障害者雇用に配慮は必要だが必要以上の配慮はいらない。意識をしないことが一番かもしれない。
- 事業所名
- 新江州株式会社
- 所在地
- 滋賀県長浜市
- 事業内容
- 包装資材・産業資材販売、建築業界等への独自製品提供、デザイン企画制作等
- 従業員数
- 144名(うち正社員 138名 パート 6名)*新江州株式会社単体
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 事務職 内部障害 知的障害 1 製造職 精神障害 - 目次

1. 会社の概要
1997年8月に滋賀県の北部・琵琶湖のほとりにある「びわ工業団地」に本社・工場が新築・移転された。JR長浜駅からタクシーで約10分の位置だ。
ここには新江州株式会社の本社として品質保証部、改革推進部、支援部、管理部、開発部、循環型社会システム研究所などがおかれている他、エコマテリアルカンパニー、コンバーティングカンパニーなどが一同に集まり、営業・生産の拠点となっている。戦後まもなく紙販売からスタートし、いち早く物流をサポートする段ボール製造会社へと発展させた。次世代を見据え、革新と挑戦を今も続けており、常に行動の指針としている次の言葉がある。
社是「過去には感謝 現在には信頼 未来には希望」だ。
これは歴史を築いてきた先輩への感謝を忘れず、今の自分と周囲の人々や環境を信頼し、未来に大きな希望と夢を持って生きていこうという勇気あふれるメッセージで、心の支えであり、誇りそのものと言える。草野社長は滋賀県雇用開発協会の副会長を勤め、前身の滋賀県障害者雇用促進協会でも長年、会長を勤めていた。障害者雇用には本当に理解が深い。経営理念の「人を大切に」を基本として常に新しい価値の創造と豊かな未来社会に貢献する企業を目指している様子をうかがえることができた。
【雇用状況】
本社
関係会社 |
正社員
|
パート
|
障害の種類
|
合計
|
|
身体
|
知的
|
||||
新江州株式会社 |
135
|
6
|
2
|
1
|
144
|
新江州パッケージ株式会社 |
52
|
2
|
1
|
|
55
|
合計
|
187
|
8
|
3
|
1
|
199
|
*障害者雇用を行っているのは本社の新江州株式会社と関係会社の新江州パッケージ株式会社の2社。 関係会社はこの他にも新江州北陸株式会社、株式会社ジーピーサービス、新江州韓国株式会社などがあり、業態にあわせて分社化されている。 |


2. 障害者雇用の状況
平成14年に定年退職をされるまで41年間勤務された聴覚障害者がいた。聴覚障害者とのコミュニケーションは手話、口話、筆談と本人の状況に合わせて方法を変える必要があるが、社員の中に手話ができる人がおり、特別な配慮は必要でなかったと言っている。しかし、聴覚障害者の定年退職による減員と、業務拡大による社員数増加で平成15年から数年間、法定雇用率を下回ることになった。
当時、社長は社団法人滋賀県障害者雇用促進協会の会長を勤めており、発展的に解散した後も、障害者と高齢者の雇用を併せて促進する社団法人滋賀県雇用開発協会の副会長を勤めていた。その関係からもなんとか障害者雇用を進めようとしたようだがなかなか出会いがなかったようだ。平成20年に中途採用の一般求人をしたところ、ハローワークから身体障害者の紹介があり、採用に至ったという話も、障害者枠で採用を考えておらず、仕事の内容と本人のやる気と能力を考えて柔軟に人材を確保しているという様子がうかがえる。
平成21年に初めて知的障害者が雇用され、直近では平成22年に身体障害者が雇用された。
また、平成24年度の定期採用活動に偶然にも聴覚障害者が応募し、見事に内定を確保したので、平成24年4月からは障害者が更に1名増えることになる。障害者雇用というと、障害者のために社内で仕事を作り出したり、手作業の仕事を残したりして、雇用を促進していくという会社もあるがそれがなく、自然に障害者を受け入れることができる環境になっているようだ。
一時期、障害者の退職や事業の拡大が進み、法定雇用率を下回ることもあったが直ぐにも採用が行われ、今では新江州株式会社単体で障害者の法定雇用率の1.8%を大幅に越え、2.08%の雇用率となり、企業としての社会的責任を果たしているものと思われる。
多くの採用はハローワークの紹介によるものであるが知的障害者を採用した際には地域の就労支援団体(湖北地域障害者働き・暮らし応援センター)が大きな役割を果たした。
障害者雇用は法定雇用率の達成は勿論であるが、能力があり、働く意志をしっかり持っている人は積極的に採用するという社長の考えが根付いている。
3. 障害者の雇用管理のための取り組み
(1)障害者の仕事内容や勤務時間
知的障害者の勤務する現場に出かけた。この製造作業現場は30人の人数が勤務しており、大きな機械は10以上。機械によって配置されている人数は異なっている。知的障害のあるAさんは主に二つの機械を担当していた。
仕事内容は製造現場で住宅関連の養生シートを巻き取ったり、折り畳んで箱詰めする仕事。巻き取る作業は3層に貼り合わせたシートを25メートル、30メートル、50メートルと用途に合わせて製品にしている。作業の途中で半端な長さが残ったときはつなぎ合わせて必要な長さにしなければならない。
例えば50メートルの巻き取りを行っていて32メートルの半端な長さが残った場合、18メートルをつながないといけないが、その計算が即座にできない。それを克服するために機械の横に「製品カット換算表」を貼り付けていた。半端な長さが残ったときに何メートルをつながなくてはいけないか、直ぐに計算できる換算表だ。
聞くと、この換算表は本人が工夫した結果のようである。会社全体で取り組んでいる改善提案制度もあるので、本人の創意工夫は大歓迎のようだ。
当日、作業をしている現場では見事な手際で養生シートの折り畳みを行っていた。勤務時間は実働8時間勤務。8:30~17:30まで会社にいることになる。
休日は年間118日あり、計画的に有給休暇を4日は取得するのでたっぷりの122日という休日数である。同じ勤務時間、休日数で給料はと興味が湧くところであるが、障害者も区別なく、同じ給与体系ということであった。

(2)能力開発、教育訓練
障害者を給与体系などで全く区別されていないという話だったが、階層は一般職から管理職まで7段階ある。Aさんも昇格できるのですかという問いに「勿論です」と即座に回答が返ってきた。昇格のルールは年2回ある人事考課の結果から上司が推薦をし、昇格の面接を受けることになるが幅広く人材の登用が行われている。全ての昇格対象者の面接は社長や専務が行っていると話してくれた。これは社員全員を社長自ら見極めようとする姿勢のように思える。社長は作業現場でもいつも声かけをしているようで、人間力が際立つ要因だと思う。
教育訓練は入社時研修、6ヶ月後のフォロー研修に加え、階層別、職種別と盛りだくさんあり、配慮はするが障害がある人も区別なく受講できるようになっていると話をしていた。
入社をしても困らないように、年齢の近い先輩社員がブラザーやシスターとなり、環境にとけ込むことができるように配慮されている。社内で話がしづらいときは社外で話をすることになるが、食事をする費用も一部会社が負担をしてくれるようである。
何かにつけて心遣いが行き届いている様子がわかる。
(3)障害者支援団体との連携
滋賀県には7つの福祉圏域にそれぞれ、障害者働き・暮らし応援センター(就業・生活支援センター)がある。圏域は湖北地域。
Aさんが入社したときはこのセンターのジョブコーチが定期的に定着支援をしてくれており、仕事を覚える過程でまったく問題がなかったようだ。入社後6ヶ月経つと定期的な支援は一応終了するが、働く本人はこのセンターに定期的に出かけて話し合いが行われる。問題が生じるとセンターから連絡が入る仕組みになっているが、2年間まったく問題はなかったようである。会社とセンターとの連携がうまくできており、課題を解決する手段が確立されていると感じた。
(4)働く本人から話を聞くことができた
Aさんは毎日の日報をパソコンで作成している。また改善提案制度があり、定期的に提出をしなければならないが、文章を作成するのが苦手。
しかし今では入社して初めて手にしたパソコンで文書作成もできるようになった。休日の過ごし方も聞けた。趣味がボーリングでハイスコアは240アップ。今でもアベレージは170を軽く越えるようである。
また、会社の同僚とスノーボードに行ったり、車に乗ったり、バイクに乗ったりと多彩な趣味を持っている。仕事はとても楽しいと言っていたが、休日もうまく過ごしているようである。これほど人とコミュニケーションをうまく取れる人も珍しいかもしれない。明るい好青年だった。
(5)障害者雇用を通じて配慮が必要なこと
現場の上司に配慮が必要なことを聞くと、多少のコントロールはするが自由に工夫してもらうようにしていると言う話があった。複雑な工程の仕事は避けて、作業工程の少ない作業に従事させていることが唯一の配慮である。
本人はイベントやスポーツ大会などにも積極的に参加をするタイプの人のようで、「特段、配慮することは本当にないです」という言葉が印象的だった。
彼の側に理解ある上司がいつもいるという環境づくりがなされていた。
4. まとめ
今後も障害者雇用を積極的に行いたいと言っているが、採用に障害者枠を設けて採用しているわけではない。前述の定期採用の際に、聴覚に障害がある人が内定されたように働く意欲があって、能力のある人ならば区別なく採用をしていくという話だ。
ともすれば法定雇用率の達成が前提で障害者雇用が進められるケースは多いが、自然に障害者雇用に向き合っているようである。
管理部の部長が採用や人事管理の話をしてくれたが、丁度今年一般職社員と面談する機会を設け、当日、本人と面談をしたときの話をしてくれた。
Aさんの悩みは理解力や能力のレベルが他の人と違うと感じていることである。また文章を書くことになれていないので文章力はないし、数字にも弱いと思っている。
「レベルの違いは障害があるからという問題でなく、誰にもあるし、どんな場面でも出てくる。向き合うことで改善できる問題だよ」と言う部長の話に共鳴したようだ。人それぞれに弱みはあるが、文章を作るのが苦手だったら少しずつ書けるようになれば良いし、計算が苦手だったら工夫をすればよい。それも一気にうまくなれなくても構わないという話に安心感を受けたようだ。
このように本音で話し合う風土がある会社で、特別に障害者雇用を意識しない会社はまさにインクルーシブであるし、働く障害者にとってホッとする環境だと思う。
これからも必要以上の配慮のない自然な会社が増えていくことを願うばかりだ。
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