在学中からの継続的な職場実習とケース会議により雇用に至った事例
- 事業所名
- JA能登わかば
- 所在地
- 石川県七尾市
- 事業内容
【経済事業】 組合員の生産物(農産物)の販売(販売事業)、農産物直所の運営、農業の生産に必要な肥料・農薬・農業機械や生活に必要な食品などの供給(購買事業)、ガソリンスタンド・プロパンガス供給運営、スーパーマーケット(Aコープ)運営 【信用事業】 (通称・JAバンク) 【営農指導】 【共済事業】(通称・JA共済) - 従業員数
- 327名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 Aコープ商品陳列、倉庫業務、購買事業 精神障害 - 目次


1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
JA能登わかばは、石川県七尾市(旧七尾市・旧中島町・旧能登島町・旧田鶴浜町)、中能登町(旧鳥屋町、旧鹿島町、旧鹿西町)の1市1町にまたがる8農協が合併して、平成6年4月に誕生した。
米の消費低迷と価格の下落が続く中で、管内農家の96%が稲作単一経営であることから、新たな園芸産地を育成し、農家の生産意欲の向上と所得の安定を図るため、「白ねぎ」の産地化ブランド化を図っている。その他、管内特産品として中島菜、赤土馬鈴薯、能登赤ねぎ、丸いも、ころ柿、小菊かぼちゃ等がある。
(2)障害者雇用の経緯
JAにおける障害者雇用としては、農業協同組合の発足時からの基本的な理念(互助の精神、地域振興、地元労働者の雇用等が使命という考え等)に基づいている。障害者も地域の一員であり地元労働者の一人であることから、JA能登わかばでも10数年前に知的障害者の雇用が始まった。
当時の雇用に至ったケースとしては、知的障害特別支援学校を卒業後、地元の通所授産施設に数年間通っていた男性利用者が施設側の就労移行の働きかけにより、臨時職員として採用となり、一年契約を更新しながら2名の知的障害者が継続して勤務していた。
2 取り組みの内容
(1)職場実習に至った経緯
Aさん(当時平成21年度、高等部3年生男子生徒 自閉症)は、こだわりが強くコミュニケーション面や社会性全般において課題の多い生徒であった。しかし、作業学習をはじめとする学習活動では、手順の理解も比較的良好で作業速度にも目を見張るものがあった。中でも農作業の活動においては、運搬作業や炎天下での作業も黙々とこなす根気強さが見られた。中学校の特別支援学級在籍中には園芸部に所属し、緑化活動を3年間経験していた。また、家庭が兼業農家であることから、手伝いの一つとして米作の経験をある程度している生徒であった。自閉症特有の課題は多くあり保護者も福祉的就労を希望していたが、Aさんの「働く能力」はかなり高いものがあったので、高等部3年時の職場実習は一般の事業所でチャレンジすることにした。
前項で記したようにJA能登わかばでは既に2名の障害者雇用はあったが、特別支援学校在学中の職場実習のケースはなかった(本校中学部における2~3日の職業体験の受け入れはあった)。まずは、雇用を前提としない体験のみの実習をお願いする旨、本店総務課へ職場実習受け入れをお願いした。JA能登わかばでは現在障害者雇用率は達成していないこともあり、卒業後の雇用の可能性を前提とした職場実習受け入れの了承を得ることができた。本店総務課人事担当より、Aさんの居住地でもある鹿島支店が実習先として選定された。
(2)職場実習を計画・実施するにあたって
支店長および副支店長(実習指導係)を中心に職場実習のスケジュールを組んでいただいた。基本的に学校での実習期間は6月中旬の2週間と10月下旬の2週間であった。しかし、Aさんにできそうな仕事や、農繁期(農家の田植え、稲刈り等で人手が必要な運搬作業が集中する時期)や、Aさんができそうな仕事が見つかった場合は随時、学校行事と重ならない限り柔軟に職場実習を計画実施する方向となった。在学中に実施した職場実習は以下の表のとおりである。一つの事業所において在学中から複数回にわたる継続的な職場実習を実施したケースは本校では初めてであった。
【表1-在学中の職場実習について】
月 | 期間 | 実習内容 |
5月 | 3日間 | ○育苗出荷積み込み作業 |
6月 | 2週間 | ×ガソリンスタンド業務補助 ▲宅配牛乳仕分け作業 ○伝票整理 ◎リーフ類パンフレットの差込作業 |
7月 | 2日間 | ▲小菊かぼちゃ集荷作業体験 |
9月~10月 | 2週間 | ○米集荷作業(倉庫) ○宅配牛乳仕分け作業 ○伝票整理 ◎リーフ類パンフレットの差込作業 ◎コイン精米機清掃作業 |
11月 | 3日間 | 白ネギ出荷剪定作業体験 (生産者農家に委託して指導していただいた) |
12月 | 3日間 | ▲白ネギ集荷場作業 (天候が悪く1日だけの体験となった) |
「実習後の評価」
◎:一人でできる
○:支援を工夫すればできそうである、
▲:作業自体はできそうであるが公共交通機関がなく単独での現場移動が難しい
×:接客上問題があり困難
このように継続的に職場実習を計画実施したことで何よりもAさん本人の意識に変容があった。比較的将来のことを想定した思考が苦手なAさんであったが、実習を繰り返すうちに「卒業したらJA行きます。JAのお仕事したいです。」と明確に意思を伝えるようになったことである。
結果として3月下旬に本店総務課から連絡があり、Aさんは卒業後4月より1年間の臨時職員として鹿島支店に配属となった。今年度も契約を更新し2年目を迎えている。
3. 取り組みの効果
(1)ケース会議より
事業所側から実習の事前打ち合わせだけでなく「事後にも必ずケース会議を持ちましょう」という前向きな提案があった。主な参加者は支店長、副支店長、学校の教員(進路指導主事)、就労・生活支援センター職員である。新規採用時や契約継続の検討の際には本店総務課人事担当者およびハローワーク職員も参加している。これらケース会議は就職後も継続して不定期ではあるが年間3回程度行っている。ケース会議から出た意見は次のようなものがある。
① | 在学中の職場実習におけるケース会議より |
【学校・支援機関からの提案】
- 本人の適正を考えると仕事内容を固定したほうが好ましい
- 事前にスケジュール表を本人に提示してほしい(口頭だけではなく文字にしての指示が有効であること)
- 支店前に設置されているコイン精米機の清掃をAさんの仕事の一つとして提供してほしい。→こぼれた米をはきガラス戸をスクイジーで清掃する等、手順は学校の作業学習で使用しているテキストの写真をもとに指導した。後日、地域のお客様から「最近コイン精米機がきれいになっていて気持ちよく使用できる」との声が数件、支店に寄せられた。現在もAさんに任せられた大切な仕事の一つとなっている。
【事業所からの提案】
- 同一支店内の他部署職員にも理解を図るために、Aさんの対応に参考となる資料を作成してほしい。→担任教師が中心となり職業評価のデータも一部参考に資料を作成し、保護者の了解を得て全職員に配布した。Aさんの対応についての、資料は次のような内容を記載した。
○ 職業面 【支持の理解】 ・口頭での言語指示のみでは十分理解していないことがあります。 →初めての仕事内容の場合はモデリング(してみせる、完成品を置いておく)が効果的です。 ・慣れてくると手順を勝手に変えることがあります。 →その都度タイムリーな指導があれば修正は可能です。 (その場面をのがすと自己流になってしまいます) 【作業の遂行】 ・カード類の仕分け、機器の組み立て作業は健常者比87%~161%の作業性が見込めます。 →物流や製造関連の職種は相対的に得意です。 ・シール貼りなどは丁寧さと能率を意識でき、バランスにも注意を払うことは可能です。ただし目標やスピードの意識はあまりもっていません。 →ハッパをかけるとスピードはアップしますが雑になる可能性があります。 (完全に定着してから段階的に目標を設定するなどの工夫が必要です) 仕事をチェックする時「100点です」「70点くらいかな」と評価してやると伝わります。 ~以下省略~
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② | 採用後、契約更新時におけるケース会議より |
【学校・支援機関からの提案】
- 牛乳宅配の仕分け作業における支援としてケースごとにカードで地区を表示した。
→数え間違えることが減ってきた。 - Aさんのデスクを支店店舗内においてほしい(個人で使用する仕事に必要な文具類や道具の本人管理、業務の間に待機するスペースとして明確化する)
- 農閑期や荒天時の業務として、Aさんが集中してできるパソコン入力作業をさせてみてほしい→Aさん用のパソコンが支給され、エクセルによる注文表、納品表の入力や会議資料のワープロ清書業務が与えられた。
【事業所からの提案】
- 4月の人事異動により支店長、職員が変わったこともあり自閉症の特性とその対応について勉強会をしたい。→就業・生活支援センター職員が講師として支店にて開催。
- 本来の業務以外で抱えている雑務の中から、Aさんにできそうな仕事はないか支店長から全職員に呼びかけ意見を募っている。→廃棄書類を入れるボックスを設置しシュレッダー作業を提供。郵送物のあて名シールを封筒に貼る仕事の提供。
- 本店や他支店への協力について→Aさんの得意な配布物折り込み作業等の提供を呼び掛けている。地域の夏祭りに配布するJAのPRうちわの貼り付け作業の依頼があり8000枚を丁寧に短期間で仕上げた。
- 携帯電話について。JAの業務内容は多様であり、その時期その日の天候に応じて変化する。支店区域に3箇所の倉庫があり、その他にも隣町の支店管轄の現場に応援要請があれば、時にはAさん→人で自転車に乗って移動しなければならない。支店に出勤しても行かなければならない現場は異なる。→保護者との相談了解を得て携帯電話を所有することとなった。現場に着いたとき、業務が終了し支店に戻るときは必ず支店長もしくはキーパーソンである副支店長に電話をすることも定着しつつある。
4. 今後の課題と展望
この地域の農業は主たる特産物はなく、年間を通して決まった作業があるわけでもない。典型的な米作中心の営農事業を展開している。また、JAの業務内容は多様であり、その時期その日の天候に応じて変更する。さらには毎年人事異動があり、在学中の職場実習から継続してキーパーソンとなっていただいている職員が変わることもありうる。
支店長から「社会性やコミュニケーションの面でハプニングもあるが、Aさんのもつ障害の特性として理解し許容する点と、社会人として働く場において身に着けていってほしい点を今後もケース会議などで整理し共通理解していくことが大切である」という意見をいただいた。
卒業して2年目になるが事業所から、次のような電話連絡が支店から学校に入る。「今度、○○の仕事をAさんにさせてみようと思っているができそうですか。都合がつくのならスタート時立ち会って指導してもらえませんか」といった内容である。すぐにジョブコーチに連絡し、当日立ち会う。直接Aさんに指導することもあれば、周りの職員に指導のコツをアドバイスさせてもらうこともある。こうした連携を図りながらAさんに任せられる仕事が増え、それらを組み合わせることでAさんの業務ができるだけルーティン化していくよう今後も支援していきたい。


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