために評価機関に評価を依頼し、その結果を公表し、社会の信頼を得る努力をしてゆくという時代にあって、障害者雇用率の達成もまた社会からの信頼を得るための一要素である。障害者促進に舵を切った盛運輸の方針は、他の企業にもよい影響を与えてくれるだろう。
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