総合建設業における、職務創出による知的障害者雇用の取り組み
- 事業所名
- カナツ技建工業株式会社
- 所在地
- 島根県松江市
- 事業内容
- 総合建設業・総合水処理事業
- 従業員数
- 215名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 技術職 聴覚障害 1 技術職 肢体不自由 内部障害 1 技術職 知的障害 2 水質検査作業補助、清掃 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯、背景
(1)事業所の概要
当社は昭和13年に創業。業種は総合建設業・総合水処理事業である。松江市に本社を置き、島根県、鳥取県、広島県で営業所、事業所を展開している。
事業内容は、(1)建設工事の企画、設計、監理、請負及びコンサルティング業務、(2)地域開発、都市開発、海洋開発、環境整備等の事業並びにこれらに関する企画設計監理請負及びコンサルティング業務、(3)住宅の建設、販売、賃貸及び管理並びに土地の造成及び販売、(4)環境調査及び環境アセスメント業務、(5)汚水処理場等の運転維持管理の受託業務並びに技術指導業務、(6)環境改善技術の開発並びに環境改善機器の販売、賃貸、保守管理業務、(7)産業廃棄物収集運搬業務並びに産業廃棄物処分業務である。
経営信条は、「社業を通じて社会に貢献する」、「不断の研鑽で特色ある技術を保有する」、「人の和で心の豊かさと生活の安定向上をはかる」である。
(2)障害者雇用の経緯、背景
① | 知的障害者雇用に取り組むまで 当社は平成20年6月の時点で、身体障害者を3名雇用していたものの、法定雇用率が未達成の状況であった。法定雇用率の達成と、納付金制度改正や除外率の引き下げの動向等への対応、当社の経営信条にある「社業を通じて社会に貢献する」という理念の具現化のため、障害者雇用の具体的な検討に入った。 平成20年度に社内協議、支援機関との相談を重ね、島根県から受託している宍道湖東部浄化センター(松江市竹矢町)、宍道湖西部浄化センター(出雲市大社町)にて平成21年度より知的障害者を1名ずつ雇用している。以下では、採用までのプロセス(支援機関との相談、社内決定、職務創出、社員教育等)と、採用後の取り組みについて、宍道湖東部浄化センターの事例を通してご紹介する。 |
② | 支援機関との相談、社内決定、職務創出 平成20年6月と10月に、総務部の担当者が島根県雇用促進協会(当時)が主催する障害者雇用促進講習、障害者職業生活相談員資格認定講習へ参加。講習のなかで、島根障害者職業センター(以下、「職業センター」という。)の障害者職業カウンセラー(以下、「職業カウンセラー」という。)より「職務創出」についての説明があった。 当社では、これまでも障害者雇用を検討してきたが、障害者に適する仕事が見出せず、雇用することが出来ずにいた。現場での作業は危険が伴うだけでなく、施工管理(工事の監督)の仕事であるため、資格を必要とする。それ以外は本社での事務仕事しかない。「障害者に担ってもらえる業務がなかなか見つからない。」という課題が大きかった当社にとって、障害者に担ってもらえる仕事を“創り出す”という職務創出の考え方、手法には強く関心を持ち、当社に取り入れる必要性を感じた。 それを受けて総務部内での協議、職業センターとの相談を重ね、平成20年11月には、常務会において法定雇用率の早期達成に向けた必要性と対応策を検討し、受け入れ部門の候補等を決定した。受け入れ部門は、宍道湖東部浄化センター、宍道湖西部浄化センターを候補とした。両センターは、島根県から受託している公共性の高い事業で、障害者雇用の受け皿となることが必要だと考えた。 その後も社内協議を重ね、平成21年1月には、両センターにおいて知的障害者を2名採用する事を社内決定した。障害種別に関して拘りは無かったが、職業センターより、「知的障害者の働く場が少ない、知的障害者の採用をお願いしたい。」との依頼があり、知的障害者を採用すると決定した。受け入れ部門として知的障害者について抵抗感は無かったものの、未知の取り組みでありイメージがわきづらく、理解を得るのに時間をかけた。 平成21年2月には、職業カウンセラー2名に現場を視察して頂き、職務の分析、社員からのヒアリングを通して職務創出をして頂いた。当社社員だけでは思いつかないような障害者に取り組みやすい業務を見出して頂き、非常に驚いた。また、作業手順や1日のタイムスケジュール、採用までのステップ、サポート体制まで含めた包括的な提案書を頂いたことで、採用に向けて大きく前進したと思う。 |
③ | 社内で理解を深めるための取り組み 社内全体で障害者雇用に関する理解を深めるための取り組みも行った。社内教育の一環として、障害者雇用の現状や障害者の解説、当社の取り組みについて資料を作成し、全社員にメール配信した。また、社内報『双輪』に「障害者雇用について考えてみましょう。」と題して障害者雇用の記事を掲載。障害者雇用の現状に加え、「ノーマライゼーション」についても解説。これらを通して、「大切なことであると認識した。」といった声が社員から寄せられ、理解の醸成に繋がったと考えている。 また、採用段階が近づいてくると、「コミュニケーションが取れるか、指示した事が理解できるか、人間関係は大丈夫か、通勤できるのか…」等の不安の声があがった。そのため、職業カウンセラーの助言により、受け入れ部門全員を対象に社内研修を実施した。知的障害者を理解するための研修会として、職業カウンセラーを講師として招き、30分程度お話して頂いた。これにより、知的障害について基礎的な理解が得られたと同時に、職業カウンセラーやジョブコーチに、支援についてもらえるという安心感が得られた。結果として、受け入れ部門の不安が和らいでいった。 |

2. 取り組みの内容、効果
(1)募集・採用
募集、採用に関しても職業センターにコーディネートして頂いた。平成21年3月にハローワーク松江と求人について打ち合わせを行い、4月に面接、知的障害者のAさんが職場実習の候補者として決定した。その後2週間の職場実習を行い、業務が遂行出来そうだと判断し、平成21年5月から8月まで3ヶ月間のトライアル雇用、その後正式雇用となった。Aさんの指導、雇用管理等の助言についても職業センターの協力を仰ぎ、ジョブコーチ支援を活用している。
(2)障害者の従事業務、職場配置
Aさんが勤務する宍道湖東部浄化センターは、宍道湖・中海周辺に位置する松江市及び安来市の家庭や工場から出る下水を、きれいにして自然にかえしていくための施設である。宍道湖・中海の水質改善のために、窒素・リンの除去を目的とした高度処理運転を行っている。そのなかでAさんが行っている業務は、水質検査用器具の洗浄、検査準備等の水質検査補助である。主に2名の社員がAさんの指導を担当している。
勤務時間は8時30分から15時15分で、1日6時間、週5日の週30時間勤務である。
現在の1日の標準的なスケジュールは以下の通り。
時間帯
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作業内容 等
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午前
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準備作業(洗浄機に水を溜める、各種機械の電源を入れる等) |
サンプリング | |
電導度・PHの測定 | |
洗瓶作業(ガラス器具全般)、水質検査準備作業 | |
昼休憩 | |
午後
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洗瓶作業(ガラス器具全般) |
前秤量作業、清掃 |
(3)具体的な業務内容
職業センターからの職務創出の提案もあり、想定する業務はいくつかあったが、トライアル雇用期間中については仕事、環境に慣れてもらうことを主眼とし、洗瓶作業と清掃だけからスタートした。
洗瓶作業は、ポリビン、ビーカー、ガラス製容器、試験管等の洗浄である。手順は、中味を捨てる、すすぐ、洗浄機にかける、乾燥機にかけるという流れである。どのくらい時間をかけてすすぐのか等、基準が曖昧な点については、時間や回数を明確に決める等の工夫をして対処した。
トライアル雇用が終了した後から、段階的に業務を増やしていった。
水質検査準備作業は、ビーカー、漏斗、濾紙をセットする作業である。手順は、ビーカーにセットする濾紙をつくる、ビーカーに漏斗をさす、濾紙をセットする、という流れである。
電導度・PHの測定は、様々な処理段階の検体を測定し、測定値を紙に書き写す作業である。測定値をそのまま書き写すのではなく、四捨五入の必要がある。Aさんは四捨五入の扱いが理解しにくかったため、ジョブコーチと相談し、一目でみて分かりやすいような表をつくる等して対処した。
1年前くらいからは、前秤量作業を取り入れている。前秤量作業とは、SS(浮遊物質)を測るための準備で、事前に濾紙の重さを測る作業である。Aさんが測定したものを使用し、後に社員が後秤量作業を行う。手順は、専用の濾紙をピンセットで電機秤にのせ、秤に表示される重量とパソコンに表示される番号、重量を確認する、濾紙を秤から取り出しアルミホイルに挟む、保管する、という流れである。
重要かつ難易度が高い作業であり、この作業をAさんの業務として取り入れる際には、集中的にジョブコーチに来てもらった。いきなりAさんに作業してもらうのではなく、まずは一通りジョブコーチに仕事を覚えてもらい、Aさんにあったマニュアルをつくってもらう、その後Aさんにやってもらう、という流れをつくった。



(4)指導上の配慮
Aさんは、急な変更があると混乱を起こしやすい。
曜日ごとに一定のスケジュール、流れがあるのだが、天候等の理由で通常とは流れが変わる日がある。対応出来ず迷ったり、とまってしまったりすることもあった。そのため、変更については前もって伝えるようにしており、そうすればきちんと対応出来るようになった。
また、気持ちが前向きでないとき、集中力がないときがある。ボーっとして上の空といった様子だったり、慣れているはずの仕事が雑になったりすることもあった。ガラス器具を壊してしまうことも当初はよくあった。担当社員が関わるうちに、朝出社したときの様子(本人の雰囲気や行動)をみて、その日の調子がわかるようになってきた。いつもと違う様子を察知した場合は、切り替えて違ったことをしてもらったり、休憩をとりリフレッシュしてもらったりして対応するようにしている。最近はそのようなことも少なくなり、安定してきている。
通常時の対応は担当社員で問題ないが、新しい作業を取り入れたり、作業で使う機械が新しく変わったり、というようなときにはジョブコーチに支援をお願いしている。「何かあったらジョブコーチに来てもらえる。」という安心感は大きい。ジョブコーチには大変お世話になっている。

(5)Aさんが入ったことによる効果
Aさんが現在行っている作業は、以前は社員が手の空いた時間に、片手間に行っていたものである。そのため、例えば前秤量作業が十分に行えず、必要なときに濾紙が不足するようなこともあった。今ではAさんのお陰で、常にストックがあるような状態をつくることが出来た。その他の作業もAさんが担ってくれて非常に助かっているし、なくてはならない存在になっている。
また、Aさんは着実にスキルアップしている。前秤量作業では、最初はピンセットが上手く扱えなかったのが徐々に慣れ、スムーズに扱えるようになったし、スピードも当初に比べて早くなった。以前は50枚処理するのに40分程度かかっていたが、今では同じ時間内に100枚処理する(つまり倍のスピード)ことが出来るようになっている。
3. 今後の課題、展望等
Aさんに関しては、今後も長く働き続けてもらいたいと考えており、さらにステップアップしてもらいたいと考えている。そのためには、業務量を確保しなければならないという課題が出てきている。スキルアップ、スピードアップした分、以前よりも手が空く時間が増えてきている。今後更なる職務創出を進めていきたい。
当社の知的障害者雇用の取り組みは、具体的な検討を始めてからもかなりの時間を要した。それだけ社内決定、コンセンサスを得るのに丁寧に時間をかけたのだが、一方で支援機関にすぐに相談しにくかった、という面もあったのが実際のところである。どのように相談したら良いのか分からなかったし、企業にとってはハードルが高いイメージもあった。結果的に職業センターの支援を受けたが、利用してみて初めて分かったことも多く、親切かつ丁寧に応対して頂いた。職務創出やジョブコーチ支援だけでなく、全体をコーディネートして頂いたこと、ハローワークや採用候補者とその親御さん等、たくさんの方達との連絡等、窓口的役割を一手に担って頂いたことも大変助かった。
当社は、職業センターや、経済団体等が主催する各種セミナーに参加し、知的障害者雇用の取り組みを紹介したり、ジョブコーチの養成研修において実務演習を受け入れたりしている。取り組みを地域に広め、波及させるとともに、当社においても今後、障害者雇用の拡大を検討していきたいと考えている。
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