農業を通して働く喜びを共有する職場
- 事業所名
- 特定非営利活動法人 岡山自立支援センター
- 所在地
- 岡山県岡山市
- 事業内容
- 農業(青ネギの生産・加工)、ミニトマトの栽培
- 従業員数
- 46名
- うち障害者数
- 33名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 青ネギの加工補助 内部障害 知的障害 28 青ネギの生産・加工補助 精神障害 3 青ネギの生産・加工補助 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
太陽の下で土に親しむ農作業。天候的、地理的条件には非常に左右されるが、農耕は心身共に健康的であることは確かなことである。
また農業経営は、きわめて重要な社会的役割を担っており、安心安全な良質の食料を供給するという社会的役割、農業の有形・無形の資源や環境保全し維持させ事業展開するという役割は評価されているところである。
社会制度の中で障害のある人の就労移行に関しては、「就労移行支援」と「就労継続支援(A型・B型)」とあるが、私たちは「就業」という枠組みに違いないものの、利益を上げながら働く人の生活に資するための賃金に還元するしくみを作ることでも、農業経営の感覚とともに障害のある人の労働力への期待、作業効率化、また省力化、多角化など、山のような挑戦課題に向き合っている。
特定非営利活動法人岡山自立支援センターは、農業生産法人有限会社岡山県農商より青ネギの生産・加工の業務委託を受けて、障害者自立支援法に基づく就労継続支援A型事業を行うため、平成20年10月に設立された。
平成21年4月1日岡山自立支援センター「ももっ子おかやま」事業所を開設、平成22年4月1日岡山自立支援センター「ももっ子みつ」事業所を開設した。
業務内容は、「青ネギ」の播種作業・土作作業・防除作業・収穫作業・洗浄作業・選別作業・計量結束作業・出荷作業等である。また、平成23年3月にミニトマトのハウス栽培を開始した。
事業所では、障害者も障害のない者もともに力を合わせて働いており、青ネギの 生産・加工や、ミニトマトのハウス栽培に励んでいる。
(2)障害者雇用の経緯
当自立支援センターでは、本県の障害のある人が年々増加しているなか、障害のある人が地域の中で自立した生活を営むことができるよう、今後も能力はあるものの対人関係・健康管理等の事由により一般企業へ就職できない働く意欲のある人達を雇用し、職業指導、生活支援を通じて一般企業への就職の手助けを行うことが就労継続支援A型事業の役目と考えている。現在、知的障害者28名・身体障害者2名・精神障害者3名の合計33名を雇用している。


2. 仕事の内容
(1)障害者の声
現在採用から3年目になる知的障害のあるAさんは、青ネギの選別ラインで不要のネギの葉をむしったり、コンテナに入れる作業に集中して取り組んでいる。たまに職業指導員の大きな声が出た時パニックになることもあったが、今では、逆に利用者に対しいろいろ仕事の指示が出せるまでに成長した。
Aさんは現在通勤寮を利用しているが、「自立生活を目指し、グループホームに出たい。働いた給料は、自分で管理し、生活費に使っています。母と相談し、使う額も決めています。自分の稼いだお金で甥や姪におもちゃを買ってあげると喜んでくれるのが、大変うれしいです。」と話してくれた。
「職場では、管理者や生活支援員の方が私の話を聞いてくれたり、話をしてくれたり、職場の皆さんが親切で優しいです。ホテルでのテーブルマナー講習会やボウリング大会、それに今年の北海道旅行の時、札幌で地下鉄に乗って、ラーメン横丁に行き、味噌ラーメンを食べたことが楽しかったです。また行きたいので毎日元気に働くことができます。」と言っている。
現在採用から半年になる精神障害のあるBさんは、圃場で職業指導員が刈り取った青ネギをコンテナに詰める作業や、青ネギの根っ子を掘り起こす作業、畑の草取りなどに集中して取り組んでいる。就業する前には90kg位あった体重が現在では70㎏位となり、筋肉質の立派な体型になり家族の人も喜んでくれている。Bさんは、「毎日仕事に来るのが楽しく、ご飯がおいしい。」と言っている。
現在採用から3年目になる知的障害のあるCさんは、青ネギの選別ラインでは、洗浄作業や選別作業が的確にできている。また、圃場での収穫作業の手伝いや土作り作業などをこなしリーダー的な存在に育っている。そして、今年の3月より始まったミニトマトの栽培作業で、水やりや収穫作業、出荷のための選別やパック詰め作業をこなし、岡山自立支援センターの利用者の模範生である。
性格がおとなしく、大きな声で発言する事ができないが、職業指導員や生活支援員の指導のもと、毎日楽しく仕事ができている。地元で行われる夏祭り「うらじゃおどり」に昨年に続き今年も参加し大変楽しかったようである。「寮での生活では、音楽を聴いたりテレビを見て過ごしています。旅行や音楽鑑賞が楽しみで、今年北海道旅行で旭山動物園に行った事が楽しい思い出です。また、稼いだお金で好きなものが買えるのが楽しみで元気に仕事を頑張りたいです。」とCさんは言っている。
現在採用から5ヶ月目になる精神障害・身体障害のあるDさんは、青ネギの選別ラインで洗浄作業や選別作業を、屋外作業では青ネギの根っ子を掘り起こす作業、畑の草取りなどを行っている。
まだ採用から間もないが、Dさんは「屋外作業で汗水を流すことが好きで農業は楽しいです。仕事内容は少しずつ覚えてきているのでやりがいがあります。スコア—はあまり良くなかったが、仕事の仲間と一緒にボウリングに行ったのが楽しかったです。将来は、一人暮らしをしたいので、お金をしっかり貯めたいです。」と言っている。
(2)周りの職員の声かけなど
職業指導員の指導のもと作業を行うこととしている。朝、職業指導員が一日の作業を説明するが、一度に全て理解するのは難しく、内容が変わるたびに、指導することになる。繰り返し根気強く伝えることで、仕事を覚えるよう配慮している。そして、言ったとおりにできているか、作業に集中しているかを注意して見守っている。その事により作業効率を上げている。


(3)日常気をつけること
知的障害の人・精神障害の人が大勢いるので、その日出勤しているが、健康状態はどうか、働く事ができるかどうか。食品を扱う事業であるため、身だしなみ(ヒゲ剃りはできているか、顔を洗って来ているか、散髪はできているか、服装は洗濯した清潔な物を着ているか、帽子・タオルを持参しているか)などに注意を払っている。また、お客様(視察に来られた人など)に対する挨拶、職員や利用者同士の朝の挨拶、帰る際の挨拶は必ず行うようにしている。利用者に対する伝達方法は、毎朝行っているラジオ体操の後、自立支援センターの職員から気が付いた事を伝えている。
(4)安全対策
職業指導員が農作業を行う際、農業機械の取扱いには十分注意するようにしている。又、利用者が近くにいない事を確認した後に農業機械を動かしている。また、職業指導員が利用者の行動を注視し、危険な事があれば、すぐ注意している。
病気等に対しては、生活支援員が相談にのり、早目に病院に行くことを勧めている。具合の悪い利用者がいれば、家族の方や施設職員等へも連絡を取り、前日からの様子を確認し、対処している。
暑さ対策・寒さ対策(特に圃場での作業の際)も十分注意して対応を促している。
(5)通勤対策
自宅・グループホーム・寮から、公共交通機関利用・自転車利用や徒歩で通勤している。
通勤時間帯は車の往来が激しく、また、歩道の確保が無いところもあるので、安全面の配慮に注意している。新しく寮に入った利用者が通勤する際は、障害者就業・生活支援センターの職員に必ず付き添いをお願いし、注意が必要な場所を伝えて頂いている。特に雨天時には、自転車通勤の利用者は、雨合羽を着用するなどの徹底を促し、理解が不十分であったり、時間がたてば忘れるので繰り返し周知している。
また、「みつ事業所」へは、岡山自立支援センターの車で送迎している。
(6)家族と支援機関との連携
知的障害のあるAさんは、将来の生活設計をグループホームや一人での自立生活という目標「夢」があり、働くことへの意気込みややりがいに深く繋がっている。Aさんは障害者支援施設を利用していたが、「働きたい」という思いの実現に向け、農業を通じて癒され落ちつきがでてきた。母親との関係修復と家族思いの気持ちが芽生えて来ている。障害者就業・生活支援センターとの連携による職場定着支援や、宿泊型施設での自立訓練や暮らしの支援が重要である。
そして、将来の生活設計も自分なりに希望が持てるようになり、事業所では障害者という考え方ではなく「一人の労働者」としての支援を行っている。
また、最近は障害者の就労に対するニーズが増え、利用希望者も増加傾向にある。精神障害や発達障害を持つ人のニーズも増えてきており、デリケートな課題も多く、障害者就業・生活支援センターとの連携をより深くしていく事が必要となる。
3. 現状の課題(今後に向けて)、将来への展望
(1)現状の課題(今後に向けて)
生産現場では、「青ネギ」を主作物としている耕種農業を行っているが、天候に左右され、健康管理が難しいのが現状である。そのため、大型ハウスを利用した施設栽培を導入することにより、障害のある人がより働きやすい環境で作業が提供できるようにしたい。
また、集出荷施設を整備して「青ネギ」の出荷はもとより、新たにカットネギ・乾燥ネギの生産を行い、付加価値の高い商品を出荷することにより、利用者の雇用につなげたい。
そして、平成23年3月よりミニトマトのハウス栽培を行っているが、雨天時でも利用者に作業が提供でき、健康で快適な作業場として喜ばれており、さらにトマト栽培用ビニールハウスの増設を図っていきたい。
(2)将来への展望
岡山自立支援センターとしてはこれからが進展の時。障害のある人たち一人ひとりが、これからも自立した社会生活を送ってほしいと願い、日々努力を続けている。
農業というものは無限の可能性がある。またその半面、課題も山積する。課題は地道に確実にクリアしていきながら、未来を切り開いていこうと思っている。
農業生産法人、福祉施設関係者、行政、そして働く人を支えるご家族がそれぞれの立場からお互いを尊重し、より連携するネットワーク作りを展開し関係を強固にすることで、障害のある人の農業分野への就労を促進していくことにつながると思っている。
障害のある人が働く意欲が有れば雇用し、「農福連携」による地域の活性化を図り、自立生活を支援する。それは単に障害のある人が働き手として、農業従事者の高齢化による人材不足を補うということではなく、健康に良い農産物を生産していくことということの社会に対する貢献度の高さからみて、今後障害のある人たちの農業分野への就労は大きな可能性を秘めていると言えるかもしれない。このため、「農福連携」による取り組みや、中国四国農政局に設置されている「岡山地域農業の障害者雇用促進ネットワーク」と連携を図り、障害者の雇用と地域農業の活性化や発展につなげたい。
さらに、ハローワーク・特別支援学校や県立高等技術専門校と連携をとり、国の委託訓練制度等を活用し実習や訓練を行い、見極め、雇用に結びつける。また、地域にある社会福祉施設等と連携し、障害者の受け入れを行う。そして、職場に定着できるよう、作業が継続しやすい環境を作ること、利用者の仕事に対する意欲を高めることが必要で、旅行や食事会などの楽しみをつくり、日々の作業においては、目標が達成できたときはしっかりと認めることが効果的であると考える。(何より利用者の存在を認めることが一番である。)
当自立支援センターにおいて、環境が整えば、新しい事業所を設けていきたい。
最後に、「人が人を思いやる。互いが互いを認め合い、支え合う。」この地域づくりが重要であり、私たちはここ岡山の地から、これからも農業を通して働く喜び、幸せを共有する職場であることに誇りを持って発信していきたい。

アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。