聴覚障害者が長く働くことのできる職場環境事例
- 事業所名
- 株式会社 天童木工
- 所在地
- 山形県天童市
- 事業内容
- 家具・インテリアの設計および販売、室内装飾の設計および施工の請負
- 従業員数
- 280名
- うち障害者数
- 10名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 6 組み立て、加工 肢体不自由 1 組み立て、加工 内部障害 3 組み立て、加工 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
今回ご紹介する「株式会社天童木工」は、1940年、現在の天童市近郊の大工・建具・指物などの業者が集まり、天童木工家具建具組合を組織したことから始まった、70年以上の歴史ある会社である。創業以来、「お客様の笑顔」を社員一同の喜びとし、「ものづくり」において決して妥協を許さない“職人の魂”は今も脈々と受け継がれ、その揺るがない理念のもとで作られた家具は、官公庁や他企業、教育施設などの納入先からも高い評価を得ている。また、USP(unique selling point:独自のセールスポイント)は、
「『軽くて丈夫』を支える世界一の成形合板
自慢できる素敵な家具づくり マイスター集団」
となっており、すべての工程を集中管理することによって、ハイグレードな品質の維持に努めるとともに、全国5ヶ所の直営支店・営業所および3ヶ所のショールームとのオンラインによって、直接顧客の生の声が反映されるシステムを確立している。今回取材で訪れた本社・工場は敷地面積91279㎡、建物は35689㎡という広大な規模である。
この株式会社天童木工がある天童市は、山形県の東部に位置する人口約6万4千人の街である。舞鶴山で春の風物詩となっている人間将棋は有名であるが、国内での将棋駒の生産シェアの95%を占めるほか、温泉も全国的に知られている。近年は県庁所在地である山形市のベッドタウンとして発展している。
2. 障害者雇用の経緯・背景、障害者の従事業務・職場配置
(1)障害者雇用の経緯・背景
天童木工では、聴覚障害者6名、肢体不自由者1名、内部障害者3名の計10名の障害者を雇用しているが、今報告では特に聴覚障害者について述べる。
今回のリファレンス事例に関する取材には、西塚製造本部長、また管理部の山下総務課長に対応いただいた。そもそもの障害者雇用のきっかけについてであるが、西塚本部長が入社した昭和50年代ではすでに何人もの聴覚障害者が就労しており、ともに働く仲間として、いるのが当たり前の環境であったとのことであった。長い歴史を持つ企業であり、現在のように障害者雇用に関しての法・制度が一定整備される以前から、地元に根付く会社として自然とそういった社風ができつつあったと思われる。
(2)障害者の従事業務・職場配置
雇用されている6名が従事している業務は、主に家具の組み立て・加工であり、配置先は2名ずつ3ヶ所の工場(第一工場・第二工場・パネル工場)に分かれている。これは他社員が皆手話をできるわけではないため、コミュニケーションの場において孤独感を感じさせないようバラバラではなく、同じ聴覚障害者の仲間を同じ部署に配置するといった会社側の配慮が感じられる。また、障害があるからという理由で障害のない社員と業務に差があるといったことはないが、ただひとつ、リスクマネジメントの観点から危険な機械(刃物の回転が早い)の近くでは作業をさせないとのことであった。
実際の作業はまさに職人技が必要とされるものであり、もちろんそれに必要なカンナやノミといった道具は会社から支給されている。作業の場においては自分の手足の延長であり、それぞれが本人の物にして欲しいという話があった。カンナ作りで朝から晩までの時間を費やす場合もあるという。まさに妥協を許さないという会社の理念が浸透しているエピソードである。
3. 取組の内容、効果
(1)コミュニケーション
聴覚障害といえば、日常生活はもちろん、業務上のコミュニケーションについてどういった取り組みをされているのかが気になるところであり、その点についてもお伺いした。業務上の作業については、ISOを認証取得していることもあり文書での指示が通常であり支障はないとのことであった。ただしやはり細かいやりとりが必要な場合には、筆談やお互いの身振りで意志の疎通を図っているという。また、毎月初めの朝会時には外部へ手話通訳者を依頼し、内容が充分理解できるような取り組みも行っている。
(2)長く働き続けられること
そして何よりも特筆すべきは、その勤続年数の長さである。聴覚障害者6名の平均年齢は48.5歳であるが、その勤続年数の平均は27年である。障害のない者も、障害者雇用においても定着支援に課題があり、労働者の平均在職期間が10年にも満たない企業が多く存在する中で、安心してやりがいを持って働くことのできる職場環境が整備されており、仕事そのものが聴覚障害者に見事にマッチしていることの証明でもあると感じられた。
また、従事作業においては社員一人ひとりが自分の仕事に対して責任と誇りを持って向き合っており、それぞれが高い技術を持っている。その技術面については障害者と障害のない社員の区別は無い。聴覚障害者の中にも加工技術がトップクラスの人がおり、ごく自然な流れとして障害のない社員に対して技術を伝えていくということも当たり前に行われている。本来は60歳で定年になる人が、現場の他社員から「辞められては困る」といった声が上がり、再雇用制度により働き続けている人もいる。これは会社にとっても、技術の伝承という視点では非常にメリットのあることだと考えられる。この再雇用制度については、障害者だからという特別な扱いではなく、障害のない社員と同じ条件の中で、定年後も会社にとって必要だとの判断のもと、再雇用されているとのことであった。
4. ご本人のコメント
今回取材させていただいた際、実際に長く働いている2名に、真に厚かましいお願いではあったが以下のような質問をし、大変忙しい中回答いただいたので、ここに記載する。
問1 | . | 天童木工で、長く働き続けることができたのはどういった理由ですか? |
回答 | ・ | 他の会社と比べると待遇が良かった。また、有名な会社で、社員寮の生活も楽しかった。 |
・ | 職場と自宅が近く、通勤に便利だった。 | |
・ | 完成品を見るのが楽しみ。 | |
・ | 良い先輩がいたから! |
問2 | . | 仕事をするにあたって、他の社員とのコミュニケーション等で心がけていることなどありますか? |
回答 | ・ | 手話が使えないので筆談や口話、身振りで通じるよう努力した。口語の時はゆっくり大きな口を開けて話すようにした。 |
・ | わからないことがあったらそのままにせず、他の社員に聞くこと。 |
問3 | . | 今後の目標、将来の希望等あればお聞かせ下さい。 |
回答 | ・ | 定年退職後、再雇用され嘱託となり週に3日仕事をしているが、身体も丈夫だし今までどおり週に5日間働きたい。 |
二人の率直な想いを伺って、会社としての環境整備はもちろん、そこで就労している本人の努力があるからこそ長く働いていけることを強く実感した。


5. 今後の課題と展望
会社として、今後の障害者雇用についても話を伺った。
実際のところ、障害者に限らず新規学卒者の雇用も現在は控えている状態ではあるが、来年度については雇用を考えていきたいとのことだった。また、現在は雇用していない知的障害者、精神障害者の雇用についての考え方だが、まずは雇い主としての現場認識をしっかり持って、全社員の共通理解のもと、仕事と雇用される障害者のミスマッチが起きないよう、責任を持って雇用できるような職場環境を整備した上で検討していきたいとのことであった。障害者雇用に向けては、職場適応訓練・職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援・障害者試行雇用(トライアル雇用)事業や特定就職困難者雇用開発助成金など事業主が障害者雇用を積極的に取り組むことのできる支援制度が整備されつつある。また、2006年度から全国で開始された「チーム支援」という関係機関による支援の形もあたりまえになりつつある。これは、一般就労を希望する障害者に対し、その障害特性や支援の必要性を充分認識した上で、ハローワークが中心となり地域の福祉施設等も含めた就労支援機関がチームを編成し職業準備段階から採用に向けた求職活動、その後の職場定着までを一貫して支援していくという取り組みである。チームの構成員としては、福祉施設の指導員・福祉事務所のケースワーカー・障害者就業・生活支援センターのワーカー、また場合によっては医療機関の医師や職員・相談支援事業所の相談支援専門員など障害者の支援に関わる者であり、それぞれの支援者が「顔の見える連携」体制を取りながらその人が希望する暮らしに向け一致団結して進んでいくというものである。障害者雇用については、事業主による雇用管理が重要ではあるが、生活面や健康面など「生活のしづらさ」を抱えている障害者も多く、本人はもちろん事業主が安心して雇用を継続できるような支援体制のあり方も重要である。ただし、このような支援制度や体制など、整備されてはいるもののまだまだ事業主に対しての周知は不足していると思われ、障害種別に捉われない雇用への地道な働きかけについては我々就労支援機関の重要な役割であると考える。
現在、山形県内の障害者数約83,000人のうち、一般就労している人は約2,000人に留まっている。天童木工のように従来から障害者雇用に取り組んでいる事業主、あるいは前向きに考えている事業主も増えつつあるが、その一方で働きたいと希望しながら未だ求職活動中の障害者も1,900人いる。その多くは福祉施設を利用中ではあるが、国や県でも「福祉施設から一般就労へ」という施策を強化する中、障害があっても誰もが自分の希望する職業生活を実現し、その人らしい人生を送れるような社会作りが必要なのではないだろうか。実際、福祉施設(就労継続支援事業所、旧法授産施設等)における一月の県内での平均工賃は10,000円弱となっている。「障害者が働く」ということは、必ずしも一般就労を指すものではなく、就労継続支援事業所で作業することで生きがいを感じている人ももちろんいらっしゃるだろう。しかし、そういった事業所に通うことによって一般就労への意欲が低下してしまう人が居ることも事実である。障害者の持っている能力をそこに留まらせるのではなく、作業工程を分析し、それが充分一般就労に値するものであれば、その機会を提供し、チャレンジする場を作っていくのも私たち福祉サービス事業者の責務と考える。
リーマンショックが未だ尾を引き、そして昨今の円高等の影響もあり山形県内の雇用情勢は持ち直しの動きがあるものの、依然として厳しい状況が続いている(平成23年8月の有効求人倍率:0.66倍)。さらに、多くの消費者は品質よりも価格を求めている中、特に家具は外国に押されている状況だという。しかしながら、冒頭で紹介したUSPのもと、障害者が健康で元気に働いており、また周囲の社員もその環境を当たり前として捉え、ともに妥協の無い理念のもと作り上げられた製品は、きっと消費者の心に届くのではないだろうか。また、働きたいという願いを持っている障害者、そして障害者雇用を考えている会社をマッチさせ、双方のメリットを作り出すことが、私たち障害者雇用の促進に携わる者たちの責務であると、今回の取材をとおして強く再確認したところである。
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