ハローワークなど支援機関との相談・連携により障害者雇用を推進
- 事業所名
- 株式会社マキタ
- 所在地
- 香川県高松市
- 事業内容
- 船舶用ディーゼル機関製造業
- 従業員数
- 289名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 清掃・事務補助 内部障害 1 機械加工 知的障害 精神障害 1 清掃 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社マキタは、高松市に本社を置き、船の心臓部である船舶用ディーゼルエンジンを作る四国で唯一のメーカーである。明治43年に創業。以来1世紀にわたり大手企業との連携を原動力に開発・改良を重ねて、世界中で航行する船の推進力を生み出してきた。昭和16年に株式会社槙田鐵工所を設立。平成2年に現社名の株式会社マキタに商号を改称。平成21年には新運転工場を新設し、製品の信頼度をより高めるとともに生産能力も飛躍的に向上した。脈々と受け継がれる「モノづくりの魂」を基礎に、新たなシステムと組織を構築しステップアップを目指している。
(2)障害者雇用の経緯
障害者の雇用については、民間企業における除外率設定業種という背景もあり思うように進んでいなかったため、法定雇用率未達成の状態にあった。一般的には、障害者雇用について、頭では意識しているが現実にはなかなか難しいという声をよく耳にする。特に中小企業における法定雇用率未達成企業においてそれは顕著である。何故そうなるのか、原因はいろいろあると思うが、一因として考えられるのが「障害者雇用納付金制度」の対象が大企業であり、中小企業では仮に法定雇用率未達成であっても納付金の支払い義務がなかったことにある。もちろんこの制度自体は、障害者の雇用は事業主が共同で果たしていく社会的連帯責任の理念のもとで事業主間の経済的負担の調整を図るとともに、事業主に対して助成・援助を行うものであり、いわゆるペナルティではない。そのような中、「障害者の雇用の促進等に関する法律」の一部改正により納付金対象事業主が拡大されることになった。これまで納付金対象外であった中小企業も、平成22年7月から常用雇用労働者が200人を超える事業主、更には平成27年4月からは常用雇用労働者が100人を超える事業主に段階的に拡大されることになった。この改正は法定雇用率未達成の中小企業にとっては、納付金の支払い義務という大きなインパクトと直面することになる。同社も平成22年7月からの改正対象となったが、雇用している障害者は内部障害者1人だけであり、法定雇用率達成のためには新たに3人以上を雇用しなければならなかった。このため、企業としてコンプライアンスを重視し、障害者雇用に取り組むこととした。しかしながら、障害者雇用の経験が乏しい同社にとって、問題解決の為には課題が山積していた。障害者雇用に関する情報の収集、社内啓発や社内調整、ハローワークなど支援機関との連携等々に幅広く取り組んでいく必要があった。
2. 取り組みの内容
(1)社内理解・職務の選定・採用計画
障害者雇用を進めるためには、担当部署に一任せず経営者、人事担当者、受け入れ部署社員が共通認識を持って、コミュニケーションをとりながらお互いの役割を果たしていく必要があった。そこで第1のステップとして、ハローワークから制度改正の要点説明を受け、社内において法律上の雇用義務、企業の社会的責任など障害者雇用の必要性について周知するとともに、取組を推進していくことを提案し社内コンセンサスの形成を図っていった。
次のステップは、雇用する障害者の配置部署及び従事職種の選定の検討であった。主力部門である現場作業は安全面等問題点が多くあり、障害者に任せられる職務の選定は簡単ではなかったが、人事担当者の発想の転換、事業所内の仕事の棚卸し等により、これまで外部業者に発注していた清掃業務や事務部門での障害者の配置を決定した。障害者の雇用に際して、事業所内のバリアフリー化が出来ていないことや、知的及び精神障害者の雇用経験がなく不安もあったが、採用計画の立案、障害者の職務の選定、社内理解、受入体制の整備と着実にステップを踏んでいった。
(2)採用活動(募集・採用)
採用活動については、最寄りのハローワーク担当官と協議を重ね、熱心な支援を受けることができた。求人においては、障害者合同就職面接会及びハローワークでのミニ就職面接会に積極的に参加して、業務にマッチする障害者を紹介してもらった。
また、ハローワーク担当官から当時障害者雇用納付金制度に基づく助成金活用の窓口機関であった香川県雇用支援協会を紹介され、ハローワーク及び協会担当者の3者で協議をして清掃業務における「障害者作業施設設置等助成金」の活用についてアドバイスを受けた。更に、障害者雇用に関する他の助成金やトライアル雇用制度の活用、香川障害者職業センターのジョブコーチによる支援など様々な支援機関連携による障害者雇用の推進についての情報提供を受け、障害者雇用に関する公的制度の活用を進めていくことにした。
結果として、ハローワークを中心とした各支援機関との相談や連携が、同社の障害者雇用推進の大きな力になり、障害者雇用への道が開けた。支援機関と密な連携を図ることで、スムーズな受入れが可能となり、企業の負担が軽減され且つ受入幅が広がったのである。このような障害者雇用ネットワークの拡大は今後の障害者雇用に必ず役立つといえる。
(3)障害者の業務・職場配置
上述の採用活動により、従来から現場で機械加工を担当している障害者Aさん以外に、新たに3人の障害者を雇用した。建物内の清掃業務(食堂、手洗い場、トイレ等)及び除草作業等事業所内の管理業務を担当するBさん(精神障害者)、Cさん(肢体不自由者(3級))の2人と、事務補助(パソコン操作・コピー・書類整理等)を担当するDさん(肢体不自由者(4級))である。
特に、BさんとCさんについては平成22年9月のトライアル雇用終了後常用雇用となったが、Bさんはまだ若く、一方でCさんは高齢であり、この2人がペアで仕事をし、それぞれがお互いをフォローすることによって生まれた相乗効果でバランスがとれた点が結果として大いにプラスになっている。


(4)精神障害者Bさんの取り組み
精神障害者(2級)であるBさんは男性で29才。平成22年5月、ハローワークにおいて同社の面接を受けトライアル雇用を終了後同年9月に採用になった。安定した職業生活を送るため、作業上の指導や体調管理などについてのサポートを得たいとの希望から、ジョブコーチ支援事業の活用に至った。担当する業務は清掃作業及び除草作業である。勤務時間は8時から16時45分(休憩時間:65分)のフルタイムであり土・日曜日が休日の週5日勤務で、通勤には自転車を利用している。勤務については、本人と事業所が綿密な調整をした結果本人希望を重視しフルタイム勤務となった。一般的には、精神障害者は心身が疲れやすいので、短時間労働から徐々に勤務時間を延長すると良いといわれている。
事実Bさんは頑張りすぎてオーバーペースになりやすい傾向があった。疲れに気付きにくいことも影響しているが、特に疲れると環境音に敏感になりやすいものである。そのため作業スケジュール、体調管理、労働条件等の調整、障害特性の理解等においてジョブコーチの支援を申し入れることとし、Bさんは、香川障害者職業センターのジョブコーチと支援機関である社会福祉法人のジョブコーチ支援を受けることができた。
通院や服薬への配慮、無理のない一日の作業スケジュールや体調管理等について、本人、事業所、ジョブコーチが一体となってコミュニーケーションをとりBさんをサポートしている。こうしたジョブコーチ支援の活用は本人のみならず、精神障害者の雇用経験のない事業所にとっても大きな支えになっている。また、ジョブコーチ支援以外でも「障害者介助等助成金」を活用している。Bさんも「毎日楽しく仕事をしています。業務上の問題や体調面の管理等も会社やジョブコーチに相談してサポートしてもらっているので特に問題はありません。」とコメントしている。

3. 取り組みの効果
清掃作業を担当しているBさんとCさんは、ペアを組んで仕事に取り組んでいる。当初は、以前外注していた業者の好意により指導を受けていたが、基本作業習得後は徐々に仕事のやり方を自分達で考えて、いかに作業効率を向上させるかを2人で相談しながら、自己啓発にも努め業務のグレードアップを図ることが出来た。精神障害と肢体不自由、年齢差を克服してお互いをフォロー・尊重し合っている。こうした2人の熱心な仕事ぶりは、成果として顕著にあらわれており、「前よりもピカピカになって気持ちがいい」という声が多くの社員から聞こえるようになっている。また、一心不乱に働く姿は、他の社員達にも少なからず影響を与えている。更に、事務部門で働くDさんや現場部門で機械加工を担当しているAさんも、障害を感じさせない仕事ぶりで業務上のトラブルもなく人間関係も良好であり、まわりの社員からも厚い信頼を得ている。
障害者を受け入れている会社側も彼等の仕事の進め方については、「自分たちで出来る範囲で」という指示だけで基本的には本人に任せている。そのうえで助成金制度やジョブコーチ支援制度をうまく活用して彼等をサポートする態勢をとってきたところであり、こうした各々の熱心な取り組みが、当初の期待以上の成果を生み出している。社長も、障害者達の熱心な仕事の取り組みに関心を持ち大いに注目してきており、会社全体からみても、最初は正直なところ、いろいろ不安視する声もあったが、会社の戦力として十分な働きを見るにつけ、障害者に対する認識は大きく変化してきている。障害者に対するマイナスイメージを払拭し、障害者雇用の必要性に対する理解を深め、彼等をサポートする姿勢が生まれている。最近では障害者の仕事に対して任せっきりになるところも見られ、逆に心配する程であるという。
現在は、企業トップ、人事担当者、受入れ部署の社員が障害者雇用の必要性について認識を深めるとともに、社内コンセンサスを形成することができており、将来的には更なる障害者雇用の推進につながることが期待できる。
4. 今後の展望と課題
法律の改正による納付金対象事業主の範囲の拡大に対処しなければならないという背景があったとはいえ、障害者雇用経験の乏しかった同社にとって新規に3人以上の障害者を短期間で雇用していくことは、決して簡単なことではない。人事担当者を中心に熱心に取り組んできた努力の賜であり、評価されるべきものである。
とはいえ、障害者雇用は一時的な対応で済むものでもなく継続・推進していかなければならない。企業としての社会的責任を果たすだけにとどまらず、障害者雇用を進めていく根底にあるノーマライゼーションの実現、すなわち障害のある人も障害のない人達と同じように生活し、活動が出来る社会を実現することが極めて重要な課題である。
障害も一つの特性として受け入れて、その価値を活かすことにより企業の競争力実現につなげていくという視点を持たなければならない。同社の障害者雇用は、まだまだ発展途上にあり、今後取り組まなければならない課題も多々ある。
一つ目は現在雇用している障害者の定着及び高齢化への対応である。職場定着のためのサポート体制の確立や職場環境の改善等が必要になる。障害者職業生活相談員の配置や支援機関との連携の継続も忘れてはならない。
二つ目は、障害者の新たな雇用に向けて既存の概念にとらわれない障害者の職務や職域の拡大を図ることや、特別支援学校との連携による知的障害者の実習受入れ及び雇用の検討、更には職場のバリアフリー化による車いすの障害者や視覚障害者の雇用等に係る課題にも取り組んでいく必要がある。
幸いにも同社は、今回の障害者雇用の取組みにより、ハローワークを中心とした各支援機関とのネットワークが構築されており、今後も課題解決に向けて各支援機関との連携を強化・拡大して取り組んでいくことが望まれる。
元障害者雇用アドバイザー 木曽 潤二
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