仕事と人材の最適なマッチングを目指して
- 事業所名
- 株式会社アプリコット
- 所在地
- 神奈川県川崎市
- 事業内容
- 総合情報サービス
(システム開発、システム評価/検証、プロジェクト支援、データ入力/アウトソーシング) - 従業員数
- 260名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 キーオペレーター(伝票、帳票の入力作業) 内部障害 知的障害 精神障害 1 キーオペレーター(伝票、帳票の入力作業) - 目次

1. 事業の概要、障害者雇用の動機・経緯
(1)事業の概要
① 事業の内容 |
神奈川県川崎市に本社を置く株式会社アプリコット(以下、「同社」)は昭和46年創業の総合情報サービス企業である。システム開発、システム評価/検証、プロジェクト支援、データ入力/アウトソーシングまでITに係る幅広いサービスを展開している。業務全体の7割がシステム関連業務であり、大部分のスタッフはお客様先で常駐作業をおこなっている。またデータ入力、アウトソーシング業務に関しては、入力センターでの勤務となり、お客様からお預かりした帳票、伝票などのデータの入力作業を行っている。
② 経営の基本方針 |
社 是 | :真心のサービスこそ我社の基本なり |
経営理念 | :私たちはお互いに助け合い人格の向上と 技術力管理力の練磨につとめ 我社の業界における地位を増大させ 社会的責任を全うし幸せを築きましょう |
(2)障害者雇用の動機・経緯
同社では、かねてより組織の活性化を図るために、社員教育や、様々な経験、経歴、特徴を持った人材を集め事業を行っていく「ダイバーシティ(多様性)」の必要性を感じていた。人材と仕事の精度の高いマッチングを図ることで、社員のモチベーションアップ、モラルの向上により、全社的な生産性の向上や、社員の定着を図りたいと考えていた。しかし多様な人材の採用を進める中で、障害者雇用に関しては進んでいないのが現状だった。そこで2010年の障害者雇用納付金制度の改正に伴い、かねてより検討事案として考えていた障害者雇用に着手した。障害者の雇用を進めることで、業務の見直しや人材の育成にも繋がると考えた現経営陣により、障害者の雇用を積極的に行っていく事を経営目標に掲げ、2010年度より本格的に採用をスタートした。
2. 取り組み内容
(1)募集・採用
本格的に採用を始める事を決めたものの、障害者雇用に関しては未知であったため、人事総務部を中心としたプロジェクトチームを組み、人事総務部と現場、そして経営陣を巻き込み本格的な雇用に向けてスタートした。まずは障害者雇用における全体の流れを把握するために、神奈川障害者職業センター、管轄ハローワークの担当者からのアドバイスを受け、業務内容の棚卸し、障害別の業務の切出しを行った。そして、障害者の福祉作業施設への訪問、またインターネット、高齢・障害・求職者雇用支援機構が提供するリファレンスサービスなどを調べ、まったくのゼロから障害者が出来る仕事を作りだした。そして、募集する職種を①キーオペレーター(キーパンチャー)、②清掃・軽作業・事務補助、③船橋センターでの発送作業・事務補助の3職種とすることにした。
(2)新たなチャレンジとなるキーオペレーター(キーパンチャー)業務
キーオペレーター業務に関しては、特殊な入力専用PCを使用するためマスターするまでに1~2年程度要することから、これまでは高校を卒業した新卒社員を雇用していた。しかし、業務の棚卸をする中で、作業内容のマニュアル化、作業手順の見直しを行い、障害を持った方でも出来ると判断し募集することになった。
【キーオペレーター(キーパンチャー)業務の内容】
仕事内容 : | 入力用PCを使用して、お歳暮/お中元/納税者情報/アンケート結果等の個人情報を含むデータを入力する。 |
入力用PC : | 「エントレックス」という名の入力専用PCを使用する。 |


入力方法 | : | 入力は「カナ打ち」で、カナの他に漢字、英数字の入力を行なう。実際の業務に入る前に研修でまず数字入力から始めるが、最近では「ローマ字打ち」に慣れている人が多いため、「カナ打ち」の研修も行う。なお、漢字入力については、覚えるまでに時間がかかるため、数字など出来る範囲から担当していただき、少しずつ覚えていく。(習得するまでに1年程度はかかる。) |
(3)実際に募集する前と後での気付き
障害者を雇用するために、あらかじめ準備をして募集を開始したが、実際に面接、そして雇用をする中で多くの気付きを得ることになった。
大きな気付きとしては、同じ障害でも個人によって実情は全く異なるという事だった。通常障害のない者を相手に仕事をしているときには、口頭で説明する事と、紙に書いて説明する事でさほど大きな違いはないが、発達障害者に対しては、担当者が口頭で何度コミュニケーションをとっても、なかなか仕事の生産性が上がらず思案をしていた。しかし、口頭での指示ではなく、紙に書いてマニュアルを渡しただけで、仕事への理解と生産性が格段に上がった。障害者雇用をする中で、少しやり方を変えることで、全く成果が変わってくる事を学ぶことが出来た。
また聴覚障害者に関しては、当初は筆談でコミュニケーションをとることが必要になると考えていたが、実際には、補聴器、唇の動きなどで口頭でも意思を伝えることが出来る人もいることがわかった。「障害」を見てしまうと、思い込みによる行動をとってしまうが、その「人」を見ることで的確に指示する事が出来たり、作業効率が上がることが分かった。
また実際に求人を出す際も、求人票の書き方によって仕事と人材のマッチングの精度に違いが出ることが分かった。自分たちで業務の切り出しを行っている段階では見えていなかったことが、福祉作業所を20件、30件と見学する中で、その方の「障害」ではなく「特徴」を見る事が出来るようになった。特徴を意識するようになると、実際に業務の切り出し方でも画一的に決めてしまうのではなく、その人の特徴に合わせて仕事内容や訓練方法を変える事が出来るようになった。また求人票に書く内容も、出来そうな人を限定するのではなく、幅広く募集してもマッチングのさせ方を工夫することが出来るようになった。
(4)フォロー体制の特徴
同社では以下の取組みを行い、採用した障害者の方々のフォローを行っている。
① 定期的に各部署から障害者の方の状況を報告してもらう。 |
② 人事担当者が2~3ヶ月に1回程度面談を行い、直接状況の確認をする。 |
③ 経営陣に対して定期的に報告会を開催する。 |
実際に採用した障害者を活かす為には現場と人事、経営陣が協力する必要がある。特にキーオペレーターとして採用した発達障害者には、指示を出すリーダーを1名決め、全ての指示をリーダーが出すことを徹底している。また障害者とは、採用した人事担当者と、その人を支援していた支援機関の相談員と一緒に定期的に面談を行っている。特に発達障害者は自分のこだわりが強いため、一度決めたことを自分自身で変更することが難しい場合がある(例えば服装など)。そういった場合に現場のリーダーだけでなく、これまでの経緯を知っている相談員に入ってもらうことで、行動を改める機会に繋がることがある。そして経営陣に対して定期的に報告することで、経営陣と現場の認識のズレを解消するように努めている。
(5)障害者雇用を実施してよかった点
同社では障害者雇用を行うことで、プラスになる事が多かったと言う。特に特徴的な点は以下の3点になる。
① 業務の棚卸しが出来た |
② 仕事と人材のマッチングを考えられるようになった |
③ 想像していた以上に戦力となった |
同社では障害者雇用を行う前から業務効率を更に上げたいと考えていた。障害者雇用を取り組むにあたって、これまであまり共有されることが無かった個人の経験や知識を棚卸しすることが出来た。これにより、更に効率よく業務を行うために、作業工程を見直したり、障害を持った人が作業が出来るようにマニュアル作成等を行うことが出来た。
また、これまでは業務を出来る人という視点で行っていた採用、配置も、その人の特徴を見ることで、更に精度高くマッチングを行うことが出来るようになった。これによりミスマッチによるモチベーションの低下や、生産性の低下を防ぐことが出来るようになったという。
そして、実際に障害者を採用し、本気で活用を目指したことで、障害を持っていても十分に仕事を行うことができ、戦力として考えることが出来るようになった。この経験により、障害者だけでなく様々な経験、知識を持った人を活用していくとの事である。
3. 今後の課題や展望、まとめ(取材者記)
(1)今後の課題や展望
同社では今後も引き続き障害者雇用を続けていく予定である。そして他にも障害者が出来る仕事がないかを社内で見直し、障害者の雇用に力を入れていく。また全社的に仕事の棚卸しを実施することで、仕事と人材のマッチングを図り、業務効率の向上を目指していきたいと考えている。また今後は、雇用した障害者を定着させるために、健康管理や生活指導などの取り組みにも力を入れていく。
また、同社では、障害者雇用を通じて、全社的な人材の定着を図り職場環境の改善、仕事のやり方を見直すことが出来ると考えている。
(2)まとめ(取材者記)
最後に、今回取材を受けていただいた人事総務部の採用担当者より「障害者雇用は仕方ないとか、嫌々行うものではないと思います。本気で活躍してもらうことを目指して採用し、組織全体でサポートすることで、はじめて会社へのプラスとなることが分かりました。その結果、良い方の採用につながり、会社としてさらに障害者雇用が進むと考えています」というお言葉を頂いた。
同社はわずか1年足らずの間に障害者雇用を一気に進め、雇用率を達成するまでになった。しかしその裏で、経営者が障害者雇用に本気になり、それを実際に取り組む人事、現場の人々も本気で取り組むことで、実現したと思う。
また同社では、障害者雇用のプラス面を非常に重要視しており、これまで障害のない者だけでは見えなかった業務のプロセスを見直す積極的な機会ととらえている。その仕事が出来る人を採用するという考え方では、どうしても仕事ありきの発想になってしまうが、人を見て、その人に業務を合わせる努力をすることで、仕事と雇用のマッチングの精度を高める事が出来る。それによって、多様な人材の雇用が可能となり、また組織として柔軟性に富み強い会社となる事が出来ると感じた。
同社はまだ最初の一歩目を踏み出したばかりではあるが、全社一丸となって取り組む姿勢に障害者雇用が企業経営に良い効果をもたらすと感じた。
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