作業教育の確立により、聴覚障害者の定着を図った事例
- 事業所名
- 株式会社サンエコー
- 所在地
- 新潟県村上市
- 事業内容
- 航空機内装部品製造
- 従業員数
- 147名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 ラバトリー(化粧室)部品の組立 肢体不自由 内部障害 1 ラバトリー(化粧室)部品の組立 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯、障害者の従事業務・労働条件
(1)事業所の概要
① | 事業の特徴 当社は平成 2年10月に設立し航空機内装部品製作を手がけている会社である。 主な製品はギャレー(厨房設備)、ラバトリー(化粧室)の部品加工、組立を行い、納品している。 資本金5,000万円、従業員数は147名で機械設備も多い為、安全作業を重視し作業させている。品質、納期、コスト面は非常に厳しく、日々改善、改良を行い作業効率の向上を目指し努力している。 |
② | 経営方針
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③ | 組織構成 本社:東京都東大和市 同会社: 新日エコー株式会社(東京都立川市) ![]() 職場風景
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(2)障害者雇用の経緯
当社では以前、聴覚障害者を雇用していたことがあったが、コミュニケーション不足等が原因で、問題行動が続き職場定着に至らなかった苦い経験がある。障害者雇用は「しばらくは・・・」という気持ちと気にかける気持ちの両方を持ちながら、雇用からは少し離れていた。
そんな折、平成22年12月に市内の工業団地の連絡会で他の会社から、業務の縮小に伴い、障害者(内部障害)の雇用の継続ができなくなったため、雇用をお願いできないかと依頼があった。
検討した結果、
- ① ハローワーク、障害者就業・生活支援センターの協力・支援
- ② 面接
- ③ 平成23年1月から3ヶ月のトライアル雇用開始
以上を経て、4月から採用した。
これをきっかけに障害者雇用への気運が高まり、平成23年5月にハローワーク、障害者就業・生活支援センターの紹介で、Aさんという聴覚障害者の面接を行った。
受け入れに際して、過去の経験からコミュニケーション面での不安は大きかったが、Aさんの働きたいという強い意欲を感じ、また社内に簡単な手話のできる社員がいたこと、そしてこの社員とAさんに面識があったことから、雇用に向けて前述の制度を利用することとした。
2名とも、トライアル雇用時から非常に勤務態度も良く、まじめで助かっている。
(3)障害者の従事業務・労働条件
① | 従事業務 2名とも、部品組立作業に従事しており、前工程で機械加工された板金加工、型材加工を図面を見ながら、図面通りに組立作業をする。 |
② | 労働条件、福利厚生 2名とも1年更新契約の嘱託社員である。 給与は月給制で、年1回の昇給、年2回の賞与がある。 また福利厚生として、新潟県南魚沼市、村上市、群馬県にある会社の保養施設を利用することができる。会社の行事としては、全体で行われるバーベキュー大会、忘年会があり、障害のあるなしに関係なく、積極的に参加し、お互いに交流を深める機会として、楽しく過ごしている。 ![]() 部品組立作業の様子1
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2. 取り組みの内容、会社全体への効果
(1)取り組みの具体的内容 ~聴覚障害者の作業教育~
- ● 安全対策
聴覚障害者(以下Aさん)を当初受け入れる際に- ① コミュニケーションが上手くとれるか
- ② 工場内で万が一危険が起こった際、機械の異音や周囲の声掛けなどにより気付かせることができるか等 正直不安があったため、安全対策として
- ① 危険な機械や場所等を案内し、覚えてもらう
- ② それらの箇所には立ち入りできないように、チェーンやフェンスを施すなどの対策を講じ、容易には近づけないようにした。
- ● 作業について
会社としては受入時から、障害があるからと特別扱いはせず、「1年くらいをかけて一人前になるよう育てよう」を目標とした。
この目標を達成するため、以下のように進めた。- ① 日常会話程度の手話ができる社員と一緒の作業に配置
- ② その社員の補佐役として「バリ取り」などゆっくりと軽作業を覚えさせる。
- ③ 図面の見方を教えながら、徐々に型材加工の部品の組み立てができるように、簡単なものから複雑なものに移行する。
- ● 作業指導における工夫
最初に仕事を覚えてもらう時は、- ① やって見せる。
- ② 上手くできたら必ず褒める。
- ③ 失敗した時は、どこが違うのか実物を見せ説明する。またそれでも理解が難しいようであれば、図を書き、失敗した理由を丁寧に理解するまで教える。
以上のことを繰り返し、作業を体で覚えることで、自信をもって業務に取り組めるようにすることを大切にした。
この作業は、航空機の機種などによって、図面も変わるため、いつも同じ図面ではなく、使う部品も多岐に渡り、部品の種類や素材によって接着剤の種類等も異なるため、高度な判断能力が必要となる。 - ● 本人の取り組み
本人のモチベーションが非常に高く、めきめきと仕事を覚えている。
Aさんの机の上には常にメモ帳があり、担当者からの指示や注意する点、Aさんに対するコミュニケーションの言葉等が綴ってある。
一回教えてもらったことは、常に自分でメモを取り、次回の同じ部品作成時の参考にすることを心がける努力をしている。
また、お昼休み時間などでも、ジェスチャーやメモ等を使って他の社員と交流し、リラックスした時間を過ごしているようだ。 - ● 今後について
数種類の部品を確実に覚えてもらい徐々に複雑な部品へと移行していけるようにしていきたい。
障害に配慮が必要な点もあるが、特別扱いするのではなく、他の社員と同じ育て方を心がけたい。そして一番大事なことは、周囲とのコミュニケーションが絶対に必要であるという点だ。
Aさんのメモ帳もだいぶ厚くなってきた。ボールペン、マジック、赤いペンなど色々な種類のペンや筆跡があり、ここには他の社員からの仕事の指示やAさんの仕事を覚えようとする意識、またコミュニケーションの数々が詰まっている。
現在では入社した頃よりも図面を見て、自分で判断できる箇所が増えてきた。段階を踏んだ育成を続けながら、当社にとって欠かせない戦力になって欲しいと願っている。



(2)会社全体への効果
障害者を雇用する前より、社員が周りに対し、気配りが出来る親切な職場になってきている。Aさんの努力する姿勢は「自分達はもっと努力しなければならない」という社員の仕事への意欲に繋がってきていると感じている。
3. 障害者雇用で感じたこと、支援機関より
(1)障害者雇用に感じたこと
障害がある、なしに関わらず、仕事を続けていくには、やはり本人の気持ちや努力が一番大事ではないかと思う。仕事に対してやる気がなければどんな人でも仕事は続けていけない。また社員のモチベーションを上げていくことは会社としての務めだと思う。
最初は障害者雇用に不安や心配もあったが、雇用したことで、一緒に働く社員のモチベーションも活性化し、会社全体の雰囲気が以前よりも良くなったと感じ、今は「雇用してよかった」と思っている。
障害のある人を雇用することは、他の社員が彼らの日々の成長を身近で見ることで、「自分達は努力が足りないのではないか?」「もっとできることがあるのではないか?」と思う機会が増え、モチベーションの活性化に繋がっていることは間違いない。
これから雇用を考えている企業には、ぜひともチャレンジしてもらいたいと思う。
また企業では、障害者雇用に関する制度、支援機関、助成金など知らないことが多い。行政や関係機関一体となって、もっと企業と積極的に関わりを持ち、障害のある人と企業を繋ぐためにも頑張って頂きたいと思う。
(2)支援機関より~障害者就業・生活支援センターアシスト 小池センター長より~
聴覚に障害のある人が企業で安定して働くにあたっては、コミュニケーション等に不安があり孤立を心配したり、仕事を習得するのに時間がかかるといった心配や課題を抱えている人が多い。
当センターとの関わりを通して、少し手話ができる人が企業にいることが、Aさんにとっては非常に心強い存在であり、仕事を習得する上での指示や他の社員の人々とのコミュニケーションをとる上での安心できる存在だったのだと感じた。
また手話ができなくても、筆談やジェスチャーなどで特に形式にこだわることなく、仕事の指示も普段のコミュニケーションもお互いの「伝えたい、聞きたい」という気持ちがあれば、十分に通じ合えるものだと実感した。
今回の雇用にあたっては、
- ① 新潟県単独事業の「障害者職場実習受入促進事業」
- ② トライアル雇用
この2つの制度利用期間を活用して、本人の適性や採用の見極めとAさんの「この仕事を続けて行きたい」という意志確認を行った。同時に、この期間内で社員のみなさんのAさんに対する不安も少しずつ払拭され、正式雇用に向けての足がかりとなった。
工場を見学させて頂いていると、S工場長とジェスチャーで冗談を交わしたり、Aさんからも笑みがこぼれており、こちらにも深々とお辞儀や挨拶もしてくれた。
障害のあるなしに関わらず、気持ちの良い挨拶はなかなかできるものではなく、就労へ送り出す側、受け入れる側にとっても大切にしたいスキルである。
Aさんは、常に自分から進んで挨拶を行い、また「忘年会でも率先してお酌しに行くんですよ!お酒も好きでたくさん飲みますよ!」とS工場長が笑いながら話してくれた。会話の中からAさんの明るく真面目な人柄が伝わり、さまざまな場面で会社の一員として会社になじんでおり、居心地の良い環境だと感じた。
受入時から計画的に、安全教育を含めた一貫した人材育成計画をたて、他の社員より少し時間はかかるかもしれないが、その上で「障害者だから特別扱いしないで他の社員と同じ育て方をする。」との理念の通り、障害者を特別扱いしないことが、結果的に障害者にとって働きやすい環境、最大の配慮であり、また徹底した技術の習得に繋がり、やりがいのある職場になっていると思われる。
徹底した人材育成を行い、本人が高いモチベーションを持てるよう周りもサポートし、互いに一生懸命に仕事を行うことで、「コミュニケーションの難しさ」という聴覚障害の課題をのりこえ、一社員として戦力になって職務に従事し、その努力する姿が会社全体の「気配り目配り上手な職場」の活性化につながったことは、障害者雇用の付加価値だと思う。
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