事業主の共生への強い想いが働く意欲を引き出した事例
- 事業所名
- 株式会社M・Aサービス
就労継続支援A型作業所むさしの - 所在地
- 鳥取県米子市
- 事業内容
- 本社:食品製造販売業/福祉事業:レストラン経営及び宿泊施設に関連するサービス業/就労継続支援A型作業所むさしの:弁当容器の回収・洗浄作業
- 従業員数
- 株式会社M・Aサービス 54名
就労継続支援A型作業所 19名 - うち障害者数
- 12名（知的障害・身体障害・精神障害）
-
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 弁当容器の回収・洗浄 内部障害 知的障害 8 弁当容器の回収・洗浄 精神障害 3 弁当容器の回収・洗浄 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯と障害者の従事業務
（1）事業所の概要
本事業所は、平成18年12月に株式会社武蔵野給食センター米子事業所より営業譲渡を受け独立し、事業を開始した。当初は米子市を中心とした鳥取県西部地区の企業・団体・個人宅への弁当・仕出しの製造・販売・配達が主だったが、平成20年4月より日野町の指定管理業者の委託を受け、レストランと宿泊施設事業も手がけ、「食」の大切さにこだわった心のこもった弁当・料理・サービスを提供している。
更に障害者の雇用の安定を図るため、平成23年4月に就労継続支援A型作業所を開設した。
（2）障害者雇用の経緯と障害者の従事業務
社長は、27年余りの知的障害者更生入所施設勤務の体験から、働く上で障害のない者、障害者、高齢者の区分けは必要ないという信念のもと、障害がある人の素晴らしさを社会的に認めて欲しいという強い想いから、事業開始当初より知的障害者を雇用していた実績がある。
≪働いて生きていこうとする意欲≫と謙虚さ、障害を感じさせない仕事ぶりにこたえるために、就労継続支援A型作業所を開設し、以前から本社で働いていた2名、他の作業所等から移行した7名と新卒3名の計12名を雇用している。
新卒者は、在学中にそれぞれ1日から2週間の現場実習を行い、雇用支援制度等を一切利用することなく卒業と同時に採用している。
年中無休の本社の就業形態に従い、定休日なしでローテーションを組み週休2日・11：00～17：00の勤務体系で本社工場内の作業・調理器具の洗いもの及び回収された弁当容器の洗浄を行っている。
2. 取り組み内容
（1）全作業工程に自由に参加できるシステム
| （ア） | 「きれいにする」を基本に、お互いのこころづかいをするようにという作業方針以外は、特に役割分担を決めず、本人が主体的に作業を選んで取り組めるようにしている。 |
| （イ） | 本人の気分によってどの作業から始めてもいいように、作業の順序を特に決めていない。 |
| （ウ） | お互いの作業を補い合える機会が多くなるように、それぞれの持ち場の移動が自由にできるようにしている。 |
（2）働けるからだづくりへの配慮
| （ア） | 社長は栄養士の資格を有しており、食事は生きる基本であり、正しくあるべきという考え方をもっており、「働く」＝「食生活」のもと、一日のうち一食は「食」の確認をしたいという思いで従業員が意欲的に元気に働くためにバランスがとれた食事を提供している。 |
| （イ） | 出勤時間を午前11時とし、昼までの1時間の作業でウォーミングアップを図り、当事業所で昼食をしっかり食してから作業に取りかかることで、業務の集中する午後に向け、元気に働けるからだづくりを目指している。 |
（3）気軽に相談できる体制
| （ア） | 社長・責任者は、できるだけ一緒に食事をすることや、洗浄作業をするように心がけ、日常的に気軽に話しかけられる環境を作っている。 |
| （イ） | 昼食の時間をゆったりととることで、仲間と話す時間を増やし、仲間同士で悩みを解決できる機会を設けている。 |
（4）安定した収入の確保
| （ア） | 障害の程度や、作業能力によって賃金の差をつけるのではなく、仕事へ取り組む姿勢に対し、最低賃金を確保した給料を支払っている。 |
3. 取り組みの効果
（1）全作業工程に自由に参加できるシステムの構築の効果
| （ア） | 洗浄する工程のみの作業場であり、作業内容が分かり易く、視覚からの情報と聴覚からの情報が常に発せられていることから、他者の仕事を真似することが容易にでき、他者に指示されることなく主体的に技術を習得できるメリットがある。 |
| （イ） | 回収された弁当容器をただ機械的に洗浄するだけではなく、「残飯が少ないと、とてもうれしいです。」と残飯にも関心をもつようになり、本社を含め会社全体の仕事にも興味をもつようになり、会社の重要な一員であるという自覚が一人一人に育っている。 |
| （ウ） | 指示されて働くストレスがないため、作業所内でのトラブルもほとんどなく、作業の効率アップにつながっている。 |
| （エ） | その日の気分で作業工程も自由に選べ、楽しく仕事ができる環境はストレスが少なく、疲労が蓄積しないため欠勤者が殆どいない。 |
| （オ） | 作業手順が変わることに強い拒否感があるといわれる自閉症の新卒者も、洗浄するという決まった作業を平面的に視覚に捉えることから、自分自身で作業工程を決め、主体的に楽しく取り組めている。また、水が流れる音がする環境も精神的な安定につながっている。 |
| （カ） | 汚れた弁当容器がきれいに洗浄される作業は、作業効果がはっきり目に見えることから、自分が関わった作業の達成感が強く感じられ、次の仕事への意欲を向上させている。 |
（2）昼食を充実させ、働けるからだづくりに取り組んだ効果
| （ア） | 栄養のバランスが考えられたおいしい昼食を食べ、作業を時間いっぱいこなすことにより、働いたという充実感とともにほどよい疲れがもたらされ、食べて、働いて、よく寝るという健康的な生活習慣が作られている。 |
| （イ） | 元気に働くことができるからだづくりは、作業現場で力いっぱい働くことができ、その間、悩んでいたことを忘れてしまう状況は、なんでも悲観的に考えることが多い精神障害の人たちの精神安定にいい影響を与えている。 |
| （ウ） | 毎日みんなが同じ昼食をとることにより、共通の話題ができ仲間との会話のきっかけが生じやすく、仲間としての連帯感が生まれている。 |
（3）気軽に相談できる環境がもたらした効果
| （ア） | 社長や管理者が、そばにいるときに気軽に思っていることを口に出せ、答えがかえってくることで、不安なことや疑問点が蓄積しないことが精神の安定になっている。 |
| （イ） | 昼食時の仲間同士の談話により、自分だけが悩んでいるのではないことや、おしゃれや買い物などの情報も得ることができ、生活に豊かさがもたらされている。 |
（4）安定した収入の確保がもたらした効果
| （ア） | 障害の程度や、作業能力に差をつけることなく給料がもらえることは、個々の生活の中に趣味や楽しみにお金を使用できる余裕が生まれ、充実した私生活が働く意欲へとつながっている。 |
| （イ） | 他者に支援をしてもらう部分が多かった今までの生活から、金銭面に於いても支援を受けなくても生活できる現実が、大きな喜びと自己満足感を生じさせ、強い自信となり、日々の労働への意欲を向上させている。賃金を仕事の成果としてとらえ、仕事につないでいる。 |
| （ウ） | 月給制で支給される給料を計画的につかう習慣は、お金の使い方に変化をもたらし、貯蓄の大切さにも気づくようになり、将来の生活展望も描くことができることから、働く意義を認識しながら仕事を大事にしようとする姿勢がみられるようになっている。 |
4. 今後の課題と展望
本作業所は、社長の「障害によって弱者と強者という区分けで社会を構成することは健全ではない、障害者も職業人として自立してほしい」という強い想いで設立されて半年たった就労継続支援A型作業所である。現時点では、12名全員が働ける喜びをもち、意欲的に作業に取り組み、給料をもらい生活を楽しんでいる。働いて給料をもらって生活すること自体が障害を緩和するという社長の信念が、歩くことがやっとであった肢体不自由特別支援学校卒業生Aさんの身体機能を大きく変えている現実に驚かされる。
元来、洗浄作業は身体障害がある人にとって、苦手な作業であるにも関わらず、卒業生のAさんは現場実習後に就労したい希望を強く申し出ている。水が流れ、洗浄や乾燥の大きな機械が作動している現場に、体がふらつくAさんを受け入れた社長の決断の裏には、共に働く仲間たちへの深い信頼があったからこそであろう。
障害者である従業員の「仕事があることがすごくうれしい。だからその仕事を大事にしようと思って仕事をしています。」という言葉が、激務の社長の心をいやしており、雇用する側と雇用される側の強いきずなを作り上げている。
障害があるからという前提で対応しない、障害の特性に対する先入観をもたない社長の姿勢は、自分だけの世界に入り込み、他者と共に過ごすことが大の苦手な情緒障害のBさんが、何のパニックもなく、自然体で様々な作業に自然に取り組めている状況を作りだしている。また、この働きぶりに、本社の従業員も「障害があるから手とり足とり指導をしなければならない」という概念をくつがえさせられたと話している。
こういった意識の変化が、地域と深いつながりがある弁当・仕出しの配送を通して、地域住民の障害に対する先入観をかえるきっかけになることも夢ではないであろう。
社長は、前職場の施設職員時代に、入所している人たちの中には仕事に対する意欲もあり、誠実に働ける人たちがいるにも関わらず、施設から社会に送り出す努力が一向に報われない無力感を強く感じていたという。そこで、施設から送り出せないのなら、逆に企業から障害のある人を引っ張り出せばいいのではないかと考え、その考えを実現するべく施設から企業への転職を決意し、様々な努力の結果、12名の障害のある人たちが働く場を創り上げている。この考えは高齢者にも向けられ、本社では現在60歳以上が18名雇用され経験やスキルを生かして活躍している。
「給料を現実に手にした時に、ここで頑張ろうという気持ちに変わった。」という精神障害のCさんの言葉は、社長の信念である最低賃金を保障することの重要さを証明した言葉であろう。
『自分が将来の大きな目標としている、企業と福祉との共存共栄を実現するためには、自社の健全な生き残りが最大の課題であり、一番の努力目標だ』と語る社長の強い使命感に敬意を表するとともに、今後の雇用増に期待したい。
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