知的障害者の雇用の場として創設したビジネスクリエーションセンタにおける業務内容の紹介
- 事業所名
- コマツ粟津工場
- 所在地
- 石川県小松市
- 事業内容
- 中小型建設機械の製造
- 従業員数
- 2,509名
- うち障害者数
- 40名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 5 製図、検査、書類作成等 肢体不自由 15 庶務、製図、書類作成等 内部障害 10 設計、調達、原価管理等 知的障害 8 文書集配仕分け、清掃、来客対応補助 精神障害 2 文書集配仕分け、清掃、来客対応補助 - 目次

1. 事業所概要、雇用までの経緯
(1)事業所の概要
建設機械・車両などの製造メーカーとして世界各地で事業を展開するコマツは、連結子会社が世界164社、連結社員数は3万9,855人という大きな企業である。
その中の主要工場であるコマツ粟津工場では、敷地面積710,000㎡(東京ドーム16個分)という広さの中で、グループ会社を含めて3,000人余りの人々が働いている。ホイールローダー・油圧ショベル・ブルトーザー等重機と、トランスミッション等のコンポーネントが生産されている。

2011年5月にオープンした「こまつの杜」には、コマツグループ社員のグローバルな人材育成の機能を担う「コマツウェイ総合研修センタ」に加え、一般開放するエリアとして、当地にあった旧本社社屋を復元した施設「わくわくコマツ館」、加賀地方の里山を再現した緑地「げんき里山」、チリの銅鉱山で実際に稼働していた世界最大級のダンプトラック「930E」の展示場を設けた。多くの子供たちが集い、理科や自然、ものづくりに興味を抱く機会を積極的に提供することで、当社発祥の地である小松市に貢献していく。
障害者雇用においては、一般の社員と共に従事する業務の他に、本社を始め国内事業所でビジネスクリエーションセンターとして44名(平成23年度)を知的障害者の人を中心に雇用している。社内便の集配業務をメインに、コピー・製本などの業務も請け負っている。
(2)雇用までの経緯
ノーマライゼーションとは、障害がある人とない人が共存できる社会のことだ。
コマツはその実現に取り組む。
建設機械・車両や産業機械などのメーカーとしてグローバルに事業を展開するコマツは、業績が好調で雇用を増やしたために、障害者雇用率換算上の分母が大きくなってしまい、法定雇用率を下回ってしまったため、2006年12月にハローワークからの指導を受けた。
そこで検討を重ね、労働市場には身体障害者の数が少なかったこともあり、まだ他社でも雇用が促進されていない知的障害者を採用することにした。
2007年当初は、グループ会社と通算して雇用率が換算できる、賃金体系や勤務時間などの労働条件を独自で決められるというメリットから、特例子会社設立に向けての準備が始まった。
そして、特例子会社の登記を翌日に控えた2008年1月に役員会議が開かれ、人事担当役員から設立に関する最終報告があった。しかしその会議の中で、「特例子会社をつくって障害者だけを別に雇用することが、真のノーマライゼーションになるのか?」と別の役員より意見がだされた。
その言葉を機に再検討。ノーマライゼーションという言葉の意味を考えれば、社員と接する社内部門の人がコマツの社風に似合うのではということで、本社人事部の中にひとつの部門としてビジネスクリエーションセンタを設立することになった。
人事部の一部門にしたのは、率先垂範の意味からだ。
石川県では、本社に次ぐ2カ所目の試みとして、2010年6月より粟津工場で4名の知的障害の人を採用した。さらに2011年4月には、旧小松工場跡地に設立されたコマツウェイ総合研修センタでの勤務も増え、新たに知的障害者4名、発達障害者2名を雇用し、現在10名が働いている。
全国的には、2012年度に向けて10数名の新規採用し、合計60余名の雇用を予定している。
2. 取り組みの概要、取り組みの効果
(1)取り組みの概要
本社での取り組みをふまえ、石川県の粟津工場内での「ビジネスクリエーションセンタ(BCC):障害のある人が中心となって働く部署」の設立時に社会福祉法人こまつ育成会が協力機関として携わることとなった。
障害のある人の受け入れに向けて、事前準備を1から事業所人事担当の人とともに取り組み、現在も継続的に支援させていただいている。
① | 事前準備 粟津工場は、敷地内に関係会社が複数入っており、ひとつの集合体として機能している。 この中で障害のある人たちが携わる主な作業は、粟津工場宛てに届く「郵便・宅配便・メール便」等を敷地内にある会社や各部署、合わせて50~60近くある集配先へ郵便物を届けるということだった。 BCCの石川分室の設立にあたり、事業所人事担当の人(BCCの担当者)と、当時この集配作業を担当されていた人とともに設立1ヶ月前より、集中的に準備を行った。 作業自体の把握から始まり、どのようにすれば作業しやすく、また、間違えることなくできるようになるのか…?という視点で、障害のある人たちの特性を事業所の人へ伝えつつ、互いに考え提案し、各事業所へ作業形態の変更についての周知を促すなど、対応を行った。 <作業内容・作業環境の把握と調整> 今までは、1人の事業所の人が自動車で集配作業を行っていた。この作業を4名の障害のある人が行えるように事業所人事担当の人と一緒に考えていった。 また、障害のある人たちの特性や作業能力に応じて、少しずつ覚えていけるような作業段階を検討し、現在集配作業をされている人との調整を行った。 ◇宛名、事業所所在地の確認(事業所名や所在場所が頻繁に変わる)
![]() 郵便物の仕分けボックス
![]() 一日のスケジュール
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② | 雇用受け入れ 2010年6月より、4名の障害のある人を雇用。(→1期生) 2011年4月より、6名の障害のある人を雇用。(→2期生) それぞれ、試用期間の位置づけで、2ヶ月間の有期雇用からスタートした。 2ヵ月後には障害のある人それぞれの作業評価を事業所担当者が行い、それを障害のある人に評価として返し一緒に振り返り、今後の目標を確認した上で、雇用継続となった。 その際の評価の項目等についても事前に参考書類をお渡しし、検討をお願いした。また、評価については日々のかかわりの中で継続的に確認していっていただいた。 その他、事業所担当者の人と障害のある人たちとの関係作りの一環として、事業所担当者と障害のある人たちとの個別面談を行ない、作業以外の話しや困っていることを伝える場所・時間を確保した。事業所担当者もそれぞれの障害特性や性格、生活状況を知り、信頼関係を築くための時間として有効利用されていたように思う。 基本的に作業の指導については、事業所担当者が行ない、作業でわからないことは事業所担当者に聞くということを共通理解のもと作業を覚えていった。 支援機関としては、どちらかというと生活部分が仕事に影響していないかどうかを(例えば、睡眠不足により集中力がない→夜更かし?悩み事によるストレス?など)障害のある人たちと話しをする中で聞き取り、事業所担当者の人にも障害のある人にもアドバイスをするという対応を行った。また、基本的な仕事への姿勢や対応(態度・言葉遣い等)についても、その都度、障害のある人たちに伝える役割を担った。 当支援機関(こまつ障害者就業・生活支援センター)のシステムとして、1人の障害者に対して2名の就業支援員で担当することになっている。BCCの場合は、基本的に担当者は決めるが、複数名同時に雇用スタートということもあり、全スタッフ(就業支援員:4名)で全員に対し対応していくこととした。 ![]() 朝礼の様子
![]() 仕分け作業の様子
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③ | 継続的な支援・相談 1期生・2期生と継続して雇用されていく中で、1期生のみのときに抱えていた課題と2期生が入ってきたときの課題が違っていた。 1期生のみのときは、作業自体が上手くまわるのだろうか?作業を覚えられるのだろうか?コミュニケーションは取れるのだろうか?周囲の事業所・各部署の理解は得られるだろうか?仕分けミスや郵便物の紛失などのミスが出ないだろうか?継続して働いていける方たちなのだろうか?…などの不安があった。 2期生が入ってきたときには、1期生が2期生に作業を教えるという体制で行ったので、1期生と2期生の関係が上手くいくだろうか?人数が増えたことで現存の作業内容だけでは時間に余裕がありすぎる(作業になれることでも時間に余裕がでてきていた)ので新しい作業の開拓・作業量の確保が必要→どのように作業を開拓するのか?対応可能な作業は何なのか?どのようにスケジュールに取り入れ、どのように作業対応をしていけばよいか?
(事業所担当者からの提案)
この方法は今も継続して行われている。基本的に1期生が2期生に作業を教えていく形で作業を行い、どうしてもわからないことのみ事業所担当者に聞くようになっている。
仕分けミスについては、休み明けに多く見られたことより、社内便の封筒を使用し、仕分けの練習を行いながら、習得していった。 (障害のある人からの提案) 間違えた個所については、自分でポストイットに間違えた部署と正しい部署を矢印でつなぐ形(○○→◆◆)で書き込み、決められた場所に張り付けていき、同じ間違いをしないようにと意識づける方法をとった。
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(2)取り組みの効果
初めは、挨拶をして集配部署に入って行っても、集配部署の従業員の人たちは「誰?」というような様子でなかなか障害のある人たちが「働いている」という認識・周知は難しかった。そういう状況の中で、移動時には安全確認(指差呼称)を大きな動作で行い、各事業所・部署への出入りの際には大きな声で挨拶をするということを続けた。その結果、障害のある人たちが「働いている」という状況が徐々に周知されてきて、各集配部署の従業員の人たちも挨拶を返してくださり、にこやかに接してくれるようになった。また、状況により、『最近、○○さん、挨拶してないわ。』というような声も返ってくることもあり、良くも悪くも評価される従業員の一員になれたのだと感じた。
作業についても、障害のある人たちが『しやすい・わかりやすい=ミスをなくすために』と統一した社内便の宛先記入様式も結果としては、各事業所・部署の人たちも使いやすくなっている。
新しい作業についても『手伝ってもらえないか?』『この作業だったらできないか?』とBCCから他の部署に問い合わせをしたり、作業の依頼があったりという関係性も会社の中で出来つつある。
3. 今後の課題、まとめ(支援機関として思うこと)
(1)今後の課題
本取り組みを障害のある人の雇用創出の機会とし、今後も障害のある人を新規雇用されるのであれば、雇用人数に見合った業務の拡大・作業量の確保を具体的に検討していく必要があると思われる。作業内容についても、複数名いる障害のある人の特性を考慮して手順等の検討も必要になる。
また、雇用人数が増えることで、それぞれの生活面も含め、人間関係でのトラブルも増えてくるように思われるので、それに対する事業所側と支援機関側との対処・連携は継続的に必要になってくると思われる。
(2)まとめ
BCCの立ち上げ時から、事業所の人と支援機関が協力をして作業内容・スケジュール等について、提案・交渉・相談しながら今の作業形態に落ち着いてきた。
じっくりと事業所側の状況も知り、また、障害のある人たちの状況も伝えつつ、準備を重ねたうえでの雇用というのが、障害のある人たちにとっては、とても働きやすい状況となり、気持ちの上でも『頑張りたい』『働きたい』という気持ちを持ち続ける環境になったのだと思う。
立ち上げの準備から事業所の人と一緒に支援機関として携わることはなかなかない。一支援者としても良い経験をさせていただいたと思っている。今後も雇用を前向きに検討されていく事業所の姿勢を見て、また、そこで働く障害のある人たちの表情を見て、支援機関としては、今後も事業所側との連携を図り、継続的に支援をしていきたいと思う。
障害のある人だけではないと思うが、障害特性上、気持ちを整理し伝えることが苦手なことや社会経験が少ない人が多いので、生活上のことが職場で悪い影響として出てしまうことがよくある。職場でみられる状況について、必要があれば事業所担当者から支援機関に連絡が入り、対応等について相談をする…というようなまた仕組みができつつある。また、その際の役割分担についても互いに確認できているように思う。
障害のある人たちが働くときには、本人(障害のある人)・家族・事業所・支援機関のどこかが奮起するのではなく、関係する人がみんなで奮起・応援することが大切なのだと改めて感じた。
『皆さん』にもほんの少しでいいので、障害のある人たちの就労、生活について知っていただけたらと思う。障害のある人たちを『知る』ことから、何かが始まるのではないだろうか?
今後も障害のある人たちの踏ん張りと事業所側・家族・支援機関の見守り・激励等の応援を期待しつつ、一支援者として、今後も応援していきたいと思う。
所長 能勢 三寛
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