「働く仲間」として万代で働いたことを家族にも喜んでもらえる企業風土づくり
- 事業所名
- 株式会社万代
- 所在地
- 大阪府東大阪市
- 事業内容
- 食料品・住居関連商品・酒類等を販売するスーパーで、大阪・京都・
奈良・兵庫・三重各府県で145店舗展開 - 従業員数
- 9,228名
- うち障害者数
- 149名
障害 人数 従事業務 視覚障害 2 販売職(商品品出し、発注業務等) 聴覚障害 肢体不自由 36 販売・レジ・事務・カゴカート整理清掃 内部障害 14 販売・レジ・事務 知的障害 64 販売・レジ・事務・カゴカート整理清掃 精神障害 33 販売・カゴカート整理清掃 - 目次


1. 事業所の概要、障害者雇用の理念と経緯及び経過
(1)事業所の概要
株式会社 万代は昭和37年万代油脂工業株式会社(創業昭和27年)から分離独立し「株式会社 万代百貨店」を設立。平成元年現「株式会社 万代」に社名変更。
平成10年にPOS(販売時点情報管理)システムを構築し、地域のお客様の暮らしを「より豊かに」「より楽しく」「より快適に」を合言葉に、メーカーや産地と一体となって「正しい商品」を「正しい価格」で「正しいサービス」で提供できるように様々な改革に挑戦し、長く愛されるロングセラーの企業を目指している。
障害者は149名働いているが、その業務内容は、商品センターや物流センターなどのバックヤードの仕事ではなく、お客様と直接接する店舗で障害特性に応じた対応をし、地域に根ざした障害者の雇用に取り組んでいる。
また空の牛乳パック、食品トレーを店舗設置(全店)の回収ボックスで回収し、「ただいまロール」「おかえりティッシュ」として製品に再生され、各店舗・各部署で利用している。なお回収された牛乳パックなどの再生流通過程で生じた収益は、「わぁくしょっぷパオ(障害者作業所)」の運営資金に充てている。
(2)障害者雇用の理念と経緯及び経過
平成11年当時、社員数1,786人に対して身体9名、知的6名で、当初は受入職場がバックヤード業務が中心だったため、法定雇用率には到底及ばない状況であった。
地域貢献は消費者の日常生活に対する商品提供のみでなく、「障害者への職場提供は地域や社会への貢献として必要なことである」を障害者雇用の方針とし、雇用の拡大を図るには、店長の理解と店舗での雇用が不可欠であり、「買物カートの回収整理、カゴ整理や清掃、駐車場・駐輪場の清掃など」の業務に拡大して雇用の促進に努めた。
当初から、人事部長に加え支援機関も面接に立ち会ってもらい、店長に対する理解を促しながら採用を始めた。
また、「障害者緊急雇用安定プロジェクト(厚労省から日経連が委託実施)」による職場実習からトライアル雇用並びにジョブコーチの支援を受けることで、障害者の職務遂行力の向上と進捗状況の把握及び店舗管理者の障害者に対する理解がより深まっていった。
その結果、出店数の増加及びエリア拡大により、平成13年6月報告では、2%を越える雇用率状況となり、法定雇用率を達成することができ、現在まで継続して雇用率を達成している。
2. 取り組みの内容
(1)業務内容と採用方法について
障害者の主な業務内容は
① | 買物カゴ・カートの回収整理、駐車場や駐輪場の清掃及びリサイクル容器の分別 などの店舗軽作業 |
② | 主に加工食品の陳列、日付管理、売場の商品の整理整頓などの店舗販売業務 |
③ | 物流センターでの生鮮食品の仕分け作業 |
④ | 店舗で配布するチラシの印刷、各種書類・郵便物の仕分などの事務業務 |
などである。
採用の際には事前に関係機関との関わりを持つことを家族に同意してもらった上で、店長・人事担当者・ハローワーク・地域障害者職業センターカウンセラー・ジョブコーチ・施設関係者が連携している。
主に店長が面接官となり健康面、職務遂行面(体力、適応力)を主な判定基準とし面接選考を行い、採用を前提とした職場実習を行っている。
また、専用の面接シートを作成し、採用基準の平準化を図っている。
(2)雇用条件について
平成22年7月の障害者の雇用の促進等に関する法律の改正(週所定労働時間20時間以上30時間未満の短時間労働者1人を0.5人として雇用率に算入するなど「以下、法改正」)までは、正社員の労働時間3/4以上の勤務とし、社会保険加入を必須としていた。改正後は、原則週30時間未満の勤務とし、賃金は一般パートタイマーと同一条件にしている。
また、短時間勤務から週30時間以上の勤務への変更については、本人の希望、職務遂行力、継続力及び貢献度を考慮し、就労支援機関へ確認するなどして、総合的な判断のもとに実施している。
(3)店長・担当者への教育・指導方法について
職場実習期間において、カウンセラーまたはジョブコーチから店長・担当者に対して、障害者個々の特性に応じた理解を深め、自ら目標をもって働くという意識の浸透を図るため、主に知的・精神障害の特性と採用障害者の特性及び留意点などについてアドバイスをもらっている。
また、作業中にトラブルが生じ、店内で解決が困難な場合は、その都度対応について相談し、アドバイスを受けている。
なお、年2回の店長会議において、次回開催から障害(者)に関する事項(特性・クレーム内容・ケース会議事例 等)を、テーマとして取り上げる計画である。
(4)接客における課題と対応について
接客のレベルには差があるが、「いらっしゃいませ」、「ありがとうございました」の声かけとおじぎ、及びお客様からの問い合わせの対応ルール(近くのパートさんに聞く、レジ担当者に聞くなど)を的確に実践することで、好感を持っていただけるよう、状況に応じた接客用語、対応などの基本マナーを都度教育するも、質問を受けた時に知っている人が居なかったり、質問が複数にわたると、どう対応していいのか分からずパニックに陥り、クレームに繋がっていく。
①「いじめ」ともとれるクレームをつけるお客さんがいる
②売り場で声をかけられ、即座に答えられず混乱する
③判断を伴う質問をされた時に、適切に答えられずパニック状態になる
④謝っても声が小さいと怒鳴るお客さんもいる
⑤「いらしゃいませ」の声が大きすぎると苦情を言うお客さんもいる
これらのトラブルが発生した時はケース会議を開催し、今後の対応について協議を行っている。
ケース会議は地域障害者職業センターカウンセラー、ジョブコーチ、施設関係者、店長、人事担当者で構成している。
また、実習期間及びトライアル雇用期間中は、生活支援パートナーの訪問指導を週2~3回受け、指導担当者・ハローワーク・地域障害者職業センター・保護者による会議を期間中数回開催し、職場定着の推進を図っている。採用後は障害者職業センターを窓口にして、関係機関と定期的なフォローアップ体制を構築している。なお、トラブルの改善事例については、その都度全店に情報を伝え、クレーム防止に努めている。
3. 取り組みの効果
(1)精神障害者雇用の配慮などについて
① | 長時間の勤務は、ストレスが重なる可能性が大きく、1日4~5時間程度の勤務が適切と感じている人が多いため、時間的配慮をしている |
② | 人混みの中にいるとストレスを感じ不安定になる人には、通勤時間帯や手段にも気配りをしている |
③ | 不安な人ほど質問が多いので、根気よくきめ細かい点まで応えている |
④ | 知的障害者も同じで、言葉で伝えても忘れることに不安を感じているので、具体的に絵や文字で伝えるようにしている |
(2)ケース会議の事例について
・A(知的障害B/男性)さんの例
業務内容は、買物カート・カゴ整理の仕事を担当。
トラブル内容は、店舗駐車場に駐車している車にカートを接触させ、傷を少しつけてしまった。(動線を妨げるものが置かれてあり、振り返ったところに接触する)
また「すみません」の一言もないのかと大声で怒鳴られその場から逃げてしまった。
① | 本人は、お詫びをしたが声が小さかったため相手に伝わらなかったと云っている。 発声練習を改めて「大阪市職業リハビリテーションセンター」で実施してもらう。 |
② | お客様に対して引き続き同じ仕事をさせているという嫌悪感を解消するために、解雇か勤務地変更かで検討するが、会社側の努力が足りないものと判断し、異動先店舗を選出し、通勤時間が1時間と長くなるが、本人・家族と相談し同意を得て、異動することで解決した。 |
約1年経過するがその後トラブルなく勤務している。
・B(精神障害2級/女性)さんの例
アスペルガー症候群で、性格的に元気がよく、動作も機敏であり、指示をしたことへの遂行レベルは高いが、頭に思いついたことを周囲の状況もわきまえず、喋ってしまう。
トラブル内容は、「お好み焼き用の粉はどこにあるの?」と、お客様に質問され、売場まで案内し、薄力粉、中力粉、強力粉など粉の種類及び用途を細かく説明したが、お客様の望まれる応対以上の言葉が口から出てしまった。
① | お客様からの質問も多種多様であり、種々な質問に対しての受け答えの標準化づくりは難しいので、店舗でのドライグロサリーの品出し作業を試みるが、対処の方法が理解できなった。また、細かく指導を行うにも人的に余裕がないことから、この職場実習は一旦終えた。 |
② | 販売業務から店舗及びカゴ整理・カート回収業務に職場を変更する。再度2週間の職場実習を行い、初日のオリエンテーションで、接客用語、おじぎ、報・連・相、服務心得、身だしなみなどの教育を2時間行った。 |
③ | 翌日の店舗で、遠くにいる人から「いらっしゃいませ」の声が大きいとサービスカウンターに苦情がはいる。声の大きさの状況を確認し、発声見本を示し、練習したことで本人も理解できた。 |
≪Bさんの声≫
今日もこの様に楽しく働けるのは、牧さん(当時人事部マネージャー)のおかげです。
いろいろと指導等助けてもらって、とてもうれしかったです。
牧さんがいなかったら、いまごろ退職していたと思います。


4. さいごに
(1)法改正の影響について
平成22年7月からの法改正施行に伴い、法定雇用率を維持するためには、短時間雇用者で少なくとも35名の新規雇用が必要となり、平成21年6月より45名を目標に採用活動に取り組んだ。
従来のカート回収・カゴ整理だけでは雇用の拡大ができる店舗がなく、他の職域での受け入れも検討する必要が生じた。一般加工食料品の品出しや売場整理などの業務は、他の従業員との連携が殆どなく、時間毎に仕事が終わっていくため、比較的遂行しやすい作業と判断し、ドライグロサリー部門での増員に取り組んできた。
また、従来は精神障害者の雇用を避けていたわけではないが、勤務時間・日数の関係上適切な職場が少なかったが、僅かではあるが一般加工食料品の品出し作業などの販売関係業務への職域の拡大が実現し、従来の身体・知的障害者から「精神障害者」の雇用増加につながった。
法改正を見越して障害者雇用を更に推進した結果、平成23年6月雇用状況報告では2.01%と雇用率を達成することができた。
(2)今後の目標・課題について
長期安定就労を実現するためにも、「働く仲間」として、他の従業員と同様の目標を持たせることが必要であると考えるも、自ら目標を見つけ、仕事を改善し、他者に教育や指導的役割を求めることは難しいので、「商品品出し業務では、陳列品の品薄状況が目で見て解る仕組みづくりなど」の業務改善に取り組んでいる。
障害者雇用に積極な店長からは、「2~3人採用したいから紹介して欲しい」などと自発的に手が挙がるまでになったが、まだまだ各店により障害者への理解の温度差がある。
”万代は障害者を分け隔てなく雇用しているんだ”と全店で好意的にとらえてもらうためにも、店長への障害者雇用をテーマとした教育を推進し、更なる意識改革と啓発に努め、また従業員への理解と浸透を図り、社員のみならず、パートタイマーも含めて障害者と関わりを持ち、自然体で接する職場・企業風土づくりを目差している。
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