障害者を雇用し、育てることで、会社も障害者の親も成長する
- 事業所名
- 株式会社星光舎
- 所在地
- 岩手県花巻市
- 事業内容
- 一般クリーニングや特殊クリーニングなどクリーニング事業全般
- 従業員数
- 187名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 3(内重度2名) ハンガーアップ、絨毯洗い・仕上げ 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
昭和35年に、当時タクシーの運転士だった現会長の章氏が開業。自宅を改造し、洗い場を作り、木製の洗濯機とベルト式脱水機とササラ台を設備した。
自転車で市役所などの官公庁や一般住宅を1軒1軒回り、注文を取ったという。そんな努力の甲斐あって、3年後の昭和38年には工場を新築。しかし昭和40年代に入ると、奥様が7歳、4歳、2歳の子供たちを残して病死し、建設したばかりの工場が実は手抜き工事で台風による浸水被害に遭うなど、苦境に。その後も、資金繰りがうまくいかなくなったり、従業員に大挙してやめられたり、外交員に集金を使い込みされるなど、どん底の時代を経験するが、長男で現社長の哲哉氏や次男の祐司氏が大学を辞め会社に入って会長を助け、乗り越える。
現在は、本社のある花巻市と北上市、盛岡市に各2工場、奥州市水沢区と一関市、矢巾町、滝沢村に各1工場を所有。平成15年には県内のクリーニング業界では初めてISO9001品質マネージメントシステムを取得している。また、以下のことを経営方針として掲げている。
① | お客様に喜んでいただける商品作りに努める。 |
② | 社員の生活向上と安定に努める。 |
③ | 適正な収益確保に努める。 |
④ | 事業を通じて「社会に奉仕」し、人間性の向上に努める。 そして、障害者雇用については、「障害者を雇用することで自分も会社も成長できると考えること」、「我慢と根気」、「家族のサポート体制を確保する」という理念に基づき取り組んでいる。 |
2. 障害者雇用の経緯と背景
(1)経緯
営業で市役所に毎日通っていた会長が、ある日福祉課の人から「花巻中学校の知的障害者クラスに在籍している2人の生徒を、卒業後に雇ってもらえないだろうか」と相談された。クリーニング事業の開業にあたって地元の人たちのお世話になっているという感謝の気持ちと、「何かできる仕事があるかもしれない」という思いから雇用を決めたという。昭和55年6月のことだった。
洗濯・乾燥が終わった衣類をハンガーに掛ける作業と、洗濯で落ちなかった襟元の汚れに専用の洗剤をぬる作業を担当させた。時間はかかったものの慣れると仕事ができるようになったので、共に30年以上働いている。一人は最近定年退職となり、もう一人のTさんは現在も花巻市内の工場で働いている。
その後、平成14年4月に雇用されたのがNさんとOさんの男性二人だ。共に、盛岡市にある知的障害者施設「緑生園」の出身。同園は入所者にラグビーをやらせ、それを通して社会人として必要な礼儀や知識などを教えている施設だった。そのユニークな教育法に着目したNHKの盛岡放送局が、そのラグビーの様子や、彼らが実際に企業で研修する様子を番組にしたいと考えた。その研修先に立候補したのが、現社長だった。二人の毎日を追った番組は大きな反響があり、園からもNHKの担当プロデューサーからも、そのまま同社で働かせてもらえないか、と言われた社長は、たまたま二人が花巻市の隣の北上市出身ということもあり、そのまま雇用することを決めたという。二人は現在も本社工場と北上工場でそれぞれ働いている。
ちなみに、NさんとOさんが入社する前に、やはり北上市出身の知的障害者の男性を二人雇用したが、一人はもっと自宅から近い会社での勤務を望んだこと、一人は個人的な事情で、共に途中退社している。
(2)背景
ゼロからクリーニング業を始めた会長は、理念の一つに「地域貢献」を挙げている。一人目のTさんの雇用については市役所の福祉課の職員から頼まれたが、これは職員が顧客だったことのほかに、「地域の障害者を一人でも多く採用して地域に貢献したい」という思いがあったからだ。
また、クリーニング業界では知的障害者の雇用が少なくない。会長は独立後、同業者と交流する機会があり、彼らが障害者を雇用していることも知っていたので、「自分でもできるのではないか」と考えたようだ。
Tさんは慣れるまで現場で怒られることが多かった。そのたびに落ち込んで、ひどい時には翌日から会社を休んだという。その時会長は、自宅に足を運んで迎えに行ったが、すぐに会社に出てくることはなく、迎えに行ったのは1回2回ではなかった。それができたのは、同社の経営で何度も苦境を経験しながら、持ち前の粘り強さや「あきらめない精神」で乗り切った会長だからこそ、だろう。会長も社長も、「障害者を雇用するためには、あきらめないことと粘り強さが必要だ」と口を揃えることから、同社が雇用に成功している背景には、そうした雇用側の努力がある。
その社長は、同社の創業の年に生まれ、いわば同社とともに成長してきた。そしてその間、会長のTさんに対する接し方や努力を間近で見てきた。それゆえNさんとOさんを雇用する際には、多少ためらいはあったものの、「頑張ればなんとかなるだろう」という前向きな考えがあったに違いない。
(3)その他
またその間、会長は花巻市内の厚生施設と授産施設の理事に就任している。経験の中で障害者への接し方を学んだほかに、そうした場所で障害者とのコミュニケーションの取り方を見ることができている点も、長期にわたって雇用し続ける上で、プラスになっていると思われる。
ちなみに上記の施設で会長は、自社からおしぼりの洗浄のための機械や洗剤などを持って行き、入所者に「おしぼり洗浄」の仕事をさせるなど、障害者の自立に貢献している。花巻市は温泉場が多いので、「おしぼり洗浄」の仕事は多いという。
3. 取り組みの内容
(1)具体的な内容
NさんとOさんは緑生園でラグビーをしていたこともあり身体が比較的大きく身体能力もあるので、作業が単純かつ力が必要な仕事を担当させるなど、適性を見極めた配置にしている。たとえば、TさんとNさんは花巻市内の工場で、乾燥機から出した衣類をハンガーにかける、普通に洗って落ちなかった襟の汚れに専用の洗剤をぬる、といった仕事を担当。力のあるOさんは北上市内の工場で、一般的な絨毯の洗浄と仕上げを担当している。


Nさんの上司である工場長の照井氏は、仕事を指示する時には具体的に話すようにしている。たとえば、障害のない人になら乾燥機を指さして「あそこの乾燥機から衣類を出してここに持って来て」と言う時にも、「あの青い乾燥機から衣類を全部出して、ここに持って来て」と指示するという。
指示されたことをやり忘れ、それを1日に何度も繰り返した場合は、現場の上司が怒ることがある。その場合、会長も社長も「できるだけ我慢して、怒りすぎないように」「あたたかい目で見てあげて」と指導している。特に会長は授産施設などの理事をしていてそこで障害者への接し方の工夫を見る機会があるので、それを他の社員に教えることもある。その会長自身は、Tさんを雇用した最初の頃、直接Tさんに仕事を指導していたが、その時は「ここが悪いから、ここを直すと良くなるよ」と前向きな言葉を口にしたり、うまくできた時にはできるだけほめるようにしたという。「しかるだけでは、仕事は覚えてもらえない」というのが会長の持論だ。
工場長曰く、休日明けの月曜日などはモチベーションが低いせいもあるのか、スムーズに仕事をこなせないことが多い。そこで月曜日には細かく指示を出したり、予定の数をこなしているかまめに確認しているという。
知的障害者の中にはちょっと怒られただけで落ち込んでしまい、ひどい時には翌日から出社できなくなる人がいる。就職したばかりの頃何度もそういうことがあり、会長と社長が責任を持って自宅に迎えに行った。それでもなかなか出社せず、何度も通って心を開いてもらい、出てきてもらったという。
また社長は、知的障害者の中にはちょっとしたことで悩む人もいるようだと話す。明らかにそう見える時や、上司に怒られて落ち込んでいるような時には、声をかけるなど気を紛らわす工夫をするという。「たとえば缶コーヒーを買って『まず飲め』と渡し、興味のあることを話題に話しかけたりしたことがあります」と社長。
上記のように悩みやすい人が多いので、年が近い同僚がそばにいると良いようだ。Nさんの場合は入社当初は同じ年頃の同僚男性が一人いて、よく冗談を言い合ったり遊んでいたという。残念ながらその男性はその後やめてしまい、Nさんも落ち込む回数が増えたという。
障害者の雇用には、障害者の家族の協力が不可欠だという。たとえばNさんの出勤には家族が送り迎えをするという。また、怒られて出社するのがイヤになった場合も、家族が励ますなどして送り出してくれないと勤め続けることができない。「家族も本人とともに成長するつもりでサポートしてほしいし、それがなければ雇用はうまくいかない」と社長は力説する。
(2)活用した制度や助成金
業務遂行援助者の配置助成金を活用している。
(3)その他
従業員の中には、携帯電話から架空請求をされてしまった者もおり、携帯電話の設定をインターネットにつながらないようにしているという。
ご家族の中には、働く子どもをとても心配して、社長に相談の電話をかけてくるのが珍しくない。社長はその気持ちも汲みつつ、「心配のしすぎは子どもの成長を妨げますよ」などとアドバイスしている。こうした家族へのフォローもまた、雇用の継続には大切なことだろう。家族のサポートがないと雇用の継続は難しいのだから。
「石の上にも3年」というが、知的障害者の場合は「石の上にも5年+α」と考えて接した方が良いという。
仕事以外での同僚とのコミュニケーションは問題ない。休憩時間に一緒にたばこを吸ったり世間話をしていることもある。
4. 取り組みの効果・障害者雇用のメリット、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果・障害者雇用のメリット
① | 取組みの効果 |
怒られた時や悩んでいる時に声をかけるなどのフォローによって、気持ちを切り替え、仕事に戻ることができた。
TさんもNさんも、上司に怒られて落ち込み何度も会社を休んだが、そのたびに会長や社長が連れ戻したおかげで、現在まで働き続けることができている。そしてそれを繰り返しているうちに仕事に慣れ、怒られることも少なくなった現在は、会を休むことはなくなったという。
② | 障害者雇用のメリット |
「今となれば2人とも会社にとって必要な人材」と社長。長く働き続けていることで、担当の仕事もきちんとこなせるようになったからだ。「単純作業なら障害のない人よりも仕事が早いのではないか」と会長。
総じて、障害のない社員よりもまじめで、上記のような理由以外で休むことがないという。そのため仕事の予定も組みやすい。
他の社員は、障害者との接し方を学ぶことができている。またそれを通じて、我慢することや粘り強く接することなどを学んでいる。社長が何度も話す「自分も会社も成長する」ということは、このことだろう。
③ | 障害者自身のコメント |
「同僚の人や上司がやさしい。仕事は大変だけど頑張らないと」とNさん。
(2)今後の展望と課題
今後も関係先から相談があれば、条件次第では雇用しても良いと思っているそうだ。その条件とは、本人自身の人柄などに問題がないことと、家族のサポート体制(会社への送り迎えや、会社との意思疎通への協力など)が整っていることだ。
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