障害者雇用の努力は企業の成長に必要な糧
—「教育は力、継続は力」を知的障害者の雇用で実証—
- 事業所名
- 株式会社ヴィオーラ
- 所在地
- 茨城県水戸市
- 事業内容
- おしぼりを主体に、マット・モップ・タオルのレンタルおよび業務用資材の販売
- 従業員数
- 52名(内パート19名)
- うち障害者数
- 知的障害者13名(うち重度障害者数4名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 13 主におしぼりの回収、洗浄、包装、箱詰め作業等に従事 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
1962年10月創立。おしぼり・マット・タオルのレンタルを主力業務 としている。売上げの7割は、飲食店で使用されている「おしぼり」の生産である。
平成22年度に障害者雇用優良事業所(社)茨城県雇用開発協会会長賞を受賞している。
(2)障害者雇用の経緯
① | 13名全員が知的障害者 |
当社の障害者は、13名。全員が知的障害者である。藤本社長のご子息が知的障害を持っていたことも知的障害者雇用のきっかけになったかもしれないが、それはきっかけに過ぎないようである。
これまでも必要に応じて障害者を雇用し、彼らの成長、定着のために相当なる努力を続けてきた。その結果として会社が発展して、社会貢献ができたとのことである。
努力の成果を障害者自身に実感してもらうことが成長への確かな道程である。
② | 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金受給で雇用促進(平成19年当時) |
平成6年の「1名」から始まり、会社の発展に合わせるように雇用が進み、平成19年には5名が在籍。その年、重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金を受給し、機械・施設を大幅に増強した。助成金の受給に伴い、障害者の雇用を拡大することとなる。しかし、それまで知的障害者の雇用を地道に継続してきたこともあり、積み重ねてきたノウハウと、また、知恵を出し合い、助け合ってきた職業安定所、障害者就業・生活支援センター、特別支援学校、福祉施設等の協力を得て9名を採用した。その後、1名の退職者が出たため、現在雇用している障害者は13名となっている。
2. 取り組みの内容
藤本社長は、言う。「耳触りのよい話ばかりでなく、トラブルを含めた反省の話もご紹介したい。障害者の雇用の安定という観点からみると、まだ道半ばであり、評価できる段階ではないのかもしれない。しかし、障害者の雇用の安定のために払ってきたこれまでの努力は、企業の成長にとって必要な糧であったと思っている。」

(1)定着のポイントは適正配置
① | どのような企業にも障害者が働ける仕事はかならずある |
「自分の会社には、障害者に見合った適当な仕事がない」という担当者が多いが、障害者の能力をよく知り、自社の仕事内容を十分理解していれば、「障害者に見合った適当な仕事がない」ということはない。
藤本社長は、「どのような企業にも障害者が働ける職場はかならずある」と言う。
しかし、いきなり満点の配属ができるわけではない。当社でも、丁寧さにこだわり、じっとおしぼりを見続け、仲間の3割程度の仕事しかできなかった障害者が、仕事に追われるような忙しい部署に異動したところ、がんばるようになった。また、仕事中に席を外す癖のあった障害者が、自己の責任が明確になる一人作業に異動したところ、しっかり仕事をするようになった。
「この仕事ができないから能力がない」と決めつけずに、なぜうまくいかないのかをよく分析し、その人に合った仕事を探し出す根気と努力が大切であるとのこと。
② | 退職したケース |
退職者がゼロというわけではない。自分の主張ばかりで周囲を混乱させた事例や金銭管理に課題があった者もいた。教育を繰り返し、関係部門と相談しながら説得もしたが、これも功を奏さず、退職を受理したこともある。
企業は、従業員の生活のために企業の存続を第一に考えなくてはならない。採算を無視してまで雇用を続けることはできないし、周囲に与える影響も考えなければならないのである。
③ | 障害者就業・生活支援センター等の活用 |
車で10分のところにある障害者就業・生活支援センターには、トラブル発生の都度、障害者とその親と一緒に訪問して、第三者として公平な立場からアドバイスをしてもらっており、大変助かっているとのことである。
このほか、必要に応じて職安、特別支援学校、福祉施設、ジョブコーチ、茨城高齢・障害者雇用支援センター等を最大限に活用している。
(2)教育の内容
① | 障害者も、すべての教育に参加 |
障害者も障害のない者と同じように、すべての教育に参加している。毎日の朝礼で、「今日のひと言」を話し、毎月の全体朝礼で「今月の目標」を宣言している。また、リーダーとして仲間の面倒をよく見ているということで、月間MVPを受賞した障害者もいる。
② | 『アクションプラン』効果 |
毎年発刊している『アクションプラン』(写真・下)。これは、各セクションの目標を達成するためには、一人ひとりの行動目標が大切であるということで、障害者を含めて全従業員がその年の行動目標を『アクションプラン』の中で宣言している。
『アクションプラン』は、平成18年から続いており、今年で6年目。当初は「やらされている」という感じも見えたが、さすがに6年目を迎えたこともあり、現在では「やらされている」が、「やるぞ!」に変化してきている。

③ | 山本五十六流の教え方 |
障害者業務遂行援助者は、4名。チーフ(前工場長)は63歳、一番若い人でも46歳であり、人生の酸いも甘いも嚙み分けたベテラン揃いである。
仕事の教え方は、口で言うより、まずはやってみせること。山本五十六流の「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」である。これを体で覚えてくれるまで繰り返す。
熟年の援助者たちは、決して成果を出すことを急がないのである。知的障害者の特性として、「覚える速度はゆっくりだが、体できっちり覚えてしまえば後退することはない」と、泰然自若として彼らの成長を支えている。
④ | 社外講師の活用(管理者・従業員対象) |
障害者雇用が始まって、10年以上も経った4、5年前でも、残念ながら不適切な発言があった。いわく、「何回言っても忘れてしまう」、「簡単な作業もなかなか覚えられない」、「計算が苦手」。いずれも知的障害者が抱えるハンディキャップであり、配慮が必要な事項である。
また、「激励、教育」と思って、「負けて悔しくないの!?」とプレッシャーをかけてしまうことがあった。
これらの問題に関しては、経営者であり、障害を持つ子の親である社長が指導するより、社外の専門家の話のほうが、説得力があり、指導されるほうも冷静に受け止めてくれるだろうということで、社外講師を迎えて、障害者と一緒に働くための心構えやポイントについて何回も講話を行った。
この講話は、従業員が反省するよい機会となり、そこから不適切な発言が姿を消し、真の意味で知的障害者と共生するようになっていったという。
⑤ | 社外講師の活用(親・保護者対象) |
企業として存続するためには、障害部分への配慮をすることは当然であるが、障害者を特別扱いすることはできない。
社長自身も自らを律する意味で、企業と親・保護者の中間に立った公平な第三者の話を聞く必要があると感じた。一方、子供を不憫に思うあまり、子供の言い分だけに耳を傾けがちな親や保護者に対する教育も必要。そのため社長を含めた管理者と親や保護者に対して、社外講師を招いて講話を行っている。講話終了後、反省の声や忌憚のない活発な意見が出て、公正な第三者の話の有効性を確認できた由。
(3)各種行事
障害者を含めて全従業員が参加する会社行事も盛んである。最近では、ボウリング大会、今話題のスイカツリー・寄席・屋形船と、楽しさ満載の江戸巡り、劇団四季のミュージカル「ライオンキング」等、全従業員間の距離がまた一段と近くなったとのことである。
3. 作業環境・機械の改善
重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金(平成19年当時)を活用し、作業環境、設備・機械の改善が大幅に進展した。機械は最新鋭のものであり、目下のところ大きな問題はない。しかし、いずれは「65歳定年、70歳までの継続雇用」の時代を迎える。これにそなえて作業環境、設備・機械を見直していくことは必要と考えている。







4. 今後の課題と展望
(1)高年齢化対策
当社は、世の中の動きに先駆けて、「希望者全員を65歳まで継続雇用」している。しかし、お金の使い方が苦手な人も多く、一人で生活していくことができるか不安であるし、また、知的障害のほかに持病を持っている人も多く、健康面の心配も大きい。65歳のゴールまでしっかり勤めあげ、老後も安定した生活ができるようにするため、家庭と連携をとって対策していくことが大切である。
そこで平成21年、高齢・障害者雇用支援機構(当時)に依頼し、当時の知的障害者13名を対象として、メインテーマ「知的障害者の高年齢化対策」、サブテーマ「定年後一人で生活するために準備しておきたいこと」を企画立案し、問題点の洗い出しを行い、対策を実践中である。
① | 一番の不安は、健康問題 |
一番の不安は、健康上の問題。知的障害者の行動範囲は狭く、ほとんどは家と会社の往復ばかり。体を使うことが少ないため、20代で脂質異常症になっている人もいるし、持病を抱えている人も多い。体力づくりをしている人は、ほとんどいない。
親や保護者にもこの点をよく話して、食生活に注意をするようお願いしている。
② | 孤独な日常 |
たまの休日も親戚や以前入所していた施設に出かける程度で、人と交わう機会は極端に少ない。友人の数がゼロは70%。友人がいたとしても社内にかぎられている。
各種行事も対策の一つではあるが、簡単には解決できない問題であると考えている。
③ | 定年後の生活費 |
生活を自分でやりくりしている人は13名中、3名のみ。そのうち2名はグループホーム入居者。親と一緒に住みながらやりくりしている人は1名。ほとんどの人は、必要なものはその都度親から買ってもらっており、一人ではお金の使い方も苦手である。また、小遣いを渡すと、すぐにゲーム等に使ってしまう人もおり、任せることに二の足を踏みがちとなる。しかし、「お金の管理は無理」ということでそのままにしていると、一生無理で終わってしまう。いずれは親が先立つことも考えて、まずは、小遣い帳を付けることで、お金の使い方に慣れるよう指導している。
(2)NPO(特定非営利法人)A型就労支援事業の立ち上げ
社長は、ご子息が知的障害を持っていることもあり、地域(住民)、行政、企業の支援がいかに大切であるかということを、身を持って体験している。そこで自社における障害者の雇用ばかりでなく、地域、行政と手を携えて、さらに広く障害者の支援に積極的に取り組むため、A型就労支援事業の立ち上げをめざしている。障害者のために、全力疾走を続ける当社のさらなる発展を心から期待したい。
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