チャレンジドあっての研修センター


1. 事業所の概要
2007年10月1日、民営分社化により、郵便局株式会社が設立され、その郵便局株式会社に所属する郵便局株式会社東海郵政研修センターは、同社の社員を始め、日本郵政グループの社員の研修業務などを行う事業所である。昨年度では、年間256件の研修があり、研修を受けた社員は延べ15,295人であった。
敷地面積は、43,932㎡(13,290坪)であり、建物延面積は、23,900㎡(7,230坪)である。
4階建ての校舎棟には、14の一般教室(1教室42人、588人収容)、視聴覚教室(1室、159人収容、プロジェクター配備)、合同教室、特別教室(1室、137人収容、プロジェクター配備)、パソコン教室(4室、郵便窓口端末21台(他)、S-WAN端末35台、パソコン42台、投信用パソコン31台)、オンライン教室(2室、CTM-V 28台、POT7 4台)、図書資料室(ビデオ視聴2席、座席42席)、ゼミ室(6)、講堂(1室、立席約800人収容、座席約400人収容)がある。
厚生棟は2階建てで、食堂(354席)と談話室(221席)の他、売店、喫茶店、屋上庭園がある。
6階建ての寄宿舎棟には125の寮室があり、一部屋4名で498人収容できる。2階から6階に各1室のミーティングルーム(5室)があり、浴室も男性用、女性用各1室(浴槽2)及び小浴室1室が障害者用に設置されており、ランドリーも洗濯機と乾燥機それぞれ57台が備え付けられている。
体育館は2階建てで、体育場、柔道場、剣道場があり、屋外施設としては野球場とテニスコート2面を備えている。
東海郵政研修センターに、村木所長、林総務係長、松尾チャレンジドシニアコーチを訪ね、また本社人事部からも障害者職業生活相談員である山田担当が同センターを訪れていたので話をうかがった。その後、グラウンドで炎天下、山川コーチの指導の下でのチャレンジドの除草作業を見学し、同時にグラウンドの隅での野菜、スイカ、オクラ、ゴーヤ、ナスの栽培、ひまわりの園芸等を見せていただいた。
再度センターを訪ね、補足取材をし、チャレンジド室にて、松尾チャレンジドシニアコーチ、山川コーチ及びチャレンジドのみなさんと美味しいカボチャ、ウリをいただきながら話しをした。
2. 障害者雇用の経緯
郵便局株式会社では、清掃業務を中心とした形での障害者の雇用を始めた。本社から全国に13ある支社に対して障害者雇用の指示要請があり、東海支社人事部においても障害者の採用計画が検討されていた。
東海地区では、名古屋中央郵便局、名古屋中郵便局、中川郵便局が試行的に郵便局内の清掃業務に障害者を雇用したのが始まりで、それに続いて東海郵政研修センターが2番手として障害者雇用を進めることになり、郵便局や研修センターなどで働く知的障害者を「チャレンジド」と呼ぶこととなった。
当事業所では、2007年4月2日に5名(女性3名、男性2名)の知的障害者を採用し、翌2008年11月17日に4名(女性2名、男性2名)の知的障害者(うち重度3名)を採用した。
最初の応募に関してはハローワークに相談し、ハローワークから障害者職業センターなどに声をかけていただいた結果、定員を上回る15名の応募があり、採用説明会と面接を行い、最終的に5名を採用した。経歴は、聖母の家、公立中卒、普通学校の特別支援学級、特別支援学校を出ていて、民間での職業経験のあるチャレンジドもいる。
20歳代が3名、30歳代が3名、40歳代が3名という年齢構成であり、22歳から44歳の年齢層である。郵政研修センターに勤務する全社員19名のうち9名が知的障害者である。週5日、6時間(8時30分~15時15分:休憩・休息時間12:00-13:00)の勤務形態をとっている。雇用前のトライアル期間を設けて、ジョブコーチ支援制度を活用し、最初は1週間に1回のペースで訪問による支援をいただいていた。
松尾シニアコーチと山川コーチは、清掃除草を中心とした作業指示や指導を行っている。松尾シニアコーチは、職業コンサルタントでもあり、同配置助成金の初回申請中であった。
郵便局株式会社の雇用率は、2.09%(2011年10月末現在)で、郵政グループを牽引しているといえるくらい郵便局株式会社が障害者雇用を推進しており、その中でも研修センターが早くから雇用に取り組んでいる。他の8の研修センターもチャレンジドを雇用しており、中央郵政研修センター(特例子会社ゆうせいチャレンジド株式会社にて雇用)を除き、全部で70名(2011年10月末現在)にのぼっている。以前は法定雇用率を下回っていた時期もあったが、今は雇用率を達成している。以前は除外率(郵便局株式会社は10%)の制度の適用があったが、2011年7月の法改正にともない除外率がなくなったにもかかわらず、雇用率が伸びているのが現状である。これは、研修センターでの雇用がグループ全体での雇用率の拡大・維持につながっているといえる。2010年度末の郵政グループの障害者雇用率は1.97%である。
3. 取り組みの内容
「人に優しい」という視点から事業環境の整備に取り組むという日本郵政グループの基本的立場が、例えば、日本郵政グループとして障害者の雇用を促進するために、2007年11月に日本郵政グループの一員として「ゆうせいチャレンジド株式会社」を設立、2008年3月に日本郵政株式会社の特例子会社として認定されることにつながっており、東海郵政研修センターでの取り組みもこの流れに並行して進んできたといえる。
障害者雇用の経緯でも述べたとおり、清掃・除草業務が主である。毎日の朝礼で一日の作業スケジュールを説明し、作業に取りかかる。清掃に関しては、寮の廊下や空いている部屋や教室、清掃請負業者のしていない部分の清掃に毎日1回従事している。
また、寄宿舎の寮室のカーテンの洗濯、網戸洗い、扇風機の掃除、エアコンのフィルターの洗浄、加湿器の手入れ、椅子のさび取り、体育館の大きな窓の開閉なども担当している。
屋外が主たる業務場である。反面、梅雨の時期は外での仕事ができず、作業確保が難しい場合もあるということである。除草や枯れ葉に関しては、敷地がとても広いため、夏期は毎日外での仕事になり、追いつかないくらいの仕事量がある。取材日も炎天下、野球グラウンドのダイアモンド部分を9名が並んで手で除草作業をしていた。除草や枯れ葉によってできた腐葉土を利用して、野菜、果物などの栽培もしており、さらにひまわりの種を東日本大震災の被災地に送るために、栽培していた。中庭も避難訓練で使用するため一日で除草し、また芝刈りもしている。フェンスの南外側に桑名市総合運動公園があり、その境界の斜面の除草、木の伐採も担当している。

また、研修センターであるということから、研修に関連しての作業もある。例えば、教室の準備、研修資料の印刷、資料を冊子に綴じること、資料を机上に並べることなど、大きな会場で人数の多い研修を中心に行っている。また、オーダーがあればその他の作業も手伝うという形をとっている。


研修社員の朝のラジオ体操は、中庭で8時20分から始まるが、始業時前に出社して、研修社員の前で模範的に元気に体操に参加しているチャレンジドもいる。このことは、研修社員の励みにもなり、刺激を受けている。
また、「お早うございます」とチャレンジドの方から研修社員に張り切った大きな声で挨拶している。
チャレンジドの交流・コミュニケーションのために、年2回のバス旅行をしたり、野菜・花を作ることや昼休憩を利用して誕生会を行っている。また、写真の好きなチャレンジドのためにロビーでの写真展、バードウィークには研修センターに集まる鳥の写真展を開いたりしている。
さらに、家庭とのコミュニケーションも欠かせないことであり、そのために、一週間に担当した作業について連絡帳に書き、それを家族、ヘルパーさんに見てもらい、コメントをいただくことによって相互理解に努めている。お休みの日には、テレビやDVDを見たり、家事をしたり、外出したりして過ごしているということである。
雇用形態は、6カ月毎更新の期間雇用社員である。給与は、三重県の最低賃金717円を上回る、720円がスタートで、毎年基準日の6月1日に一定基準を満たしたチャレンジドには特別加算制度により、基本給20円のアップがあり、一人につき5回まで適用されることになっている。
チャレンジドは通勤に電車・バス、自転車を利用しているが、問題発生の場合への対応としては、携帯電話を利用して連絡ができるようになっている。皆一緒にバス通勤していることも、安全のために有効である。
4. 取り組みの効果
チャレンジドだけのグループ作業のため、連帯感を持って仕事に当たっている。チームとして作業しているということが重要で、職業意欲を高めることにつながっている。
研修センターでは、多種多様な仕事があるため、チャレンジドがたくさんの仕事を経験できるなど就労環境がとてもいい。そのため、「ここで働くことが楽しい」、「来ることが楽しみだ」と折に触れて話している。
また、休みが続く場合、ゴールデン・ウィークなどの長期の休みの時などには、「出勤が待ち遠しかった」といっており、それだけ仲間と会えるのが楽しみだと考えているようである。採用後の離職者が一人もいないという雇用継続という点にも、それが現れている。
研修で来ている郵便局の社員が、チャレンジドを知るということはとても大きなことである。郵便局に帰っても、障害者雇用について話しもできるし、社員に一定の理解が進むことが一番のメリットになっている。郵便局だけでなく、郵政グループとしての研修も行われるので、郵政グループ全体の人権意識の向上にも役立っている。
郵政グループは、郵政省時代から、人権に関する社員指導・教育について非常に積極的であった。社員に対しての社外講師による講話などを、人権週間に行っていた。研修センターでチャレンジドに接することで、人権に関する意識、障害者に対する意識を今一度改めて認識し、意識する研修社員もいると思われる。
研修センターでの研修社員への説明資料は3頁あり、「必ず守ること」が記載され、さらに一日のスケジュールが1頁に記載されており、「寮生活上の連絡事項」が2頁に記されている。この説明資料に東海郵政研修センター所長名で「研修センター利用の皆さんへ」というA4両面が綴じられている。そこには、「当研修センターでは、清掃業務に従事する期間雇用社員として知的障害のある方を採用しています。/ここでは利用される皆さん一人ひとりに知っておいていただきたいこと、皆さん一人ひとりが行動していただきたいことを次のとおり記しています。/みなさん一人ひとりが、日本郵政グループの一員、企業人として自覚を持ち、障害のある方を温かく迎え、東海郵政研修センターという一つの社会の中で互いが尊重し合い、明るく楽しい、そして生きがいのある職場づくりに努めていただくことを願ってやみません。」と記され、チャレンジドのことを研修社員全員が知る機会をもてるようにしている。
「お互いの人格を認め合う職場に」(「気づきから始める人権啓発」平成15年11月・日本郵政公社人事部門人事部発行)の記事、「『チャレンジド』と呼んで下さい」「共に生きる」という記事とともに、参考として「ひたむきに働く:知的障害のある方には、一般的に次のような特性があると言われています。」のコラムがあり、優れた点と苦手な点を各3点掲げて、知的障害者を理解するためのアドヴァイスをしている。これが、チャレンジドと研修社員の間の挨拶や朝のラジオ体操に確実につながっており、大きな成果を上げていると思われる。
チャレンジド室には、9名全員のチャレンジド平成23年目標が掲示されており、それぞれが目標を立て、それに向かって生活することを確認している。この部屋で休憩、食事をしている。大きなテーブルがあり、12名は座れる大きな部屋である。冷蔵庫、電子レンジが備えられている。写真のパネルで、作業風景や鳥の写真などが置かれている。
松尾シニアコーチと山川コーチは、一人ひとりの特性を踏まえて、チーム全体での取り組みを行いながら、適切な指示を出す、とても頼りになる存在である。一人ひとりの性格や行動特性を踏まえて個別的な指導を行うことは、知的障害のあるチャレンジドにとても有効である。自信がつけば、意欲を持ってさらに実践力が高まり、一度作業に慣れれば、さらに仕事の幅を広げることができる。
5. 今後の展望と課題
研修センターであることから、主たる清掃業務、それも特に屋外の清掃・除草作業の他に、研修にかかわる資料印刷、資料綴じ、机上配布などの作業もあり、相互のバランスをとりながら、雨天の時などに対応してきたようである。
一方、梅雨時や冬の時期になると作業の職域を探すのに苦労している。また炎天下、猛暑の折に戸外での除草作業など危険を伴うことにもなるため、その作業工程の計画も苦労している。
そのため、室内作業のルーチンワークの拡大に取り組んでいる。
また、障害者雇用の経験が浅いため、それぞれの家庭や障害者就業・生活支援センター、障害者職業センターとも積極的に情報交換をしていきたいとのことである。
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