障害者雇用を組織として取り組む
- 事業所名
- 株式会社スーパーモリナガ
- 所在地
- 佐賀県佐賀市
- 事業内容
- 食品スーパーマーケット
- 従業員数
- 600名(短時間以外374名、短時間226名)
- うち障害者数
- 12名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 5 レジ・検品・検収 内部障害 知的障害 5 包装作業・品揃え・惣菜作り 精神障害 2 品揃え・惣菜作り - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
佐賀市天神の大和紡績入り口(現どん3の森)で、堤商店として経営していた店を、昭和32年4月、有限会社もりなが屋に変更して法人化する。その後、平成3年1月、「株式会社スーパーモリナガ」に改名、「地域のお客様に心から喜んでいただく店づくりに徹する」という経営理念のもと、現在、鹿島店、唐津店、小城店、吉野ヶ里店、津福店(福岡県久留米市)、佐賀市内3店舗の計8店舗にて食品スーパーとして営業を行っている。
障害者の雇用は、10年ほど前から身体障害者を2名雇用していたが、法定雇用率には達していなかったため、3年ほど前から積極的に雇用を始め、現在12名の障害者を雇用している。
(2)障害者雇用の経緯
従業員は600名でその内、障害者の雇用数は12名(うち重度障害者4名)で、雇用率は2.7%となっている。障害者の雇用は、10年ほど前に身体障害者を2名雇用したが、食品スーパーで接客業務が多いということもあって障害者の雇用は進んでいなかった。しかし、店舗拡大に伴う社員の増加に伴い、コンプライアンスに基づき、障害者の法定雇用率を達成する必要があったこと、また、堤社長の「障害者の自立を手伝いたい」という障害者雇用に対する深い理解があったことから、3年前より障害者の雇用を積極的に進めるようになった。
採用のルートは、ハローワークからの紹介や、障害者施設、特別支援学校等さまざまであるが、現在、7つの店舗で身体障害者5名、知的障害者5名、精神障害者2名の計12名の障害者が元気に働いている。
2. 取り組み内容
(1)募集・採用
ハローワークを通して雇用することを基本にしているが、障害者施設や特別支援学校からの雇用要請もあり、職場実習やトライアル雇用等を経て雇用する場合が多いとのことで、訪問時も職場実習を受け入れ中であった。障害者の雇用を始めた頃は、知的障害者の場合、一度の指示で仕事内容が覚えられず繰り返し指示が必要であったことや、ゴミを捨てる場所を間違えたり、計量が不正確なことなどもあり、仕事に習熟してもらうまでに現場の指導が一定期間必要であった。また、周囲の社員も障害者への対応に不慣れなため、戸惑いや不安など気持ちの面での負担も少なからずあった。この負担を補うため、「障害者雇用については人件費は本部が持ち、各店舗の負担としない」という方式を採用したところ、人材としてきちんと育てれば、障害者を雇用すると各店舗にとってはプラスアルファの戦力となり、対応に慣れた店長は積極的に受け入れるようになった。現場の各店舗でも一人ひとりの障害者の状況に合わせて指導する自信がつき、それ以降は障害者の受け入れがスムーズになっていった。
(2)障害者の業務・職場配置
障害者の業務・職場配置は、障害種別や能力・状況によって配置を行っている。身体障害者の場合は、重度身体障害者が2人おり、一人は心臓機能障害1級で、主に食品の検品を担当している。もう一人は人工透析の腎臓機能障害1級で、透析に通うための通院の配慮も行われており、惣菜コーナーを担当している。惣菜コーナーには言語機能障害4級の人がおり、こちらは惣菜製造を担当している。その他、下肢機能障害6級の人はレジを担当している。
知的障害者の場合は、重度知的障害者が2人おり、食品の検品、品出し業務や、青果コーナーで野菜の袋詰め、入れ替え作業等を担当している。重度以外の知的障害者3人は、パック詰め、品出し、惣菜製造等を担当している。
知的障害者を3人雇用しているある店舗では、3人のうち2人が3年近く雇用されており、もう1人も雇用されて1年近くになる。担当している仕事は、最も習熟している知的障害者の場合で、日配品、食品、菓子、雑貨、酒、米、玉子の品出しで、これら全ての商品の置き場所や陳列方法を正確に覚えて作業をしている。また、これらの商品のバックヤードでの所定の置き場所も覚えており、補充がスムーズにできている。その他、まれに不良品を見つけた場合は、素早く取り除き、責任者に報告することもきちんと出来ている。この知的障害者の場合、仕事のスピードが年々向上し、勤務態度においても、遅刻や無断欠勤はなく、フルタイムでシフト制の勤務も他の社員と変わらずできている。勤務態度においては、「きちんと教えたら、忠実に履行してくれ、むしろ障害のない社員より勤務態度が変わらないことが大きな長所である」との現場の上司からの評価であった。
もう一人の知的障害者も、日配品、食品、菓子、雑貨等の品出しができており、守備範囲は大変広い。こちらも作業スピードが年々向上し、大きな戦力になっているとのことであった。この2人の知的障害者が立派な社員として働いてくれているので、この店舗ではさらにもう一人、知的障害者が雇用されている。まさに先輩が築いた実績のもとに、新しい雇用の道が着々と開かれつつある。
精神障害者の場合は、惣菜、弁当作りや商品の品出し、品揃え等の仕事を主に担当している。
食品スーパーマーケットの場合、毎日、大量の生鮮食料品や食材等が販売されており、それにともない、検品、検収から包装、パック詰め、品出し、惣菜作り、弁当作り、レジ等いくつもの作業分野があり、障害者の状況に応じた作業分野があるため、個々の状況に応じた作業配置が可能となっている。訪問した佐賀市内の高木瀬店では、重度の知的障害者が野菜の袋詰め作業をしており、同僚の社員の声かけで、白菜のラップ包装を手際よくこなして、他の社員とのコミュニケーションも良好に保たれていた。




3. 取り組みの効果
障害者の場合は、とにかく一生懸命で真面目に働いており、決められたことはきちんと守るという態度は、他の従業員にも良い影響を与えている。知的障害者の場合、職場実習を経験して雇用に移行する場合が多いので、実習の段階で、作業能力やコミュケーション能力に応じた作業分野で店長をはじめ社員とのマンツーマンでの作業指導が行われるため、採用後もスムーズに移行することができている。
身体障害者の場合、下肢障害等があるが、レジの操作や検品、検収等の業務に特に影響はなく、作業効率や接客対応も他の社員と変わらず、特に問題はない。精神障害者の場合、対人緊張がある人の場合は一人で作業を行ったほうが良いことがあるので、無理にチームで仕事をさせないで、食品の品揃えや整理等一人でできる作業分野を考慮して、何かわからないことがあれば、店長が個別的に対応するという方法で職場に順応してもらっている。また、本人の希望により食事や休憩時も一人にさせておくことで、本人の精神的な安定が保たれていることを他の社員も理解するようになっており、本人が必要とする時だけ対応することにしている。
採用にあたってジョブコーチ支援事業等は利用していない。ジョブコーチ支援事業の存在は知っていたが、現場の社員でいろいろと工夫しているうちに自然と対応方法が理解できて来て、気がついたらスムーズな受け入れが可能になっていたという結果となった。しかし、新たに障害者を受け入れる場合は、新規開店の店舗では受け入れず、店舗の業務が落ち着いて安定してきてから障害者は受け入れるという慎重なスタンスも持っている。
また、障害者を指導する際に、一人の社員として「できてないところはきちんと指摘し、できるように育てる」という意識が各現場に浸透しており、このことが職業人としての育成に役立っている。
各店舗に障害者雇用を始めてまだ年数は浅いが、スーパーモリナガでは、顧客に障害者を雇用していることを周知している。また、他の社員の障害者に対する理解が深まってきており、障害者に対する抵抗感が少なくなり、受け入れが良くなったことが効果としてあげられる。
先に紹介した、品出しを幅広く担当している一人の知的障害者は、普通運転免許の取得を目標として学科試験に挑戦しなかなか合格できなかったが、最近、めでたく普通運転免許を手にすることが出来た。実技試験はスムーズに合格したが、学科試験の合格に手間取り、20回以上挑戦した結果、念願の免許を取得し、これまで40分以上かかった通勤時間を10分以上短縮することができた。バスの時間の都合が合わないときは家族も送迎等協力してきたが、今後は独力で通勤できるようになった。彼の生活範囲がさらに広がることを周囲も応援している。
4. 今後の課題と展望
障害者雇用が拡大してきたのは、ここ2~3年のことで、まだ年月が経過している訳ではないが、ほとんどの店舗において障害種別を問わず雇用されており、障害の状況に応じて作業分野が工夫されていて、店長を中心とした就労支援体制が整えられていた。このように、短期間のうちに障害者雇用が進んだのは、障害者の人件費を会社が別枠で負担し、各店舗での負担を軽減する対策を取り、雇用環境を組織的に作り上げたことがその要因と考えられる。しかし、その一方で、作業現場の中では、仕事の流れに乗っていけない時があったり、精神障害者の場合、気分に変動があったり、知的障害者の場合は、お客への対応が難しく、品出しをしている際に他の部署の商品の置き場所を聞かれたり、商品の入荷に関する質問をされたりした場合、「他の者に聞いて参ります。少々お待ち下さいませ。」の応対がとっさに出ないこともある等の課題もあるとのことである。しかし、これらの課題には、店長や社員が時間をかけて繰り返し忍耐強く個別的に対応したり、家族との連携や協力を得ながら解決の努力をされていた。現在、障害者の就労支援は、福祉分野だけでなく、教育、労働分野等でも政策的に推進していく体制が進んできており、このような関係機関や専門職と連携し、対応していくことが重要になってくると思われる。
スーパーモリナガが地域に根ざした社会貢献活動や環境への取り組みを積極的に行っていることは良く知られているが、障害者の雇用についても意欲的に取り組まれていることが今回の訪問を通して強く感じられた。障害者を雇用することの前提として、障害者の理解が必要なこと、そのためには、障害者を裏方に回して仕事をさせるのではなく、店舗の中に出すことで、顧客との関わりを通して理解が深まるという考えのもと、しっかりとした障害者への就労支援がなされていた。現在、会社は業績が順調に伸びており、今後も店舗拡大とともに、障害者雇用を積極的に進めていく方針であるとのことで、障害者がいきいきと働くことができる職場として大きな期待が持たれるところである。
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