専任の職員を中心としたナチュラルサポートを活用した就労支援
- 事業所名
- 山形大学農学部附属やまがたフィールド科学センター
- 所在地
- 山形県鶴岡市
- 事業内容
- 農場と演習林を活用した教育・研究
- 従業員数
- センター全体 29名 H23.10.1現在
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 4 家畜の給餌、畜舎の清掃、耕種等 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
山形大学農学部附属やまがたフィールド科学センターは、2006年7月1日に附属農場と附属演習林を統合し、新たに1部門を増やし設置された。エコ農業部門(高坂農場)、流域保全部門(上名川演習林)、社会教育部門の3部門で構成されている。
高坂農場は1947年、山形県立農林専門学校が創設され、本農場、砂丘地農場、高冷地農場の3箇所からなる実習農場として発足した。1949年、山形大学の設立に伴い、農学部附属農場と改称された。1985年に現在地に統合農場が完成し、高冷地農場および砂丘地農場が廃止された。2006年やまがたフィールド科学センター設立に伴い、エコ農業部門(高坂農場)と改称された。
エコ農業部門(高坂農場)(以下「高坂農場」という。)は県立公園の金峰山の豊かな自然の中に立地する一団地24ヘクタールの総合農場である。水稲栽培を基盤とし肉牛生産を有機的に結びつけた物質循環・環境保全型農業を確立し、環境に優しい持続可能な農業を目指した実習教育と研究を行っている。実習では、生産現場での観察と体験を主内容とし、大学での授業と相俟って農学と農業の基礎習得を第一目標に、さらに自然と触れ合う体験を通して感性豊かな人間づくりも目指している。高坂農場ではまた、地域の幼少教育への貢献として、小学生による農作業体験や幼稚園児による果実の収穫、動物飼育体験などの公開事業も行っている。
(2)障害者雇用の経緯
高坂農場で初めて障害者を雇用したのは2008年であるが、その2~3年前から同じ鶴岡市内にある山形県立鶴岡高等養護学校の実習生の受け入れを行っていた。当時の農場長が畜産関係で障害者を雇用している事例が全国にあることを知って、高坂農場でも受け入れられるのではないかと考え、鶴岡高等養護学校に連絡したことが実習生受け入れのきっかけとなった。
当初は実習の受け入れだけを考えていて、それを雇用につなげるということはあまり意識していなかった。しかし、最初に実習に来た生徒がとても優秀だったこともあって、また高坂農場の作業の中に家畜への給餌など、ある程度定式化された作業があるため、作業の内容や作業方法を工夫すれば障害者でも十分働けるのではないかということになり、高坂農場から大学本部に相談をして、障害者の雇用が決定した。最初に雇用したのは、最初に実習に来た人である。その後毎年1人ずつ雇い入れて、現在(2011年9月現在)で4人の知的障害者を雇用している。その間、実習生も引き続き受け入れている。実習は鶴岡高等養護学校の3年生を対象に毎年2人程度で、2週間の実習を年2回実施している。2011年からは2年生の実習も引き受けることにした。実習は採用を前提にしているということもあり、実習内容は現在雇用されている人たちと同じ作業を行わせている。
2. 障害者の従事業務、取り組みの内容
(1)障害者の従事義務
障害者が担当している業務は主に動物の管理(朝・晩の給餌、糞尿の処理、ブラッシング、牧草地の管理など)である。動物は牛とヤギ、にわとり、羊である。また、園芸、耕種などの仕事も担当している(仕事内容は時期によって異なる)。2010年までは全員で同じ作業をしていたが、2011年に4人になり、作業を分担するようになった。具体的には動物の管理を2人、園芸・耕種を2人で担当している。ただし、週末の餌の調合と休み明けの給餌・糞尿の処理は4人全員で行っている。
(2)取り組みの内容
① 専任職員の雇用 |
障害のある職員への作業の指示等について、障害者が1人のときは1人の職員がその人へ指示や説明を担当していた。しかし、翌年2人に増えた際に、職員本人たちと一緒に作業しながらサポートをする専任の職員を1人雇用した。さらに障害者が4人になったときに、専任職員をもう1人雇用した。この専任職員は2人とも山形大学の卒業生であり、自分の家が農家だったり自身で農業をしていたりなど、もともと農業と関わりのある人である。勤務上の身分は非常勤職員である。専任職員の採用については、やまがたフィールド科学センターから山形大学本部に相談して、大学本部もそうした支援者の必要性を認め雇用に至った。高坂農場ではこの職員たちを「ジョブコーチ」と呼んでいる(以下、制度上のジョブコーチと区別するために「ジョブコーチ」と標記する)。「ジョブコーチ」の採用にあたって最も苦労したのは、適任者を探すことであった。最初は障害者のことにも詳しく、農業のことにも詳しい人、ということで探していたが、そのような人物はなかなか見つからなかった。そうして少しずつ条件を変えながら探しているうちに、現在の「ジョブコーチ」が来てくれることになった。
2人は農業には詳しかったけれど、障害者についてはあまり知識・経験はなかったが、結果的にはそれが功を奏したとのことである。障害者支援の専門家でないゆえに障害者と対等に接することができ、仕事以外のプライベートでも“社会人の先輩”として話をしたり、相談にのったり、休みの日に一緒に釣りに行ったりなどし、そのことが生活面での支えとなっているようだ。仕事以外での付き合いということでは、2人の「ジョブコーチ」以外のスタッフも一緒にレクリエーションを行ったりしている。こうしたイベントを企画する職員が、同じ職場の仲間として障害者もごく自然に誘っている。
とはいえ、もし「ジョブコーチ」がいなかったら4人もの障害者を雇用することは難しかったとのことである。高坂農場で実際に農作業に携わる職員はもともと7人であり、教員や事務職員を加えても14人であるが、この限られた人員で様々な業務を行っている。高坂農場を含むフィールド科学センターは山形大学の附属施設であるため、通常の農作業の他に、学生の実習の対応、教員の研究への対応、地域からの見学や公開事業などにも対応しなければならない。それに加えての障害者の雇用管理は人員的になかなか難しかった。
職場における上司や同僚等から障害のある従業員へのサポートは「ナチュラルサポート」と呼ばれる。ジョブコーチなどの専門的な就労支援者によるサポートは重要だが、そうした専門職の数は限られており、専門職による集中的なサポートは一定期間過ぎれば終わり、あとは定期的な訪問等を通じた支援とならざるを得ない。障害者の就労を継続させるのに重要なのは上司や同僚の支援である。高坂農場の「ジョブコーチ」は障害のある職員の指導のために雇用されており、そのサポートは厳密にはナチュラルサポートとは言えないかもしれないが、就労支援の専門家でもなく、障害のある職員と一緒に作業をするということでは彼らは同僚または上司である。「ジョブコーチ」以外の職員も含めて、高坂農場の障害者雇用の成功の一つの鍵はまさにこのナチュラルサポートにあるといえるだろう。
② 障害者の業務のなかでの工夫 |
高坂農場では作業の指示を視覚的にとらえられるように工夫することで、作業がスムーズに行われている。例えば、農業機械に油を差す(=グリスアップ)という作業では、油を差す箇所や順番が決まっている。そこで、機械の油を差す箇所に番号をつけて、その順番に油を差すように指示している。同様に餌の調合の際にも、器の中にメモリを付け「この線まで入れる」などと指示を行っている。このように誰が行っても間違いのないよう、指示の仕方を工夫している。


③ 個人個人の適性を見る |
1人1人に任せる仕事はその人の「向き・不向き」を見て判断している。具体例として:
- 細かい仕事を継続して続けるのが得意な人もいるが、苦手な人もいるので、餌の調合は細かい仕事を継続して続けられる人に頼んでいる。
- 栽培した果物を使ってのジャム作り・販売等の業務もあるのだが、ジャム作りは料理が好きな人にやってもらっている。
などが挙げられる。
「向き・不向き」については、実習の際に大体のところは見極めるようにしている。また、雇い入れてからも、作業の様子を見て適性を判断している。適性の判断については一緒に作業している「ジョブコーチ」からの情報が大きいが、他の技術専門職員も実際の作業状況を見て確認したり、ときには「ジョブコーチ」抜きでの技術専門職員が一緒に作業して判断したりするなど、多角的な判断・確認を行っている。
④ 雇用管理上の留意点 |
雇用管理の面でも、さまざまな配慮をしている。
障害者はバスで通勤しており、勤務時間は8時30分から15時15分だが、冬季はバスの到着時刻の関係で勤務時間を少し後ろにずらしている。
4人とも健康管理上で配慮することは特に必要ないが、夏場の水分補給や、必要な場合には休憩をとるようこまめに声掛けするよう気を配っている。
安全管理の面からは、機械を扱う作業で危険を伴う仕事はさせないようにしている。また、人によって任せる仕事が異なる。例えば、草刈機は手押しのもののみだが、それでもエンジンがついているので、作業に向いていない人にさせない、などである。
3. 取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
農作業では動物や植物が育っていく様子を肌で感じられる。そのことを通じて障害者たちは仕事のやりがいを感じることができる。たとえば、高坂農場では子牛の繁殖を行っているのだが、子牛は母牛からもらう初乳以降は哺乳瓶からミルクを飲ませる。そうした作業を通じて子牛が日々大きくなっていく様子を見ることができる。また、植物を種まきから育てていく作業でも同様である。
ここで採用されている障害者は、同じ学校の同窓生ということもあり、先輩が後輩に仕事を教えている様子もみられる。また、仕事に慣れている人が慣れていない人に教えたりもしている。職場では主に「ジョブコーチ」が指導・支援をしているのだが、前述したように「ジョブコーチ」は共に働く職場の仲間・先輩的な立場であるため、障害者が過度に「ジョブコーチ」に依存するのではなく、障害者自身の自立心を引き出すことができていると考えられる。
(2)今後の展望と課題
現在働いている4人は出身校も職場も同じなので、それが仲の良さにつながっているが、互いの年齢が近いせいか、衝突してしまうこともある。うまく解決することもあるが、こじれる場合もあり、その時には出身校である鶴岡高等養護学校の教員に相談している。
さらに、今は障害のある職員も「ジョブコーチ」も若いので、皆で仲良くやっているが、この先、彼らの年齢が職員と逆転した時や、現在の「ジョブコーチ」が今後他の人に替わった時に、これまでと同様にうまくやっていけるかどうかは不確かな側面もあり、今後の課題となっている。
農業分野では、障害者を労働力として受け入れる事例が少しずつではあるが見られるようになってきている。現在高坂農場で働いている障害者も、ここでの仕事の経験を活かして巣立っていくことも考えられる。高坂農場で行われているさまざまな取り組みを見れば、それは簡単なことではないのは確かだが、高坂農場での「ジョブコーチ」のような地域の若い農業者との触れ合いが今後もっと広がっていくことによって、農業を通じての自立の可能性も高まるであろう。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。