就労支援機関と連携した発達障害者の雇用事例
- 事業所名
- 日本ピストンリング株式会社 栃木工場
- 所在地
- 栃木県下都賀郡
- 事業内容
- エンジン機能部品を主とした陸舶用ピストンリングや組立式焼結カムシャフト、ロッカーアームの製造
- 従業員数
- 424名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 EXPコイルはめ 内部障害 知的障害 2 通い箱洗浄等 精神障害 3 ネジ組 バリ取り他 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
昭和9年 埼玉県川口町に日本ピストンリング製作所を創立。その後、昭和59年に川口工場を移転、栃木工場開設。国内外問わず多数の拠点を持ち、あらゆる自動車メーカーの主要パートナーとして活躍している。
事業内容は、エンジン機能部品である、ピストンリング、シリンダライナ、動弁機構部品(組立式焼結カムシャフト、バルブシート、バルブロッカーアーム他)をはじめとした国内外の自動車・陸舶エンジン用組付・補修部品の製造・販売を主要事業としている。栃木工場では主に「陸舶用ピストンリング」や「組立式焼結カムシャフト」「ロッカーアーム」「金属射出成形製品」等の製造を行っている。また、管理センター(物流部門)も栃木工場内にあり、株式会社日ピス福島製造所(福島県)や株式会社日ピス岩手 一関工場(岩手県)で製造された製品を栃木工場に集荷して国内外の顧客に供給する役割も担っている。
現在、栃木工場における従業員数は424名、うち障害者雇用数は6名、障害別に身体障害者1名、知的障害者2名、精神障害者(発達障害)3名である。また知的障害者で発達障害がある者もおり、発達障害者の雇用に理解のある事業所である。
(2)障害者雇用の経緯
栃木工場では、現在6名の障害者を雇用している。まずは、障害者雇用の経緯について記述していく。ここ10年間の推移として、主たる障害者は、従業員が何らかの原因で、透析や内部疾患などによる身体障害者となった者が多かった。雇用率(栃木工場単体)は達成していたため率先して障害者を雇用していく状況ではなかった。雇用を目指す足がかりになるのは、定年制による障害者の欠員である。栃木工場では雇用には至らなかったが、以前から特別支援学校からの職場実習を受け入れていた実績があった。実習を受け入れてきた事業所に色々話を伺うと“障害者は充分に働くことが出来る”という意見は多々ある。そういう認識が栃木工場全体として蓄積されていた。この流れの中で、障害者雇用は、2006年を機に変わり始めている。特別支援学校の学生であったA氏を採用している。2009年には、特別支援学校へ訪問。どういう生徒が在籍していて、どんな授業をしているか、どんな仕事であれば雇用できるのか、学生の紹介が得られるかなどAさんをきっかけに障害者雇用に対する疑問や不安な点など、連携を図りながら穴埋めをしていった。また、特別支援学校の先生にも事業所の現場を見てもらい、互いに提案を出しながら作業のマッチングを行い、実習を通して採用に至ることが出来たのである。また、学生の卒業後の職場定着支援の活用に特別支援学校からの紹介を受けて、県南圏域障害者就業・生活支援センターとの連携が始まっている。現在、就労移行支援事業所との関わりを経て就労に至るケースが出てきている。実習生を受け入れてきた実績が栃木工場に根付いている。
2. 取り組みの内容
具体例を含めながら取り組みについて記述していく。
取り組み1【就労作業の確認】
実習の依頼があるとまず、見学会を実施する。依頼者(実習生)は、実習先の所在地、周辺環境、実習現場の内容と環境など確認することが出来る。次に実習内容の打ち合わせを実施する。その際、現場によっては実習生専用の工程を設けられないこと、又現状維持しながらも“できる作業”を創出していくことなど、事業所から現状に合わせた要望を依頼者に伝えていく。段階を踏まえながら、依頼者との面会を経て相互に実習開始の合意が得られるのを確認して実習を実施する。
取り組み2【制度の活用】
実習(特別支援学校以外のケース)の受け入れに当たって、作業現場の決定がされると就業体験を活用する。栃木工場では、就業体験の定義を『実際に職場で就業体験をすることによって、企業や社会の仕組みなどの事情を知り、働く意義や自分の将来進むべき道を考える機会となるための教育システム』また、『障害者を雇用することを理解することができ企業として成長する機会である』としている。実習を行う意義を明確にし、障害者もそして受け入れる事業所としても就業体験の相互効果を確認できている。
2010年には、制度による実習を試みている。就労移行支援事業所の利用者を対象に、とちぎ障害者就業体験制度(※1)を活用している。制度利用を活用しての就業体験のメリットは、①前述にもあるように障害特性の理解と啓発(障害者受け入れの未経験事業所は一つの雇用検討のきっかけとなる。)、②障害者には、就業準備段階における就業適応能力の見極めの機会、③就業体験による偶発的な事故等のリスク分散(受け入れる負担感の軽減)並びに保険適応、④就業支援関係機関との円滑な連携、⑤就業体験時における支援員による巡回等があげられる。特に①について、対人コミュニケーションの苦手な発達障害者にとっては、実際の職業能力を評価される良い機会にもなる。また⑤については、県南圏域ジョブサポーター支援事業(※2)の活用が併用できるため、就業準備段階から職場適応の為のジョブコーチ的な支援が可能となる。栃木工場においては、これから紹介するBさんCさんにおいて人的支援を活用してジョブサポーターを利用した。
(※1) | とちぎ障害者就業体験制度 障害者の雇用と就労の促進を図るために2週間程度の就労する機会を提供し、働くことの体験から就労意欲の向上へつなげるための制度になっています。 受け入れる企業側もともに働く体験から、障害者雇用に対する理解を深めてもらい、このことを通じて、障害者の雇用と就労が促進されることをめざします。 |
(※2) | 県南圏域ジョブサポーター支援事業 栃木県労働政策課委託業務で行っている事業であり、主な事業内容は、雇用・実習先の職場開拓、実習等の就労準備段階からの支援等。 障害者雇用にあたって、本人や企業を支援する様々な制度がありますが、これまでは就労準備段階から利用できる支援制度はありませんでした。そのため、就労準備段階からの支援をさらに厚くすることで、就職率・職場定着率の向上を図っていくことを目的としてつくられた事業です。栃木県内の6つの福祉圏域に配置され、各圏域で担当のジョブサポーターが活動を行っています。 |
取り組み3【コミュニケーション】
発達障害の特性として、意思・感情の表出が苦手な人がいる。特に指示の理解や体調の具合を計る際、会話が一方的であったり、形式的な返答で意思疎通が図れたのかどうか、不安に感じることも少なく無いだろう。発達障害があるCさんは、感情に合わせた意思の表出が難しいようである。特性に理解がないと会話も伝える方も遠慮してしまいがちだ。事業所では、コミュニケーションに対しポイントを4つ上げている。①日頃からの接点が多い家族・支援者の接し方を参考にする、②作業時間以外(昼食・休憩時)を一緒に行動する、③支援者・先生を通じてコミュニケーションを図る、④就業日誌の記入(目標・感想・聞きたいこと・悩み事など)。特に②にあたっては、実習初期段階から始めている。不慣れな環境に適応できるように、自分の居場所を一緒に見つけることで信頼関係を形成し、その後のコミュニケーションを円滑にするようにしている。また④では、言語表出が少ないが、文章で意思の確認が取れる人にとって1つの有効手段としている。その為、Cさんにとって安心できるツールにもなっている。そしてこの日誌は、家族との情報共有ツールとして活用し、認識のずれがないように心がけている。
取り組み4【職場の理解】
対象職場の職制(管理者)への教育と理解に努めている。職制(管理者)が適切にその人の持つ障害の特性を理解することで、職場全体への教育と理解促進が図られる。また、障害者雇用を一企業の社会的責任として位置づけている。雇用後のサポートについても就労支援機関との連携を重視し、また他社事業所の事例を参考にして「安全・品質・生産」の改善を図ったり、障害特性を強みとして最大発揮できるように職場の理解に邁進している。
取り組み5【安全・品質・生産】
安全の取り組みについて“工場で守るルール”や規範を説明、また体調を整える重要性を伝えている。そして本人がアクションを起こし易くするために、会社を休むときの方法、悪天候の場合の対処方法、困ったときに誰に相談するのかを予め本人に具体的な事例をまじえながら説明を行っている。また工場内の危険について、写真での公傷内容説明を行い、公傷発生設備と現場を確認することで視覚的に危険箇所の認識を深めている。また集中力の欠如や疲労が事故に繋がらないように、ストレッチの励行、声かけによる注意喚起の促しを行いながらリスク管理を行っている。就業体験制度を利用したBさんは、ロッカーアームのネジ組の作業に就いた。単純作業だが、ネジ組の際に手先の巧緻性や集中力・持続力が求められる。Bさんの課題として、集中力の低下があげられた。視野に人影や物の動きが入ると、注意が反れて集中力が維持出来ないことがあるようである。また時間帯によっては持続力の低下も見られる為、周りの刺激に左右されないように囲いになる物を活用して外部から刺激を除去したり、本人にできる作業を何点か作り出し飽きずに継続して出来るように別の軽作業を用意した。この取り組みで、当初と比べて常時倍の生産実績を上げられるようになった。
品質については、一人で作業ができるまで他の作業者と一緒に行うようにし、手順を覚えるまで、生産数量の設定はしないようにする。また就労支援機関の協力を得ながら、個別に指導の仕方など助言を頂き参考にしている。
生産については、生産数の記録を行い目標値と実生産数を視覚化し、発達障害者に配慮したかたちで掲示、いつでも確認が出来るようにしている。また月ごとにグラフ化し本人の頑張り度を視覚化することで、自分の成長を実感出来るように配慮している。「頑張る」いう抽象的な表現が分かりにくいB・Cさんにとって具体的目標数値が視覚的に掲示されることは、向上心やモチベーションを育む取り組みの一つになっている。
以上5つの取り組みを紹介した。最後に障害者雇用に関して重視していることがある。それは、障害者種別による特性に捉われず、一人ひとりそれぞれの特性を尊重し個別対応を図ること。個人を支えるために、家族または関係機関の協力を得ながら、安心して安全にやりがいを感じられる継続的な体制を整えていくことが必要であると感じている。


3. 今後の展望と課題
今後の展望と課題として、現在採用している障害者の定着と成長を上げている。長期雇用の為の作業環境の向上並びに社会人としての成長を主要課題として取り組む。また同時に、法定雇用率の達成を維持するため、今後も就労できる職域の拡充を行いながら、障害者雇用を強みにできる体制を図っていく。
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