地域に溶けこみ地域に愛されるコープを目指して
-組織で取り組む障害者雇用-
- 事業所名
- 生活協同組合 コープふくしま
- 所在地
- 福島県福島市
- 事業内容
- 食料品小売業、共同購入、住宅事業、旅行販売取扱等
- 従業員数
- 212名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 4 総務事務、店舗ドライ商品担当、 店舗農産担当 内部障害 4 総務事務、共同購入、店舗精肉担当、 店舗ポップ作成担当 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の沿革と事業内容
生活協同組合「コープふくしま」は、昭和7年(1932年)7月に設立された「生活協同組合福島消費組合」と、昭和50年(1975年)12月に設立された「郡山市民生活協同組合」が平成7年(1995年)3月に合併し、新生協「コープふくしま」としてスタートし、現在に至っている。
「コープふくしま」の事業区域は福島市、二本松市、郡山市、須賀川市、伊達市、相馬市、南相馬市、伊達郡、本宮市、田村市、いわき市と福島県の県北、県中、相双、いわき地区をカバーしている。主な事業は、食料品小売業(11店舗)、共同購入事業(5支部)、住宅事業、旅行販売取扱等である。組合員数は約16万9千人(2011年3月現在)で、出資金高が約72億2千万円(同)となっている。2011年3月現在、従業員数は正規職員が212名、パート・アルバイト従業員が1,108名(正規職員換算数674名)で、うち障害者が8名雇用されている。正規職員に占める障害者の雇用率は3.77%である。
2. 障害者雇用の概況
1)障害者雇用の経緯と事業所の基本姿勢
「コープふくしま」は特段に「障害者雇用」を意識して障害者を雇用した訳ではない。つまり、障害者雇用についての明確な理念があったわけでなく、気がついたら職場に障害者がいたということに過ぎない。本人の能力や適性に応じて採用した結果、たまたま下肢障害者であったり、在職中に病気や事故に遭い、結果として「障害者(中途障害)」になったに過ぎない。その結果、現在8名の障害者が雇用され業務に従事している。ただ、救いだったのは「障害があっても、必ず仕事はあるはず」と、経営陣が「障害者だから」という理由で排除し解雇しなかったことである。このことの意味はとても大きい。重要なことは、障害の有無に拘わらず従業員個々人の特性や能力を重視して雇用し、適材適所で仕事に就かせていることである。こうした、事業所の「特別視しない」当たり前の対応や配慮が障害者の就労を可能にしているのである。
こうした背景には「コープふくしま」が地域に根ざし、地域に愛されるコープを目指して、地域の中で家族も含めて障害者と共に生活するノーマライゼーションの理念を事業所のミッションとして掲げていることにある。そのために障害者雇用を企業の社会的貢献の一つと位置づけている。
2)障害者雇用の概況
2011年9月時点の「コープふくしま」における障害者雇用の概況は表1の通りである。8名全員が身体障害で、うち4名が重度障害、うち1名が短時間雇用となっている。年齢構成は32歳から64歳までで平均年齢は48.9歳となっている。勤務年数は短い人で7年、長い人で41年となっており、平均勤続年数は21年(8名)となっている。仕事の配属は、店舗に4名、本部の総務・管理系業務に3名、外販部門に1名が従事している。
表1 障害者雇用の概況(2011年9月現在)
性
|
年齢
|
等級
|
障害の概要
|
部署
|
業務内容
|
|
A
|
男
|
63
|
4
|
内臓障害(中途障害) |
管理
|
総務、機関運営、庶務 |
B
|
男
|
46
|
2
|
両下肢の著しい障害 |
管理
|
総務、給与、社会保険 |
C
|
男
|
32
|
1
|
両上肢機能障害 移動機能障害両下肢 |
店舗
|
ドライ商品担当、発注、陳列 |
D
|
男
|
39
|
6
|
右下肢機能の軽度の障害 右上肢機能の軽度の障害 |
店舗
|
農産担当、商品加工・陳列 |
E
|
女
|
57
|
2
|
両手指機能の著しい障害(全指) 両膝関節機能の著しい障害(中途障害) |
管理
|
総務、給与、社会保険 |
F
|
男
|
41
|
1
|
内臓障害(中途障害) |
購入
|
共同購入、組合員の拡大業務、営業車使用 |
G
|
女
|
64
|
4
|
内臓障害(中途障害) |
店舗
|
精肉担当、製造、陳列、発注 |
H
|
男
|
49
|
1
|
内臓障害 |
店舗
|
ポップ作成等の軽事務 |
3)障害に配慮した職場環境と対策
共同購入に配属になった人工透析を受けている内臓障害者には、通院を考慮して午後の7時間勤務の日も設定して、本人の病気や通院を考慮して負担加重にならないように配慮されている。同様に、「コープふくしま」の店舗は12時間営業という特性から、店舗に配属の他の内臓障害者1名については、隔日4時間・7時間の短時間勤務にして、仕事の内容もデスクワーク中心のポップ作成、チラシ校正の体力を要しない業務に就かせている。他の6名については、従業員同士が相互に職務をカバー出来るグループ単位で従事する総務・管理系と調理・精肉・野菜等の販売係に配置されている。したがって、障害者が通常の従業員の中に混じり、互いに協力し合って必要に応じて援助を受けながら一緒に仕事に取り組んでいる。職場の従業員同士の協力・支援体制がうまく出来ており、ごく普通に障害者が職場に溶けこんで就労を可能にしている。
4)雇用に際しての事業所の配慮
「コープふくしま」では、障害者の雇用に際して特段の配慮がなされているわけではなく、ごく普通の対応がなされている。必要に応じて障害者本人の相談にのったり悩みを聞いたりしている。何よりも8名の障害者は同一職場にいるのではなく、県内各地の店舗や部署に分散して配属されているので、基本的には配属先の店長や所属長の管理下に置かれている。したがって、それぞれの個別対応は配属先の所属長に任されているのである。今のところ、理解ある所属長の下で別に問題は生じてなくうまく適応している。店舗への配属や管理部への配属などは事業本部と各所属長が連絡を密にして支援態勢が組まれている。つまり、「コープふくしま」は組織として障害者雇用に取り組んでいるのである。
① 本人の適性と障害種(病状)に合わせた仕事
本人の適性や障害・病状に合わせて勤務時間を短縮したりして、何よりも本人の負担加重にならないように配慮されている。内臓障害や身体障害を考慮して、本人の適性や能力に応じて適材適所で仕事に就かせている。具体的な仕事としては、店舗ではドライ食品(缶詰、ジュースなど)の発注や陳列、精肉の製造、陳列、発注を行っている。管理部では、給与や社会保険の事務、機関運営、庶務、等に従事している。短時間雇用の人には軽い事務に就かせ、負担にならないように十分配慮している。
② 特別扱いしない(最大の配慮)
障害者だからといって業務の遂行や労働条件面での特別扱いはしてない。ただし、作業環境を障害者が安全で働き易いようにさまざま改善や工夫がなされている。職場では他の従業員と同様にごく普通に当たり前に処遇することが、実は障害者への一番の配慮だといえる。障害者本人も「特別扱い」されることを嫌がり、望まないのである。周囲の人たちも敢えて「障害者」として特別な目で見る必要はなく、たまたま下肢が不自由で、内臓に障害があるだけで、同じ従業員であることに何ら変わらないのである。実際、ごく普通に世帯を持ち、通勤も車で可能である。
このように「特別扱い」しないことが実は障害者への最大の配慮だといえる。事業所も本人も特段に「障害者」と意識してないところが素晴らしいといえる。
5)本人の希望の尊重と適材適所
① 内臓障害者への配慮
内臓障害で人工透析などの通院治療が必要な従業員には、通院を考慮して勤務時間を変更するなど最大の配慮がなされている。こうした温かい配慮によって、通院加療を続けながら安心して仕事に就くことが可能になる。こうした事業所の配慮が雇用の持続に繋がり、本人も働く意欲が出て来るのである。こうした配慮は他の従業員に与える影響も大きいと言える。つまり、こうした事業所の配慮や対応が他の従業員にも安心感を与え、何よりも仕事への意欲と士気を鼓舞することに繋がる。
② 下肢障害者への配慮
股関節や下肢に障害がある人は活動に制限があり、重たい物を持ったり、「立ち作業」が困難なので、「座業」中心の業務に就かせるなどの配慮がなされている。いずれも、先ずは本人の希望と適性を優先して負担加重にならないように職場の配置を決め、本人の特性や自己ペースに合わせて就業出来るように配慮されている。


3. 敢えて「障害者」を意識しない対応
「コープふくしま」での障害者雇用で現在問題になっていることは、「特にない」とのことであった。その理由は全員が知的障害者ではないために、障害者であるが故の問題や課題はないとのことであった。それだけに職場適応がスムーズであることと、雇用主の「コープふくしま」自体にも障害者を雇用しているという意識がないためと考えられる。
このことは障害者雇用でとても重要なことで、雇用の経緯はともかく、たまたま結果として8名の障害者が就業しているだけである。「コープふくしま」としも障害者だとの認識は薄く、それよりも先ずは「普通の同じ従業員」と見なしていることである。障害者として見るのではなく、たまたま障害のある「ごく普通の人」として見ているのである。これは他の従業員にも言えることで、同じ従業員であることには何ら変わりはなく、ことさら特別視する必要はないということである。事業所や従業員が障害者を特別視することなく、ごく普通に対応していくことが本人の仕事への自覚と意欲を高め、それが雇用の持続に繋がっているといえる。
4. 求める人間的資質
従業員に求める資質について「コープふくしま」の管理部長の山田幸雄氏は、仕事への「意欲」「熱意」、「明るい性格」と「協調性」、それに「根気・忍耐」を挙げられた。また雇用主として学校教育や家庭教育に期待することや要望として、小さい時から「コミュニケーション力」「挨拶」「集団活動」や「対人(仲間)関係」といった基本的生活習慣やソーシャルスキルを身につけておく必要性を強調された。つまり、生活の基本がきちんと出来ていることと、コミュニケーション力を身につけておくことが、障害の有無に関係なく企業人として求められる重要な人間的資質と言える。
家庭教育や学校教育で大切なことは、幼少期から成功感や成就感・達成感を多く与え、絶えず称賛してあげることがとても重要である。また、「身だしなみ」や「礼儀作法(マナー)」、「対人関係」、「指示に従う」等々の生活習慣や性格特性を幼少期から養っていくことが重要であるといえる。こうした特性は障害の有無や職種を超えて、すべての職業人に必要とされる人間的資質といえる。
筆者のこれまでの経験や企業訪問を通して痛感することは、雇用主は共通して作業の「スキル」よりはむしろ、「対人関係」「性格」「社会性」「作業態度」「基本的生活習慣」といった、「人間的資質」を重視しているということである。
5. まとめにかえてーみんなで支え、みんなを活かす
障害者の就労には、上司を始め同僚や周囲の人々の理解と協力が不可欠である。障害者の就労を可能にするのは、同僚や周囲の人の理解と配慮、上司の励ましや支援といったことで、これらが障害者雇用の成否を大きく左右する。障害者の雇用を可能にし職場適応を持続していくためには、事業所内の雰囲気や温かい人間関係、上司や周囲の従業員の理解と協力、それに本人の努力が不可欠である。障害者自身も他人との協調性に富み、余暇時間やレクレーション活動等にも積極的に参加し、職場外の諸活動にもごく普通に参加していく必要がある。そして何よりも、障害者本人のチャレンジ精神、就労への意欲である。要するに障害者本人には、「自覚」と「厳しさ」が、そして周囲の人には彼らを支える「優しさ」が必要である。
今回の訪問を通して痛感したことは、「コープふくしま」が一人一人の従業員をとても大切にしているということである。障害者に対するちょっとした配慮や気遣いが結果的には従業員全員への配慮に繋がっているということである。「一人のため」に配慮した工夫や改善が、実は「みんなのため」になっているということである。障害者にとって働き易い職場は、結局は障害のない者にとっても働き易い職場になるということである。こうした職場のユニバーサルデザイン化を図ることが、今、多くの企業に求められている課題と言える。
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