事業所名

特定非営利活動法人くうかい 障害者就労支援事業所D-プロジェクト

所在地

京都府木津川市

事業内容

指定就労継続支援A型事業(雇用型)：定員10名
指定障害者就労継続支援B型事業(非雇用型)：定員20名

従業員数

15名

うち障害者数

11名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由
内部障害
知的障害	9名	ペットフード製造・馬の世話
精神障害	2名	ペットフード検品・リサイクル

目次

1. 事業所の概要、障害者就労支援事業所設立の経緯
2. 取り組みの内容
3. 取り組みの成果
4. 今後の課題及び展望

事業所外観

1. 事業所の概要、障害者就労支援事業所設立の経緯

（1）事業所の概要

平成22年2月、特定非営利活動法人くうかい設立。同年4月1日に障害者自立支援法に基づく、指定障害者就労継続支援A型事業(定員:10名)及び指定障害者就労継続支援B型事業(定員:20名)の多機能型事業所として事業認可を受け、京都府木津川市に「障害者就労支援事業所D-プロジェクト」を開所。

就労継続支援A型事業においては、働く能力や意欲はあるものの、ハンディ(知的障害・身体障害・精神障害)があるため民間企業等における一般就労が困難な障害者の働く場の保障と、就労を通しての社会参加・自己実現への挑戦をサポートするとともに、所得保障及び社会的・経済的自立を支援することを目的に事業所運営を行っている。

（2）障害者就労支援事業所設立の経緯

近年の社会情勢の中、特に雇用情勢は不安定で障害者の一般企業就労は厳しいのが現状である。平成18年より施行された障害者自立支援法の下、就労支援施策等は整備されてきているが、一定の配慮と支援があれば、充分に働くことができる障害者は多数存在している。実際、障害があっても“働きたい！”というニーズも多く、以前より障害者雇用や障害者の就労というものに理解を示してもらい、障害者雇用の経験と実績もある民間企業に事業協力していただき、企業内においてペットフード製造部門を全面的に請け負うという形で特定非営利活動法人を設立。当事業所が就労意欲のある障害者をハローワークを通して求人、雇用し就労継続支援A型事業を開始、また、障害の重度の人達の働く場として、内職的な軽作業を中心とした作業を提供し、雇用契約を結ばない形での就労継続支援B型事業を同時に開始する。

2. 取り組みの内容

現在、就労継続支援A型事業所では三カ所の民間事業所に事業協力していただき、「ペットフード製造」・高齢者施設における「馬のお世話」・リサイクル工場における「環境整備」の業務委託を受け、事業所の作業場の一画を借りて「請け負い」という形で障害者施設外就労支援事業を実施。11名の障害者(知的障害者・精神障害者)が業務遂行において、当事業所の作業(職業)支援職員とともに必要な支援、及び福祉的なサポートを受けながらグループで就労している。

（1）ペットフード製造請負事業

「ペットフード製造」に関しては、知的障害者9名・精神障害者2名が従事しており、製造機械を操作しての「製造・成型部門」、成型された製品の「ランナー取り外し・異物検品部門」、「製品の計量及び袋詰め部門」、袋詰め後の「シーリング部門」、そしてパックされた製品を出荷用のダンボールに箱詰めする「梱包・出荷部門」の五つの作業部署に分け、個々の能力や長所・障害特性を生かす形で、仕事を細分化し、それぞれの苦手な部分を全体でカバー・補えるような形で仕事を回している。それぞれが自分の持ち場と全体の作業過程の中における役割を明確にすることでモチベーションを維持し、自分自身の仕事に対する責任を持ち、達成感が得られるように従事してもらっている。

また、製造されたペットフードを既定の数量分小袋に詰め、一パックずつにパック包装する「シーリング部門」における作業に関しては、「第一種障害者作業設備設置等助成金」を申請・活用し、『ロータリーヒートシール機』を導入。機械操作が簡潔で、更に安全性にも配慮されていることから、知的障害者にも使いやすく、シール機械導入前は障害のない者(支援職員)で行っていた「シーリング作業」を障害者に任せることができるようになり、一つの機械を任せることで本人の作業意欲の向上はもちろんのこと、知的障害者の職域拡大、及び作業効率・生産性も向上し、障害者本人の賃金アップに繋がっている。

このような作業機械設備の導入は、一人ひとりの障害者の新たな職域の可能性を示すものであり、助成金等を活用することで、障害者に配慮された機械及び作業設備等を整備し、ハンディとなっている部分をカバーし、働きやすい職場環境と障害者の職業能力開発をすすめていければと考えている。

（2）馬小屋清掃・馬のお世話請負事業

その他、高齢者施設における「馬のお世話」の仕事には、週4日交代で支援職員1名と3名の知的障害者のグループで取り組み、施設を入所利用されている高齢者の「アニマルセラピー」として活躍している馬(4頭)の世話(馬小屋の清掃・シャンプー・ブラッシング・散歩等)を当事業所の障害者が請け負う形で実施している。

基本的には競走馬等とは違って気性の大人しい馬であるが、馬の性質上、周囲の動きや物音に非常に敏感なところがあり、警戒心が強く、また、4頭の馬の気質・性格もそれぞれに違うため、業務の取り掛かり当初は馬とどういった関わり方をすれば良いのか戸惑う場面が多かったが、日々触れ合い世話している中で知的障害者と馬達との信頼関係も徐々に芽生え始め、馬との会話等も楽しみながら作業ができるようになってきている。

業務遂行にあたってのタイムスケジュールや作業マニュアル等、一応定められてはいるが、決められた物や商品ではなく、生き物(動物)を相手にしての業務の性質上、馬の状態やその場の状況に応じて作業手順を変更したりする等、その都度判断及び臨機応変な対応が求められる要素が多く含まれている。

単純作業や毎日決まった工程の繰り返しの反復作業と違い、適切な状況判断や臨機応変な動きが苦手とされている知的障害者には難しく不得手・不向きな仕事と思われたが、接していく中で、その日の馬の状態(機嫌が悪い・イライラしている・体調が悪い等…)を表情や耳の動き、行動を見ながら馬の気持ちも読み取りつつ仕事を進められるようになり、また、純粋に馬を可愛がる気持ちから馬も安心感を持って懐きはじめている様子で、知的障害者の新たな職域の可能性を示してくれている。

（3）一般民間事業所等への移行支援

上記、こういった民間事業所内における請負事業による就業体験を積み重ねることは、一般的な社会経験及び就労経験の乏しい障害者にとっては大変貴重な場であると考えている。作業の場所を提供していただいている障害者雇用に関して経験がない民間事業所側、及びそこで働く一般従業員にとっても、少しの配慮と周囲の理解を得られるような環境さえ作れれば障害がある人でも充分に一人の労働力として就労することができるということを障害者と一緒に働くことによって認識してもらう絶好の機会となり、民間事業所における障害者の就労や雇用に向けての理解促進に繋がる有効な一つの手段となっている。

実際の職場の中で働くということにより人間関係にも幅ができ、自信がついて、スキルアップが図られた障害者には、次のステップとして、地域のハローワークや障害者就業・生活支援センター等と連携して、一般事業所等での就労に向けての求職活動及び移行支援を行っている(平成22年度  2名の障害者が就職)。

3. 取り組みの成果

就労した当初は、これまでの経緯からなかなか自分自身に自信が持てず、何かと周囲に対して依存的(～をやってもらう・～してもらうことが当たり前等)であった障害者が働くことを通して仲間と繋がり、社会と繋がっていることを実感し、社会の中、あるいは家庭において家族の一員としての自分の必要性と役割を認識・自覚できるようになってきている。また、収入を得、自らの給料が増えることで、仕事以外の自分の趣味や余暇を楽しむ余裕が持つことができるようになり、それに伴ってそれぞれが将来のことをより具体的に考えられるようになってきている。

ライフサイクルの中で、「はたらく」というのは生活の中で最も重要なポジションを占めており、今までよりも生活の幅が拡がってきたように感じている。これまであらゆることに関して消極的で受け身だった障害者も働くことを通して自信が付き、少しずつではあるが良い意味での自己主張ができるようになってきたり、自発的・主体的な行動が見受けられ、社会的自立に向けた経済的自立の基盤の確立とともに、障害者本人のライフスタイル全般にわたって大きな変化をもたらすことができていると感じている。

4. 今後の課題及び展望

特別支援学校を卒業しこれまで就労経験の全くない方、障害者就労支援施設(就労移行支援・就労継続支援B型事業所等)である一定期間作業訓練を受けてから移行されてきた方、あるいは一般企業で就労していたが人間関係を含む職場適応・環境適応が上手くできず、充分に自分の持っている能力を発揮することができなかった人等、様々な経緯・経歴のある障害者が就労している。

現在11名の障害者が福祉的なサポートを受けながら就労しているが、その配慮された職場環境下で自分の能力を発揮し、社会や周囲から認められることによって自信が生まれ、障害者本人やその周囲が新たな可能性に気付く…。特に知的障害者の場合は仕事を覚えたり習得するのに時間が掛かり、すぐに成果や結果は目に見える形で表れないが、働くことにより常に周囲から様々な刺激を受け、内面的には少しずつではあっても着実に成長されているのが窺える。そういった日々の一つひとつの「小さな変化」を大切に積み重ねながら、障害のある人の可能性と職域を拡げていければと考えている。

最終的には一般企業等への就労に向けて力を付けてもらえればと考えているが、一般企業への就職のみが「就労」ではなく、障害のあるなしに関係なく、働く場や短時間労働等の就業形態も含めた「働き方」も多義・多様化しつつある中、一人ひとりの障害や特性に応じた就労スタイルを追求し、一定の福祉的支援のもとの継続就労の場、あるいは一般企業等での就労に向けてのステップアップの場、また、逆に一般企業等からリタイアされた障害者の受け皿的な事業所としての役割を果たしていければと考えている。