障害者雇用における多くの可能性を引き出した事例
- 事業所名
- 株式会社やまや
- 所在地
- 宮城県仙台市
- 事業内容
- 酒類を中心とする嗜好品の小売販売
- 従業員数
- 2,315名
- うち障害者数
- 27名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 聴覚障害 2 事務補助・店舗販売接客 肢体不自由(上肢・下肢・体幹) 7 事務・事務補助・接客販売・営業・配達・清掃 知的障害 8 接客販売・清掃 精神障害 9 接客販売・清掃 - 目次

1. 事業所の概要、取り組みの内容
(1)事業所の概要
酒のやまやは1970年の創業以来、「流通、販売の合理化を実践し、消費生活を豊かにすることで社会に貢献する」ことを経営理念とし、酒類を中心とする嗜好品の小売販売を中心に事業を展開している。現在では全国に270店舗を構え、2,315名の従業員(うち約30名は障害者)を雇用しており名実ともに宮城を代表する大企業である。
(2)取り組みの内容
① | 障害者雇用の経緯 酒のやまやでは近年店舗及び従業員の増加に伴い障害者雇用に力を入れてきた。やまやは全国に店舗を展開しているが、障害者雇用については当面地元宮城を起点に充実させていく方針が掲げられてきた経緯があり、最近では宮城障害者職業センターやハローワーク、地域の就労移行支援事業所との連携を通じて積極的に障害者を雇用している。以下の事例では、店舗運営の基本的な考え方や従業員に対する丁寧な働きかけが、障害者の雇用環境に大きな影響を与えている点を中心にいくつか紹介をしていく。 |
② | 障害者の従事内容 今回直接的に取材を行ったのは、石巻店舗の知的障害者の従業員1名、本社の事務補助を担当している聴覚障害者1名であり、3名の発達障害者の状況については人事部長よりその内容を伺った。
![]() ![]() 店舗内の様子
![]() ファイリング等の事務作業中のBさんの様子
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2. 考察
(1)会社全体の取り組みから
障害者受け入れ体制の土壌
取材を通じて会社全体として障害者を受け入れる環境が既に社員の中に根付いていることが明らかとなった。やまやでは特に上司からの指示を受けた際に報告・連絡・相談の徹底を図ることが義務化されており、障害者が採用され各店舗に配属になった場合においてもそのことは同様である。ゆえに一度障害者本人に対する対応方針が定められると、それぞれの社員がそのことを忠実に実行しながら上司とのコミュニケーションを図る。このことから障害者にとっては指示系統及び指示内容の統一によって自然と障害特性に応じたわかりやすい環境作りにつながっていると思われる。つまり既存の運営方針が障害者の受け入れ体制作りに適合しているといえる。
(2)個別の事例から
① | 障害者の成長に必要な手がかり 人の成長には障害の有無にかかわらず、外発的な要因による行動の変化が重要な要素であることは言うまでもない。しかし職場内において意図的にこの環境を作り出し人材の育成につなげていくことは大変困難である。また対象が障害者の場合、その要因が本来全ての人と同様に必要であるにも関わらず、本人の障害特性や成育歴、または周囲の価値観によって何か特別な対応が必要と思われがちである。しかし上記の石巻店における震災エピソードでは成長につながるいくつかの手掛かりを見ることができる。 一つ目は、理解者の存在である。今回は店長がAさんの良き理解者として長期にわたり生活全体を支えていた。このことによる心理的な安定が本人の基盤となって様々な課題に向かうことができたと考える。 次に対等な関係性である。震災という状況下においては障害のあるなしに関わらず誰もが協働して取り組んでいかなければならないことがほとんどであるが、Aさんの場合店舗復旧という作業を一人の人間として仲間とともに従事できたことに大きな意味があったと思われる。三つ目は感謝である。Aさんは店舗復旧を通じて地域住民からの謝辞を幾度となく得てきた。このことが本人にとっての大きな支え、やりがい、自信につながったことは明らかである。 以上のことは障害者就労支援の中で基本的事項として扱われることではあるが、改めて震災という状況下において本人を大きく変化させたことを踏まえると、これらの要素が特に障害者の成長には大きく影響を与えるものと考えられる。 |
② | 障害者の良さと強み 障害者本人は就労するにあたり、当然のことながら社会が要求するマナーや常識的なルールなどの習得を重視されることが多いが、意識的に彼らの良さや強みに目を向けることも必要である。今回の事例を通じて関わりのある社員が自然とその点に着目していたことがうかがわれる。障害者の就労支援に携わる者にとっては忘れてはならない視点である。石巻店のAさん、山形の発達障害者の事例、本社のBさんいずれも記憶の特性を活かし、ディスプレイや番号などを正確に把握することで自らの業務を補完している。またその点を周囲が評価していることも重要である。特異な能力としてだけ扱うのではなく、業務の中でどのように活かせるかを常に意識する必要がある。 またどの事例においても、失敗に対するネガティブな反応は見受けられるが、彼らの勤勉性も注目すべき点である。周囲の理解を得ながら業務にあたることができれば、作業を最後までやり遂げること、継続することなども本人たちの良さとして改めて認識されたことである。 |
(3)障害者雇用の効果
やまやでは障害者雇用を通じどのような効果があったのであろうか。人事部長からの聞き取りをもとに、各事例からの示唆も含め考察する。
一つ目は社員の意識変化である。石巻店の事例では、Aさんの採用後、社員間のコミュニケーションに明らかな違いが見られたという。Aさんに対して丁寧に接することを全員で心掛けた結果、それまでは必ずしも十分であるとは言えなかった部内のやり取りが増えたことで、社員がお互いに受容的な姿勢を持つようになり一体感が生まれた。つまり店舗全体の雰囲気が変わったということである。このことは店舗の営業活動にとっても大変大きな影響を及ぼすと考えられる。
次に社員の対応変化である。各店舗ではパートを採用することが多く、与えられた業務を遂行するだけに終始する人も少なくない。しかし障害者の対応を通じてパートであっても積極的に声をかけることを求められた結果、やり取りの丁寧さが根付き、障害者だけでなく顧客に対しても自然と同様の働きかけが強まったのである。
最後に会社側として全社員に対するとらえ方が変わったという。特に知的障害のない発達障害者は本来持っているアンバランスな能力とは裏腹に誤解を受けることが少なくない。つまり外見ではわからない困難さが見落とされ、一定の業務遂行能力があるとの評価から、指導の中で過度な叱責や注意などを受けてしまう。本社では上記のような障害者を採用する上での障害理解を通じて、生まれ持った特徴に配慮することが彼らの能力を引き出し、チームとしての共同にも役立つことを知った。
よって一般社員にもこの考え方を適用することが望ましい場合があることを認識し、これまでとは違った角度から指導するようになったのである。このことは障害の有無を超えた人の特性を意識し良さを活かすことにつながる考え方であることから、多数の社員を抱える企業にとっては人材の育成や活用について大変意味のあることであると思われる。
3. 今後の課題と展望
(1)関係機関との連携課題
障害者雇用の中では事例Bさんのように障害特性によって意思疎通にかなりの困難を生じる場合も少なくない。こういった場合本人の状態像を正確に把握し、対応のポイントを明確にする等が挙げられるが、特定の社員だけの努力や企業内の調整だけでは限界もあるため、関係機関との密な連携を図り本人に対する、より具体性を持った対応が必要となる。
つまりコミュニケーションに代表される障害特性への対応が難しい事例等について、企業がどのようなスタンスで関係機関との連携を図っていくのかが重要な課題である。支援機関側には専門性や機動力はもちろん、特に就労移行支援事業所における責任ある対応などが求められている背景も踏まえながら、障害者雇用における企業と関係機関が互いに本当の信頼関係を構築できるあり方を探る必要がある。
(2)先駆的な役割
今回取材したやまやは社員数2千名を超える大企業であり、宮城県仙台市を本社していることからも地域での存在意義は大きい。小売りを中心とした店舗展開型の事業スタイルではあるが、企業規模を考えた際には障害者雇用における求人や業務の切り出し等、多くの可能性を秘めている。しかしながら現段階ではその存在を十分に活用しているとは言い切れない。ゆえに今後の展望として、単に雇用資源での役割だけでなく、モデル事例の創出など地域における障害者雇用の先駆的な役割を期待したい。
センター長 黒澤 哲
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