共に考え工夫する姿勢が技術と意識の向上を生む

1. 事業所の概要
和光コンクリート工業株式会社は、宮崎県の北東部の日向市に本社があり、営業・技術・製造を行う工場は、日向市中心地から西に約20kmの日向市東郷町に位置する。昭和38年に日向市に有限会社和光コンクリートブロック工業所を設立し、昭和52年に和光コンクリート工業株式会社を設立する。昭和53年に業務拡張のため現在の日向市東郷町に誘致企業として工場を移転する。そして、平成5年に有限会社和光コンクリートブロック工業所と和光コンクリート工業株式会社を併合する。
高品質で環境に配慮したコンクリート製品造りを当初より目指し、ISO9001:2008(品質マネジメントシステム(Quality Management System))とISO14001:2004(環境マネジメントシステム(Environmental Management System))の認証取得企業である。
ISOを取得していることもあり、会社の方針は「経営者及び社員全員が一丸となり、自然と人との共存を考え、顧客満足の実現と法的要求事項の順守を優先し、安全で明るい職場からの高品質で環境に配慮したコンクリート製品造りを通じて、地域社会への貢献と共に、社業の安定的な発展と、社員とその家族の幸福の実現を目指す。」としている。
環境と伝統と文化を重んじ、自然との共生をテーマにして様々な研究開発が行われ、現在の工業所有権には横断溝、踏み込み版、山止め擁壁、Gr・L型擁壁、護岸ブロック、車両用木製防護柵、ポラカブルなど、意匠登録:121件、特許:7件、登録商標:7件 と大きな成果を収めている。最近でも平成23年1月の新燃岳噴火で降り積もった火山灰の有効利用が可能な土木技術の開発に向けた基礎的研究を行うなど、積極的に地域への技術的支援活動を行っている。
障害者雇用に関する特別な理念は挙げられていないが、障害の有無にこだわらない同等な対応と対等な立場でコミュニケーションのできる環境を目指している。また、会社全体で様々な課題を発見し、それらをどのように解決すべきかを考える体制が整えられており、製品作りの技術的な課題だけでなく、障害者に対する工場内での課題についても積極的に発見し、解決していく取り組みが行われている。
2. 障害者雇用について
一般採用と別にした障害者雇用枠としての採用は設けられていない。しかし、障害があっても一定の作業が可能であれば通常の採用試験を行い、正職員として採用している。
現在雇用されている5名の障害者のうち、聴覚障害者の2名は他の事業所から移ってきた中途採用者である。内部障害と肢体不自由の3名は本事業所の中途障害者で、社会復帰した人である。雇用されている5名は、勤務状態も良く、単独で作業ができる技量を持っている。
本事業所の組織は総務チーム、営業チーム、品質管理・設計開発チーム、生産管理チーム、在庫管理チームの5チームに分かれている。


現在、聴覚障害者の2名は生産管理チームに配属されており、写真1、2に示すような工場内のラインで様々な種類のコンクリート生産に携わっている。工場内の作業は、鉄筋加工・組立など一部で手作業の部分も残るが、ほとんどが機械化されている。必要とされる技量には、製品の品質評価であり、社内で設定した検査項目(型枠組立・配筋検査、鉄筋検査、外観目視検査など)を判断できる能力が必要となる。
中途障害者の3名は生産管理チーム、営業チームと在庫管理チームにそれぞれ配属されている。中途障害者の場合、障害によっては以前まで行っていた同じ作業ができなくなることがある。そのため、復帰後の配属を決める際には、本人の希望を尊重しつつ、労働基準監督署や病院等に相談し、本人の体調などを考慮して最も適当と思われる配属先を決めるようにしている。
3. 取り組み内容
本事業所では毎年4月に社内のコンクリート技術の向上と作業改善を目指した「勉強会」を開催している。その際、聴覚障害者に対する支援として、手話通訳者を配置している。写真3は手話通訳者(写真左の3名)と「勉強会」の様子を示す。

このような障害者への対応をすることで、社員の意識にも変化が見られた。具体的には、当初、「勉強会」での社員の発表が、早口で難解な専門用語を用いて行われたため、手話通訳者による伝達がうまくいかないことが多くあった。そこで、発表者は聴覚障害者にも発表がうまく伝わるように、ゆっくり、わかりやすく話す工夫が見られるようになった。さらに、発表で使用する資料には写真だけ表示し、口頭で説明することが多かったが、聴覚障害者にはうまく伝わらないため、今では写真の説明文を文字で記入するようになった。
これらの取り組みは、聴覚障害者の支援にとどまらず、「勉強会」に参加する社員全員の理解を助けることに繋がり、社員の技術向上や作業改善など本事業所が目指す充実した「勉強会」開催にも役立っている。
工場内は4つのグループに分かれ、それぞれにミーティングルームがあり、グループごとにグループリーダーが配属されている。ミーティングルームでは休憩時間などに様々な連絡のやり取りが行われている。聴覚障害者への情報伝達では、同じグループ内に手話のできる社員がいないため、グループリーダーが中心になって様々な共有すべき情報をできる限り文字に起こす取り組みが行われている。


写真4は、ミーティングルームの掲示物とホワイトボードを示す。各グループ内のその日の作業内容や目標など、グループリーダーの判断でホワイトボードや紙を用いて掲示している。社内の会議の議事録なども写真4に示すように各グループのミーティングルームに掲示されている。
様々な情報を文字によって掲示するという取り組みは、工場内のだれでもいつでも確認することができる環境にあり、障害者だけでなく社員全員で情報を共有でき、意思統一を容易にし、作業効率を高めている。
写真4にある掲示物にも記入されているが、工場内は重機やクレーンなどによる作業が多く、注意しながら安全に作業をする必要がある。特に、クレーンなどは生産管理チームに配属している聴覚障害者にとって分かりにくい。パトライトを取り付けるなど安全管理を徹底し、工場内で作業をする場合には、最低でも二人組になって行動するようにしている。
その他、月に1度は担当者が現場の作業状況の確認をし、社員の様々な相談に対応している。
4. 取り組みの効果
和光コンクリート工業株式会社は、全社の目標に次のことを挙げている。
(1) | 法令・ルールに反した行動が、重大な災害を引き起こす可能性のあること、あるいは雇用の場を失う可能性のあることを認識し、一社会人として責任ある行動をとる。 |
(2) | 「こんな製品やサービスがほしい」という要求に、自社が得意とする技術やノウハウを加え、お客様や地域社会に利益をもたらす製品やサービスを提供し続ける。 |
(3) | 自身の、又はグループやチームとしての仕事に取り組む姿勢をお客様の目線で検証し、問題点を確認し、原因を分析し、これを排除するための手段を検討し、改善策を積極的に提案し、実行する。 |
(4) | 自身の、又はグループやチームとしての仕事を改めて検証し、モノや動き、手順や時間などの「ムダ」を探し出し、これを排除する手段を検討し、生産・出荷・事務の合理化に繋がる改善策を積極的に提案して、コスト競争力を高める。 |
目標の中には、責任ある行動、技術やノウハウを用いた工夫、問題点の抽出、そして検証・改善とあり、特に何に対しても問題意識を持ち、その改善策を考えることが重要であることが述べられてある。これは、障害者を雇用する事業所の姿勢にも通じており、本事業所で行われている「勉強会」において聴覚障害者に対する問題点を考え、聴覚障害者に対しわかりやすい発表を心がける工夫など改善策を施していることは、まさにそのことを示している。
そして、工場内の作業工程や安全対策を現場の社員同士で「どういったラインが良いか」「材料や工具等の配置はどこがよいか」など問題意識を持って改善していく姿勢は、一方では障害者の危険を回避し、障害があっても障害のない者と同じ仕事ができるようになり、他方では事業所本来の目標である全体の作業効率のアップとコストダウンに繋がっている。
これらは、本事業者が社員からの改善策の提案を積極的に受け入れる体制になっているからできることである。社員一人一人が問題意識を持ち、工夫・改善し、責任を持って行動できることは、事業所にとって最も大切な社員の仕事に対するモチベーション向上に結びついている。
5. 今後の展望
今回の取材で感じたのは、和光コンクリート工業株式会社における障害者に対する取り組みは、勤務する5名の障害者の社員に対する特別な取り組みとして考えているのではなく、事業所全体の取り組みの一つとして考えていることである。事業所全体の取り組みであるため、担当者への取材でも当初から障害者だからといった特別な取り組みはないという説明であった。障害者の課題も一般的な課題と同様にして捉える姿勢は、自然な感覚でノーマライゼーションの問題意識を考える視点の活動が行われていることを強く感じた。
そして、「改善策」という単語が事業所全体の目標だけでなく、事業所の各チームが掲げる目標にも共通して使われていた。チーム目標の中には改善策、立案件数を具体的に示し、改善策を話し合うチーム内の「勉強会」の実施を掲げられているところもあった。様々な問題を積極的に発見し、徹底して社員と共に改善策を考えようとする姿勢が伝わってくる。
障害者に限らずだれにでも「できること」「できないこと」はあるにもかかわらず、障害者の雇用を考える際に、障害者を支援することだけに捉われることがある。しかし、そういった視点では、事業所にも雇用されている障害者にとっても窮屈でうまくいくとは思えない。
和光コンクリート工業株式会社の視点は、社員全員を一つのチームとし、それぞれの社員の特徴をチームの中でどのように活かしていくかを考えている。会社の方針にある「経営者及び社員全員が一丸となり、・・・」である。その力で現在まで様々な製品開発が行われ、大きな成果を上げてきた。自然災害や環境問題とコンクリートに関わる課題は多いが、今後も改善策を考え、新しい視点に立った新しい製品が開発されることを期待する。
最後に、現在雇用されている障害者の高齢化とともに次の世代の障害者雇用について考えていく必要がある。今後も継続的な障害者の雇用を行うために、新しい発想で計画的な障害者雇用についても検討してもらいたい。
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