雇用率改善に向けての全社取り組み事例
- 事業所名
- モロゾフ株式会社
- 所在地
- 兵庫県神戸市
- 事業内容
- パン・菓子製造業
- 従業員数
- 1,792名
- うち障害者数
- 31名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 3 (製造)ラッピング 焼き菓子の製造ライン 肢体不自由 12 (製造)焼き菓子・洋生菓子の製造ライン 原料計量 荷出し
(事務)資材購買 営業事務 経理内部障害 5 (製造)焼き菓子・洋生菓子の製造ライン 原料計量 荷出し
(事務)採用 受注センター 営業事務知的障害 11 (製造)焼き菓子・洋生菓子の製造ライン 原料計量 荷出し 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
モロゾフ株式会社は、“ロマンのあるスイート”を企業テーマにかかげ、1931年の創立以来、「健康、清潔、良心的で質において一流であり世界に通用する企業となる」を経営理念として歩みを続けてきた。現在もなお、洋菓子の製造、販売や喫茶レストランなどのサービスの提供を通し、心豊かな生活を、そして永続的に社会に貢献ができる企業であることを基本姿勢として努力を重ねている。
モロゾフ株式会社にとって大切なことは、培ってきた伝統を活かしながら、一方で人々のライフスタイルや価値観の変化を感じとり、お客様が何を望まれ必要としているかを素早く察知することである。そして、食の周辺でいかに新しい業態や商品を創造し続けること。すなわち「企業文化を繋いでお客様に喜んでいただく」ことや「進化し続ける」ことが最も重要な課題であると認識している。
それらを具現化するための基軸は、今日のような時代だからこそ、より一層妥協を許さないしっかりとした“モノ”づくりにあると考えている。そのため、食に求められるおいしさ、安全性、経済性は当然のことながら、これからは限られた資源へのいつくしみ、地球環境への配慮等が益々重要な企業存続の条件となる。菓子の生産工程では、1999年2月に国際基準であるISO9001を認証取得、順次拡大充実を図り、2008年1月17日には、環境ISO14001も認証取得した。さらに、販売・サービス面の充実についてもCS(お客様満足)活動の強化により「すべてはお客様の笑顔のために」を徹底している。

(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用に関しては、入社後に障害者となった者の継続雇用のみであった。従って、障害者雇用率も法定雇用率を下回っていた。
しかし、法定雇用率を達成するために実効可能な計画の作成が急務となり、モロゾフ株式会社における本格的な障害者雇用の取り組みがスタートした。
2. 取組の内容及び効果
まず、「障害者雇用は、障害者の社会参加を進めるためのものであり、当社も前向きに取り組む義務がある」と言う旨の啓発文を人事総務グループ長状として全社に発信することで啓発を行った。はじめに、モロゾフ株式会社としての障害者雇用に対する考えを全社レベルで明確に提示した上で、障害者雇用率達成のための長期的な計画案を作成し、障害者雇用への取り組みを開始した。
具体的な障害者雇用への取り組みとしては、ハローワーク主催の集団面接会への参加、特別支援学校からの実習の受け入れ、学卒採用など雇用に向けて複合的かつ積極的な活動を展開した。
ところが、急激に障害者雇用を進めることとなったため、次のような問題が4つの壁として立ちはだかった。そこで、各種取り組みを試行しながら、障害のない者、障害者が分け隔てなく一緒に働くことのできる職場作りに向けて、細やかな改善を行った。
① | 理解の壁『各職場の理解をどのように得るか』 まずは採用担当部署である人事総務グループから積極的に障害者の雇用を始め、それから他部署に障害者雇用を拡大することとし、人事総務グループが率先して、障害者を雇用した。採用担当部署自らが具体的な課題の把握とその解決を経験することで、他部署での障害者雇用をより強力に推進できるばかりでなく、各職場からの相談についても対応が図り易くなった。また、障害者が配属された各部署においては、障害者の仕事に対する熱意や真面目さが各職場に与える影響も大きく、障害者雇用に対する理解が深まった。 |
② | 生産性の壁『工場の生産性・効率の低下をどのように考えるか』 生産性・効率重視という従来の業務の概念にとらわれすぎると、各職場で障害者雇用を進めていく場合の妨げになる。そこで、人事評価において指導育成力以外の考課要素を新たに設定して、現場の実態に即した評価基準を別途設けた。特に、各現場における障害者雇用に際しての支援担当者の評価も、受け入れている障害者の人数や障害の程度も要素として考慮するものに見直しが検討されている。 |
③ | 人事管理の壁『人員計画を超えた場合どうするか』 一般に、障害者の雇用を進めていくことは、各職場での障害者の雇用支援担当者の負荷も含めて人件費増となり、このことが障害者雇用を進める上で妨げとなっている。そこで、障害者については人員総枠とは別途で採用可能であることを経営トップが宣言した。 ・雇用計画を策定し、社会的責任を担う ・部門長への理解を促進する ・予算管理上の人員枠を超えての採用を認める 以上のことを経営トップが宣言することにより、各職場では障害者雇用への取り組みが全社的活動であることを理解し、迷いなく障害者雇用を推進できるようになった。毎年の人材開発会議では、障害者雇用の項目を必ず議題とし、全社的取り組みとして定着している。 |
④ | 定着の壁『障害者の職場定着に対する総合的な支援』 各障害者雇用部門からの相談に対しては、個別に採用担当者が対応し、雇用定着に向けて様々なサポートを行っている。各職場が抱える障害者雇用上の課題や相談事項に採用担当者が一元的に対応することで、他の部門への水平展開を行うなど、同様の相談や課題に対しても迅速な対応が図れるようになった。 障害者の採用に際しては能力開発施設等から訓練生のインターンシップの受け入れを積極的に行い、障害者と受け入れ部門の双方が業務の内容および障害の状況をきちんと理解した上で、本人の希望も最大限に考慮してマッチングを図っている。採用前に業務への適性及び本人の意志を確認でき、受け入れ側の準備態勢も整うことは、双方のモチベーションアップにもつながっている。また、採用後も職場での仕事の進め方や、希望について全社員対象の自己申告制度により把握することで職場定着に努めている。 |
以上のように取り組みを行った結果、各職場に支援担当者の配置による細やかな対応ができ、障害者一人ひとりに合わせた作業手順書を作成するなど、職場での指導・協力体制が整えられた。また、能力とやる気次第でパートタイマーから嘱託社員へと転換するなど、障害者にとってやりがいのある職場となり、その結果、さらに職場定着が進んでいる。
なお、障害者雇用への取り組みを開始する中、新しい本社社屋は車いすに配慮したスロープやトイレの設置等、バリアフリー構造を採用し、障害者雇用に備えてきたが、その後、本社オフィスでも初めて車いすの障害者を採用するなど、多様な障害者の受け入れにも努めてきた。
その結果、平成17年度に法定雇用率1.8%を達成、平成18年度から平成23年度まで2.0%以上の雇用率を維持している。平成19年に障害者雇用優良事業所として兵庫県知事表彰を、平成23年には厚生労働大臣表彰を受賞した。




3. 現場の声、今後の方針
(1)現場の声
① | 支援担当者の声 現在、本社の資材購買グループにて障害者の支援を担当している企画担当部長の尾花さんに、自部署に下肢障害をもつKさんを受け入れることが決まった時の話を聞いた。障害者の採用が決まり出勤日が近くなった段階で、障害者の採用と受け入れ体制について、人事総務グループから全社員にメールで通知が行われた。「障害者を受け入れるからといって、気負った対応は考えずに、細やかなコミュニケーションを大切に接していこう」と尾花部長は考えたという。Kさんが車通勤を希望しており、出勤・退社時に車から車いすを降ろしたり乗せたりするサポートが必要なことがわかっていたので、その対応と手順を決めた。当初のサポートは尾花部長が行っていたが、日が経つにつれ、出勤・退社時の対応を自部署の他の社員が自主的に行ったり、Kさんを見かけた他の部署の社員がサポートを行ったりするようになっていた。「いつの間にか本社全体で、特別に意識することなく、その場に居合わせた者が普通に手伝うことが当り前になっていた。」と資材購買グループ長の長谷川さんも言葉を添える。 また、尾花部長は続けて、Kさんとのコミュニケーションについてのエピソードを語ってくれた。ある時、Kさんのトイレ休憩が長引くようになった時期があった。「まさか、気分が悪くなって倒れているのでは・・・」不安が頭をよぎったが、実際は、長時間座りっぱなしの仕事が続き、腰痛のためトイレのついでに腰のストレッチをしており「昼休みにでも横になれれば楽になる」とのことだった。すぐにKさん、人事総務グルーブの保健師と健康管理室のベッドの使用を検討したが、高さが合わないことが判明した。更にKさんと話し合ったところ、特別な器具等は不要であり、空き会議室等でテーブルを利用してストレッチができる環境があれば良いということになった。 双方が充分にコミュニケーションを取ろうとしなければ、本当に対応が必要なことが何かはわからない。障害にとらわれずに、本人がどうしたいか、何をしてほしいかを素直に発言できる環境を作ることが重要であると尾花部長は言う。 |
② | 勤務する障害者の声 Kさんは資材購買グループの一員として、仕入先の請求書と仕入データとの照合作業、仕入先に送った注文書の受領確認、発注品情報の資材マスターのメンテナンス業務等を行っている。パソコンの操作もタッチタイピングができるほどで、パソコンを使用した業務は得意分野であり、職場ではさらに上のレベルへのステップアップを期待し、OJTによるスキルアップ教育も実施されている。 Kさんに、業務を行う上で戸惑ったり困ったりしたことはないか、あえて聞いてみた。「現在、物理的な面においては、ストレスなく勤務ができている。強いて言うなら、商品知識が不足しているので、まだまだ業務を通じて習得が必要であること。」とKさんは答える。それに対して、尾花部長は「それは障害の有無にかかわらず、入社して期間が短いうちはみんな悩むことだよ。」と言葉を添えた。Kさんは現在、商品知識に関する各種研修を受け、また、業務を通じてのOJTにより業務能力の向上を図っている。もともとモロゾフの商品は入社前からお気に入りだったようだが、入社後はさらに強い興味を持って商品について勉強をしている。 Kさんに、自分の職場に限らず、会社の障害者雇用に対して意見を聞いた。「会社ばかりでなく、プライベートにおいても、障害者だから難しいのではと決めつけないでほしい。実際やってみることで本当の課題が見えてきて、職場のみんなと取り組むことで、どんどんやれることが広がると思っている。さらに自分にもできることが周囲の人にわかると、また、別の新しい業務にも取り組むチャンスが広がる。そんな気持ちになれる時が一番充実していると思え、仕事も楽しくなっている。」と答えるKさんの表情は明るい。 さらに、そのために大切にしていることは何かを聞いてみた。「障害の種類によって異なることではあるが、障害者の立場であるからこそ、『できること、できないこと』を、より明確に周囲の方に発信すべきだと思う。モロゾフは全社の風土から自然に僕の希望通りの対応をしてもらえているので、もっと仕事の幅を広げて、障害があってもいろんなことができることをアピールしたい。」とKさんは言う。 |
③ | 採用担当者の声 人事総務グループ課長の中西さんに、当社の障害者雇用を推進する立場として、これまでの取り組みについて感想を聞いた。「障害者雇用に推進する上では、ハローワークの指導を受けたことが、今思い返すと逆に良かったのかもしれない。会社としての方針が明確になり、全社一丸となって取り組むことができた。」と中西課長は語る。「人事総務グループとして全体のとりまとめはしているが、本社だけでなく製造工程でも、障害者を受け入れた各職場がそれぞれに力を付けている。各職場で、障害者雇用上の課題を見つけ、当人と各職場が一緒に解決策を見い出だそうとしている。」 中西課長によると、課題解決の取り組みは、障害者雇用に限ったことではない。もともとモロゾフの風土として、業務遂行上の課題について担当だけでなく職場全体で改善を図ろうとする姿勢があり、それがうまく障害者雇用の実務と融合した。さらには、障害の種類、職務内容を問わずに一緒に仕事をすることで、個人もその職場も成長し、障害者の育成のためのシステムもうまく機能していると考えているとのことであった。 |
(2)今後の方針
現在は障害のない者と障害者がお互いに認め合い、それぞれの能力を発揮して働ける職場づくりの基礎ができあがったと言える。これからも働く意欲のある障害者に広く門戸を開き、当社の人材として活躍できる場を提供していきたい。また、本社の近郊地区以外での障害者採用推進等の課題にも取り組みながら「全ての従業員を会社の財産とする」当社の姿勢を崩さずに障害者雇用を進めていく。
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