障害者雇用を前提とした経営の合理化と作業効率向上をめざす
- 事業所名
- 株式会社弘前ドライクリーニング工場
- 所在地
- 青森県弘前市
- 事業内容
- ホームクリーニング、リネンサプライ、ダストコントロール
ユニフォームレンタル、一般用貸布団、医療・福祉関連施設寝具等 - 従業員数
- 210名
- うち障害者数
- 16名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 受付、仕上げ 内部障害 知的障害 14 仕分け、洗い、仕上げ 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
(1)沿革
S23.9 | 弘前市在府町、木村産業研究所の工場の一部を借りて、従業員5名でクリーニング、染色の営業開始をする。 |
S38.2 | 重度障害者1名が初めて入社した。 (S38.9 新たに共立寝具を設立し病院の基準寝具関係の業務を移行する。) |
S49.5 | 旅館・ホテル関係の仕事の増加により、リネンサプライ新工場を建設する。広野工場とし、従業員11名で発足する。 |
S56.1 | 国際障害者年の初年度に重度障害者多数雇用事業所施設として広野工場を増築。新たに障害者11名が就労する。 |
S57.9 | 障害者雇用優良事業所として青森県知事表彰を受ける。 |
S60.9 | 障害者雇用優良事業所として厚生労働大臣表彰を受ける。 |
H 4.1 | 最新式の機械を数台増設し、障害者就労が22名となる。 |
H14.11 | 広野工場ISO9001:2000取得 |
H16.4 | 広野より門外に工場移転。バックモノレールシステム採用のほか、国内でもトップクラスの最新鋭設備を導入。 |
H22.12 | 本社工場を門外に移転。ユニフォーム、おしぼり対応の最新鋭設備導入。 |
(2)組織、事業概要
弘前ドライクリーニングにおいては、ホームクリーニング事業部とユニフォームレンタル事業部、リネンサプライ事業部、おしぼり事業部、ダストコントロール事業部を持ち、一般クリーニングはもとより、ユニフォームレンタル(クリーニング含み)、ホテルアメニティ(宿泊施設用品)販売、マット・モップレンタル等総合的な環境関連サービスを展開しており、市内2か所に工場を持ち営業している。
それぞれの工場においては、激化する競争に耐えられるように、ISO9001:2000を取得し、徹底した品質管理を行うとともに、顧客のさまざまなニーズに応えられる商品提供体制を確立している。
営業区域は、青森県津軽地方を網羅するとともに、下北地方では地元同業者と連携し、営業を展開している。また、営業区域にある同業他社との共存、共栄を図るために、技術提供、指導も行っており、地域の信頼を得る努力を重ねている。
株式会社弘前ドライクリーニング工場は昭和38年9月に設立した共立寝具株式会社及び有限会社コスモス商会とでグループを構成しており、グループ全体の従業員数は弘前ドライ210名、共立寝具119名の計320名であり、うち障害者は33名となっている。
2. 障害者雇用の経緯と雇用状況
(1)障害者雇用の経緯
先代社長久保栄三(創業者・故人)は社会福祉活動、社会貢献については人一倍強い思いがあり、障害者の就労、生活についても強い関心を持って経営にあたっていた。障害者雇用のきっかけは、日本が高度成長時代に入り、所得倍増、東京オリンピックと沸き立ち、多くの若者が金の卵ともてはやされ集団就職で関東方面に出ていき、地方では極端な人手不足に陥り、人集めに苦労していた頃に遡る。そのような時期に、知人から重度聴覚障害者を紹介され、昭和38年2月に採用したのが最初であり、その人が一生懸命に働いてくれたことから、引き続き障害者を採用するようになった。
また、これ以来、障害者の採用に係わり、公共職業安定所や養護学校(特別支援学校)などに障害者の就労等の実情を聴き歩くうちに、肢体不自由児者親の会役員はじめ、障害者の関係者との交流を持つようになっていた。
そんな折の昭和53年に協力関係にあった社会福祉法人七峰会が知的障害者通勤寮拓心館を開設し、養護学校卒業生、知的障害児・者施設、在宅から利用者を迎え、寮において生活支援をしながら、公共職業安定所や事業所の協力を得て就労支援を行う事業を開始し、加えて通勤寮職員が障害者の業務支援(現在のジョブコーチにあたる)を行ったことにより、当グループの知的障害者の雇用が増えていった。
このことを通じて、先代社長は障害者の就労の場をさらに拡大していく必要性を痛感していたが、コスト、生産性など経営面のリスクが壁となっていた。そのような時に、障害者雇用についての助成制度を知り、公共職業安定所の支援と、社会福祉法人七峰会の協力を得て、障害者雇用の施設を作る決意を固めた。途中様々な問題を乗り越え、昭和56年1月に青森県で最初の重度障害者多数雇用事業所を始めることができた。この時、通勤寮拓心館利用者の中から、新たに11名の障害者を採用している。
障害者の担当する業務は当初、簡単な仕分け、運搬等の労務に限られていたが、最新鋭設備の導入や、業務の工程を分化し、機械、器具の工夫、改善を繰り返してきたことにより、障害者の適応できる工程が大幅に増加していき、職域拡大が図られると同時に、品質の向上と生産性の向上が図られた。
それまでの障害者雇用への取り組みが評価され、昭和57年に障害者雇用優良事業所として青森県知事表彰を受け、昭和60年には厚生労働大臣表彰を受けた。
(2)障害者の状況と業務内容
平成24年2月1日現在、在籍する障害者の状況と業務内容は次の通りである。
年齢区分 | 人数 | 構成比 | 身体重度 | 身体重度外 | 知的重度 | 知的重度外 |
60歳以上 | 0 | 0.0% | ||||
50歳以上60歳未満 | 5 | 31.2% | 1 | 1 | 1 | 2 |
40歳以上50歳未満 | 4 | 25.0% | 2 | 2 | ||
30歳以上40歳未満 | 3 | 18.8% | 1 | 2 | ||
20歳以上30歳未満 | 4 | 25.0% | 4 | |||
20歳未満 | 0 | 0.0% | ||||
合計 | 16 | 100.0% | 1 | 1 | 4 | 10 |
最年長(歳) | 59 | 構成比 | 6.25% | 6.25% | 25.0% | 62.5% |
最年少(歳) | 22 | |||||
平均年齢 | 41.5 |
勤続年数区分 | 人数 | 構成比 | 身体重度 | 身体重度外 | 知的重度 | 知的重度外 |
30年以上 | 1 | 3.0% | 1 | |||
20年以上30年未満 | 5 | 45.5% | 1 | 1 | 3 | |
10年以上20年未満 | 4 | 30.3% | 3 | 1 | ||
5年以上10年未満 | 2 | 6.1% | 2 | |||
5年未満 | 4 | 15.1% | ※1 | 3 | ||
合計 | 16 | 100.0% | 1 | 1 | 4 | 10 |
最長(年) | 31 | ※勤続年数14年であるが障害を持ってからは1年。 | ||||
最短(年) | 0.8 | |||||
平均年数 | 14.0 |
上表からも分かるように、知的障害者が87.5%になっており、知的障害者に対して業務内容がよく適応されていることがうかがわれる。
(業務内容)
① 営業部 営業所受付:身体重度外1名
② 生産部
- 仕分作業 搬入された寝具、リネン品を種類毎に仕分けし、洗いに回す。
知的重度2名、知的重度外2名

- 洗場 仕分された品物を洗濯機、乾燥機への出し入れをして、仕上げ又は干場に回す。
下着:知的重度1名

- 下着干し作業 洗濯後の品物(乾燥機に入れられない品物)をハンガー掛けして、乾燥室への出し入れをする。 障害者配置なし。
- 仕上げ作業
- ○ 寝具、病衣、枕カバー、シーツ
仕上げロール機へ、シミ、破れを確認しながら機械がけをする。
身体重度1名、知的重度外4名
- ○ 寝具、病衣、枕カバー、シーツ

-
- ○ クロス 知的重度外2名
- ○ 下着 知的重度1名
- ○ 浴衣 知的重度外2名
3. 取り組みの内容
(1)社員教育
毎朝、作業前に社員が一堂に会し、簡単な朝礼を行い、社是である「健全なる生活、健全なる工場、健全なる人生」に関連する小講話や、連絡事項を行い、気持ちを引き締めるとともに、社員の和合、志気の高揚に気を遣っている。
(2)作業員の配置の工夫
就労開始にあたっては、津軽障害者就業・生活支援センターの協力を得て、当該障害者の特性や性格を把握し、工場担当者と作業の適性と能力等をすり合わせ、担当業務を決め、ジョブコーチ支援を依頼している。
また、障害のある職員とない職員とが共に作業をすることで、作業状況を把握しながら、声がけを行うことで励まし、指導を繰り返している。このことによってお互いの信頼関係も構築され、不安や緊張の緩和に役立っている。また、業務意欲や能力の向上が図られなかったり、低下が見られる障害者は担当変更など、別な作業工程に変更し、就労継続が図れるよう努力をしている。
(事例)知的障害者であるSさんは平成22年に通勤寮拓心館に入寮しながら、障害者職業訓練校実務科に入校、卒業後、平成23年3月に弘前ドライクリーニング工場に採用され、リネン品仕分作業を担当したが、作業に集中できず、業務能率が上がらないまま、作業意欲も低下していた。このことについて、就業・生活支援センターと協議し、5月にジョブコーチをつけながらカウンター付きの枕カバーの仕上げ作業に担当替えしたところ、その作業に興味を持ち始めた。同僚の職員から声がけされたり、励まされたりしているうちに作業能力が向上し始め、今では、情緒も安定し、作業に対して自信がつき、作業意欲が回復し、作業成果も向上している。
(3)作業設備、機器の工夫
① | 障害者の作業継続意欲を喚起し、作業能力を向上するための工夫として、障害のない従業員を含め、作業(枕カバー(ロール)の仕上げ作業)量をリアルタイムで把握できるカウンターが作業機械に設置されている。1分間に何枚(各自の能力にあった枚数)という設定をしておき、設定枚数を下回った時にブザーが鳴る仕組みとなっている。したがって、作業効率が落ちた時や、作業位置から離れ枚数が減った時にブザーが鳴る。このことによって、時間の活用の大切さを自覚するようになり、障害者のみならず全職員の就労意識の高揚につながり、作業量の増加に結び付いた。
![]() 枕カバーカウンター
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② | 顧客から回収されたリネン品に異物が混入していることがあり、それを検出するために、リネン品がコンベアーを通過する時に金属探知機を通してから仕分けすることで異物除去の効率を向上させるとともに、障害者の作業としての職域拡大が図られた。 |
③ | たたみ機(フォルダー)のつまりを早めに把握し、作業の遅延を最小限にするための工夫として、つまり検知センサーを設置。機械の停止、つまり解除処理、機械の再稼働工程の簡便化が図られ、障害者の作業として職域拡大が図られている。
![]() つまり検知センサー
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(4)目標設定と報奨制度
障害のある人もない人も同一の作業内容であり、工場が設定している一日の作業量の目標値を、障害者を含めた全職員で超えた時は、全職員にその超えた作業量分について報奨金を支給する制度を設けている。このことにより、全職員に一体感が生まれ、動機づけが行われ、作業意欲の向上、ひいては作業量の増加が図られており、結果として工場全体の生産性が向上し、職員の収入増加にも繋がっている。
(5)障害者就労支援機関等との連携
これまでの経緯、経過があり、当グループと社会福祉法人七峰会との協力関係は現在も緊密に続いており、現在、グループ全体で雇用されている30名の知的障害者中11人が、同法人の通勤寮、グループホーム、ケアホームに生活拠点を置きながら通勤している。また、就労している障害者の健康状態等に変調があったときは、津軽障害者就業・生活支援センターと相談しながら対応するとともに、勤務状況、生活状況などの情報交換を行うためにセンター職員の訪問を受けている。
4. まとめ
事業の拡大と共に、障害者の雇用について熱い思いのあった先代社長と障害者の就労に情熱を傾けた肢体不自由児者の親の会役員(現社会福祉法人七峰会理事長)との出会い、公共職業安定所の支援(助成金)が青森県初の重度障害者多数雇用事業所の開設に繋がり、その後、当グループは障害者の雇用が柱となり事業の発展を続けてきた。
しかし、その後、バブル景気崩壊、デフレ、低成長経済へと時代は変化し、業界も厳しい競争に晒された。そのために、最新鋭の設備を導入し作業工程のごく単純な部分は自動化して省力化を図り、判断の必要な業務についても機器を活用するなど工夫・改善を進めるとともに、高い品質の追求とその維持、そのことに裏付けられた適正価格の提示を行うなど、さまざまな要望を持つ顧客からの信頼を得る努力を行ってきた。その結果、成果も充分なものが得られるようになり、経営環境が整ってきた。
このような、工夫、改善は一朝一夕に実現してきたものではなく、当社の社訓である「労働と正義は能率であり、問題意識は工夫であり、進歩である」が日々実践され、障害者を含めた全職員がともに努力してきたからこそのものであると実感した。
また、当グループは早くから障害者に係わる教育機関、行政機関、先駆的な社会福祉法人等との係わりを強め、深めていったことにより、雇用、福祉の包括的な障害者支援サービスの一翼を担い、自らもその事業目的を果たしながら発展してきている。このことは業種を問わず大いに参考とすべきであると思った。
久保弘之社長は今回の取材の中で、この業種は障害者に向いていると話していたが、障害者雇用を前提として経営の合理化と作業効率の向上をめざし、障害者に向くよう改善の努力を行ってきた当グループの姿勢とその成果を表現する一言であった。
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