地域を支え、地域に支えられつつ障害者雇用を推進する企業
- 事業所名
- 株式会社丸久
- 所在地
- 山口県防府市
- 事業内容
- 食料品、住居関連品、衣料品等の小売業
- 従業員数
- 4,833名
- うち障害者数
- 69名
障害 人数 従事業務 視覚障害 2 聴覚障害 3 肢体不自由 12 内部障害 9 知的障害 34 精神障害 9 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用への取り組み
(1)事業所の概要
株式会社 丸久は、1954年(昭和29年)に山口県防府市に誕生した食品スーパーマーケット事業を中心とする企業であり、地域に密着しつつ消費者のニーズに迅速丁寧に対応することを経営理念に掲げている。当社は山口県を中心に、広島県、島根県、福岡県に業務を展開し、全82店舗を有している(平成23年9月現在)。その半数を越す46店舗に障害者を雇用し、当社の障害者雇用率は1.98%である。
当社の主力店舗である「アルク」(ロゴマーク;「Aruk」)には、地域のスーパーマーケットとしての革新的なイメージ(より良い品を・より安く・よい環境で・よいサービスを)を前面に打ち出していくという経営方針があり、当社のシンボル的役割を担う店舗となっている。現時点で全35店舗となり、その中でも防府市内と山口市内に開設した全ての「アルク」に、障害者が雇用されている。その従業員の多くは近隣から通勤しており、その意味からも当社は地域に密着した企業といえよう。
(2)障害者雇用への取り組み
①障害についての啓発
当社の障害者雇用と就労の定着に尽力しておられる人事部 ミドルスタッフ 採用担当の先村章竜氏に話を伺った。
「私は4年前に人事部に着任しました。そして、2年前に障害者雇用を推進するための部署につきました。この部署での最初の仕事は、雇用率未達成の企業を対象とした講習会に出席することでした。」
当社では、その時期に既に障害者手帳を保持する従業員がいた。しかし、その保持を公にすることに抵抗を感じるという雰囲気が社内にまだ残っていた。こうした中で、先村氏による障害者雇用への取り組みが始まったのである。
「当初は、障害者雇用について説明しても、店舗に障害者をなかなか受け入れて頂けませんでした。店長から、『障害のある人に、売り場での接客の仕事が出来るのですか?』と強く問われたこともありました。」
障害者雇用をめざす第一歩として、先村氏は障害についての啓発を続けた。
「障害のある従業員と一緒に働くことで、結果として、店舗でのお客様へのサービス向上につながります。技術の習得までに多少の時間はかかりますが、習得さえすれば、その仕事の内容は一般の従業員と変わりません。ゆっくり丁寧に教えてください。でも、特別扱いは必要ありません。」
具体的な説明を根気よく積み重ねることで、店長や従業員からの理解と協力を少しずつ得ていった。
②障害者雇用の展開
先村氏による取り組みが開始された1年目(平成22年度)に、当社では計27名の障害者雇用が実現した。また、障害の啓発への取り組みが進むにつれ、障害者手帳の保持を公にすることに抵抗を感じていた人も、次第に公にするようになっていった。こうして、障害を以前のようには特別視しない社風が育ち始めた。
2. 食品スーパーマーケット「アルク」が有する強み
(1)障害者雇用と安定就労を促す要素
①手作業を必要とする部署が数多くある
「アルク」内の店舗には、(a)青果、(b)水産、(c)精肉、(d)惣菜、(e)加工食品(メーカーによって加工された後に当店に入荷される食品)、(f)チェッカー(レジ)までの6部門がある。これらのうち、特に(a)から(d)までの四つの部門では、扱われる食品のうちの約7割は、店内の従業員による手作業によって何らかの加工が施された後に店頭に並ぶ、という特徴がある(例;魚の切り身を従業員が丹念にトレイに並べ、一定の数に達した後に店頭に出す。決められた個数の野菜を袋に入れ、一定の数に達した後に店頭に出す 等)。このように、決められた手順による繰り返しのある手作業を必要とする部署を「アルク」内の店舗に数多く見いだすことが出来る。こうした部署は障害者にとって就労可能な場になりうることが多い。当社で障害者雇用が進展した要因の一つに、この手作業を必要とする部署が数多いということがあげられる。
なお、「アルク」では(a)から(f)までの全ての部門に、障害のある従業員を配置している。
②数多くのベテラン従業員に囲まれつつ、小集団でのアットホームな人間関係も成立しやすい
「アルク」の中でも大きな店舗には、50~100名の従業員が働いており、その中には長年勤務するベテラン正社員の数も多い。こうした店舗では、障害者雇用の展開を目指した従業員教育の成果が一過性で終わるのではなく、長期的に維持されやすい。また、各部門の調理室では、複数の従業員がそれぞれの作業に取り組んでいるが、ここに小集団ならではのアットホームな人間関係が成立するなら、障害者にとって安心して働き続けることのできる部署となる。
以上、①と②の要素に支えられながら、「アルク」でたくましく勤務する従業員を紹介しよう。
(2)「アルク牟礼店」(防府市)で働くAさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
写真は、「アルク牟礼店」で働くAさんの様子である。Aさんは山口県内の特別支援学校の高等部を卒業して当社に入った。近隣にある自宅から歩いて通勤しながら1年半が経過した(平成23年9月現在)。現在、パート従業員であり、水産の部門で勤務している。Aさんの仕事の一つに、シャケの切り身を3枚ずつトレイに並べ、台車の棚に順次差し込み、店頭に搬送するという内容がある。全て手作業を必要とする仕事である。こうした仕事の指導は、当社では基本的に調理室のチーフの役目であるが、Aさんの手さばきは円滑であり、今ではチーフからの支援は必要なくなった。
Aさんは調理室のアットホームな人間関係の中で、安定して働き続けている。Aさんに対して、当部門のベテラン従業員が時々声を掛けたり、仕事の方法(包丁の扱いなど)を丁寧に伝授してくれることもある。Aさんにとって、この調理室は自分の力を発揮し、それをさらに高めることのできる職場となっていることが伺われる。
次に、「アルク」の中でも障害者雇用を着実に展開させつつある「アルク大内店」(山口市)を紹介しよう。
3. 「アルク大内店」(山口市)で働く従業員への支援の様子
「アルク大内店」(山口市)には、身体障害のある従業員1名、知的障害のある従業員3名、精神障害のある従業員1名の計5名が勤務している。
「アルク大内店」で、従業員の安定就労に尽力しておられる中村竜也店長に、障害のある従業員5名の勤務の様子について、詳しい話を伺った。なお、下記の記載は平成23年9月現在の内容である。
(1)Bさん(心筋症による心臓機能障害・身体障害者手帳「3級」判定)
Bさんは山口県内の高等学校(定時制)を卒業して当社に入った。近隣にある自宅から原付バイクで通勤しながら1年半が経過した。現在、アルバイト従業員であり、チェッカー(レジ)の部門で、毎日19時から24時まで大勢の客の品を次々とさばき、金銭を取り扱っている。客への対応を爽やかに滞りなく行うBさんに対し、当社からの支援は必要とされていない。
「お客様からのBさんへのクレームなどは、全くありません。」と中村店長はにこやかに語り、Bさんに対して全幅の信頼を置いている。
なお、Bさんは県内の短期大学に籍を置く大学生である。既に保育士の免許状を有しているBさんは、さらに情報関連の学科で勉強を続けている。Bさんは、深夜に及ぶ仕事と日中の学業とをきちんと両立させている青年である。
(2)Cさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Cさんは山口県内の知的障害特別支援学校の高等部産業科を卒業して当社に入った。近隣にある自宅から家族の送迎によって通勤しながら6年半が経過した。現在、パート従業員であり、精肉の部門で勤務している。手先が器用なCさんには、例えば国産牛の個体識別番号(10桁の数字)や値段の記されたシールを、専用の機械で貼っていく作業も任されている。
肉の値段は日々変化するので、この作業には細心の注意力が必要とされるが、Cさんは慣れた手つきで次々と仕事をこなしている。
「ただ、Cさんは休日あけなどに、根気がとぎれがちになることがあります。このような時には精肉部門のチーフから『気持ちを引き締めましょう。』との言葉がけがあります。これで、Cさんの心がシャンとします。」と中村店長は目を細める。
(3)Dさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Dさんは山口県内の知的障害特別支援養護学校の高等部を卒業して当社に入った。最初の勤務店である「アルク南浜店」(宇部市内)から、その後「アルク大内店」に転籍した。近隣にある自宅から自転車で通勤しながら約6年近くが経過した。現在、パート従業員であり、青果の部門で勤務している。Dさんの仕事の一つに、数種類の果物を包丁で小さなブロックに分割し、それらを盛り合わせて「カットフルーツ」を作るという内容がある。包丁を持つ手も安定しており、色彩豊かで新鮮なカットフルーツが次々に出来上がっていく。
ただ、Dさんには情緒面に起伏の生じるときがあり、感情的に高ぶったような時には、当部門のベテラン従業員が上手に声を掛けて対応している。
「青果の部門にDさんを配属させて良かった、と今思います。この部門には、Dさんを受け入れる温かな人間関係がありますから。」と中村店長は語る。
良好な人間関係は、安定就労の要の一つである。「アルク牟礼店」のAさんと同じく、Dさんは職場のもつアットホームな人間関係の中で安定して働き続けている。
(4)Eさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Eさんは山口県内の知的障害特別支援学校の高等部を卒業し、他社を経由して当社に入った。近隣にある自宅から自転車で通勤しながら約半年が経過した。現在、パート従業員であり、惣菜の部門で勤務している。Eさんの仕事の一つに、複数のトレイに惣菜(黒豆や酢物など)を均等に盛りつけるという内容があるが、Eさんは惣菜を右手でつまみ、均等かつスピーディーにトレイにのせていく。
「Eさんは、1回につまむ量を、手の感覚で記憶しているのですよ。」と中村店長はEさんの手さばきに感心する。
またEさんには、弁当の盛りつけ作業も任されている。製造する弁当は10~12種類あるため、それぞれの製造レシピがEさんに必要とされる時期もあったが、今では食材の種類やその配置を記憶しているので、その作業は極めて円滑である。
(5)Fさん(高次脳機能障害・精神障害者保健福祉手帳「3級」判定)
Fさんはコンピューター専門学校を卒業し、他社を経由して当社に入った。近隣にあるアパートから自転車で通勤しながら約1年が経過した。現在、パート従業員であり、精肉の部門で勤務している。Fさんの仕事の一つに、鶏肉を分割してトレイに並べるという内容がある。Fさんは、解凍後の鶏肉を大きな袋から取り出し、両手で分割し、次々にトレイにのせていく。
Fさんは20歳代の時の交通事故で大脳を損傷し、高次脳機能障害を負った。記憶や集中力に課題があり、現在、定期的にジョブ・コーチからの支援を受けている。
「ジョブ・コーチの来社は、月1回、1時間です。この支援のもとで、Fさんの安定した就労生活が続いています。」と中村店長は語る。
4. 障害者雇用への取り組みと今後の展望
(1)数多くの部門を体験させる中から、適合する仕事を見出す
従業員が当社で安定して就労し続けるためには、各従業員の障害の実態、技量、性格などにうまく適合する部門を見出し、そこに配置することが望ましい。そのため、新しい従業員には数多くの部門の仕事を一通り体験させ、その時の様子をもとに部門を検討している。また、特別支援学校高等部の生徒が現場実習で来社した時や、トライアル雇用を利用する場合でも、できるだけ多くの部門の仕事を体験させるという方向で、当社は取り組みつつある。
(2)インターネットと障害者雇用
今後の障害者雇用の可能性の一つとして、インターネットを利用した宅配(ネットショップ)等への展開がある。例えば、客からの注文を商品リストに整理し、それを見ながら該当商品を倉庫から引き出すといった作業(ピッキング作業)を障害のある従業員に向けて創出するという案や、客からの注文を受注するオペレーター等の部署を創出するとの案もある。今後が期待される。
(3)「1店舗に1人以上の障害者を」
人事部の先村章竜氏は、「1店舗に1人以上の障害者を配置することが、私の夢です。」と静かに語る。その氏の胸の内には、ある特別支援学校での記憶が、今も熱く脈打っている。
「その特別支援学校を見学させていただいた時のことでした。偶然、一人の小さな女の子(知的障害があり小学部在籍)が、私と手をつないでくれたのです。ゆっくり一緒に歩きながら、私はその子にふと聞いてみました。『(大きくなったら)何になりたいの?』と。その時の私は、その子から「ケーキ屋さん」といった返答があるのでは、と予想していました。ところがその子は『アルク。』と、店舗の名を答えてくれたのです。」
ちょうど同じ年頃の子をもつ先村氏の驚きと感激はひとしおであった。「きっと、私の服に縫いつけられていた『アルク』のロゴマークを見て、その子はそのように答えたのでしょうね。」と先村氏は目を細める。
一人の女の子との出会いによって、先村氏の心に灯がついた。氏にとって、障害者雇用の取り組みのエネルギーになる灯である。
5. 自分の住む地域で自分の人生をつくる
当社で働く障害のある従業員は、自身の努力と当社からの支援のもとで、それぞれの部門で今日もたくましく勤務している。その働く後ろ姿からは、就労を通して社会参加していることの誇りとともに、上司、先輩、同僚と一緒にこの地域でこれからも働き続けたいという願いも伝わってくる。
障害の有無にかかわらず、人は皆、その持てる力をこの社会で発揮し、社会参加したいと願っている。株式会社 丸久は、就労を通した社会参加という理念の実現に向け、地域に根ざした企業としての社会的責任を果たす経営を今日も続けている。
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