得意分野を伸ばす人材育成と障害者同士の連携による食堂の運営
- 事業所名
- 株式会社ノーマライゼーション カラフル食堂那の川店
- 所在地
- 福岡県福岡市中央区
- 事業内容
- 食堂
- 従業員数
- 8名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 調理・接客 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 調理・接客 精神障害 3 調理・接客 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社ノーマライゼーションは、有限会社RUNの特例子会社として2011年3月に設立された。2011年9月現在は「カラフル食堂 那の川店」のみであるが、2011年10月には弁当専門店としてカラフル食堂築港店、11月には、那の川店と同様の形態で住吉店をオープンさせている。2011年中に市内に3店舗となった。
親会社は有限会社RUNであり、同じく食堂の事業として2008年に設立された。一般的に、特例子会社を設立する場合は、親会社が大企業であり、法定雇用率を遵守することと、障害者の働きやすい環境を集約するためにという理由がほとんどであるが、有限会社RUNは食堂を2店舗運営しているのみである。
株式会社ノーマライゼーションの松本社長は、もともと有限会社RUNで知的障害者2名と聴覚障害者1名を雇用していた。しかし、障害のある従業員と障害のない従業員との関係がうまくいかず苦労していた。それならば、いっそのこと障害者を中心とした会社を作ろうと決意した。その際、特例子会社という制度があることを知り、株式会社ノーマライゼーションを設立したのである。
特例子会社である意味は何かと思えるが、特例子会社にしたことにより、障害者中心の企業となり、障害のない者と障害者が上下関係になるということはないとのことである。まさに社名のごとくノーマライゼーションの企業である。
2011年9月現在ではカラフル食堂那の川店のみであるため、以下カラフル食堂那の川店(以下「カラフル食堂」という。)について記述することとする。
カラフル食堂は福岡市中央区日赤通りにあり、付近には大きな病院や福岡を代表する企業があるビジネス街の一つである。福岡天神まではバスで数分という町中の交差点に位置する。食堂の外見は壁が黄色でまさにカラフル。店内に入ると、カウンターが10席ほど、4人がけのテーブルが5つほどの広さである。食堂という名のごとく、定食屋である。ただ、昼食だけでなく夜も営業しているので、仕事帰りの会社員が夕食をとったり、定食をつまみに一杯飲んだりという利用の仕方もされている。
インターネットのグルメ関連サイトで、ここを訪れた客たちの声を拾ってみた。「定食屋で『ノーマライゼーション』という単語に出会うのははじめてかもしれません。どうやら障害者の自立支援が目的のお店のようです。看板メニューはハンバーグ定食(定価680円)のようです。唐揚げ、チキン南蛮、塩鯖など定食屋の定番メニューがラインナップされていました。」
その他多くのサイトで紹介されており、評判の定食屋である。
(2)障害者雇用の経緯
カラフル食堂は障害者雇用を目的とした店として2011年3月の設立と共に障害者雇用を開始した。店の従業員は8名で障害者は7名、つまり社長以外は全員障害者である。昼の部と夜の部で3~4名ずつローテーションをしており、常時3~4名の障害者と社長で店を切り盛りしている。
社長がカラフル食堂を始めた経緯は、自身の子供に障害があり、その子には夢が見られる職業に就かせたい、ならば自分で店を開こうという決意であった。障害者が作業所等で単純な作業に就いていることが多い現状を見て、そこに従事している障害者たちは将来の仕事に対する夢を持てていないことが、社長の心を動かしたといえる。
採用経路は地域障害者職業センター等の障害者雇用支援機関、特別支援学校、ハローワーク、障害福祉支援機関などである。採用にあたっては支援機関のジョブコーチを活用している。
2. 取り組みの具体的な内容とその効果
(1)労働条件
障害のある従業員は1日6時間労働の週5日勤務である。2交代制で、早番が9:30~15:30、遅番が17:00~23:00となっている。給与は時給692円+食事付きである。
1日の勤務を6時間としたのは、6時間が一番質の高い仕事ができ、6時間を超えると仕事の効率が落ちるからとのことである。
(2)取り組みの具体的な内容
仕事は、調理、掃除、弁当製造と販売、接客を各自が分担して担っている。障害者同士連携ができているようで、驚いたことに、それで評判の店を運営できているのである。秘訣をいくつか聞いてみた。
ア | 採用当初は、この人に何ができるのかを考え、どれかの作業に就かせる。わからないときには色々な作業を体験させ、得意な作業を探す。本人の興味が大切である。教えるときは手本をやって見せて、そして誉めることを繰り返す。決めた作業を継続させ、そこを任せられるようにする。 |
イ | すべてのイスの背面に大きな数字を貼り、注文や配膳の際の目印にする。 |
ウ | 料理は皮むきなど簡単な作業から始める。揚げ物は温度表示できるようにした。手順書や写真を作成して持たせたり掲示することで、作業手順がわかるようにした。 |
エ | 分業制にして作業範囲を狭める。接客係、調理(炒め物係と揚げ物係)係、全体調整係など。社長の役割は、全体を見て、足りないところをサポートすることと、経営管理。 |
オ | 支援機関のジョブコーチは障害者の心のメンテナンスとしての効果が大きい。ストレスが溜まると、話を聞いてもらい、溜まった気持ちをはき出すことでリフレッシュできる。 |
(3)効果
以上の取り組みを行うことで、3か月で障害者だけで仕事ができるようになった。ひとりが確実に覚えれば他の人に教えて、その人が覚えるという連鎖が起きる。
しかし、従業員の1/3は入れ替わっている。継続している人の特徴は、①自信がついて性格が明るくなった、②社会で働きたいという強い意欲がある、③つらくてもがんばれるの3点である。
(4)障害者の声
21歳の視覚障害がある女性従業員に話を聞いた。2011年3月に専門学校を卒業してカラフル食堂に就職した。「接客がしたかったので満足している」「ここではいろいろなことをさせてくれる」と明るく語ってくれた。「〇〇したい」という意欲を重視し、チャレンジすることを積極的に後押ししている社長の姿勢がうかがわれた。
また、他の従業員からは、「社長や支援機関の人たちが、支援する側、される側という上下関係ではない形で、同じ高さの目線で支援してくれるのがありがたい。よいガス抜きになっている」と語り、社内外のよい支援を受けて働いている様子がうかがわれた。


3. 就業支援機関の活用
障害者雇用に当たっては、外部の就業支援機関を活用しており、多くの障害のある従業員が支援を受けている。支援者は地域障害者職業センターのジョブコーチ、社会福祉法人等の第1号職場適応援助者などであり、特に対象となる障害者を雇用する前後には頻繁に支援に入ってもらっている。今までに支援を受けた障害者は30名を超えている。
また、福岡地区に4カ所あるハローワーク、地域障害者職業センター、近隣の障害者就業・生活支援センターなど、多くの支援機関を活用しており、それぞれの支援機関も連携しながら支援している状況である。
具体的な支援は、支援対象障害者に対して、仕事を離れたところで一緒に食事を取りながら悩み事などの相談に乗り、問題の解決に取り組むことが中心となっている。そして、人間関係でトラブルとなり、職場不適応状態になるなど、職場で起こる問題に対して、職場ですぐに対処し、大きな問題に発展する前に解決している。また、頻繁に親身になって接することで、障害のある従業員たちからの信頼も得ている。
カラフル食堂の方針として、作業はカラフル食堂のスタッフが教える、障害のある従業員の精神面へのサポートを外部の就業支援専門家に依頼することとしている。そうすることによって、障害のある従業員が職場のスタッフには言えない悩みや相談事の解決を図っている。
ここで働く障害のある従業員は生活面での支援が必要な者も多く、就業に伴う生活面の支援を行っている障害者就業・生活支援センターの活用は必須のようである。そして、多くの機関が関わっていることから、必要に応じて、カラフル食堂、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターの各スタッフ、社会福祉法人等の第1号職場適応援助者が集まり、支援に関するケア会議を開催している。これにより、統一した対応になるように工夫しているのである。
松本社長は、「外部の就業支援専門家は、障害者の離職を防ぐということのみをめざすのではなく、障害のある従業員の人生に関わってくれている。人生に関わるという仕事はとても大切であり、価値のある支援だ」と述べている。
さらに松本社長は、就業支援機関の支援を受けるだけでなく、地域障害者職業センターの新人ジョブコーチの研修では教える側に回り、障害者が働く職場の実態や、経営者の考え方などを教授している。
4. 今後の展望
店舗増に伴い、障害者5名、障害のない従業員3名を増やした。障害種別も様々である。松本社長は、最終的には弁当製造工場を設立したいと考えている。もちろん障害者雇用のためにである。「1店舗にひとりの障害者」ではなく、「1店舗にひとりの非障害者」を目標にしたいとのことである。障害のない人で店を任せられる人材がいればもっと店舗を増やし、障害者雇用ができると、障害のない人でサポートできる人材を切望していた。
最後に障害者雇用を考えている企業にメッセージをいただいた。
「障害のためにできないことがあるのは仕方がない。できること、得意なことを早く見つけてそれを伸ばすことが人材育成になる。何もできない人はいない。」「ここでできるのだから大手フランチャイズ飲食店でもできるはず。やり方は同じで、もっと作業が合理化されている。経営者がその気になれさえすれば!」
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