1人のスタッフとして、ひとりの人としての仕合わせを支える雇用環境
- 事業所名
- 株式会社シベール
- 所在地
- 山形県山形市
- 事業内容
- 食品業(洋菓子、パンの製造、レストラン事業)
- 従業員数
- 469名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 5 洋菓子製造、レストラン接客 精神障害 1 洋菓子製造 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の契機
(1)事業所の概要
株式会社シベールは、山形県内には11店舗あり、県民にとって最も身近な洋菓子店の1つといえる。特にラスクの知名度は全国でも高く、山形以外でも仙台、東京、名古屋、富山にも店舗を構え、質の高いサービスを提供している。
業務内容は、洋菓子・焼菓子・パンの製造販売、レストラン、カフェ、そば事業であり、ラスクを含む焼菓子等は、オンラインショップ等で通信販売も行っているため、店舗のない地域のクライアントや、贈答品の全国発送等のニーズにも対応している。
今や山形県ではトップクラスの知名度を誇る事業所となったシベールだが、昭和41年に初代の熊谷社長が山形市内に洋菓子の店「シベール」を個人創業した事に始まる。大きく成長した今も「街の洋菓子屋さん」というフレーズがしっくりくるシベールは、今後更なる発展を遂げても、菓子職人のいる地域の洋菓子店でありつづけてくれそうだ。
企業理念は、『日本の食卓の情景、ゆかしい贈り物の風習を豊かで創造的で幸福感に満ちたものにする。そして私達も仕合わせになる』である。シベールの存在や商品がお客様の喜びになってはじめて、事業所やスタッフの仕合わせに繋がっていくという、お客様第一主義がうたわれている。この理念が遂行されている証として、「山形県産業賞」やふるさと企業大賞「総務大臣賞」等、数々の受賞実績が挙げられる。
近年では、芝居、講演会、各種音楽コンサート、企画展示などを行える『シベールアリーナ』や、山形県出身の作家・井上ひさし氏からの寄贈本による『遅筆堂文庫山形館』の運営を行い、芸術文化の活動支援および地域文化の受発信の拠点となり、平成21年にはメセナアワード2009、メセナ大賞部門「文舞」両道賞を受賞。メセナ活動でも大きな話題を呼んでいる。
(2)障害者雇用の契機
「最初の受け入れは、特別支援学校の体験実習がきっかけでした。」と人財課の岩瀬課長は言う。行政からの要請を受けたことが契機となったようだが、それ以前にも中学校等の職場体験を受け入れた実績があり、障害者ができるものがあれば受け入れたいと考えていたと話す。現在では、特別支援学校や福祉事業所等の障害者職場実習の受け皿となっている。
当初は慣れない障害者への指導や関わりの中で、障害者への支援ニーズや合理的な配慮の必要性等を痛感し苦労した部分もあったようだが、この取り組みを通じ、1人のスタッフとしての可能性を感じ取れたことが、シベールが障害者雇用を推進する大きな原動力となったようだ。現在では、経営方針にノーマライゼーションの推進を掲げ、障害者雇用のみならず人としての平等を考えた企業運営を展開している。
2. 取り組み内容
(1)雇用までの経緯
初めての雇用は、近隣市の高等特別支援学校の人だった。初めての取り組みという事もあり、①障害とはどのようなものなのか。②何ができて、何ができないのか。③どのようにかかわれば良いのか等、本人の障害特性や特質等についての理解を深める必要性があった。そのため、在学中にインターンシップ実習を3か月間行うことで、作業能力や適正、協調性等の把握に努めた。実習開始に向け、学校の先生とジョブマッチングを検討したり、実習開始時には同行支援してもらうことで緊張の緩和等を図った経緯がある。その後、雇用前には職場適応訓練を6カ月間行い、実習とはまた違う、より具体的な職業指導を行いながら職場環境への適応を図っている。
(2)シベールの人材育成
「皆さん、雇用後すぐは苦労する面もあった」と岩瀬課長は話す。山形市郊外にある生産工場には、公共交通機関等を利用し通勤する人が多い。「何の連絡もなくして遅刻、欠勤等をすることもあった」と振り返る。「ほとんど新卒者を採用してきた事もあり、社会人としての基本的なマナーやルールも分からずに入社してくるのが実態であった。でも、分からない事は教えれば分かるようになるというのがシベールの考え方である」と話す。3か月位で特別な指導等はあまり必要なくなる傾向にあり、「とにかく職場まで来てくれれば、教育できる自信があった」と振り返る。この自信の根拠は、シベールの生産管理機能の高さにあると考える。シベールの生産ラインは、より高い生産効率や商品の品質管理を行えるよう計算し尽くされている。その分、生産工程に曖昧さは少なく、各ライン上には確立された職務が配されている。そのシステムに沿って作業を行うことは、定型化された作業手順を繰り返し遂行していくことになる。
(3)障害者への支援・指導
シベールの現場では、サブチーフがキーパーソンとなり、常に目の届く範囲で見守りや指導、作業の合否等を判断しながら担当業務の管理・指導を行っている。また、困った事があった時には相談支援等も行っており、担当者だけで問題を抱え込まないよう人財課担当者まで共有できる仕組みもある。この成果として、従事する障害者の出勤率は病欠を除き100%だという。働く当事者からは、共通して安心・信頼という言葉が出てきており、働く障害者にとっては非常に良い環境であることが分かる。実際、知的障害者の雇用を始めてからジョブコーチによる職場定着支援の実績はなく、1人のスタッフとして教育する中で、障害の部分には合理的な配慮を持って関わることで、障害があっても定着できるということを証明しているようだ。
(4)働く障害者の現場
◆ラスク製造部門
最初に雇用を始めたのがラスク部門であり、現在2名が雇用されている。製造ラインの工程により作業内容は変わるが、主に製造備品の洗浄、包装や箱折り等の工程に就いている。唯一、同じ現場に複数の障害者が従事しているということが良い意味での刺激となり、互いに切磋琢磨している様子が伺える。

◆レストラン事業
Aさんは、平成19年2月よりレストランの接客要員として活動している。作業内容は、顧客の案内やオーダー、配膳等の接客作業と、食器等の洗浄や搬入業者の対応等の裏方の作業である。療育手帳を持つAさんへの配慮点として、レジ打ち等の計算を要する業務は職域に入れていない。当初は、緊張のあまり表情も硬く柔軟さに欠けるところもあったが、慣れるにつれて、硬かった表情は明るく笑顔でお客様にサービスできるようになってきたという。また、母校へ訪問し、後輩たちの接客学習等で指導を行ってきた実績もある。この職場で活躍できているという自負心が、彼のモチベーションとなっている様子が伺える。何より、ここで培った技能は全国の舞台で評価された。平成22年の『全国障害者技能競技大会 喫茶サービス競技』で金賞を受賞。県選手としては17年ぶりの快挙であった。

◆洋菓子製造部門
洋菓子部門でも平成20年3月よりBさんを雇用。主な作業は、洋菓子等の製造補助として、ストッカーの洗浄や果物のへた等を取る補助作業である。しかし、勤務時間中の作業量が充足できない課題があった。自立作業が困難な業務を要求しても、労使双方にとって良い条件とはならない。そこで、食品製造業の厳しい衛生管理に係る作業に着目した。従事するスタッフは、各自で1時間毎に制服のクリンアップが必要であり、忙しい業務の合間ということもあり「削減できれば助かる」というニーズに対応すべく、Bさんが巡回し、全スタッフのクリンアップを行うことにした。これにより、Bさん自身の作業の充足度が上がり、自分の役割も獲得できたことと併せ、職場全体の効率化にも繋がった。何より、他のスタッフに「ありがとう」と声掛けされるようになったことが、1番嬉しいと語っていた。

(5)新たな取り組み
最近労働行政でも、より就職が困難な精神障害者や発達障害者への支援をテーマに、様々な取り組みを行っている。シベールでは、新たな取り組みとして発達障害者の雇用も始めている。特にこのテーマに則り、意図的に発達障害者を雇用したわけではなく、1人のスタッフとしての可能性が雇用の動機である。しかし、雇用にあたり、発達障害という新たな特性が知的障害者への支援とイコールではないことを感じ、支援機関等との連携が必要だと判断したため、初めてジョブコーチ支援を活用した。どれだけ高い人材育成のノウハウを持ち合わせていても、その特性や適性を正しく理解できない場合や、確かなコミュニケーション手段を獲得できない状況では、その機能を生かしきれない。実績に驕ることなく、発達障害について分からないところは教わりながら吸収していく姿勢を示したシベールは、真の意味でスタッフ1人ひとりに向き合い、大切に考えてくれる事業主だと感じた。
3. 今後の課題と展望
(1)これまでの実績とこれからの展望、課題
シベールは、平成20年度から雇用納付金の対象企業となった。以前より障害者を雇用していたが、推進の過程にあったこともあり20年度こそ納付金を支払ったが、それ以降はしっかりと法令遵守を果たし、調整金の支給を受けている。
今後、より一層推進するためには、現状障害者を雇用していない部門での可能性を図っていく必要があると考える。シベールの一貫生産体制は、既に確立されたシステムであり、新たに切り出せる職域の幅はほとんど無い。このため、雇用実績のある部門での雇用拡大は現状として困難である。そこで、次の雇用先として『販売業務』での雇用を検討しているようだが、現在はまだ雇用には至っていない。
(2)1スタッフとしてのステップアップ〜後輩への指導
障害者が、経験と実績を上積みしながらステップアップしていくことは、生きがいや働きがいに直結する重要な事項である。「日々自分が苦労して習得した技能を、自分と同じ境遇の後輩に指導出来るような機会を作って行けたら良い」と、岩瀬課長。同士だからわかること、出来る事もあると考えられる上、後輩の育成・指導をする機会ができる事で、より働きがいのある職場へと発展していくと思われる。事業主として、長く活躍できる環境を構築することが、結果として障害者の自立支援へと繋がると考えており、安定した職業生活と所得は人生設計を可能にし、自己実現を果たす条件となり得ると考えている。実際、療育手帳を持つCさんは、働いたことで自動車免許を取得した。これは単に通勤の自立だけでなく、大きな自己実現といえる。
また雇用条件は、障害の無いパートナー社員と同様の待遇であり、毎朝の朝礼当番も輪番で回ってくる。分け隔てのない環境が、部門の壁を越え、事業所内に障害者や障害者雇用についての理解を深めることとなっていると話していた。
(3)今後への期待
このように、事業主側には雇用したい枠が具体的にあっても、そこに合致する対象者がいないというケースは非常に多い。しかし、そこから一歩前進するためには、これまでの考えや捉え方を変えていくことが必要なのかもしれない。例えば、直接的な生産性等を多く期待できないが、これまで誰かが片手間で行ってきた業務等を切り出し、纏めて新たな職域を作ることや施設管理や清掃部門等、適応できる対象者が多い部門で雇用枠を作りだす等が一般的である。シベールには全国発送業務があるため、注文を受ける受注部門や、梱包や発送補助作業等の発送部門での雇用も考えられる。また、多くの販売拠点や複数ある生産工場等の利点を生かし、障害があっても出来る事を整理しながら検討すれば、雇用率はさらに向上すると考えられる。願わくば、シベールらしい先駆性、先進性に飛んだ雇用事例を創出していただき、障害者雇用の面でも全国にシベールモデルの発信を期待したい。
4. まとめ
シベールの障害者雇用は職場実習の受け入れから始まった。これも、しなければいけないといった法令遵守意識からではなく、地域との繋がりを何より優先するシベールの社風にあり、『CSR』の観点から踏み出した事といえる。コンプライアンスとCSRは、切り分けられるものではないが、労働者側の立場で捉えた場合、この違いは小さくない。なぜなら、自分の雇用が、単に法律の定める雇用数達成の都合に根拠するのと、他のスタッフと同じ一労働者としての可能性にあるのとでは、まるで別物だと感じるからだ。生活に生き甲斐を、労働には働きがいを望むのは誰しもが同じであり、障害の有無により差異が生じるものであってはならない。1人の従業員であり人として捉えてくれる事業所に勤めたいと思うのが人情であり、長く安定した職業生活を送ることを考えた場合、このような環境的条件は、非常に重要な要素となると考える。その点シベールは、非常に共感できる。
最後に、企業が人を育て、人が企業を育てるといった意味合いの言葉を耳にする機会がある。シベールの教育理念には「良き社員=良き社会人であれ」という言葉があると岩瀬課長は言う。このような理念を持ち、地域貢献を続けるシベールが捉える視点の先にあるのは、障害でも商売でもなく、やはり人の仕合わせであるのではないかと私は思う。
就労支援課 課長 ジョブコーチ 鈴木 宏
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