障害のある者の持つ能力を改めて考える
- 事業所名
- エアロ工業株式会社
- 所在地
- 富山県高岡市石瀬
- 事業内容
- 空調設備に伴う冷媒配管及びダクトの設計・製作・施工
- 従業員数
- 32名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 ダクト板金加工・製作業務 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
当社は、昭和45年(1970年)に創業以来ダクトの設計・施工業を営んでおり、2001年には「空調設備に伴う冷媒配管及びダクトの設計、製作及び施工、並びに付帯サービス」においてISO9001(品質マネジメントシステムに関する国際認定)を取得している。
建築における省エネルギーというテーマは、より快適な環境づくりにも欠かせない要素である。設計部門では、建築空間における高い快適性を追求するとともに、省エネルギーを考えた効率的なダクトシステムの設計を心掛けている。そして、ダクトシステムの性能を決定するのは、ダクト加工の技術力にかかっているといっても過言ではない。加工部門では、経験豊富な板金技術者と最新鋭の加工機器により、高品質のダクトが製作される。この加工部門に2名の障害者を配置している。
また、スピーディーで優れた施工は、建設コストの省力化を実現するための第一歩である。施工部門では、つねに現場工期と施工コストの短縮化を通じてコスト・パフォーマンスを追求している。このように、設計から施工までのトータルサポート体制の裏付けにより、藤沢薬品高岡工場や砺波総合病院などの富山県内における空調設備だけにとどまらず、金沢医科大学、能登空港ターミナルビル、ユニー株式会社アピタ飛騨高山店そして福井総合病院など近隣の他県においても施工実績を積み重ねて、その技術力に高い評価を頂いている。
現在、高岡本社と石川県内灘町に営業所を設けており、従業員は32名と少数ではあるが、お客様のニーズをよく読みとり、より豊かな空間創造のために邁進している。

(2)障害者雇用の経緯
前会長が、入魂の間柄であったダクト材料主要仕入れ先担当者の子息(特別支援学校生)を面接し職場実習を行ったところ優秀であったので、平成5年3月からHさんと同級生のMさんの2名を雇用したのがきっかけであった。
2. 取り組みの内容
(1)募集・採用について
すべて高岡特別支援学校の生徒を採用している。
とりわけ、平成16年以降、高岡特別支援学校から職場実習の要望が多くなり、現在勤めているKさんは、平成18年の夏休みに2週間の職場実習を行った後、11月6日~24日の再度の実習状況において充分当社の戦力になると判断できたので、最終日の24日に採用内定を出し、翌年の2月5日~16日の実習を経て、平成19年3月より本採用となり現在に至っている。
その後も職場実習を受け入れているが、なかなか採用に繋がる状況にない。嬉しいことに、(実際に採用にはならなかったものの)お礼の手紙が来ることがあり、こういう手紙を受け取ると感激であり、これからもできるだけ期待に答えたいと思っている。
(2)障害者の業務・職場配置
障害者は高岡工場におけるダクトの製造・加工業務を中心に配置している。
工場内には、金属を切断したダクト材のバラ板などがあり不注意による怪我を避けるため、安全管理には特に注意するように指導している。

現在障害のある二人(両名とも知的障害で療育手帳B所持者・自閉症)には工場内の作業に従事してもらっている。ダクト用ハゼ折機の操作(ハゼが正確に折れていることも確認する必要がある)や共板フランジ用機械の操作、そしてダクトの天地・元先を確認しながらのダクト組立、ダクトの製作仕様の確認とそれに応じた長さのシールを施たり、出来上がりダクトの寸法確認や製作済みダクトの分別、もちろんハゼ折機やフランジ機械の整備・点検なども彼らの仕事である。
障害者への作業指示で注意していることは、一つのことのみ指示することである。
一度に複数の指示を出すと、混乱してしまうが、一つのことを集中して仕事することにかけては、障害のない者に引けをとらない、いやそれ以上と言える。
当社は経験年数5年以上の者には、都道府県知事が実施するダクト板金2級の受験を義務づけている。Hさんには平成20年1月に受験を打診したところ是非チャレンジしたいとの返答があり、受験させることにした。技能検定は実技試験及び学科試験によって実施される。実技試験問題は、実際に作業を行う作業試験が中心になっており、試験日に先だって公表される課題を手作業により、制限時間4時間で作成するものである。
これに対応するため受験申請の後、7月実施の実技試験にむけて、4月以降有資格者のひとりがマンツーマンで実技試験の指導にあたることとし、就業時間終了後、毎日2~3時間手作業による課題練習に取り組んだのである。
結果は見事に一発合格を果たした。
問題は学科試験だった。これがなかなかに難しく、障害のない者も2~3回受けてやっと合格できる程の難関となっていた。
8月実施の学科試験は、単に学問的な知識を試験するものではなく、作業遂行に必要な正しい判断力及び知識の有無を判定することに主眼がおかれている。
平素、建設現場においての作業経験のないHさんには、大きなハンディだと思われた。受験にあたって会社としては、学科試験用の参考書と問題集を与えたのみだったが、見事に一度で合格した。それは、毎月の社内定例会議における勉強会での施工成功例や失敗例の教育資料や建設現場の中間検査や竣工検査での手直し事項等あった場合の社内ミーティングの資料を常に身近において、たゆまず勉強していた結果、努力が実を結んだと思われた。2級合格後2年経過すれば、1級の受験資格が付与されるため、今年度(平成24年)は挑戦して貰いたいと考えている。
5年前、社内旅行でハワイに行った時の事である。他の社員は、言葉が上手く話せない、文字が書けない等いろいろ理由をつけて、ホテルの外に出かけようとしなかったが、Hさんは臆することもなく一人でショッピングを楽しみ、チョコを沢山買ってきた。また、機会があれば、海外旅行に行きたいと言っている。
彼は、ダクト組立や機械の整備が得意といい、実際によく働いてくれる。朝は8時半からの仕事だが、繁忙期には夜8時過ぎまで頑張ってくれる。
最近では、一連の作業を一つ一つ云わなくても十分こなせるようになっている。(工場長のコメント)

もう一人のKさんは、仕事が夜遅くなっても苦にならず、逆に仕事は沢山あって忙しい方がよいそうである。
撮影時、外は霙まじりの寒い日だった。休憩室以外暖房設備のない工場で、共板フランジ機械を操作しているところで、手際良く作業を行っていた。
このような事例から、私たちは適切な配置や工夫により、障害のある者も働けると考えている。
Kさんは、持ち前の明るさとまじめさで先輩から指示されたことを全てこなし作業の仕方も丁寧だと評価を受けている。(ダクトの)組立やコーキング、クリップ製作などで頑張ってくれている。
「仕事は楽しいです。周りの人はやさしい人もいますが、厳しい人もいます」と、彼は語ってくれた。

3. 取り組みの効果
当社は、余剰人員を抱えるほどの余裕もなく、障害者も一日でも早く独り立ちしてもらう必要があった。そのため障害者に対する教育に重点を置いた。
その教育課程における彼達の、積極的な取り組み姿勢が、他の従業員の刺激となり、従業員のモチベーション向上にも役立っている。
『障害のある者』に分かりやすく教えるには、こちら側(見守る側若しくは教える立場)の者が、業務内容を熟知している必要があり、ケースバイケースに応じた対応能力を持った知識の蓄積がなければ、到底教えることができないことが明確になった。
それは『障害のある者』用の教本作成段階において、ダクト製作用マニュアルを整備する過程で明らかになったことであるが、『障害のない者』が「感・経験」に頼って作業してきたことにある。
またマニュアルを作成することにより、知識の定着と作業手順を再確認することができ、製品のばらつきを防ぐこともでき、自分たちの勉強にもなったことが大きい。
何の気なしにやってきたことが、いざ“伝える”という段になったとき、いかに自分が“わかっていなかった”のかが明瞭になったと、現場の者が云う。わかっているつもりで普通に済ませていたものの中に(危険が内在していることも)一つ一つ浮き彫りになってきた。これは、財産である。
障害のある人は、近年建築現場においては、安全管理が厳しいため、工事現場での作業に直接従事することはないが、工場での製品作りも非常に大切な作業工程であり、数ミリの狂いもゆるされないのがこの世界である。施工図通りの緻密な製品(ダクト)の仕上がりがないと現場で他の接合物との不具合の発生に繋がり、時間のロス、工場への製品差し戻し、ムリな接合による危険作業やそれが引き起こす事故等々、数え上げれば問題はキリがない。私たちは納期を守ることは当然であるが、それとともに図面を大事に、見栄えも当たり前、さらに仕上がりの良さなど品質を求められるのである。これら全てをクリアするのは、仕事とはいえ容易なことではない。そのため、現場でも工場での製品作りにも高度なレベルが必要とされる。しかし、彼達は『障害のない者』と変わらない技術を身につけて日々の仕事に取り組んでいる。これには、管理部門の人間のみならず同僚たちも驚いているところである。これが、全体のモチベーションアップに繋がらないはずはないのである。
4. 今後の展望
障害のない者も障害のある者も同じ製造現場に入れば同じ目標を持った仲間と考えている。他の従業員と同じ扱いとしている。
彼らにも失敗はある。でも、失敗は誰にでもあることなので、それで勉強してくれればよいと考えている。失敗を何回も繰り返すことによりだんだん覚えてきて一人前になってくるものである。(失敗は)許容範囲と考えている。


上の写真は、彼らの仕事の成果である。
(本人の)意欲さえあれば、(障害のある人は)どこででも働くことができると思う。(彼らが)働ける場所はどこにでもあると私たちは思うので、頑張ってほしいと願う。

現在、全体で32名の従業員の内、障害のある者は2名である。高岡の特別支援学校からも視察等で訪問を受け、実際の仕事内容を紹介している。今後、経済状況の好転などにより、労働者の雇用の拡大が出来るようになれば、障害者の雇用についても、前向きに検討していきたいと考えている。
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