充実した働き方をお互いに模索する
~精神障害者の雇用について~
- 事業所名
- 社会福祉法人つわ蕗会 障害福祉サービス事業所つわぶき園
- 所在地
- 大分県大分市
- 事業内容
- 多機能型障害福祉サービス事業所(就労移行支援、就労継続支援B型)
- 従業員数
- 13名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 2 職業指導員 - 目次

1. 事業所の概要
平成18年7月に精神障害者の通所授産施設(定員20名)として開所した当事業所は、大分駅から徒歩10分程度の住宅街の中にある。当時、障害者(特に精神障害者)の働く場が地域に少なく、障害者が働く作業場などが存在しても郊外にあるなど、障害者の活動の場が限られていた。これは何とかしないと、障害者も町で生活する選択も必要だ、と強い想いから、理事長夫妻が私財を投じ、地域の理解を得て建てられた施設である。
(1)事業所の業種 多機能型障害福祉サービス事業所
定員32名 (就労移行支援の定員12名、就労継続支援B型の定員20名)
(2)事業の内容
通所される利用者(障害者)に対して就労支援(調理指導、メール便配達、施設外就労)を行い、社会復帰を支援する。利用者の希望と相談により、以下の2つの事業を多機能型事業所として行っている。
- 就労移行支援
2年以内に事業所内で職業訓練を受け、一般就労ができるように支援をする。就職にあたってはハローワーク、障害者職業センター等と連携しながら、障害者が就職先で安定した仕事ができるように支援する。状況を確認しながら、当事業所からも支援員が企業に訪問して調整などを行う。 - 就労継続支援B型
期限を設けなく、事業所内での福祉的な就労を支援する。授産事業から発生した売上から最低限の経費を差し引いて工賃として利用者に支給するが、地域の最低賃金の3分の1程度である。職員は利用者の工賃収入が上がるように経営努力をするのと同時に、利用者の生きがいのある生活を支援する。
(3)障害者雇用の状況
従業員数13名
内訳:正規職員 4名(管理者の他、精神保健福祉士、社会福祉士、栄養士等の有資格者)
:長期職員 3名(内2名が精神障害者の雇用、1名が高齢者雇用)
:短期職員 6名(週20時間程度の勤務)
(4)仕事内容
勤務日時 | 月~金曜日(土・日・祝日休日)の8時~17時(短期職員は4時間程度) |
職務内容 | 職業指導員として利用者の職業指導にあたる。具体的には、下請け作業である箱折作業の事業所間の調整、利用者の職業支援、利用者の送迎、記録業務を行う。職業指導員の他に生活支援員という仕事もあり、生活支援員は利用者からの相談を受ける等の仕事を中心に行うが、当事業所の場合は生活支援員、職業指導員の業務の線引きはなく、多くの利用者からの些細な相談も受ける等の柔軟な仕事をこなしている。 |
各作業場での職業指導場面




2. 取り組みの経緯・背景、就職から退職・復職に至った経緯
(1)取り組みの経緯・背景
平成18年7月に精神障害者通所授産施設として開所した数か月後、精神障害を抱える50歳代の男性A氏が通所し始めた。A氏は数日前まで精神科病院に入院しており、無職であったが長年にわたっての就労経験も豊富で、礼儀正しく真面目で、人情味のある人であった。やがて当事業所としても臨時職員の職業指導員としてA氏を採用することを検討するようになった。また、当事業所としても、一生懸命に頑張るA氏がなぜ、定期的に精神科病院に入院されて仕事を転々としているのか理解できなかった。その疑問は、精神障害者通所授産施設として、利用者の社会復帰を促すという社会的な役割を求められる施設としても解明する必要があった。
(2)就職から退職・復職に至った経緯
当時、精神障害者は初めからフルタイムで働くことは負担がかかるので半日から雇用して、徐々に時間数を増やしていく方が望ましいといわれていた。しかし、A氏の強い希望から当初からフルタイムで雇用することになった。A氏は「こんな私を雇って頂いたのだから頑張らなければ」と、正規職員より早く出勤して掃除を行い、職業指導員として準備することを前もって行うなど一生懸命であった。しかし、勤務から一週間ほどで無表情で口数が少なくなり、やがて出勤できなくなった。このまま雇用を続けると病状の悪化の恐れがあり、本人、ご家族と話し合った結果、退職を希望されたために退職の手続きをとることになった。この時の業務が以下のような仕事の配分であった。退職後は1週間ほどで利用者として通所できるようになり、就職する前と変わらない程に回復した。
~休職前の仕事内容~
8:00~ 9:00
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清掃、職員会議、全体ミーティング |
9:00~12:00
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利用者への職業指導 (施設内での下請け作業・調理作業の補助・弁当配達の運転など) |
12:00~13:00
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休憩(他の利用者と一緒に食事、会話をしている) |
13:00~15:30
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利用者への職業指導 (施設内での下請け作業・環境整備など) |
15:30~17:00
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利用者の活動記録を記入作業 |
(以前の仕事内容を検討)
A氏は元来からきつい仕事も断らない性格であると、事業所としても把握していたため、あまり無理のない仕事内容を考えていた。施設内で行える作業を中心に考え、他の職員の補助的な仕事を提供していた。しかし、A氏の過去に経験した仕事は工事現場での仕事が中心で体を動かす事が中心であったこと、また夕方の利用者の活動記録を記入する際には、他の職員がパソコンで記入していることに劣等感を感じた等の発言から、A氏の適性に合った仕事内容に見直す必要があった。
A氏にとって充実した仕事は何かを前提に、そして事業所全体としても助かる業務を考えた結果、A氏が利用者と密接に関われること、車の運転など体を動かす仕事になるのではないかと結論が出た。
(検討後の仕事内容について)
A氏は8か月後に当事業所に再びフルタイムで働くことになるが、その間にA氏にとって充実した仕事、当事業所としても助かる仕事を考え、以下のような仕事のスケジュールを組んだ。
~復職後の仕事~
8:00~ 9:00
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利用者の送迎・全体ミーティング・作業場への送迎 |
9:30~12:00
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利用者への職業指導 (施設外の事業所での箱折作業) |
12:00~13:00
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休憩(他の利用者と一緒に食事、会話をしている) |
13:00~15:30
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利用者への職業指導 (施設外の事業所での箱折作業) |
15:30~17:00
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終了ミーティング・利用者の送迎・清掃など |
(以前の仕事内容との比較)
朝方と夕方には利用者の送迎を日課とする。職業指導では、他の職員の補助的な業務から、A氏が直接担当する施設外事業所での箱折作業の調整、指導などをお願いすることになった。
3. 雇用の促進と安定、更なる雇用の取り組み
復職後のA氏は体調を崩すことなく、毎日を充実した表情で淡々とこなしている。特に施設外の職業指導では、お世話になっている事業所の人と上手く関係が作れ、下請けの仕事を切らすことなく調整してくれている。若い正規職員でもなかなか出来ない調整業務である。これらは、A氏が長年の現場仕事のキャリアを持っている現れであり、元来の真面目さが信用をえることになっている結果であると思われる。少数精鋭の当事業所としては、いなくてはならない存在となった。
(更なる雇用の取り組み)
平成22年度から利用者であった精神障害者である30歳代男性のC氏を、障害者雇用として新たにフルタイムで雇用した。業務内容はA氏と同じように組み、別の施設外就労の指導員を担当してもらった。C氏も1年は体調を崩すことなく順調に業務をこなしていたが、平成23年4月下旬から数か月の休職となった。現在は入院をして快方に向かっており復職の準備を行っている。復職にあたっては本人と話しあいながら,更に安定した職場環境を検討する。C氏が復職後に安定すれば、新たな障害者雇用の取り組みにもつなげていきたいと思うが、精神障害者が安定した雇用につながり安心して充実した仕事を行う場合に、以下のような些細なコミュニケーションが必要であると考えた。
~些細なコミュ二ケーションとは~
〇 上司、部下、先輩や後輩など関係なく気がついた方から挨拶を行う。
〇 ミスがあった場合は、一方的に指摘するのではなく一緒に原因を考える。
〇 職場内での愚痴や不満などマイナスな言葉を減らし、前向きな言葉を増やす。
〇 わかりやすく的確な指示 (曖昧な表現を減らし、曖昧な状況はきちんと説明する)
〇 きつい時は無理をしないで休憩できる雰囲気を作る。
〇 「ありがとう」、「おかげで助かった」、「お疲れ様」等の労いの言葉を頻繁に使う。
〇 職員自身もストレスをためないようにどうするかを考える。
4. 障害福祉サービス事業所における障害者雇用の経営効果と今後の課題、展望
(1)障害福祉サービス事業所における障害者雇用の経営効果
当事業所の就労移行支援事業は、毎年、数名の一般就職への移行を実現させている(平成22年度は10名、6ヶ月後の職場定着率90%)。それは精神障害者を雇用する当事業所の経験を活かしているからであると思われる。A氏とC氏ともに利用者にとって目標であり良き相談者であるため、お互いに身近で安心できる存在である。当事業所としても精神障害者を雇用した経験から、些細なコミュニケーションがとても大切であると実感した。
職場内のコミュニケーションは、障害福祉サービス事業所に限らず、どの職場においても円滑な業務に必要であり、決して疎かにできないことである。コミュニケーションを大切にする精神障害者の存在は他の職員にも良い見本としての影響を与え、人間関係やストレスを考えるきっかけになり、職場内の人間関係の円滑ということでも経営効果はあると思える。
(2)今後の課題、展望
2人の事例とも体調不良による退職、休職等を経験している。退職や休職を繰り返すのは障害のない者も経験すること、一度の休職等で精神障害者だからとレッテルを貼るのは偏見であると思えた。A氏の退職の場合は、事業所に迷惑をかけたくないという想いから潔い退職を希望され、C氏の休職の場合は一生懸命に頑張りすぎた果ての結果である。このような状況に至っても、2人とも事業所でまた働きたいというのが本当の気持ちであった。しかし、この経験は本人、事業所にとってもマイナスなことであるので、極力はそのような事態を事前に回避したい。今後はこのような事態になる前に「コミュ二ケーションはとれているか」、「無駄なストレスを与えていないか」、「本人にとってやりがいのある仕事であるか」等の確認をお互いにする必要がある。
最後に2人が各々に任されている仕事は、A氏は印刷会社との連絡調整業務、C氏は運送会社が行っているウォーターサーバー機の洗浄作業の連絡調整業務である。A氏、C氏とも仕事上でのコミュニケーションが必要な連絡調整業務である。2人とも先方の担当者と上手く調整ができている。もちろん、先方の担当者は2人が障害者とは知らないで関わってくれた。病気や障害を先にみるのではなく、本人を先にみて関わって頂けていたことが彼らにとっても嬉しかったようである。ただし、相談できる人、場所、時間は障害のない者以上に必要であると実感した。
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