障害者との「出会いの場」を積極的に求め、規定数以上の障害者の雇用を実現する
- 事業所名
- 岩手中央タクシー株式会社
- 所在地
- 岩手県盛岡市
- 事業内容
- 一般乗用旅客自動車運送事業(ハイヤー・タクシー)、建物賃貸事業、訪問介護事業
- 従業員数
- 200名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 4 タクシー乗務員 内部障害 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
昭和27年12月に設立。本社のある開運橋通のほか、盛岡市内に4カ所、滝沢村と花巻市に各1カ所の計6カ所に営業所を置く。昨年創業60周年を迎え、新たに経営理念として「GO OVER THE TAXI」を掲げて多種多様なニーズに応えている。
5~6年前には、出産予定の女性を対象に登録制で24時間体制の配車を行う「出産応援タクシー」、子供が一人で移動しなければならない状態が発生した際に対応する「ちびっこ応援タクシー」、保護者が病気の時に子供とともに病院に連れて行き、保護者が受診している間、病院内で乗務員が子供の世話をする「親子応援タクシー」などの「子育て応援タクシー」事業を展開。その後、地元の鉄道会社IGRと組んで県北エリアから盛岡の病院に通院する人を盛岡駅から病院まで輸送する「IGR地域医療ラインタクシーサービス」、ヘルパー資格を持った乗務員が通院や外出をサポートする「介護タクシー」など、現代社会のニーズに対応したサービスを展開している。
「介護タクシー」については、当初は、車いすをのせることができる軽自動車を使った「福祉タクシー」として営業していた。それは、長年顧客だった人が高齢者になって車いすで生活するようになったことがきっかけだった。しかし、そのうちニーズがどんどん拡大したことから、ストレッチャー寝台車を導入し、介護保険制度も使えるようにシステム化。こうした徹底したサービス精神・顧客第一主義は、現在の社長の意向が大きいという。
また、平成28年度からのデジタル化に先駆けて、昨年秋から配車センターにデジタル無線システムを導入。そのおかげで年末の忘年会シーズンには多くの受注を獲得し、売上げを伸ばしたそうだ。
さらに環境への配慮にも積極的で、岩手県内の中古販売店の会社に依頼し、それまでガソリンまたは電気を燃料としていたハイブリッド車にLPガスを使うオリジナル車を開発してもらった。これにより燃費も良くなり、また、去年の震災直後のガソリン不足の時にも、ホテルで「缶詰状態」となった県外からの観光客やビジネスマンを秋田県の空港に搬送するなど、大いに活躍したという。
同社の現在の車の保有台数は106台で、そのうちハイブリッド車は23台。上記のような新しい事業により業績は好調なことから、今後さらにハイブリッド車を増やす予定だ。
(2)障害者雇用の経緯
最初の雇用は16年前。当時の社員から「知り合いで股関節障害の男性がいるのだが、そのような障害を持っていると、会社で乗務員として雇用することは難しいのだろうか」と打診があった。その男性は、立ち仕事は無理ということもあってなかなか就職先が見つからなくて困っている、ということだった。それに対して当社から、タクシーの乗務員に必要な普通自動車二種免許を採用面接の日までに自費で取得してもらえるのであれば、障害を理由に不採用とすることはないことを伝えたところ、その後、ハローワークから紹介され、面接の結果採用となった。仕事内容は、乗務員として車両の運転のほか、運転前の点検と運転後の清掃など。ふだんの生活で歩くことに支障はないので、お客様からの依頼があれば他の乗務員同様、荷物の出し入れや乗降のサポートなどもこなす。車両清掃は作業によっては大変な時もあるようだが、障害のない社員と同じ雇用条件なので、よほど無理なこと以外は基本的にこなしてもらっている。
一人目の方がまじめにしっかり仕事をしてくれたことから、同社では「障害者でも仕事ができる」と確信し、その後も3人の障害者を雇用している。2人目は10年後の平成17年、3人目は平成19年、4人目は平成21年だ。
ハローワークで「タクシー乗務員」の障害者求人を出しても応募が全くなかったが、年1回行われる労働局(ハローワーク)主催の「障害者就職相談会」で3人目の人と4人目の人を雇用することができた。この「障害者就職相談会」は企業ごとにブースが設けられて行うものだが、企業側が一方的に説明することがメインではなく、企業に興味を抱いてブースにきた障害者が自分の希望や考え方など話すことをメインとしている。そのため、どちらかというと企業側は「聞く立場」であるとのことだ。しかし、それによってその障害者の仕事への希望や考え方が良くわかるので、逆に企業側から具体的な話もできて結果的に雇用に結びつくようだ。
同社の総務部長・上山吉彦さんは「おそらく障害者自身がハローワークにも障害者の募集がきていることを知らなかったり、或いは、遠慮して足を運ばなかったりしているのではないでしょうか。ですから、この障害者就職相談会のような場が増えると、もっと企業と障害者が出会うことができ、さらに『マッチング』につながるのだと思います」と話す。
ちなみにこの時採用した2人のうち1人は、ふだん車いすを利用していないが趣味で「車いすバスケット」のチームに所属して楽しんでおり、その集まりの場で仕事や職場の話をするという。「こういうつながりも障害者雇用には大切ではないでしょうか。これがタクシー乗務員という仕事に興味を持ってもらって採用につながることを、祈っています」と上山部長は期待している。
この2人はともに左大腿部切断のため義足だが、障害のない社員同様、車両の乗務・点検・清掃をこなしている。
4人のうち2人は8~21時の昼勤務、2人は21~翌8時の夜勤務である。
2. 取り組みの内容
障害者を雇用するまで同社の営業所のトイレはすべて和式だった。そこで4人を配属する営業所についてはトイレを洋式に改装する必要があったことから、建物構造と周辺の建物立地を考慮して、上ノ橋営業所と滝沢営業所に配置。前者は近くに官庁街があり洋式トイレが設置されている公共の建物が集まっていることが、後者はその上ノ橋営業所から北に車で20~30分という位置なので市内北部を運転中の場合立ち寄りやすいだろう、ということが理由だ。またそれぞれの営業所のトイレは、スペースも広くした。営業所の駐車場や事務所にはもともと段差がないので、それ以外のハード面の改装を行う必要はなかったという。
また、同社で導入している車両のひとつ「トヨタコンフォート」は、タクシー仕様で、高さやドアの開く角度が大きいので、これを4人に配車して乗り降りに不自由がないよう配慮している。ちなみに「プリウス」はタクシー仕様ではないので、配車は避けるようにしているそうだ。
一方ソフト面では、障害のない社員の理解が大きく、冬季など大変な作業の時には手伝うこともあるそうだ。こうした作業は、障害のない社員と同じ給料で働く障害者にとって本来の業務なので会社としては免除したり他の社員に手伝うよう指示することはできない。だからその分他の社員が見かねて手伝うのだろう。これは同社としては無意識だろうと思われるが、結果的に障害者にとって働きやすい雰囲気がつくりだされているようだ。


3. 取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
上記のように障害者が同社で働くうえでハード面の問題はなく、社員の仲が良くて雰囲気も良いせいか、4人とも満足して働いているようだ。また「逆に、障害のない社員が障害者の社員をサポートすることで、自然に社内の雰囲気がより良くなっているということも考えられる」という上山部長の言葉のように、障害者雇用によって会社全体がまとまる、という効果もあるようだ。
このように職場の雰囲気が良く仕事にも満足しているようで、4人はそれぞれ16年、6年、4年、2年と継続して勤務している。特に最初に雇用になった障害者は今年64歳で同社の定年年齢に達しているが、70歳まで延長できる制度を利用して勤務しているという。4人とも勤務態度もまじめで、「タクシー会社は所有している車を効率よく動かさないと売上げに結びつきません。そのため、乗務員の急な休みが一番困るのですが、4人に関してはそういうことはないので助かっています」と上山部長は話す。
(2)今後の展望と課題
前述のように同社では、今後、乗務員も増やしたいと考えているが、乗務員については障害のない人の応募が少ないという。そこで障害者の雇用を増やしたいと考えている。ただひとつ問題なのが、乗務員に必要な普通自動車二種免許を取得するのに20数万円の費用がかかる点だ。これを負担できずに就職をあきらめる障害者もいるようなので、「この費用を国や自治体などで障害者に助成してくれると、もっと障害者の雇用が広がるのではないでしょうか」と上山部長は話していた。特にタクシーの乗務員という仕事は自分のペースでできる点から障害者にとって働きやすいように思えるので、検討が必要ではないだろうか。
また、上山部長は支援機関に対して、「企業と障害者の出会いの場をもっとつくってほしい」と注文する。たとえばハローワークで、障害者向けのブースを設置してもらうだけでも雇用状況は変わるのではないか、と推測する。障害者の雇用については仕事内容や細かい会社規程などを伝えるための「直接対話」が必要なので、企業側から障害者に説明する場がほしいという。
ところで同社では5年ほど前にハローワークから、両足が義足の障害者の雇用を打診されたことがあった。両足が義足の場合は一般車両の運転は難しいので、トヨタ自動車の系列の会社と専用車の開発を検討したという。しかし実際、この車を運転するのはその障害者一人であることから、その障害者が休みの日や退職後は使えず企業としてリスクが大きいため、開発をあきらめたそうだ。ただ逆に、障害者が専用車を買い取ることができるシステムをつくるなど問題が解決できれば、両足が義足の障害者の社会参加も可能であり、障害者雇用に関する社会の認識もさらに良い方向に変わるのではないかと思われる。上山部長の話によると、県内のタクシー会社など輸送・運送業界では障害者の雇用はほとんど行われていないようなので、県内の障害者雇用の活発化のためにも検討の余地があるのではないだろうか。
ちなみに同社は乗務員以外の経理職でも、将来的には車いす利用者などの障害者を雇用したいと考えているそうだ。経理職は椅子に座った状態で仕事をするので、車いす利用者でも働けるからだ。ただ、それ以外の事務職の男性については、必要な場合には乗務員として仕事をすることもあるので(男性事務職は乗務員を経て現在の仕事に就いているとのこと)、雇用は限られるという。
「障害者は労働に対しての様々なハードルを超える勇気がないと思う」と上山部長。そのため逆に企業側が障害者にもっとアピールすることが必要だろうとアドバイスしてくれた。
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