経営トップの決断と社員の熱意で障害者雇用プラン5カ年計画に取り組む事例
- 事業所名
- 株式会社キトー (KITO CORPORATION)
- 所在地
- 山梨県中巨摩郡
- 事業内容
- 巻上機(ホイスト)及びクレーン等の製造・販売及び修理サービス
- 従業員数
- 741名
- うち障害者数
- 14名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 3 機械加工、部品品揃え、組立 肢体不自由 3 設計、生産技術、部品梱包 内部障害 1 事務 知的障害 5 機械加工、組立準備、塗装、検査 精神障害 2 事務、部品組立 - 目次
1. 事業所概要、取り組みの経緯・背景・きっかけ
(1)事業所概要
① | 事業内容 株式会社キトーは1932年の創業以来、モノを持ち上げ、運び、固定する作業に不可欠な、マテリアルハンドリング(マテハン)機器のリーディングカンパニーとして厚い信頼を築いてきた。日本はもとよりアメリカやヨーロッパ、アジアなどの世界各国で利用されているチェーンブロック、レバーブロック、ロープホイスト、クレーンといったキトー製品に対する評価は高く、安全性や生産性の向上を求めるお客様の要望に常に高次元で応えている。具体的な事業内容は次のとおりである。
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② | 企業理念等 「企業理念」抜粋
「キトーの目指す組織」 明るい雰囲気の中で、バラエティーに富んだメンバーが調和の取れた形で構成され、全員が『お客様』という同じ方向に向かって努力し、協力し合い、熱意を持って仕事に取り組む集団であり、加えてそれら一人ひとりの取り組みが報われる組織。 「コンプライアンスの基本原則」抜粋
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③ | 組織構成 経営企画室、経営管理本部、中国事業本部、米州事業本部、アジア事業本部、EMEA事業本部、国内営業本部、グローバルソリューション本部、技術開発本部、山梨製造本部、調達本部 |
④ | 障害者雇用の理念 上記の企業理念等とも関連する同社の障害者雇用の理念は次のとおりである。 「障害者とともにごく自然に働ける企業風土を作り、障害者に働く喜びを与え、共に働くことでキトー社員の人間的成長を促す。障害の有無にかかわらず、誰もが働きやすい企業を目指す。」 結果として、障害者雇用が自然となり、まさしくCSR(企業の社会的責任)としてのノーマライゼーションに取り組んでいることが認められる。 |
(2)取り組みの経緯・背景・きっかけ
企業設立当初から障害者雇用が行われていたので、取り組みのきっかけ等の詳細ははっきりしない部分はあるが、現在においては、法定雇用率の遵守や社会貢献活動の一環としての位置付けもきっかけの一つとして捉えられている。
特に、法定雇用率に関しては、単にクリアーするだけではなく、障害者が働く喜びを持ち、やりがいが持てるような取り組みを行うとの経営トップの強い意向があり、平成22年度に障害者雇用プラン5カ年計画を策定し、今年度から実施している。
したがって、あえて特例子会社等の活用による雇用の確保ではなく、障害者が自然に職場に溶け込んでいるような職場づくりを前提としている。雇用の数も大事であるが、質を重視した障害者雇用を実現したいと考えている。
これは、まさしくディーセント・ワーク(Decent work働きがいのある人間らしい仕事)であり、ノーマライゼーションと相まって、企業全体はもとより地域も含めたレベルでの極めて大きな効果があるものと思われる。
この5カ年計画の目標は、障害者雇用のトップ企業を目指すものであり、5年後には「山梨の障害者雇用ならキトーだ」と言われるように、職場環境(施設、設備)や職場意識、ディーセント・ワーク等を高めていくことを目標としている。具体的な目標は次のとおりである。
- 車いすの人が不自由なく働ける環境にする。(本社工場のバリアフリー化。)
- 本社工場に障害者向けの職場を新設し、軌道に乗せる。
- サポート体制を強化することで、様々な部署に障害者がごく普通に在籍している。
2. 取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
① 期間: | 契約社員であり6ヶ月更新を原則としているが、将来的には、ステップアップとしての正社員化も検討したいと考えている。 |
② 場所: | 主に現場であり、工場内となっている。 |
③ 時間: | フルタイム勤務(8:20~17:05)が原則である。 |
④ 賃金: | 日給の積み重ねが月の給料日にまとめて支払われる日給月給制であり、年齢や初任給などの世間相場等を総合的に考慮して日額を決定している。将来的には、ステップアップとしての多様な賃金体系を検討したいと考えている。 |
(2)仕事の内容
主に、機械加工、部品品揃え、組立、組立準備、塗装、検査等の業務を担当している。
(3)補助金の活用
補助金等に関しては、山梨県障害者職場実習設備等整備事業の補助金を活用し、バリアフリー工事等(後掲写真参照)を実施している。
(4)労務管理の工夫
① | 採用について 採用については、始めから障害者雇用の人数枠を制限することなく、マッチングを丁寧に行うことを心掛けることにより、適切な採用を実現しており、これが定着率の高さにつながっていると思われる。ちなみに、最高齢68歳という実績があり、具体的な工夫は次のとおりである。
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② | 配属について 配属については、障害の程度や種類を基準にするのではなく、あくまで本人の適性に応じて決定している。そのためには、約3週間の実習期間内で、複数の現場を経験してもらう中で見極めるべく、人事担当者と現場の上司が十分に検討し、配属している。 |
③ | 受け入れ準備について 人事担当者が、職場単位あるいは役職単位でプレゼンテーションを行い、意識啓発に努めている。また、職場改善の取り組みの中に、社会貢献を加えることにより、障害者雇用の改善を底上げしている。 さらには、手話通訳者の資格を持つ社員と障害のある社員が講師となって全10回の社内手話教室を開催するなど、環境づくりに取り組んでいる。その手話教室には、障害者が在籍する部署以外の社員も多数参加するなど、障害者雇用ひいては社会貢献に対する社員の意識が高まっていることがはっきりと認められる。 |
④ | 業務について 主に聴覚障害と知的障害に係る労務管理の工夫については次のとおりである。 ◇ 聴覚障害
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⑤ | 施設・設備面について 施設・設備面等については、上記(3)補助金の活用で既に触れたように、5カ年計画のスタートにより、工場の一部のバリアフリー化やトイレの改修に取り組んでいる。また、そのバリアフリー化に際しては、地域障害者職業センターの職員に協力いただき、問題点を現場でチェックしてもらい、その指摘を踏まえて工事を実施しており、実効性のある整備が実現されていることは注目に値する。 |
⑥ | エピソード 地域とは別に、会社独自に20歳になる社員のために成人式を実施しており、障害のある社員も参加している。その際、成人の抱負を一人ずつ社員の前で発表するのだが、先輩社員がその練習につきあうなど、成人式という社内行事を通じて、モチベーションやコミュニケーションの向上が自然と図られている。参加した本人のコメントを紹介する。 「初めてお酒(ビール)を飲んだが、にがくてあまりおいしくなかった。また、自分で考えた事を発表できて嬉しかった。父母が大変喜んでくれた。」 |
⑦ | その他について 障害者本人にインタビューすることができ、次のようなコメントをいただいたので紹介する。このコメントの中にも、労務管理のヒントが詰まっているものと思われる。即ち、ノーマライゼーションやディーセント・ワークが求められていることが認められ、当事例においては、それが実現されていることが分かる。 「仕事を自分なりに考えることで、仕事に対するやりがいを感じられる。また、伝達が上手くいかない時は困ることもあるが、いろいろな人と働くことができ、和気あいあいとして楽しい。これからも長く頑張りたい。」 「仕事では、製品がお客様に無事に届けられているかが気になる。製品の入れ方が難しい時は大変だが、先日、汗を流して働いたお金でデジカメを買うことができ、大変嬉しかった。職場の仲間も楽しく、長く働きたいと思う。」 |
3. 取り組みの効果、今後の課題と対策・展望
(1)取り組みの効果
障害者雇用プラン5カ年計画の初年度でもあり、障害者雇用の理念の実現に向けて、職場全体としては、次のような効果が認められる。特に、最初は障害者の受け入れを敬遠していた部署もあったが、今では、積極的に受け入れを申し出るようになっているという変化は特筆すべきものであり、これこそ、理念実現の一つの証と認められる。
- 職場全体の人間的な成長が認められる。
- 職場の雰囲気が穏やかになっている。
- 障害のない者にとって刺激になっている。
また、取材した際に、障害者の直属の上司が、異口同音に「休まれては困る。お願いしたい仕事がたくさんある。」という複数のコメントを聞くと、いかに障害者雇用が職場に浸透し、なくてはならない存在になっているかが認識できた。
なお、上記のような効果を生んでいることは、同社の取り組みの賜物であることは疑う余地もないが、障害者本人の意欲や努力なくしては、あり得ないこともまた事実である。したがって、障害者本人の仕事に対する取り組みと、会社の取り組みが相まって相乗効果を生んでいることを忘れてはならず、ここから言えることは、障害者雇用においては、採用や配属における工夫が極めて重要であり、不可欠なものであるということである。
(2)今後の課題と対策・展望
① | 課題 障害者が働きやすい職場は、性別や年齢にかかわらず誰もが働きやすい職場であり、就労環境の整備として、本社工場以外にも5カ年計画のような、施設や設備の改善の全国展開ができるか否かがポイントと思われる。また、震災等の非常時の対応について、設備的に十分ではない面が認められる。なお、各職場に、障害者の受け入れと仕事の有無をアンケート調査した結果、十分とは言い切れない現状が認められるので、その対策と障害者雇用が増えた場合のサポート体制をどうするかも重要な課題と考えられる。 |
② | 対策・展望 設備面については、今後機械などの更新時には、障害者が使用できるかという視点で検討することや、聴覚障害のために、緊急放送時に天井や壁に目で見て分かるライト等を設置する、あるいは振動で知らせる腕時計を配付するなどの整備も検討できると思われる。 障害者の雇用が増えた場合は、障害者雇用に関わる推進委員の選出などを行い、プロジェクト体制による展開を図ることを検討しており、指導員のような人材の養成も視野に入れている。この場合、ベテランの社員を指導員として養成することで、高年齢者の継続雇用の実現にもつながることが期待できる。 また、5カ年計画に基づき障害者雇用を充実させるためには、職域の拡大や正社員化を含めた労働条件の多様化・多元化が必要であり、特に、採用に当たっては、人員計画とは別枠の配分の必要性も検討できればと考えている。 |
③ | 総括 最後に、今後障害者雇用に取り組む企業に対してアドバイスするとすれば、一人一人の配属と本人の意欲のマッチングに尽きるということである。即ち、採用から配属における実習をしっかり実施し、仕事だけではなく、食事やロッカーキ-、カード等の備品類の扱いも含めた見極めが不可欠と思われる。 さらには、欠点を見るのではなく、特性を見て良いところを伸ばしていくことが重要である。 当事例からは、経営トップの決断と社員の熱意こそが、本当に素晴らしい取り組みを実現できることを理解することができた。もちろん、企業の理念や歴史、風土、社会情勢、環境、法律等もろもろの要素はあるが、トップの決断と社員の熱意こそが変革の原動力であることを再認識させられた思いである。さらには、ノーマライゼーションとディーセント・ワークの相乗効果がいかに魅力的で、絶大なものかということを理解できる事例と思われる。 |
以上であるが、同社における障害者雇用は、「ごく当たり前のことをやっているだけ」との認識の元に、5カ年計画に取り組んでおり、無理をしている感じがなく自然な様子なのが印象的であった。そして、その5カ年計画の目標は本当に素晴らしいものであり、5年後の平成28年が非常に楽しみである。皆が「山梨の障害者雇用ならキトーだ」と言っているのが目に浮かぶようである。
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