障害のない社員への教育で障害者福祉への理解度を高め、より良い職場環境づくりを通じて雇用を継続する
- 事業所名
- 合資会社東家
- 所在地
- 岩手県盛岡市
- 事業内容
- 飲食業
- 従業員数
- 60名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 4 調理、調理補助、食器洗い、出前 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
明治40年創業のそば料理店。初代は市内にある老舗料亭の板前頭だったこともあり、そばと割烹料理が看板だが、観光客の間では盛岡名物「わんこそば」の店として有名だ。毎年秋に開催する「全日本わんこそば選手権」には、県内外から多くの胃袋自慢が集まる。
かつてわんこそばの店は盛岡市内に数多くあったが、バブルの崩壊後次第に閉店に追い込まれ、現在は同店も含め数軒だけとなった。同店の場合、定番のそばメニューやオリジナルの「南部そば会席」「そば振舞」、人気の「特製カツ丼」など、わんこそばだけに頼らないメニュー構成と、弁当類の配達や宴会など多様なニーズに対応することで、老舗のそば料理店としての歴史を守り続けている。
本店のほか市内に3店舗、また外国人シェフによる欧風料理店「ジョアンズキッチン シャトン」、創業99年目にオープンした創作料理店「九十九草」、総菜屋「やまぼうし」の計7店舗を経営。そのうち4軒が城下町の風情が残る旧・葺手町に集中しており、その点でも観光客の人気が高い。また、これらの店では寄席や朗読会など各種イベントも開催。文化発信の役割も果たしている。
現社長・馬場暁彦氏は5代目。その父親の故・勝彦氏は、市議会議員や県議会議員を務め、福祉や社会教育、まちづくり、国際交流など様々な分野で活躍し、その名を県外にもとどろかせた。例えば、子供会の育成活動を行う「世代にかける橋」、リサイクルと障害者福祉をドッキングさせた「盛岡市民福祉バンク」、国際協力活動を行う「盛岡マニラ育英会」、「社会福祉法人いきいき牧場」の設立など。こうした活動はそれぞれのスタッフによって、現在も引き継がれている。
(2)障害者雇用の経緯
上記のように前社長の勝彦氏が福祉活動に熱心だったので、暁彦氏が社長に就任する前から、県北・一戸町の福祉施設「カナンの園 三愛学舎養護学校(現在の三愛学舎)」から毎年インターン・シップ生を受け入れ、「しっかり働くことができて本人も就職希望」の学生を正社員として雇用しているという。
現在勤務する女性の障害者の中でキャリアの長い人は、1年間にインターン・シップを3回経験した後、平成10年3月に社員に採用された。この女性が教えられたとおりに働くこと、障害者にできるだけ雇用の場を提供したいことから、同店ではその後も継続して採用するようになったという。この女性は繰り返し作業することで、仕事もより確実に身につけたのではないかと考えられる。
次に、男性の障害者の中で1番キャリアの長い人は、調理師として働いている。「この男性は児童養護学校和光学園より直接の打診があって雇用した人です。彼は調理師として何でも作り、しっかり働いてくれているので問題ありません」と暁彦氏。
そして暁彦氏の代になって採用したのが2人。最初は4~5年前で、岩手障害者職業センターのジョブコーチによる指導援助を受けた男性だった。「飲食店で働いていたが、対人恐怖症の症状があって口をきかないことからやめざるを得なくなった。でも言われたことはきちんとやるので、なんとか雇用してもらえないか」と言われた。そこで採用し、当初は洗い物などを担当させていたが、よく働いてくれるので、最近本人に「もう1ステップ上がろうか」と声をかけて仕込みの手伝いをさせているところだという。
2人目の女性は3年前に雇用した。インターン・シップでがんばっていたので、「このまま働ける?」と本人に確認したところ、大丈夫だというので採用を決めた。
「現在雇用している4人の障害者はみなよく働き、障害のない社員たちともうまくコミュニケーションをとっているのでまったく問題はない」と暁彦氏。しかしそれだけでなく、三愛学舎の場合は担当の先生が同店に宴会や食事で訪れるたびに様子を見たり聞いたりするなど気にかけてくれることから、安心して雇用できるという。この点も、障害者を継続して雇用するうえでの重要なポイントといえる。
そのほか正社員ではないが、聴覚障害の女性をアルバイトで雇用している。女性は、茹でたそばをわんこそばのお椀に盛る「うけちぎり」を担当。あとで詳しく述べるが、同店では手話教室を開催しているため手話ができる社員も多いことから、雇用に踏み切ったそうだ。
2. 取り組みの内容
インターン・シップの期間は社員でないので、同店では逆に丁寧に仕事を教えている。その際の仕事は、一番ハードルが低い作業である「食器洗い」である。しかし暁彦氏によると、わんこそばをやっている同店では食器洗いは大きな仕事の一つであり、それをきちんとやれるかどうかは、採用の基準の一つになっているという。そしてこれを経て採用になった障害者たちは、入社後すぐに即戦力として働くことができる。このようにインターン・シップ制度は、障害者雇用の面で利点が多いようだ。
同店では現場での仕事の指導は、配属された店の店長にまかせている。それだけに、店長との関係もポイントのひとつであり、10年以上働いている女性は入社時から指導してくれた店長を、ずっと信頼し慕ってきた。現在その店長は本店で勤務しているので、たまに本店が忙しい時に応援で行っても、すんなり入って仕事をこなすことができるという。
仕事を与える際に気をつけているのが、本人の許容範囲を超えた仕事は与えない、ということ。時々、精神障害者が職場でパニックになるといったトラブルの話を聞くことがあるが、暁彦氏は「それは無理なことをやらせているからではないでしょうか」と推測する。ちなみにインターン・シップで最初に仕事を教える時にも、特にトラブルはないという。
障害者を雇用する際、親など家族に理解してもらい協力してもらうことも、障害者が長く働くために必要なことだ。例えば同店の場合は、繁忙期には通常よりも忙しく働いてもらうことになってしまうが、「仕事をやれる、やれないは、障害者自身がきちんと判断し、それを口に出すことができます。私もそれを本人に確認し、そのうえで働いてもらっていますので、ご家族の方にもそれを説明して安心してもらうようにしています」と暁彦氏。また、「一般的に障害者と聞くと特別な印象を受ける人もいますが、そんなことはありません。障害のない社員と同じくらい、しっかり働くことができます。障害のない社員がふだん100働くところを繁忙期は150働くわけですから、障害者も、彼らにとってふだん100働いているなら、繁忙期は150近くまで頑張ってもらいたいんです。もちろんそれが許容範囲を超えることはありません」と話す。
また、何らかの手違いで障害者手帳を取得していなかった社員がいて、その者からの相談要望により手帳取得に係るアドバイスをしたことがある。そうした点も含めて障害者たちとはまめにコミュニケーションを図り、彼らが安心して生活できるようサポートすることも、これから雇用企業には求められるのかもしれない。
さらに、「良い職場環境をつくるうえで特別扱いはしない方がいい」というのも暁彦氏の持論だ。同店では昔から障害者を雇用しているうえ、新入社員研修では勝彦氏の福祉活動の話をすることで障害者福祉への理解を深めてもらっている。その結果、障害のない社員は障害者に対して特別視はしないが、一方で、フォローする気持ちを持って接しているという。このような障害者への理解度の大きさも、障害者を雇用する際には重要だ。
ところで同店の新入社員研修では、接客・マナー・礼儀・上記のような障害者福祉についてのほか、観光客を意識して盛岡の文化・観光・来店客に喜んでもらうためのエンターティナーとしてのノウハウなども学んでもらうという。
ほかにも、一部店舗ではあるがトイレをユニバーサルデザインにする、全店の接客担当者を対象に手話教室を開く、一部の店には点字のメニュー表を置く、といった障害者への配慮も丁寧で、それが障害のない社員の意識を高め、障害者を受け入れる体制づくりにつながっている。「障害者の雇用の場を生みつつ、障害のない社員への教育にも手を抜かないことが大切」と暁彦氏は言い切る。
3. 取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
上記のとおり、職場でのトラブルはほとんどない。障害のない社員たちと、一般的によくあるような軽いけんか程度のやりとりはあるようだが、大きな問題になることはないそうだ。「たぶん同じ知的障害でも、うちの社員たちは程度が軽い方なのかもしれません」と暁彦氏。一方で、障害のない社員たちと休憩時間に会話したり一緒に食事をとったり飲み会に参加するなど、交流も多い。
現在、大手先店で働いている女性は食器洗いやわんこそばの「うけちぎり」作業のほかに、5年以上前から近隣の出前にも行っていて、「お客さんとの会話や一緒に働いている人とのおしゃべりが楽しい」と笑顔で話す。また、「一緒に働く人たちはやさしい人ばかり。たまに落ち込んで見えないところで泣いていると、なぐさめてくれるんです」と嬉しそうだ。出前では最初は迷って届けることができなかったり料金の計算を間違えたりして泣いたこともあったが、店長や同僚の対応がやさしくて安心したという。女性のこのような話を聞くと、同店の社員への障害者教育が現場でしっかり生きていることがよくわかる。また女性にとって、三愛学舎の先生が年1~2回連絡をくれることも大きな支えになっているようだ。女性は現在家族と離れ、ケアホームで暮らしていることもあって、先生たちは生活面でアドバイスしてくれることもあるという。


(2)今後の展望と課題
「今後も機会があったら障害者は雇用したい」と暁彦氏。今後障害者の雇用を検討する予定の企業に対しては、「障害者だってちゃんと教えればこれだけ仕事ができる。それなのに、障害を持っているからという理由だけで雇用しないのは良くないと思います。構えず、やれる範囲でやらせてみるのがいいのではないでしょうか」とアドバイスする。
一方で、「うちがうまくいっているのは、障害のない社員が障害者福祉についてきちんと理解しているから」と断言する。机上の障害者教育だけではそうした理解は得られにくく、障害者が実際に働いていたり社会参加している現場や実績を見せないと、心から理解してもらうのは難しいだろう、と暁彦氏は話す。
また、施設のサポートの役割も大きいという。同店の場合は、生徒を雇用してもらった三愛学舎がその後何度も店に足を運び、様子を見に来たりする。こうしたサポートは、学生を送り出す側と受け入れる側の信頼関係を強め、最終的に障害者が働きやすい環境づくりにつながるといえる。
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