地域の関係機関と連携して障害者雇用を進める事例
- 事業所名
- 丸菱紙工株式会社
- 所在地
- 群馬県前橋市
- 事業内容
- 封筒・手提げ袋等の紙製品の製造販売
- 従業員数
- 53名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 製袋、ラベル貼り 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 製袋、裁断、包装 精神障害 2 製袋、段ボール組立 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
1941年12月に創業者菊地純一郎氏が、日本製袋株式会社より独立し、前身となる会社を設立。現在、事業の中心は封筒の製造であるが、創業当初は紙の製造から手掛けていた。紙の製造にとって「水」は欠かせないものであることから、水が豊かな群馬県前橋市を製造の拠点と決め、市内に3つの会社を設立。1958年3月に、設立した3つの会社を改組、統合し、「丸菱紙工株式会社」として、現在の所在地で創業を開始する。
封筒の多くはJIS規格で定められたものであるが、同社では主な取引先となっている官公庁や金融機関等の顧客ニーズに細かく対応し「オーダーメイドの物作り」を行っている。製品の中には、現在全国で2社しか製造をしていない現金書留封筒なども含まれている。
(2)障害者雇用の経緯
創業者菊地純一郎氏が社長の頃、精神科入院患者の社会復帰を目的として、院外作業という形で受け入れを行った。当時は7~8名位の精神障害者に製品の包装、梱包作業を提供。病院と事業所間の送迎なども行い、社会復帰に向けたトレーニングの場となっていた。この時のことが現在の障害者雇用を進める上での礎となった。
過去には職親制度での受入れや、聾学校の卒業生を雇用したことはあったが、障害者雇用について明確な方針はなかった。2009年に特別支援学校から相談を受け、知的障害者の実習を受け入れることとなった。封筒製造の工程では定型・反復作業も多く、この点が本人の能力とマッチし雇用に繋がり、この特別支援学校からの受入れをきっかけに、障害があっても会社の戦力として充分に活躍してもらえることを再認識することとなり、本格的に障害者雇用を考えていくことになった。
特別支援学校からは現在でも継続的に実習生の受入れを行っている。しかし学校以外にも多くの障害者がおり、様々なハンディを抱えた人がいて、障害種別に限らず、精神障害や、発達障害といった障害を抱えた人々にも可能性が大いにあるはずであると考え、障害者就業・生活支援センターに相談。こうした考え方や取り組みには、現在専務取締役である菊地淑朗氏が薬剤師の免許を持ち、精神科の医療機関と親交があったことが大きく影響しているものと思われる。
これまでの特別支援学校に加え、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センター、ハローワークなどの関係機関と雇用に向けた相談を重ねるようになり、会社としての障害者雇用についてのビジョンを明確化する作業を進めてきた。最近では、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等の就労支援機関からも実習の受入れを行い、雇用に結び付くようになっている。
一方で、機械の発達も障害者雇用を後押しする要因となった。紙を扱う仕事には、今までであれば、商品化するまでの工程で紙を切るために刃物を使った危険を伴う作業も含まれていたが、近年の安全装置の発達により、危険を伴う作業であったものがより安全に作業が出来るようになり、こうした環境整備が社内における障害者の職域の幅を広げ、障害者雇用を進める一因ともなった。
2. 障害者の従事業務、職場配置
一枚の原紙から製造した封筒を商品として納品できる状態にするまでには、様々な工程がある。前述のとおり、同社では「オーダーメイドの物作り」を行っている為、製造する封筒に合わせて型を起こす作業から必要になる。起こした型に応じて、機械の調整を行い、ラインで封筒を製造できる状態にする。現状、ここまでの過程には障害者は従事していない。
障害者が従事している作業は、製造とその周辺業務である。裁断作業は原紙を封筒の形にカットする作業であり、ミスの許されない仕事である。大量に積まれた原紙を、乱れないよう慎重に扱う必要があり、神経を使う仕事でもある。
製袋作業は、原紙のセット、検品、梱包と複数の作業が含まれている。原紙のセットは状況を見ながら行う必要があり、乱れが出ないよう、きれいに揃えてセットする。製袋機を通って仕上がった封筒を検品し、ポイントを目視で確認して、段ボールで梱包していく作業であり、本人の力に応じて一連の作業を1人で行う人もいれば、部分的に携わる人もいる。
二折作業は、二人一組で返信用の封筒を機械に投入して二つ折りにする作業であり、封筒を機械にセットする者と二つ折りされた封筒を受ける者との呼吸が大切である。
シュリンク作業はコンビニエンスストアで販売しているチケットを入れる封筒をビニールで包装する作業で、他にも製袋作業の梱包に必要な段ボールを組立てて、状況を見ながらラインに供給する作業や、仕上がった封筒を紙で包装する作業などもある。
このように、本人の力を見極めながら、適した場所に配置をするように心掛けており、工場内の様々な部署で、障害者が作業に従事している。今後は印刷、裁断といった難易度の高い工程においても、障害者雇用の可能性を見出していきたいとのことである。




3. 取り組みの内容
○家族や関係機関との協力体制
雇入れや、就職後の雇用管理をする上で、本人を取り巻く「家族」や障害者就業・生活支援センター等の「関係機関」との繋がりを大切にしている。職場以外の問題から就労の継続が難しくなることもある為、生活面でのフォローが必要であり、この点で家族や関係機関との協力体制が重要になってくる。
雇入れの段階では、必要に応じて家族との面談を実施し、生活状況等の聴き取りを行っており、特に新卒者や若年者の場合には、家族の協力が得られるかどうかを重要なポイントの一つだと捉えている。
今後は、家族との協力体制を築くことを目的に、定期的に家族会のような「意見交換の場」を設けることも検討しているとのことである。
○支援制度の活用
採用を検討する上で、特別支援学校の実習、地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターの実習制度、ハローワークのトライアル雇用等を活用している。面接ではその人のほんの一部分しか分からないため、実習期間やトライアル期間を通じて、実際の職場で本人と関わり、成長の度合いをみながら多面的に判断するようにしている。
雇用後の職場定着という点では、地域障害者職業センターのジョブコーチ支援や、障害者就業・生活支援センターの職場訪問等の支援を活用し、これらの関係機関と情報共有を行いながら雇用管理を行っている。
○本人に合わせたステップアップ
就職後も状況を見ながらステップアップを検討し、本人と相談しながら、新しい仕事にチャレンジしてもらう機会を設けている。本人が職場に慣れていない時期には負担の少ない単純作業からスタートし、状況を見ながら段階的に難易度の高い作業へと移行するようにして、常に「育てる視点」を持ち、本人の可能性を広げることを考えている。
○「サポーター」の設置
障害者の職場定着において「キーパーソン」の存在が重要となるが、同社では「サポーター」という形をとっている。
現在6名の障害者に対し、3名の社員が「サポーター」を担っていて、その主な役割は「相談役」であり、職場での精神的な支えとなって、本人が安心して働くことが出来るようにサポートすることを主な目的としている。サポーターは日常的に対象者に声を掛けたり、同時作業者に様子を確認しながら、常に状態の把握に努めている。
困ったときの相談先が職場で明確になっていることは、相談のしやすさや、問題の早期発見・対応に繋がり、状況によってはジョブコーチや障害者就業・生活支援センターのワーカーと連携して問題の解決にあたっている。
さらにサポートが行きとどくよう将来的には「サポーター」をマンツーマンで配置することを検討している。
○高齢者と障害者のコラボレーション
サポーターを担うのは、経験豊富なベテラン社員である。これまでは、通常60歳で定年を迎え、雇用延長で65歳までは働くことが可能であったが、その先の70歳まで働ける職場を目指しており、その方法論の一つが障害者の「サポーター」である。
ベテラン社員がこれまで培った「経験」「知識」「技術」を有効に活かすこと。障害者の職場定着における相談や、OJTを行う必要があること。この2つのテーマに「サポーター」という形で取り組んでいる。
4. 関係機関との連携、今後の展望と課題
(1)関係機関との連携
○連携の必要性
障害者の就業生活を支えていく上では、地域での「ネットワーク支援」が重要であると言われるようになって久しい。地域の関係機関が互いに役割分担し、連携して障害者雇用に取り組むことが必要であり、このネットワークの中には当然、障害者雇用をする事業所も含まれている。障害者を雇い入れる事業所と支援機関では立ち位置が異なることもあるかもしれないが、事業所では職場以外の家庭(生活)のことや健康面(医療)の状況の把握や、そのサポートには限界がある。一方、職場内のことについては支援機関ができることに限界がある。こういった点で互いに役割分担し、情報の共有や相談を行いながら、障害者雇用という社会的なテーマにチームとして取り組んでいく必要性がある。
このような背景の中、同社では地域の関係機関と協力しながら障害者雇用を進めていることが大きなポイントであり、障害者雇用に対する事業所としての理念や、雇用の進め方などを、障害者就業・生活支援センター ワークセンターまえばしや群馬障害者職業センターといった地域の関係機関と共有・検討しながら今日に至っている。
○職場定着における支援機関の活用
<地域障害者職業センター>
群馬障害者職業センターのジョブコーチは、作業の習得や人間関係を形成する上での橋渡しを担っている。
同社では先にもふれたサポーターという役割を担う社員がいるが、この取り組みはスタートしたばかりで、将来的にはサポーターを担う人材が第2号ジョブコーチを取得するということも検討している。このようなことから、同社ではサポーターがジョブコーチの支援を見て経験を積むという点でも大きな意味を持っている。
<障害者就業・生活支援センター>
障害者就業・生活支援センター ワークセンターまえばしは、地域の身近な相談窓口として、同社の雇用管理に関する相談・助言、在職者へは職場定着に関する相談・助言を行っている。
特に勤務態度、生活面、就労意欲などの課題について、同社とワークセンターまえばしで情報の共有を行いながら本人への対応方法を検討している。また、ワークセンターまえばしでは、状況に応じて職場訪問を実施して、職場や本人の状況確認をしたり、同センター内での面談、就労支援ワーカーによる家庭訪問などを実施している。
(2)今後の展望と課題
同社では、障害者が職場に普通に「いるべき存在」となることを目指しているが、そこには社員の「意識」というハードルもあり、障害者雇用への「意識」は社員によって違いがあるのが現状である。全ての社員が障害者雇用について第三者にならず、一緒に働く仲間(障害者)に関心を持てるようにすることが大きな課題である。
また「サポーター」に関しては前述したように今後マンツーマンの配置を検討しているが、「サポーターを担う人材を育てる」ということも大きな課題となっている。
今後の展望として、3年後には障害者の割合を全従業員の50%とすることを目標に掲げ、これからも地域の関係機関と連携しながら障害者雇用を進め、社内の意識を高めていきたいとのことである。
就業支援ワーカー 山田 仁
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