北陸初の特例子会社設立に向けての取り組み
~特別支援学校等の連携を通して~
- 事業所名
- ふぁみーゆツダコマ株式会社
- 所在地
- 石川県金沢市
- 事業内容
- 津田駒グループ内(外部発注業務含む)の業務請負(庶務系業務、現場軽作業他)、協力企業からの業務請負
- 従業員数
- 12名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 現場軽作業 聴覚障害 肢体不自由 4 庶務系業務、現場軽作業 内部障害 知的障害 3 現場軽作業 精神障害 1 現場軽作業 - 目次

1. 事業所概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所概要
~新たな時代の豊かさと調和をめざして~
ふぁみーゆツダコマ株式会社の親会社である津田駒工業株式会社は1909年に創業し、石川県内で100年以上にわたり、繊維機械製造、工作機械用アタッチメント製造で活躍してきた企業である。特に繊維機械においては、累積出荷台数で世界のトップシェアを誇り、石川県から世界に羽ばたいている。
また、地元に根ざした企業として、地域の老人ホームにおける車椅子の清掃や地元行事等の参加など、地域社会に根付いた活動も活発である。
その津田駒グループが、社会貢献活動の中核として平成23年4月北陸初の特例子会社として設立したのが「ふぁみーゆツダコマ株式会社」である。
設立までの準備期間に、企業と特別支援学校、関係機関がタッグを組み、従業員の障害者理解をはかりつつ、就労する障害者の意識を高めることにも取り組んだ。様々な検討を重ね、スタートした「ふぁみーゆツダコマ株式会社」について紹介する。
(2)障害者雇用の経緯
数年前、ある会社の障害者雇用に関する講演会に参加した津田駒工業株式会社の人事担当者が、自分の会社でもその会社のように障害者を積極的に雇用できればと思って聞きに行ったところ、偶然同じ会場で社長に出会ったそうである。そのとき社長に思っていたことを話しすると、社長も同じ考えであった。いつか自分の会社で実現できればと、二人で話したことが出発点だという。
特例子会社設立以前の津田駒工業株式会社は、20年以上前から聴覚障害者を中心に障害者雇用をしていたものの法定雇用率を達していなかった。そのため雇用率達成が目的だったこともあるが、そのことを含め以下のような理由で設立に至っている。
① | 障害者の雇用促進を図ることで、津田駒グループにおける社会貢献活動の中核にする。特例子会社として、地域におけるモデル事業化を図る。 |
② | 雇用促進法に定める法定障害者雇用数の条件を満たす。 |
③ | 津田駒グループ内の業務(外部発注業務含む)を委託し、本社業務の効率化を図る。 |
④ | 協力企業の業務請負を行い、協力企業のメリットを図る。 |
ただ単に、障害者雇用率達成のための障害者の多数雇用とはせずに、特例子会社設立という道を選択したのは、地元を始め北陸に特例子会社が1社もないことから、特例子会社設立後、この事例が地域全体の障害者雇用促進の布石になればとの思いからである。
2. 取り組みの内容
(1)特別支援学校からの職場実習
平成23年4月の特例子会社設立に向けて、津田駒工業が本格的に始動したのは、平成22年5月のことである。数名の設立準備室メンバーが、県内の特別支援学校を視察した。その時は、特例子会社でどんな業務を行えばよいか、特に知的に障害がある生徒にどのような能力があるのかなど、あまり明確でない状態であった。
そこで、平成22年6月から特別支援学校の高等部3年生の職場実習を行いながら、業務の精選や障害者理解を進めていくこととなった。
まずは、図面をPDF化する作業を中心に行った。古い図面をスキャナーで読み込みデータにする作業であるが、古い図面は折れ曲がっていてスキャナーに挿入しにくい。知的に障害がある実習生が作業を行いながら、効率的に行うにはどうしたらよいか、最初は戸惑いをもっていた従業員も一緒に考えていき、アイロンを使用して、一端図面をきれいに伸ばしてから読み込むという効率的な方法を生み出すことにも繋がった。日々地道に作業に取り組む実習生の作業状態を見て、周囲の従業員の障害者に対する見方も変わっていったそうだ。


次に、図面のPDF化だけでは、充分な作業量を確保したとは言えなかったため、本業に関する作業へと範囲を拡張していくこととなった。当初、本業に関する作業は、障害者に難しいのではないか、安全性が確保できないのではないかなど懸念されたようだが、図面をPDF化する作業に一生懸命取り組む実習生の様子を見て、本業の仕事を任せられるのではとの思いが生まれたようだ。
本業の仕事の中でも、簡単な部品の組み立てから鉄屑の運搬等様々な作業内容が提案された。その一つ一つを平成22年9月ごろからの実習で試していくこととなった。


一方、業務以外の動きとしては、以下のような場を設定し、従業員が実習生と交流し、理解を深めていく様子がみられた。
- 業務の効率化等に努力した従業員に送られる社内表彰に職場実習でがんばった実習生を「特別支援学校チーム」として表彰をした。
- 現場業務に携わっていない設立準備室メンバーが、昼食時だけは現場に来て実習生と一緒に食べるようにした。
- 社内のバーベキュー&餅つき大会に実習生も参加した。

(2)石川県立いしかわ特別支援学校3年生の実習詳細
石川県立いしかわ特別支援学校では、学校の授業の一環として職場実習を実施している。特に企業へ就職を目指す知的障害教育部門の生徒は実習期間をあらかじめ設定せず、企業や本人のニーズに合わせた期間設定を行っている。また、肢体不自由教育部門の生徒も、前期後期2回の職場実習を基本に長期休業中や授業時間数をやり繰りして職場実習の機会を確保し、即戦力となる人材の育成を目指している。
本年度ふぁみーゆツダコマ株式会社に入社した2名は、採用前に以下のような日程と内容で職場実習を積み重ねていった。
【知的障害教育部門Aさん】
回数
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実習時期/期間
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仕事内容
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1回目 | 平成22年6月/2週間 | 図面のPDF化 |
2回目 | 平成22年7、8月夏季休業中/2週間 | 図面のPDF化 |
3回目 | 平成22年9月/2週間 | 部品の組み立て |
4回目 | 平成22年10月/2週間 | 部品の組み立て |
5回目 | 平成22年12月冬期休業中/5日間 | 部品の組み立て |
6回目 | 平成23年1月/2週間 | 部品の組み立て |
7回目 | 平成23年2月/8日間 | 部品の組み立て |
【肢体不自由教育部門Bさん】
回数
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実習時期/期間
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仕事内容
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1回目 | 平成22年6月/2週間 | 図面のPDF化 |
2回目 | 平成22年8月夏季休業中/1週間 | 図面のPDF化 |
3回目 | 平成22年10月/2週間 | 部品の組み立て |
4回目 | 平成22年12月冬期休業中/4日間 | 部品の組み立て |
5回目 | 平成23年2月/2週間 | 部品の組み立て |
また、特例子会社設立前に高等部2年生の職場実習も以下のように行った。
実習生
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実習時期/期間
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仕事内容
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Cさん(知的障害) | 平成23年2月/2週間 | 部品の組み立て |
Dさん(知的障害) | 平成23年2月/2週間 | 部品の組み立て |
Fさん(肢体不自由) | 平成23年2月/2週間 | 事務作業 |
これらの生徒の他、他の特別支援学校や訓練機関、就労移行を行う事業所からの実習生の受け入れも積極的に行っていった。
(3)連携支援会議の実施
前述の職場実習などの取り組みを経て、平成23年4月より7名の障害者を雇用した。
複数の特別支援学校の卒業生や中途採用者を一度に採用するにあたり、以下のような関係機関の担当者数名が定期的に集まり情報交換を行いながら支援を行っている。
① | 特別支援学校3校の進路担当、担任 |
② | ハローワーク金沢の障害者担当 |
③ | 石川障害者職業センターの障害者職業カウンセラー |
④ | 金沢障害者就業・生活支援センターの就業支援担当 |
今までに行った連携支援会議の日時内容は以下のとおりである。
回
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日 時
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内 容
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第1回 | 平成23年5月19日(木) | 作業状況、社内行事等、個別の状況 |
第2回 | 平成23年6月16日(木) | 会社運営状況、作業状況、社内行事等、実習の受け入れ状況 |
第3回 | 平成23年7月21日(木) | 会社運営状況、作業状況、社内行事等、健康面、勤務上の問題、検討事項、その他 |
第4回 | 平成23年9月15日(木) | 会社運営状況、作業状況、社内行事等、健康面、勤務上の問題、検討事項、その他、実習の受け入れ状況 |
今後も、月1回程度、第3木曜日に実施の予定である。
3. 取り組みの効果
(1)特別支援学校からの職場実習を通して
当初、障害のある生徒がどのくらいの作業までこなせるのか、わからなかったため、特例子会社設立のためには、障害者のために新たに業務を創造して提供しなければならないと思っていたということだった。しかし、職場実習で実習生が一生懸命に仕事に取り組む様子をみて現場の担当者が、障害があってもきちんと仕事ができることがわかり、今まで社員が行っていた業務を請負という形式で取り入れることにも繋がった。また、本業を特例子会社の業務のメインにすることによって結果的に仕事の安定供給にも結びつくものと思われる。
通常、複数名の障害者を一度に雇用すると人間関係やコミュニケーションの取り方など仕事以外の面で苦労することが多いと聞く。また、今まで障害者に接したことのない担当者が、戸惑い、負担になることもある。しかし、複数名を同時期に実習することにより、雇用前に担当者がイメージを持ち、学校の教員の巡回指導などを通して、接し方や教え方などを体得し、スムーズな移行を導くことができたのではないかと思う。
一方、繰り返し実習を行った生徒にとっては、働くことへのイメージを徐々に確固たるものにでき、学生生活とのギャップを埋めていくのに役立った。仕事の内容も簡単なものから難しいものまで、段階的に与えられ、それぞれをクリアしていくごとに社会人になることへの自信を得ることができた。最初の頃の実習では、保護者も会社にきて子どもの仕事ぶりを見たり、課題を企業から直接聞いたりするなど、保護者と企業の連携関係も実習中に培うことができた。現在も、会社が作成している業務日誌を通して保護者にも会社での動きを知らせ、保護者からのバックアップも得られているとのことだ。
職場実習を通して、企業、本人、保護者がお互いの理解を充分に深めた後、雇用や就職に結びついたことが大きな成果であると言えよう。
(2)関係機関との連携を通して
北陸初の特例子会社の設置に向けて、各関係機関の様々な立場の方々が連携支援会議を行ったことは、非常に有意義であった。通常であれば、新卒者や中途採用者は、それぞれ別のルートで入社し、関係機関同士が情報交換を行う機会はほとんどない。だが今回、特例子会社という形態をとったこともあり、条件等に関する法的なことを擦り合せるという目的から連携会議が始まり、更に入社するメンバーの支援を様々な立場で、支え合う形が取れた。そのことは、確実にこの特例子会社のスムーズなスタートに寄与したと思われる。
4. 今後の展望と課題
特例子会社が始まって、6ヶ月。特に大きな問題も発生せず、仕事をきっちりやりながらも和気あいあいとした職場の雰囲気ができてきた。上は60歳から下は18歳と年齢も経歴も障害も多様なメンバーがお互いを尊重しながら、仕事をしている。
更なる業務拡大、品質の安定、効率の向上を行いながら、社内外に障害者雇用をPRしたいと担当者は言う。
企業側は、障害者雇用率は達成したいが、多数の障害者を雇って上手くやっていけるか不安に思うこともあるだろう。特に知的障害者や精神障害者の雇用をどうするかが課題の会社も多い。そのような思いの企業にとって、特別支援学校と企業がタッグを組み職場実習を繰り返し雇用につなげたこの事例が障害者雇用への後押しになってくれたらと思う。
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