「聴くこと」で誰もが働きやすい環境をつくる
- 事業所名
- KM仙台タクシー株式会社
- 所在地
- 宮城県仙台市
- 事業内容
- 一般乗用旅客自動車運送業(タクシー業)
- 従業員数
- 183名
- うち障害者数
- 10名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 8 タクシードライバー 内部障害 2 タクシードライバー 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
KM仙台タクシー株式会社はその前身である中田タクシー及び日の出タクシーが平成4年に合併し、みちのく交通となった後、平成6年に東映タクシーを現住所に誘致し国際交通と名称変更したことを経て、平成17年から国際交通のKとみちのく交通のMの頭文字をとって現在のKM仙台タクシー株式会社となっている。
仙台タクシーグループ会社の一つとして、主な業務はタクシー業並びにプロドライバーの派遣事業も展開している。
平成24年1月現在の従業員数は派遣を含むと183人。そのうち障害のある従業員は10人で、2人が人工透析を必要とする重度の内部障害者、ほか8人は上肢や下肢に障害がある身体障害者である。
東北自動車道仙台南インター近く、仙台市内外どちらへもアクセスが非常によい立地にあるKM仙台タクシー株式会社事務所に渡邊執行役員専務取締役を訪ね、障害者雇用についての思い、取り組みについてお話をうかがった。

2. 障害者雇用のきっかけ、定着への取り組み
(1)障害者雇用へのきっかけ
KM仙台タクシー株式会社では、その名称となる以前(40年以上も前)から障害者雇用に取り組んでいる。当初は、タクシードライバーではなく内勤の事務職として配車係や経理の職種で、身体に障害のある人を雇用していた。そのきっかけについて、渡邊専務は「特別に障害のある人を…と意識したというよりも、地域の人で仕事を任せられる人を自然と受け入れてきた」と言う。以後、障害者を対象とした合同面接会に参加するなどして随時採用していく中で、現在は人工透析をしながら勤務する人や、上肢に障害があるため義手を装着している人などが、タクシードライバーとして日々活躍している。
タクシードライバーは日勤だけではなく深夜の勤務もあり、様々なお客様のニーズにその場その場にあわせて適切に応えなければならず、体力的にも精神的にも難易度の高い職種である。そのため、業界全体としても慢性的な人手不足の状態と言える。その中で、KM仙台タクシー株式会社では現在働く障害のある人たちはみな継続して勤続年数を重ねており、最も長い人は勤め始めてから10年ほどになると言う。
しかも、いずれの人もそれまでタクシードライバーの経験はなく、KM仙台タクシー株式会社に勤めてから事業所のサポートを受け自動車2種免許を取得しドライバーとなった。仕事に慣れるまでには、本人の努力ももちろんであるが、定着を支える事業所の配慮や職場の環境が大きな力となっていたことだろう。その中で昨年、勤務態度や接客対応、業務実績などを総合的に評価され、社内で優秀ドライバーとして表彰されたのは、障害があるために人工透析を受けながら働く人であった。
(2)定着への取り組み
① | 個々の状況に合わせた勤務体制作り このように、タクシードライバーというお客様の安全を守り、かつスピーディに快適に目的地にお送りしなければならない仕事は、一般でもなかなか定着しにくい職種にも関わらず、KM仙台タクシー株式会社においては多くの障害がある人々が定着している。 その秘訣について、渡邊専務は「特別な対応はなにもなく、まずは聴くこと」であると話す。 KM仙台タクシー株式会社では、障害の有無によってタクシードライバーの給与や待遇などに区別はない。その一方で、勤務のシフトについてはその障害状況に合わせて調整し、日勤のみ、夜勤のみ、あるいは週3日勤務というように柔軟に対応して、一人一人が働きやすい環境をつくっている。 |
② | コミュニケーション-聴くこと- そして、このことは実は障害がある人だけが特別ではなく他のドライバーであっても同様であり、以前から個々の事情に配慮した勤務シフトを組んでいるというのだ。障害と言うほどでなくとも自身の持病や家族の事情(介護や養育など)により、フレキシブルな働き方を希望するドライバーは少なくない。一方で事業所側も、毎日一定数のタクシーの稼働台数を確保することが経営の安定に繋がる。そのため、従来からドライバー1人1人と上司が日常的にコミュニケーションをとり、お互いに働きやすい環境を整えているのだ。これは日々の積み重ねであり容易なことではないが、安心して働ける環境を作り労働者の職場定着を促進する。また、日頃の心身の健康管理の意味も持ち、些細なきっかけから不適応となることを未然に防ぐ大きな働きを持つと思われる。 |

健康チェックだけでなく上司とのコミュニケーションの大切な機会

-障害特性に合わせて互いに協力-
③ | 一人一人と向き合う 「聴くこと」は、採用の時点でも重要なポイントとされている。現在、KM仙台タクシー株式会社で雇用しているのは身体や内部に障害のある人だけだが、以前は知的障害のある人も採用した。渡邊専務は採否を検討する時には単純に障害名で選別するのではなく、いろいろな話をしてその人の人柄を知り、その人の事情を把握し事業所が求める仕事を任せられるかどうかで判断するという。一部の仕事ができるのであれば残りのできない部分を周りでどう補っていけるかを考える。 実際現在働いているタクシードライバーで上肢が不自由な人は、運転に支障はないもののシートの交換や洗車を単独で行うのが難しいため、その部分は上司が手を貸しており、その時間がお互いのコミュニケーションの時間ともなっている。 残念ながら、以前に雇用した知的障害のある人は、いずれも自動車2種免許は取得したものの、運転中の突発的なことへの対応が十分にできなかった。そのため、事業所としては仕事をする上での課題などを話し合ったが、本人のドライバー職への希望が強く、結果的には自ら離職していくこととなった。 しかし彼らは現在異なる仕事に転職しているとのことで、その様子からは、辞めるまでの話し合いで事業所が本人の気持ちを聴いた上で、できていたこと・仕事としては難しかったことなどを話したことが、次の就職に繋がっているように思われた。 |
3. 共に安心して働く仲間として、まとめ
(1)共に安心して働く仲間として
KM仙台タクシー株式会社での障害のある人の採用のポイントは、障害の種類や程度ではなく、受け答えの穏やかさ、挨拶や基本的なコミュニケーションがきちんとできることや素直さや謙虚さであるという。渡邊専務は、「運転業務ということで、突発的な事柄への冷静な対応が適切にできることが必要となるが、その点をクリアーできるのであれば、精神の障害のある人の雇用も特別なことではないと考えている」という。
実際、最近障害者雇用ではなく一般雇用で入社したタクシードライバーで、精神的な疾患(うつ病)を患っている人がいるという。病気については採用後すぐに本人から打ち明けられた。就業時間や勤務日数など、体に無理なく続けていくためにはどのような働き方がいいのか、本人と話し合いをしながら自動車2種免許を取ってもらい、現在は段階的に勤務日数を増やしていこうとしているところだという。実は、一度勤務日数を増やした時に調子を崩してしまい、しばらく仕事を休まざるを得ない時期があった。その際、渡邊専務は本人を通じて、主治医に現在の状況と就労の可否についての確認をしたという。
精神の障害がある人は、環境の変化や疲労の蓄積から時に症状の波がある。そのため体調を崩し休みがちになることで、継続した雇用が難しい場合も多い。そのような場合、仕事を辞めさせられるのではないかと不安を募らせ、我慢し、さらに体調を悪化させることが多いからだ。その時に、事業所が雇い続けるためにどのような対応をしたらよいかという主旨で、主治医とコンタクトを取ったということは、本人にとってはどれほど安堵させられたことであろう。さらに渡邊専務は、今後の経過を見て必要であれば事業所としてあらためて、本人が安定して働けるように雇用管理のためのアドバイスを主治医に依頼することもあるだろうと考えている。
精神障害のある人を雇用していく時、このように事業所がその主治医や家族、支援機関と連携をとり、健康管理をサポートしていくことは、安定して働き続けてもらうためにとても重要なことであるが、実際にはなかなかできない部分でもある。しかし、渡邊専務は特に気負いもなく、「我が社ではこれまでもやってきたことだから」と言う。その背景には、精神疾患ではなくとも、これまでも身体に障害のあるタクシードライバーの疾患の状況や人工透析の必要性についてなど、働く上での留意事項を医師に問い合わせしたりしてきた経験がある。だから今回も、うつ病だからと特別視するのではなく、働く上で抱えている本人の事情の一つとして、これまで培ってきた雇用管理のノウハウを活かして、専門家の意見を聴きながら本人の状況に合わせた働き方を作ろうとしているのだ。
しかし一方で、本人への声かけや体調の確認は、これまでと違う気配りの必要性も感じているという。精神面の障害ということで、何気ない励ましのつもりの声かけが本人を傷つけるのではないかなど、現場の上司もコミュニケーションの取り方に戸惑いを抱えストレスを感じているのだ。そこで今回は、上司も一人で対応するのではなく複数で情報を共有する形とし、一人一人の負担感を軽減すると同時に、シフトで変則の勤務であっても不測の事態にすぐに対応できる体制を整えようとしている。
身体に障害のある人の雇用実績は長年有しているKM仙台タクシー株式会社であっても、精神障害者の雇用の取り組みは、まだ端を発したところと言えるだろう。しかし、これまでの雇用管理の中で行われてきた一人一人の話を聴き個々にあった働き方を作るというノウハウは、非常に有効であると思われる。
まだまだ、障害者雇用を進めていきたい。様々な障害を抱えた地域の人々に働く機会を提供していきたいと話す渡邊専務の穏やかな笑顔に、KM仙台タクシー株式会社の今後のさらなる発展を感じた。
(2)まとめ
障害者雇用に消極的な事業所では、「障害がある人にどんな配慮をしたらいいのか分からない」「障害のある人を受け入れる準備が整っていない」という不安がよく聞かれる。特に精神の障害がある人の受け入れについては、これまで身体の障害がある人の雇用実績はある事業所でも雇用管理に不安や負担感を感じるという声を聞く。
しかし今回伺ったKM仙台タクシー株式会社では、個々の状況に応じて配慮することは障害の種類で大きな差があるわけではなく、そうすることでコンスタントな稼働台数の確保という事業所の経営の安定にも繋がると、雇用管理の負担ではなく積極的な対応として捉えられていた。そのような取り組みの背景としては、従前から障害の有無にかかわらず本人の持ち味を活かし、評価し、仕事に繋げていくという、この事業所の風土もあるのであろう。
ただ、この事例は特別なものではないと考える。労働者の多様化が著しい昨今、障害のある人を受け入れたことはなくても、多くの事業所が高齢者や外国人、女性など、これまでその職種では受け入れていなかった労働者を雇い、その職場定着のために雇用管理を工夫している。(当社は高齢者雇用でも平成23年度の宮城県の「いきいき百選」に選ばれている)本事例はそのような工夫のノウハウが、障害がある人の雇用管理にも活かしていけることを示唆している。タクシードライバーのような専門性の高い職種であっても、個々の事情を「聴き」整理することで、「障害」が特別なハンディとなるのではなく、労働者が抱える事情の一つとして対応可能なものとなるということは、ほかの多様な職種でも対応可能と言えるだろう。
また日常的な「聴くこと」が、障害のある人の職場定着にとっても、その上司の雇用管理の方法としても、結果的にその事業所の経営の安定という点でも重要なポイントであるということも、ほかの事業所において大いに参考となるものと考える。
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