with your life ~共生社会を確立した企業~
- 事業所名
- 日本通運株式会社 松山ターミナル事業所
- 所在地
- 愛媛県伊予市
- 事業内容
- 運送業
- 従業員数
- 81名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 事務作業 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 1 荷物の仕分け作業 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
日本通運は、1937年10月1日「日本通運株式会社法」に基づくいわゆる国策会社として発足した。その母体は鉄道輸送の発着両端の輸送を行う小運送業者間を取りまとめる国際通運株式会社であり、これに同業種6社の資産ならびに政府その他の出資を得て創立された。その後第二次大戦の時局の進展にともない、輸送の総合的運営の必要に迫られた政府の方針により、1942年全国主要都市の運送業者を合併し、現在の当社の原形が形づくられた。さらに戦後、1950年における「通運事業法」の施行とともに商法上の一般商事会社として再出発以来、日本経済の復興発展と軌を一にして事業の拡大・発展につとめ、今日に至っている。2004年1月からは、企業スローガンとして社是のひとつである「運輸の使命に徹して社会の信頼にこたえる」という思いを託し、“With Your Life”を制定した。このスローガンの趣旨にもとづき、「より良い社会生活の創造に寄与していく」姿勢を宣言し、全従業員が「社会の役に立つ企業の一員である」ことを常に認識して行動し、今後とも社会とともに発展していく会社をめざしていく。
(2)障害者雇用の経緯
今回取材させていただいたのは、精神障害者のUさんである。Uさんは、会社の工場内で荷物の仕分けの作業に従事されている。通常、運送業となると、フォークリフト等の運転免許など、ある程度の資格を有することが多いので、障害者が雇用されている前例は少ない。ではなぜ今回Uさんの雇用に踏み切ったのか。
所長の海田さんは、企業において、障害者を雇用することが一般的となった近年の流れに自然と乗った形がUさんの雇用であると語る。元々Uさんは契約社員という形で数年働いており、業績を認められ自然な形で正社員になったという。
「障害があるから」とか、「免許をもっていないから」などといったことに全くこだわらず、Uさんを障害のない人々と同じ目線で捉え、与えられた仕事をできるかどうかで採用していることは、障害者と障害のない従業員とが、お互いが特別に区別されることなく、社会生活を共にするべきだ、とするノーマライゼーションの思想にも通じる。
海田さんはこう続ける。「仕事ができるかできないかなど、雇ってみないと分からない。」この言葉は、障害がある、ないなどにこだわらず、まずは「雇用してみる」という最初のステップにいかに重点を置いているかを感じさせる。障害者雇用に比較的消極的な運送業社においては、挑戦といえるだろう。

2. 取り組みの内容
(1)障害者の業務・支援
Uさんの仕事は、主に荷物の仕分けである。工場に大量に運ばれてくるダンボールを伝票通りに仕分けし、ラックに一定の数に並べ、出荷できる状態にする、という地道な作業である。並べる数は決まっているので、リズムよく作業できるようだった。Uさんがダンボールを次から次へとラックに運び、軽快に作業をこなしていく姿がとても印象的だった。Uさんと一緒に作業しながら、Uさんの作業や職場生活のお世話をされている高橋さんに、Uさんの作業に関して、特に考慮されている点や、何か支援していることなどを伺ったところ、障害があるからと言って特別扱いはせず、他の従業員に対してと同じように接することだという。周りが敢えて特に意識をしないことで、Uさんも自然な形で職場に溶け込むことができる。実際、私自身から見ても、Uさんが障害者であるということを全く感じさせない職場の雰囲気は、Uさんの働きやすい環境を自ずと構築しているように思えた。
また、高橋さんはUさんが仕事の途上において失敗をしてしまった時の対応についても話してくださった。この場合も「障害があるからしょうがない」というのではなく、あくまで他の従業員として、失敗を繰り返さないように指導を行う。この際、まず「どうして失敗したかを」Uさんを含めた従業員全体で考えることで、Uさん一人で省みるだけでは気付かなかったポイントにも気づくことができる。これはUさん以外の従業員が失敗した時も同様であり、特別なことではないという。そして重要なのは、この指導を行った後にUさんが再び同じ失敗を繰り返してしまったとしても、根気よく何度も同じ様に振り返りの時間を設けることである。反復することで、意識せずとも気をつけるべき点が習慣化されると高橋さんは語る。これも、「障害があるから」ではなく、一人の従業員としてのUさんを職場全体が受容しているからこそできる試みであると思う。

熱心に働くUさんを暖かな眼差しで見つめる高橋さんの姿。二人は、支援をする、されるの関係を超え、上司と部下そのものの関係を自然と作り上げていた。障害者を他の従業員と敢えて分け隔てないことは、何らかの障害を抱える障害者にとって、肉体的にも精神的にも負担になるように思える。しかし、実際Uさんにそのような様子は見られず、むしろリラックスして仕事に取り組んでいるようだった。障害の有無など感じさせない、共生社会を完成させた新しい職場の姿が、そこにはあった。
(2)障害者雇用の効果
Uさんを雇用したことによる、職場におけるメリットなどはあったのだろうか。高橋さんや営業課長の富山さんに伺ったところ、まず職場全体の雰囲気が向上したという。というのも、Uさん自身がエンターテーナーであり、ビアガーデン等のレクリエーション活動を自ら積極的に考案し、職場の従業員を誘って定期的に遊びに行くという。職場の従業員もこれに皆賛同し、楽しい時間を共有するそうだ。Uさん自身が、与えられた業務をこなす以外での職場における自分の役割を見つけている、ということになる。俗にいう「宴会部長」のような位置づけだろうか。
職場での人間関係は、仕事の成果や仕事に対するやりがいにも大きく作用してくる大事な要素であると思う。また、余暇に楽しみがあることで仕事に張り合いも出てくる。共に働く仲間の存在は、仕事がハードなものであったとしても職場に赴き、一緒に頑張ろう、という気持ちにさせてくれる。Uさんは仕事仲間と友好な関係を主体的に築くことで、働きやすい環境、働きたくなるような環境を自ら作り上げていた。
このことにはとても驚かされた。障害者と遊びに行くとなると、私のイメージでは、周りの人が障害者のために一緒にできる範囲でイベントを企画する、といったものだろうと考えていたが、それは全くの偏見であり、自ら行動し企画までしてしまう、Uさんのような行動派の人もいる。Uさんを見ていると、障害のない者よりもアグレッシブなのではないかと思えてくる。取材のさなかも「またビアガーデンに行きたいです。」と語るUさんの笑顔は、充実感からか本当に輝いていた。

Uさんが職場にいることで果たしている役割がもう一つあるという。それは、他の従業員にとっての「起爆剤」である。特に特別な支援は行なっていなくても、Uさんに障害があるということを他の従業員は当然把握している。だが、Uさんの、障害者であることを微塵も感じさせない頑張りを見て、従業員全体が、「自分も頑張ろう」と奮起するそうである。
このメリットはUさんを「障害者」としてではなく「従業員」としてとらえている職場の雰囲気と、Uさん自身の頑張りの結果だろう。仮にUさんが特別扱いされていたとしたら、他の従業員も自分たちと同じ立場としては見ないだろう。Uさんを同じ立場で見ているからこそ、競争心が生まれ、Uさんを含めた従業員全体が業績を向上させていくことになる。Uさんの存在と企業の方針が生んだ、他の企業にはないメリットだと感じた。
(3)Uさんの声
ここで、Uさんに実際に今の仕事についてどう考えていらっしゃるのか伺ってみた。まず感じているのは、「生きがい」だという。仕事をさせてもらっていることで、それが生きがいになり、定職につく以前よりも毎日に張り合いが出てきたそうである。また、プライベートにおける過ごし方など、仕事以外のことも円滑に行えるようになり、以前よりも充実した人生を送ることができているそうだ。
最後に、目標を伺ったところ、達成感に満ちた顔でこう語っていただいた。
「これまで以上にいい仕事をして、定年まで続けていきたい。」
はっきりと述べてくれたUさんの努力し続ける姿を、これからも応援し続けたい。
3. 今後の展望
(1)今後の展望
高橋さんに、Uさんの今後の課題や展望を伺ったところ、Uさんが伝票を見て一人だけで完全に出荷できる状態に荷物を仕分けることだという。つまりは今行っている仕事を完璧にできるようにする、ということである。高橋さんはここでも、これはUさんだけでなく、従業員全体として目指すべきことであり、決してUさんだけに課すような特別なことではない、と強調する。業務の上で失敗をしてしまうのは、決してUさんだけではない。会社の中の誰か一人だけが気をつけたとしても、会社としてのミスはなくならない。従業員みんなで意識し、一丸となって仕事の質を上げていこうとする姿勢が大事なのである。それがしっかりと実践されていることが、業績に繋がっているのだろう。
また、企業としての今後の課題としては、より積極的な障害者雇用を行うことであるという。現在、本事業所には、Uさんを含めた2名の障害者が働いている。前例のほとんどない運送業としては、2名でも雇用されているだけで珍しいことだが、「これからも新たな人材を求めて雇用を続けて行きたい」と海田さんは語る。更に、単に雇用するのではなく、必要とする業種にその人の性格や障害種が適応しているかという観点で見ていくという。障害者が、自分には困難な仕事、合わない仕事を与えられたとしても、長続きはしないだろう。雇う側の企業としては、雇うならば長く働いて欲しい、業績を挙げて欲しい、という思いがあり、雇われる側の障害者としても、自分にできる範疇で仕事がしたい、そしてUさんのように、できるならずっと働きたいといったようにそれぞれの思いがあるだろう。業種に合った雇用を行うというやり方は、このお互いの需要と供給のバランスを満たした視点だと感じた。Uさんを先駆けとして、今後も運送業界の雇用体制に新しい風を吹かせていってもらいたい。
(2)事業所を見学して
Uさんに対する事業所の人々や会社全体の雰囲気は、ノーマライゼーションそのものだった。Uさんもそれに見事に順応されていて、暑い中本当に熱心に仕事に勤しんでおられ、見ている私まですがすがしい気持ちになった。
抱える障害によっては確かに仕事に就くことが困難な人もいるが、Uさんのように仕事もプライベートもしっかり充実させている人もいる。本営業所のように、まずはその人自身をしっかり見つめ、その人の特性にあった仕事を提供するならば、全国の企業で障害者の雇用はより増えるだろう。働けるはずなのに雇ってもらえない障害者が、一人でも多く雇用され、Uさんのように充実した人生を送ることができるようになることを、強く願う。
「就労」は、障害者にとっては最終目標であると同時に、スタートでもある。その成功例ともいえるUさんの事例を見せていただき、障害者雇用の可能性について深く考えさせられた。今回快く取材に応じてくださった日通松山ターミナル支店の方々およびUさんに、心より感謝したい。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。