京都の魅力を発信する就労継続支援A型事業所

1. 事業所の概要
平成23年4月1日に京都府より認可を受け「就労継続支援A型事業所 京のちから」を開所した。現在、精神及び知的障害者を雇用し、「きっずかふぇ・ぐらんぶるー」の運営受託及び「菓子工房ぐらん・ぶるー」の菓子製造業務の受託を行っている。
「きっずかふぇ ぐらん・ぶるー」では0~3歳くらいの子どもを持つママさん達にくつろぎの場を提供すると共に、障害の有無に関係なく楽しく働ける職場を広く共有していただきたいと考えている。
「菓子工房ぐらん・ぶるー」では季節の京野菜をくっきいに焼き上げた「京野菜くっきい」茅葺の里京都・美山の平飼い地鶏の有精卵を用いた「美山のたまごスイーツ」を展開し、くっきい・ロールケーキ・プリン・フィナンシェ等オリジナル商品を開発製造販売している。
私たちの目標は、「地域」で生まれた人が生まれ育った「地域」の中で安心して働き、笑顔で暮らせる町作りである。障害の有無に拘らず、働きたいと思う人が育った地域の中で安心して働ける環境を育てていく事である。そして、障害をもった子供たちを育てる親が安心して子供を育てられる社会作りである。
当社の営業活動、生産活動を通して地域社会に貢献し、地域になくてはならない「会社」を目指し、「笑顔と安らぎに満ちた生活空間」の創造に向けて取り組んでいる。
2. 障害者雇用の経緯
障害者雇用のきっかけとなったのは、平成21年夏に就労支援センターの所長から統合失調症の現社員Aさんを紹介して頂いた事である。当時は一企業有限会社グラン・ブルーとしての障害者雇用であったが、障害者雇用の実情も知らず、単に紹介いただいた人の熱心さに共感し、またAさんの働きぶりにも感心し、トライアルを経て雇用となった。Aさんは、就労支援センターでも十分な訓練と実習を経験されていたので、非常にスムーズに就労に結びついた。その後、有限会社グラン・ブルーの各事業所で社会適応訓練事業所の申請を行い、実習や訓練で多くの人に働きに来て貰った。そして、当時企画していた京都土産の菓子事業を具体化する準備段階として平成22年2月に京都修学院のテナントを利用して菓子工房ぐらん・ぶるーを立ち上げた。小さな菓子工房だったが、この店舗では、特別支援学校卒業の知的障害をもつB君を卒業と同時に雇用すると共に精神障害者のグループ就労訓練の形で3~5名を受け入れ、お菓子作りを行う事となった。皆さん仕事に対して真剣に取り組んでおり、何とか雇用に結び付けたかったが、また職業を指導する社員と菓子製作に携わる社員を同時に雇用する資金的余裕もなく、自社での実習生の雇用の切り替えには社内で十分な支援体制を作ることが難しいという現実があった。そんな中、京都市の障害者職域開発セミナーへ参加することになった。このセミナーでは全国の障害者雇用の素晴らしい事例が報告され、また講師として現場の経営者のお話を聞く事が出来た。個別事業相談では、多くの事例や事業の組み立てを実践的に教えて頂き私の会社での障害者雇用の組み立てにも非常に参考になった。そして、企業内に新たに就労支援事業所を立ち上げ、福祉事業と企業経営の両立を成功させている企業を知った。このシステムを何とか自社にも取り入れ、障害者雇用の場を創出できないかと相談を重ね、障害者福祉事業を目的とする新会社・株式会社京のちからを設立した。私の思いに賛同してくれた他事業所の福祉職員2名も新しいプロジェクトに参加してくれて、就労継続支援A型事業所の認可にむけて本格的に動き出し、企業活動と福祉業務を分離し、十分な指導体制を整えられる組織を構築することとなった。
しかし、何故私が障害者雇用や障害児に対して自ら関わろうとしたかは、当時は気付いてなかった。障害を持った子供たちを見る度に彼らの将来を案じていた自分がいたが、それは漠然としたものだった。よく、何故障害福祉事業を?と聞かれるが明確な答えは出せなかった。ある時、当に「何故障害福祉に携わる事になられたのですか?」と言うテーマの原稿を知り合いの施設の会報から依頼されたときに、本気で自身に向き合ったがなかなか答えは出てこなかった。何日か考えていたある日、お風呂の鏡に向かって考えていた時、自分の肩のケロイドの跡を見て幼稚園や小学校時代の自分と友達たちの事を思い出した。
私は3~4歳の頃、父の仕事場(着物の染工場)に走り込み作業中の父の横をすり抜けようとして熱湯を浴び、左肩から背中にかけて大火傷を負った。数カ月の入院を経て退院したが、当時は火傷部分が紫色に水膨れし、触るとぶよぶよで大変な有様だった。幼稚園でのお着替えの時間などは火傷部分が露出し、友達に気持ち悪がれていた。しかし、仲良くなるとみんな気にしなくなり私も気にせず服を脱いで遊んでいたが、他のクラスの人が見るとやはり気持ち悪がられた。そんな時に私に代わって「石井君は普通や!」と私を庇い喧嘩しに行く友達がいた。やがて幼稚園の同級生と仲良くなると、今度は別の幼稚園の子供たちと同じ喧嘩がはじまる。そして私を知る全ての子供たちと仲良くなった。小学校、中学校、高校と、同じ経験を繰り返した。そして、私はいつも周りの友達や親、兄弟に支えられて生きて来た事に気付いた。私が、障害を持った子供たちがとても気にかかる原点がここに在ったのだと、この時初めて気づいた。そして、私が仲間から頂いた支えあう力を今度は私が伝えていきたいと心に決めた。これが、私が全力で福祉事業と向き合う事となった理由だと確信している。
そして、平成23年4月に就労継続A型事業所として認可され、現在12名の知的障害者・精神障害者を雇用し、常時2~3名が就労に向けて実習に来ている。
株式会社「京のちから」では、知識と経験を豊富に持つ福祉職員が現在3名参加しているので、障害者も障害のない者も安心して共に働ける仕組みを作り実践している。
3. 仕事の内容と取組
(1)仕事の内容
① | 事務作業 帳簿作成、伝票入力作業 |
現在は当社及び関連事業所の帳簿作成、伝票PC入力、請求書発行等の委託を受け、事務作業を行っている。現在は1名の従業員(アスペルガー)に全ての事務作業を任せており、指導職員と2名体制で帳票処理を行っている。将来的には事務の行える従業員を増やし、他企業の帳票処理の委託も行いたいと計画している。
他人との距離感に悩んだり対人関係を作るのが苦手な方に自分のペースで出来る仕事として定着させていきたいと考えている。
② | カフェ運営 |
「きっずかふぇ ぐらん・ぶるー」の運営委託を受け、お母さんと子ども達がゆったりと過ごしていただけるカフェを運営している。
店舗の清掃管理からスタートしたが、1年が経過した今ではお料理や飲み物のサービスは勿論、注文の受付から食器の準備、コーヒーや紅茶淹れまでをスムーズに行えるようになった。
また、厨房では、洗い場は勿論、食材の仕込みや仕上げの盛付も自分たちで出来るようになっている。
③ | 菓子製造、販売 |
「菓子工房ぐらん・ぶるー」の製造業務委託を受け、京野菜くっきい・美山のたまごロールケーキ等、京都の魅力を詰め込んだお菓子作りの工程を受け持っている。
焼きあがったくっきいの袋詰めや箱の成形からのスタートだったが、1年後の今では多くの仕事が増えた。くっきい部門では、生地の仕込み・成形・オーブンでの焼成・袋詰め・シール貼り・箱詰・包装までを分担して出来るようになった。ケーキ部門では、ロールケーキの袋詰め、シール貼りを任せている。また、新たにフィナンシェ作りも始まり、こちらでは生地作りから包装までのすべての工程を障害のある従業員のみで行えるようになった。
新たにベーグルパン部門も出来た。ベーグルパンもフィナンシェと同じく、全ての工程を障害のある従業員のみで行えるようになった。
商品の販売については、現在、店頭での販売や販売店舗前での販売応援、イベント販売への参加等で行なっている。お客様と接することを厭わない人を中心に、声出し販売を行っています。自分たちの作ったケーキやくっきい、ベーグルを楽しそうに買って頂けること、「有難う」「おいしかったよ」と声を掛けて頂けることに喜びを感じながら日々頑張っている。


(2)「京のちから」の取組
地域で生まれた人が、生まれた地域の中で安心して暮らしていける。そんな地域社会作りを目指して活動している。障害を持っている人が、社会の中で普通に働ける環境作り、障害を持った子供たちを育てておられるお父さん、お母さんにみんなの働く姿を感じて頂ける、そんなお店作りを目指している。
私たちの取り組みや活動が地域に認められ、地域のちからとなるように、賛同頂ける人や会社が増え、ますます障害者雇用の職域が増えることを願っている。実際の職場では、思ってもみなかった能力を発揮できる人が沢山いる。今までチャンスに恵まれなかっただけで、能力を秘めた方は沢山いる。私たちは出来るだけ多くの仕事を作り、皆さんに体験して頂き、就労に繋がるよう努力していく。
また、今回の事業所立ち上げに当たり多くの人のご助言をいただいた、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者作業施設設置等助成金申請し、ラベルプリンター・オーブン・販売管理システム等の購入や施設の改装に活用した。
新しいオーブンのおかげで障害のある従業員自身で製造できるフィナンシェやベーグルパンが開発でき、現在日々の販売店舗への出荷や店頭販売品の製造に追われている。また、ラベルプリンターの導入により百貨店や駅売店、高速道路SAへの出品も可能となり新たな販路拡大へも繋がった。販売管理システムも十分に使いこなせており、多くのお取引先への請求作業が障害のある従業員の手によってスムーズに行えるようになった。
4. 今後の展望と展開
「働きたい」と思う人が、笑顔で働ける職場が地域に定着し、このお店、この会社がここに在って良かったね、と地域の皆さんに感じて頂ける職場を作っていく事、お手伝いをさせていただく事がこれからの目標である。
働く事、社会に参画することを望む多くの障害のある人に少しでも多く雇用の機会が訪れるよう、地域の企業・行政・学校・施設と綿密な連携をとって行けるよう努力を続けていく。
平成23年11月には京丹波町で新店舗「むらいちば和知」がオープンした。この店舗は現在就労継続支援A型事業所として平成24年4月開所に向けて申請している。「むらいちば和知」は京都府船井郡京丹波町という田園の広がる自然豊かな場所のロードサイドの飲食・物産店舗である。この店舗では地元の主婦を中心に指導職員となって頂き、地元の障害のある人の職場として運営する予定である。京丹波で採れるそばを用いた京丹波そば店、地元美山の平飼い地鶏の有精卵を用いたロールケーキ等のお菓子の販売店舗、近隣の農家に持ち寄っていただく新鮮地元野菜や工芸品の販売店が一体となるお店である。地元の皆さんに愛される地元の魅力を発信できる店としての展開が期待されている。今後は、京野菜の自家栽培も含めた耕作放棄地への就農事業、遠隔地高齢者世帯への宅配サービス等地域の要望に応えられる事業展開を計画している。
私たち「京のちから」の従業員は、障害を個性と捉えられる社会、障害者と障害のない者がお互いを意識せずに働ける社会を目指し歩んでいく。
「京のちから」で働く私たちのちからは小さくか弱いものだが、みんなで力を合わせ働き、京都の魅力を発信し続けることで、仲間を増やし、友達を増やし、やがては地域を動かし、京都を動かせる、そんな大きなちからのかけらとなれる事を目指してみんなで一丸となり歩んで行きたい。
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