施設や職場の空間の中にお年よりも障害者も支援者もみんないる。それが本当に自然な風景です。
- 事業所名
- 社会福祉法人野洲慈恵会
- 所在地
- 滋賀県野洲市
- 事業内容
- 高齢者福祉施設(特別養護老人ホーム)、保育園の経営
- 従業員数
- 327名(うち正規職員 157名 短時間パート 170名)
- うち障害者数
- 10名(短時間勤務)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 清掃、シーツ替え、食事補助 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 清掃、シーツ替え、食事補助 精神障害 8 清掃、シーツ替え、食事補助 - 目次


1. 法人の概要、障害者雇用の状況
(1)法人の概要
JR野洲駅からバスで約15分のところに、社会福祉法人野洲慈恵会の本部である「ぎおうの里」がある。平成3年9月に野洲市民の願いを受けて創設された「公設民営」方式の特別養護老人ホーム悠紀の里を皮切りに、あやめの里、デイセンターさくら、きたの保育園、ぎおうの里をオープンさせてきた。
「一人ももれずに、住み慣れた地域でその人らしく豊かに生きる」
関係機関・団体と連携、市民の理解と支援を得て、乳幼児が健やかに育ち、高齢者の尊厳ある暮らしを実現させるという高邁な理念がそこにある。
【雇用状況】
事業所
|
正規職員
|
パート
(短時間) |
障害の種類
|
合計
|
||
精神
|
知的
|
聴覚
|
||||
悠紀の里 |
50
|
37
|
2
|
1
|
1
|
91
|
あやめの里 |
49
|
37
|
4
|
90
|
||
デイセンターさくら |
6
|
18
|
24
|
|||
きたの保育園 |
14
|
24
|
38
|
|||
ぎおうの里 |
38
|
44
|
2
|
84
|
||
合計
|
157
|
160
|
8
|
1
|
1
|
327
|
【各事業所の概要】
1. | 悠紀の里 個室と多床室(2人部屋・3人部屋)があり、多面的に地域のニーズに応えることができる。 |
2. | あやめの里 6つのユニットからなる全室個室ユニットケアを実施している。竹や木を多く使 った温みのある施設で、居酒屋・大ホールも併設。 |
3. | デイセンターさくら デイサービスのみの施設。お年寄りが過ごされてきた人生の背景を様々な視点から見つめ、一人ひとりにあった対応ができる。 |
4. | きたの保育園 0歳から就学前の子供達をお預かりしている保育園。子供達が年齢に関係なくお互いを認め、優しさと逞しさを育てあっている。 |
5. | ぎおうの里 法人の本部機能を持つ施設施設としては利用者と共に地域にとけ込むことを目標にしており、外部に開放した喫茶コーナーは施設と地域のつながりを深めている。地域と協同し、より良い生活環境、社会の中で当たり前の人生を皆で創るが基本的な考え。全室個室のケアでユニット内での調理や夜間の入浴等、自宅に近い空間つくりを目指している。 |

(2)障害者雇用の状況
当法人は平成3年に悠紀の里を開設し、平成12年にあやめの里を開設した。あやめの里では開設当初から野洲市内の二つの共同作業所に施設内の共有部分の清掃を委託していた。業務的課題として介護業務の更なる充実を図るために、居室の清掃やシーツ交換などを外注できないかを考えていたが、社会福祉事業を実施する法人としては障害者の雇用に取り組むべきではないかという考えに思い立ち、当時作業所から清掃に来られていた障害のある者を平成18年に採用したのが雇用のきっかけである。
以来、施設の開設のタイミングにあわせて、平成21年に3人、平成22年に6人の採用を行った。平成22年に障害者雇用促進法が改正になったが、この改正も法人の障害者雇用を促進するきっかけになったことは言うまでもない。
今では障害者の法定雇用率の1.8%を大幅に越え、2.68%の雇用率となり、社会福祉法人としてのひとつの役割を果たしているものと思われる。
平成22年に6人の採用ができたのはやはり、ハローワークの熱心な動きがあったからであるが地域の作業所や就労支援の団体の役割は本当に大きいと感じた。
2. 障害者の雇用管理のための取り組み
(1)障害者の仕事内容や勤務時間
当法人の障害者は主に精神障害者で、仕事内容は利用者の居室や共有スペースの清掃、シーツ交換、食事の補助、利用者との関わりなどであるがそれぞれに業務手順書を作成し、作業する本人が混乱しないようにまた、正確に業務が進められるようになっている。
勤務時間は全員原則として1日4時間、週5日で1週間に20時間を勤務。
勤務開始時間は本人の体調や交通手段を考慮し、施設ごとに決められている。
業務内容は精神的に負担の少ない、しかも時間に追われない内容のものを業務としているので、自分のペースで進めることができ、本人たちの勤務はとても安定しているようだ。離職者がまだ一人もいないのもその現れである。
法人のユニークなところは本人のやりたいという仕事をやってもらうということ。勿論、法人が必要と思う範囲であるが最近、お年寄りのケアをしたいという人がいて、ヘルパーの資格を取り、実際に業務を開始したようだ。自由度が高く、やりたい仕事があると実現に努力してくれる。そんな法人の対応が定着率を高くしているのかもしれない。
(2)能力開発、教育訓練
法人は本人が仕事をしやすいように最大の配慮をしている。知的障害者の受け入れ時は当初、施設長がマンツーマンで指導をしたようである。「仕事を覚えてもらうまでは大変でしたが今ではまかせっきりです」という話をしていただいた。現在は手順書通りに仕事をするように伝えてあるがその通りにできずまた、自分で仕事を増やしてしまって無理をしてしまうケースがある。その時はジョブコーチや現場の職員と相談しながら、仕事内容を随時見直しているようである。可能なものは手順から省いてしまうという大胆な発想が素晴らしい。
職員の一人は「ある程度までのことは本人が得意とする仕事内容や希望するものを取り入れるようにしているが、本人の希望だけではなく職場から求められるものも完全にこなすということも受け入れられるように、納得して仕事をしてもらうことが大事」と言われていた。相互に理解しあって、仕事が進みやすいように、しかも負荷を最大限に軽減するという考えが法人の中に息づいている。
(3)働く本人から話を聞くことができた
法人の施設にはたくさんのユニットがある。基本的な構成は二つのユニットに利用者が20名、職員が10名であるが随所に障害者が配置されている。お昼時に食事の準備をしている本人から話を聞くことができた。彼は就職して1年6ヶ月。この施設から自転車で15分の自宅から通っているようだ。今、13人の食事の準備をしていると話をしてくれたが13人全員が食べるものが異なるようである。おかゆだけの人、ご飯の人、おかゆとご飯をミックスする人。
全て覚えていて間違えることはないという。「仕事は楽しいですか?」という問いに対して、「とても楽しいです」と笑顔で答えてくれた。
「この食事の準備の後は何をするの?」という問いには「次は20室ある居室のシーツ替えに行ってきます」と明るく話しをしてくれた。

(4)障害者雇用を通じて配慮が必要なこと
職員の代表者に障害者雇用について配慮が必要だと思うことを聞くことができた。
- 障害の特性や個々の状況が異なるので、その人にあった仕事の与え方や配慮が必要。
- 周囲へ気遣いをしたり、まだ仕事が終わっていないと本人が思って休憩を取らない場合があるので、休憩の大事さを教えるとともに手順書の中に盛り込んだ。
- 同僚や仲間がいることは励みになる反面、影響を受けすぎたりして、苦痛に思う人がいるので気配りをする必要がある。
- 仕事に対して柔軟性のある人もいるが本人の仕事の進め方やペースを良く見て、段階的に仕事を増やしたり、内容を見直す必要がある。
- 職員によって指示をする内容が異なると本人は混乱して、体調を崩す恐れがあるので職員全員が仕事内容を理解して、何度も確認しあって異なる指示をしないようにする必要がある。
(5)障害者雇用を通じて感じたこと
障害者雇用で良かったことや困ったことについても聞くことができた。
- 当初、障害者と一緒に仕事をしたことがないので、どのように関わったら良いのか判らなかったが今は特別な意識は必要でないことが判った。
- 障害者と一緒に仕事をして、コミュニケーションの難しさを感じることがあるが障害について理解が深まると感じる点は良かった。
- 業務の手順を整理して仕事を与えるようになったので、障害者雇用が業務改善につながることがある。
- 必要に応じた振り返りを実施して段階的に対応すれば継続した就労はしてもらえる。
- 個人の仕事の力量や性格の違いは障害者であっても障害のない者でも同じだ。
当たり前のことだが特別な意識は必要ではない。 - ジョブコーチや他の支援者とうまく連携を取れば雇用はうまくいく。
3. まとめ
法人の市原理事長は重い障害を持つ人がいる施設で長い間、勤務されていた。それだけに障害者への理解は深い。
「組織は人間関係が大事。この法人は多くのお年寄りがいるが障害者も職員もお年よりとの関係作りが一番大事。技術や技能だけでなく同じ空間でそれぞれの役割を果たすことを一番に考えなければならない。多分、法人の皆は一緒に生活をしているということを本当に考えてくれていると思う」
以前の高齢者福祉施設は3,000㎡を越えるような施設が多かったが、今は本部のある施設のように2,500㎡を下回った施設が多くなった。これは「地域で暮らすを実現する」ためだ。「これはお年よりも障害者も同じ。法人の経営はコスト意識も大事だが障害者雇用は利益だけでなく、受け取るものが大きいと思う。今まで雇用した障害者の多くは家族ともども作業所の時より、収入が増えたと喜んでいただいている。今後、雇用数を増やすためには事業を拡大するか、ワークシェアをするしかないのかな」と言われていた。
人事・労務担当の閑林さんの話では「この法人は障害者雇用だけではなく、福祉教育、生涯教育の場として社会人、専門学校の実習を受け入れ、また地域の中学校、小学校、保育園等の交流会で地域と触れ合う機会を設けている」ということだった。
「障害者雇用の反省点としては現場にまかせっきりということがある。よく言えば障害者本人が手順を完全に覚え、あまり重要な課題がなくなったとも言えるがさらに働きやすい環境にするには巡回してくれるジョブコーチ本人から聞き取った内容を共有したり、お互いの実り多い情報を共有し、連携を取ることで雇用の安定を図りたい」という話だった。
最後に理事長が言われた「地域の中に施設や職場の空間の中にお年よりも障害者も支援者もみんないて、夫々が役割を果たしているということが大事だ」という話が印象的だった。この法人には自然な風景としてそれがあった。
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