ノートパソコンを導入し聴覚障害者社員への指導徹底により社員育成と処理能力向上が図れた事例
- 事業所名
- ちばぎんハートフル株式会社
- 所在地
- 千葉県千葉市
- 事業内容
- 名刺・ゴム印・帳票等作成、各種データ入力、発送業務等
- 従業員数
- 28名
- うち障害者数
- 19名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 6 ゴム印作成、データ入力 肢体不自由 2 名刺作成、印鑑登録 内部障害 2 帳票作成、名刺作成 知的障害 9 名刺作成、印鑑登録、データ入力等 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景、当社が求める人材
(1)事業所の概要
当社は平成18年12月に千葉銀行の100%出資により設立され、平成19年4月から業務開始した特例子会社である。京葉線検見川浜駅から徒歩5分のところに位置し、平成23年末時点の従業員は、障害者社員19名のほか、銀行からの出向者等9名の合計28名、役員は取締役4名(常勤2名、非常勤2名)、監査役1名の体制である。
業務内容は、名刺やゴム印の作成、手形・小切手帳やバーコード伝票の作成、印鑑登録業務、各種データの入力業務、各種書類の発送業務などであり、千葉銀行からの業務を受託しているほか、名刺とゴム印作成については官庁や企業からも受注している。
当社の企業理念は①働く意思と能力のある障害者に、安定し、かつ障害の特性に配慮した雇用機会の提供、②障害者がいきいきと働くことのできる職場環境に努め、持てる力の発揮を通じて自己実現を図ることを支援、③障害者雇用の一層の促進を図ることにより、ちばぎんグループのCSR(企業の社会的責任)を果たし地域社会に貢献していくというものである。
当社の特徴は①事務系の会社であり同じ部屋で全員一緒に仕事をしていること、②社員の大半が10代もしくは20代と若い人が多いこと、③身体、聴覚、知的等障害の種類は様々であるが全員一緒になって仕事をしていることである。
(2)障害者雇用の経緯、背景
親会社である千葉銀行では、単独で法定雇用率を達成しているが、さらに一歩踏み込んだ形で社会的責任を果たすために当社が設立され、初年度に7名の障害者を採用した。採用にあたって障害種類による制約は設けていない。採用は毎年4月に新規採用しており、2年目以降も毎年継続的に複数名を採用している。採用者は新卒者のほか、就労経験のない人の割合が高くなっている。
受託業務が増加しないと新規採用できないので、業務増加にあたっては親会社である千葉銀行の全面的なサポートを得ている。当初は伝票作成等単純業務が中心であったが、印鑑登録等徐々に難易度の高い業務を受託するようになっている。これは、社員の能力向上等により想定以上に業務遂行能力が高まり、銀行からの当社業務への信頼が得られていることによる。現在は各種データ入力や顧客データの管理等、さらに難易度の高い業務を受託している。
(3)当社が求める人材
当社が求めている人材としては、まず自分のできることは自分で行うという強い意志を持った人である。十分な配慮をする必要はあるが、必要以上にサポートする必要はないし、社員がむやみに甘えることも許されないと考えている。障害者本人が自立するという強い意識をもつこと、それによってお互い人間として率直に接することができ、社員そして会社の成長につながっていくと考えている。
次にコミュニケーションをとる能力である。指示されたことを理解すること、わからなければわからないということ、報告すべきことはしっかり報告することなど、コミュニケーション能力は業務上必要不可欠といえる。聴覚障害者とのコミュニケーションは手話と筆記によるが、今般のノートパソコンの購入により格段に意思疎通がスムーズに図れるようになった。
2. 障害者の従事業務、職場配置
新入社員は適正を見極める中で、従事する担当業務を決めている。受託業務も多様化していることから、適材適所の配置が可能となっている。また、ゴム印作成は木材を削るときに大きな音がでることから聴覚障害の社員に担当してもらうなど、障害特性に配慮した配置も一部行っている。一方で、社員の能力開発及び業務によって繁閑差が大きいことから、繁忙日や休暇取得者のバックアップ体制を整備するという観点で、社員の係替えを年に数回行っている。これによって、入社2年目以上の社員は複数業務が遂行できるようになっている。
また、当社には「思いやりの気持ちをもって協力して仕事を進めよう」という行動指針がある。社員一人一人が全力を出し切ること、そしてその上で困っている人がいたら助け合って仕事を完遂させていこうということである。自分が担当の業務だけを行えば良いということではなく、忙しい業務があったら皆で協力して仕事を行っていくという意識が浸透している。他の職員がどのような仕事をしているのかということを理解するうえでも、また社員自身が色々な業務を担当し能力向上を図るうえでも複数業務を担当していくことは重要である。
知的障害の社員については、個人差はあるものの潜在的な能力が高く、集中力の持続により想定以上の能力を発揮するケースが多い。例えば印鑑登録の業務は、従来銀行で10名が担当していたが、現在当社では障害者社員4名、管理者3名の7人で行っている。特に知的障害の3名とは面談と日誌の交換等でお互いの信頼関係を築き、仕事への責任感を醸成することにより処理件数が1.5倍になった。このように指導方法と信頼関係等により戦力化することは可能である。障害者社員にはパソコンの入力業務は難しいだろうというような決めつけをするべきではないと考えている。但し、当初業務を習得するまでの教育・指導にあたっては、指導する管理者に相当の負担がかかることも事実であり、必要に応じてキャリアセンターなどに相談している。
3. 取組内容
当社は設立当初より社内LANを整備し、デスクトップパソコンを設置する中で、業務日誌や社内メールを通じ、社員とのコミュニケーションを図る中で、コンプライアンスの徹底や社員の悩みや相談に対応してきた。一方で業務については、業務マニュアルを活用し、社員の指導・育成をおこなってきた。
創業5年目に入り、社員の業務遂行能力が向上するなかで、受託する業務も単純作業からパソコンを使用した各種入力業務へと複雑化してきた。平成22年4月からは、銀行で行っている送金の入力業務の一部を受託することができた。この業務は銀行名や支店名を間違いなく入力することが求められるほか、例えば株式会社は○○、代表取締役は△△と入力する等、業務特有の多くの社内ルールが定められている。加えて、入力ミス率の上限が目標として設定されており、ミス率の低下が大きな課題となっている。類似した銀行名や支店名が多いことから、入力相違の事例を蓄積し、共有することでミス率を改善することが求められている。
この送金入力業務については、当初は入力のための端末機を3台設置し、聴覚障害の新入社員2名と知的障害のA社員1名を担当者とした。業務が複雑なため社員にとっては業務習得が大変で、また当初はミス率を重視したため入力件数が少なく、銀行からは当社への委託分は処理件数見込みに含めることができない当社の研修的なものと位置づけられた。しかしながら、当社としては社員を戦力化し、さらに当該業務を強化したいと考え、社員に対してきめ細かな指導を継続的に行ってきた。但し、社員Aについては、ストレスが高まってきたことから入社5年目の聴覚障害の社員と係替えを行った。
指導方法は試行錯誤であった。当初は文書マニュアルを活用し、個別指導に加え業務勉強会を定期的に開催した。また、聴覚障害の社員については、特殊用語や異例対応について手話では対応困難であり、マニュアルを活用するほか筆談にて指導することが多くなった。
そこで、当社のLAN機能を活用できないかと考え、パソコンを利用してきめ細かな指導を実施してみたところ、社員の理解も早まり、記録にもしっかり残ることから大きな成果を得ることが判明した。きめ細かな指導とは、入力時不明な点の即時照会と回答、入力相違があったときの指導、指示事項の伝達、制度変更の教育、担当者ごとのデータ入力件数とミス率の分析・還元などである。
これらの結果、当社実績は向上し、23年初めには銀行で担当している人の処理能力と遜色ないレベルになり、平成23年10月からは端末機を2台増設し5台として当該業務を拡張することが決定した。当社担当人員は4名(1名増員)配置し、全て聴覚障害者とした。
また、パソコンが指導にきわめて有効なことが判明したが、従来のデスクトップパソコンは、スペース上の問題から業務を行う端末機とは離れたところにあるとともに、台数に制約があり業務上頻繁に使用するのが困難な状況であった。そこで、新たにノート型パソコンを2台購入することとした。これにより、聴覚障害者2名で1台のパソコンを共有することとなり、業務を遂行しながら離席することなく活用できるようになった。その結果、業務が円滑に遂行でき、社員も躊躇なく質問することが可能となったため、社員の業務知識が深まり、業務処理能力を向上させることができた。

4. 取組の効果・障害者雇用のメリット、今後の展望と課題
(1)取組の効果・障害者雇用のメリット
パソコン設置後3カ月が経過したが、その効果は当初想定以上のものがあった。社員の入力件数は30%以上増加し、ミス率も半減している。日々、各人は自分の入力件数が把握でき、全体実績との比較から自分の実力がわかり、各人が「頑張ろう」という気概を持つようになった。ミスをした場合の反省、改善策等もチーム全体で共有し、各人の能力向上に役立っている。
障害者雇用については、ハンディをどのようにカバーするかということを考え対処すること、また社員の強みをいかに伸ばしていくかということによって戦力化が十分可能である。さらに各種助成金やサポート体制も整っているので、それらを活用し障害者を雇用することにより、企業としての社会的な使命を果たすことができ、また特例子会社である当社を通じてグループ全体の社員が障害に対する理解を深めてお客様の立場に立ったサービスを提供することなどにより、親会社を含めたグループ全体の実績向上にもつながっていると感じている。
(2)今後の展望と課題
当社は障害者雇用のための会社であり、今後も継続的に障害者を採用していきたいと考えており、幸いなことに退職者は過去5年間で1名しかおらず、採用継続のためには、受託業務を拡大していくことが不可欠である。千葉銀行は全面的なサポートをしてくれているが、なお一層の受託業務拡大のためには価格面等でアピールするなど、グループ全体で負担増とならないことが必要である。そのためには社員の業務遂行能力を一定以上のレベルに引き上げ、キープしていくことが求められる。社員の能力向上のために、ハンディをカバーするための仕組みや機器の導入は、今後も継続的に検討していくべき課題である。
また、障害者社員が増えることによって、管理者の負担も増加してきていることも事実である。当社の管理者は、銀行からの出向者が中心であり、障害者指導のプロではない。今後、障害者社員の育成を図っていくうえでは、管理者自身が障害者を理解し、専門知識を習得していくことも重要な課題である。
当社単体での雇用には限界があるのも事実であり、障害者全体の人数が増加傾向にある中、地方公共団体や学校、支援センター等とも協力して、障害者を雇用する企業が増加していくことを願っている。当社としても、積極的に障害者の実習生を受け入れるほか、障害者雇用に関心のある企業の視察等にも応えていく所存である。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。