障害者の新たな雇用の場の創出
~環境事業の拡大化にともなう職域の広がり~
- 事業所名
- 横手運送株式会社(平成24年6月より社名を「ヨコウン株式会社」に変更)
- 所在地
- 秋田県横手市
- 事業内容
- 一般貨物自動車運送事業、倉庫業、産業廃棄物収集運搬業、通関業
- 従業員数
- 278名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 運転手 内部障害 知的障害 精神障害 3 発泡スチロール溶融作業、梱包資材リサイクル作業 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯と問題点
(1)事業所の概要
当社は、秋田県南部に位置する人口103,000人(県下第2位)余りの横手市に本社があり、明治14年に塩田陸運社として創業してから130年、昭和26年に横手運送株式会社として設立してから60年を迎え、「物流を基盤とする総合サービス業」を展開している。
平成8年7月に保税蔵置場の許可を受け、平成10年4月には通関業の許可を取得し、海上コンテナによる輸出入や、輸出用航空貨物等の国際輸送分野における取扱いを開始。同年9月には、一般廃棄物、産業廃棄物、医療廃棄物の収集運搬事業を開始し、地域自治体のニーズに応えることで、地域環境の向上に寄与してきた。
当社の事業領域である「物流を基盤とする総合サービス業」は、お客様の業種により、主に自動車関連の物流、温度管理を必要とする食品物流の2つが柱になっている。物流・通関業務・廃棄物収集運搬とリサイクルなど、物流に必用な「車を使用して行う業務を包括的に行なうこと」と定義し、地域の方々と共に経営理念である地域社会への貢献を続け、顧客第一主義、そのための品質向上という考え方で現在に至っている。
(2)障害者雇用の経緯と問題点
当社は、平成10年9月に廃棄物の収集運搬事業を始めたが、それにともなって身体障害者の採用と、精神障害者の社会適応訓練事業である職親制度を取り入れ、障害者雇用への第一歩を踏み出した。特に、精神障害者の雇用については当初全く知識がなく、各地区のすぐれた職親の実体験や実践活動を学ぶ研修会やセミナー等に積極的に参加し、精神障害者雇用の経験を積んできたが、経験を積むにつれ、障害者雇用の難しさを何度となく経験してきたことも事実であった。
過去に障害等級3級以上の身体障害者を数名採用したことがあるが、比較的重量物を取り扱う仕事が多い作業環境や、一緒に働く障害のない社員への気づかい等でほとんどの場合半年ほどで退職してしまわれた。また、精神障害者に対する障害のない社員の接し方にも若干のとまどい・ぎこちなさ等があったことも事実であった。
このように当初は、職場環境やコミュニケーション意識における課題が多く、定着性の問題が主因で、数年の間は法定雇用率を達成することができない状況が続き、その経験から、会社としてやるべき制度改革、職場環境の整備等を改めて見直し・取り組む必要性に迫られていた。
2. 取組みの内容
このような状況でのポイントとなる課題は二つあり、一つは、「十分なコミュニケーション」であり、もう一つは「定着化に向けた職域の拡大」ととらえて、この課題への対応を推進した。
(1)「十分なコミュニケーション体制の構築」
障害者雇用面の課題であるとともに、顧客満足や従業員満足という面で組織的にも重要な問題であったために、コンサルタント会社に依頼して、コーチングという手法を用いてコミュニケーションの改善活動を行う「YESプロジェクト」を2年間実施した。
社員の意見・要望について「YESプロジェクト」で検証をし、多くの「問題」「原因」の究明を経て改善案が明らかになり、これらの事項を計画的に全員に継続的にフイードバック対応をした。
また、障害者雇用の諸研修、会議等へも総務部門の担当者が積極的に参加をし、障害者を雇用している該当部門へも都度連絡をするなど顔の見える対応を実施してきた。
「YESプロジェクト」の計画的な実施により部門内や他部門とのコミュニケーションが深まり、障害者、障害のない社員すべてにおいて責任感とモチベーションの向上が窺われた。日常業務における遵法、安全への意識向上、報告・連絡・相談の励行等ルールとしてだけではなく、社員同士の信頼関係が構築され、パフォーマンスが高まった。
(2)「定着化にむけた職域の拡大」
障害者が障害のない社員とともに働ける職域の拡大にたいしては、体力面そして生きがいの持てる職場環境の視点から、廃棄物収集運搬業務の流れをくむ、「リサイクル物流」という新分野に課題解決の糸口を見出した。「リサイクル物流」は物流の新分野への先行投資といえるが、現在、当社において、エコやリサイクルの時流に対応すべくドラスティックに社内体制を整備し続けている分野である。
現在身体障害者2名、精神障害者3名が本社営業所福祉環境部門に在籍している。
担当業務等は次の通り。
① | 「発泡スチロールリサイクル業務」 発泡スチロールリサイクル事業は、スーパーマーケットで不要となった魚箱(発泡スチロール)をリサイクルしたいという、スーパーマーケットからの依頼で1999年から、魚箱を帰り荷として回収した後、集積場にて減溶し、インゴット(鋳塊)化された減溶物を商社へ販売、リサイクルをしている。この作業には事業開始当初は1名の障害者が従事していたが、配送ルートの増加等で年々処理量が増加し、データを取り始めた2004年から6年後の2010年においては、出荷数は3.4倍に作業者は3倍となっている。現在は、作業従事者の3名は精神障害者が担当し、ドライバーは1名の身体障害者と2名の障害のない社員が担当している。また、身体障害者1名は廃棄物、リサイクル品の収集運搬のドライバーとして活躍している。 |
【インゴット出荷数と作業者数の推移】
年度
|
出荷数
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作業員
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ドライバー
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2004年
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35,410kg
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1
|
1
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2005年
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54,520kg
|
1
|
1
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2006年
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90,290kg
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2
|
1
|
2007年
|
59,350kg
|
2
|
1
|
2008年
|
72,970kg
|
3
|
2
|
2009年
|
113,440kg
|
3
|
2
|
2010年
|
120,740kg
|
3
|
3
|
② | 「包装資材リサイクル業務」 平成22年から包装資材のリサイクル業務を開始した。当社の各地区の営業所から排出される包装資材のPPバンド(ポリプロピレン)とラップ(ポリエチレン)を圧縮機にかけて圧縮し、商社にリサイクルを依頼している。現在、発泡スチロールリサイクル事業を担当する4人の障害者と2人の障害のない社員が作業を担当しているが、障害者の新たな雇用の場として拡大をしていく予定である。 |


これらは廃棄物の収集から作業成果物とその運搬という一連の流れで行われており、精神障害者については、主業務の後にドライバー(障害のない社員)の補助作業を行う等、できる限り障害のない社員と一緒に働ける職場作りを推進している。また、担当指導者ができる限り日常的に目の届く範囲に居るようにして、作業の指示や指導はもちろん生活上の相談にまで応じるようにする他、特定の簡易的な作業を導入期の作業として固定しながら、1日の作業にできる限り室内作業と戸外での作業の両方を組み合わせることや、慣れや疲労度等を常に確認し作業日数や作業時間を調整すること等に配慮しながら、作業状況に注意を払っている。 |
3. 取組の効果
精神障害者への対応として、職親体験で学んだノウハウや、作業者の顔色、作業、話し方、特に疲労状態や怠薬については十分な注意を行なう他、指示内容の伝達、作業状況の確認等のフィ-ドバックを同時進行的に行い状況の把握を確実に行なうことで、障害者と事業所側双方の安心感に直結している。当社の精神障害者のうち2名は、バレーボールの選手でもあり、障害者国体や障害者の全国大会に出場するほどのレベルにあり、公私ともに安定した環境にある。
また、身体障害者においても障害のない社員と全く同一の配送ルート、配送量、教育訓練を実施する等の環境にあり、ここ数年は障害者の離職はなく、障害者雇用率は一定の数値で定着するようになっている。
リサイクル物流という新分野での雇用は、障害者と障害のない社員、又、障害者同士の信頼関係づくりを促進し、社員同士のコミュニケーションの向上、安心安全のもとに働ける職場環境の確保、社員が満足して働ける会社づくりを進めることができた。
当社では障害者の雇用を10年以上前から行っているが、共同作業でのコミュニケーション意識が高まるにつれて、社員一人ひとりの意見や思いがより明確に見えるようになり、障害のある方の業務に対する意欲の高まりや障害のない社員とともに働く姿勢は、全社員の励みになるとともに、雇用による社員満足、労働意欲の重要性を実感している。
4. 今後の展望、終わりに
(1)今後の展望
昨今の廃棄物として排出しているものを資源化しようという、環境事業の拡大化にともなう職域の広がりは、今後の障害者の新たな雇用の場の創出機会として期待している。
特に、リサイクル物流やライフサポートサービス(各家庭等の清掃等)業務への参入等、新分野での雇用促進は、体力にあった仕事をしたい、仕事を生きがいとしたいという障害者に、雇用の場を提供できることにつながるとともに、社員満足という意味で大きな一歩であることを認識している。
現在雇用している身体障害者は、いずれも軽度の障害であり、運転業務への支障はない。軽度の障害者については今後もドライバーへの採用を積極的に検討するとともに、前述のリサイクル物流業務等の新職域への配置も検討していきたいと考えている。
職場環境においては、障害者や障害のない社員との信頼関係づくりを引続き継続して行うことで、社員同士のコミュニケーション意識の向上と安心安全のもとに働ける職場環境を確保し、全社員が満足して働ける会社づくりを進めながら、今後も、障害者雇用は企業の一戦力となりうるものとして、能力を十分発揮していけるよう障害のない社員と同等の環境づくりを推進していく。
(2)終わりに
企業が障害者を採用することの意味 |
障害者が障害のない社員と共に働くことで、職場環境が穏やかに変化し、企業自体が人を癒す場に変わってくるという。障害者の雇用が新時代の雇用形態のあり方を提示し、障害者がついていけるようなリーダーシップは、これからの企業に求められるリーダーシップの一形態であることを、10年の障害者雇用の過程で教えられた。これからの労働環境は常用雇用等にかかわらず様々な就労形態が広がっていくものと思われ、又、必要でもある。障害者雇用はその先駆的な役割で就労形態の一モデルとなりながら、新時代の雇用就労形態であると認識しており、当社においてもこのような考えのもとに社員の定着化を推進していく。
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