障害者雇用におけるワーク・ライフ・バランスとディーセント・ワークを実現した事例
- 事業所名
- 韮崎興産株式会社
- 所在地
- 山梨県韮崎市
- 事業内容
- 民電、産業機器、自動車向ダイカスト品の機械加工
- 従業員数
- 185名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 業務課(製品箱の清掃) 肢体不自由 1 仕上課(バレル、ショットブラスト研磨) 内部障害 1 仕上課(バレル、ショットブラスト研磨) 知的障害 1 仕上課(バレル研磨) 精神障害 2 製造部(組立)、仕上課(ショットブラスト研磨) - 目次

1. 事業所概要
(1)事業内容
韮崎興産株式会社は、三井金属鉱業株式会社が韮崎に工場を建設した昭和60年8月に操業を開始すると同時に、同社全額出資により設立され、昭和61年4月から本格的に操業を始め現在に至っている。具体的な事業内容は次のとおりである。
- アルミニウム及びマグネシウムダイカスト製品(自動車用部品及び民生電気部品)の加工、研磨、組立、出荷等の業務
- 工場の緑地管理業務
- 福利厚生施設の維持管理業務
- 構内清掃業務、守衛業務等の工場全般のサ—ビス業務

障害者の直属の上司である主任の塩田さん(右)
(2)企業理念等
親会社である三井金属鉱業㈱の経営理念(下記)を旨としている
「創造と前進を旨とし、価値ある商品によって社会に貢献し、社業の永続的発展成長を期す」
(3)組織構成
総務部、精密加工部、製造部、技術企画部から構成され、人員構成は以下のとおりとなっている。
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1名 | (男性 1名) |
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5名 | (男性 5名) |
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177名 | (男性 125名 女性 52名) 障害者6名含む |
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2名 | (男性 2名 女性 0名) |
(4)障害者雇用の理念
法定雇用率の確保はもとより、経営トップ自らが弱者の積極的雇用推進を掲げ、障害者雇用に取り組むこととなったものである。その背景としては、CSR(企業の社会的責任)としての地域雇用への貢献や、ノーマライゼーション(障害者や高齢者など社会的に不利を受けやすい人々が、社会の中で他の人々と同じように生活し、活動することが社会の本来あるべき姿であるという考え方)並びにワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の推進が認められる。
2. 取り組みの経緯・背景・きっかけ、取り組みの具体的な内容
(1)取り組みの経緯・背景・きっかけ
平成5年頃から、ハローワークの紹介により肢体不自由障害者の採用を開始したのが始まりである。初めて採用した社員が定年まで勤めあげるなど、相応の実績を残したことも障害者雇用の推進にプラスに作用し、多いときには7名を雇用していた。しかし、その後、定年退職等による減少と、経済状況等の悪化が重なったため採用が滞り、法定雇用率を下回る状況に陥った。そこで、経営トップの決断もあり一昨年(22年)からハローワークを始め地元の各種学校や障害者雇用支援組織に相談して採用を再開したところ、これが奏功して3名の採用に至った。
特に、県立あさひワークホーム(山梨県韮崎市にある障害者支援施設)は、近隣ということもあり、情報交換を密にしているとのことである。
(直近の採用実績は以下のとおり)
- あさひワークホームからの紹介 女性1名 平成22年11月採用(10代の方)
- ハローワーク甲府からの紹介 男性1名 平成22年12月採用(50代の方)
- ハローワーク韮崎からの紹介 男性1名 平成23年 1月採用(20代の方)
(2)取り組みの具体的な内容
① | 労働条件
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② | 仕事の内容 主に、以下のような製造現場での単独作業業務を担当している。
![]() バレル研磨機への製品投入作業
(内部障害) ![]() バレル研磨機への製品投作業
(肢体不自由) ![]() ショットブラスト機への製品引っ掛けのための準備作業
(精神障害) ![]() 製品収納箱の清掃作業 (聴覚障害)
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③ | 助成金等の活用 助成金に関しては、特定就職困難者雇用開発助成金を活用している。また、助成金とは異なるが、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援事業を活用している。 |
④ | 労務管理上の工夫
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3. 取り組みの効果、今後の課題と対策・展望
(1)取り組みの効果
単純作業に従事してもらっているが、生産性は障害のない者とまではいかなくても休まずに出勤してくれることで現場は非常に助かっている。当初は、障害者という色眼鏡でみることもあったが、年数が経過した段階では、全員が仕事に対する姿勢も真面目であり、出勤率も高いことで信頼性が増してきている。
とにかく欠勤が少ないということで上司から頼りにされており、それが励みになっている社員も見受けられる。
会社としては、障害者の担当する業務に関して、スピ-ドよりは正確さを求めている。障害者の応用力は高くはないかもしれないが、素直に仕事に励んでくれることで、会社の要求に十分に応えてくれるので、重要な戦力となっている。
また、障害者のまじめな仕事ぶりを見て、障害のない者の刺激になっていることも事実であり、相互の人間的な成長を含め、職場の活性化につながっていると思われる。
なお、余談ではあるが、外国人の社員と仲良くなるのが早く、職場内コミュニケーションの円滑化にも一役買っている。
(2)今後の課題と対策・展望
① | 課題 工場全体の設備面での安全対策は最優先で取り組んでいるが、障害者に特化した整備は模索中である。障害者は積極的に発言することが苦手な人も多く、それをどう引き出していけばいいのか悩ましいところであり、コミュニケ—ションを更に円滑にしていくことが今後の課題でもある。 さらには、激しく厳しい経済情勢の変化に対応するために、多品種生産や業務効率の向上施策に伴い、担当業務の変更や建物内の作業場移動などに対応できるか否かも今後の課題であると捉えている。 |
② | 対策・展望 設備面については、震災などの災害時に、言葉やマニュアルだけではなく、目で見て簡単に分かるような表示機器を設置するなどの整備を検討したいと考えている。さらに、避難誘導の方法についても、経路や誘導担当者、表示方法など障害者の視点で見直しをする必要性を感じている。 また、コミュニケーションの向上には、障害を理解することが不可欠であり、できるだけ身近な職場の上司に障害者職業生活相談員資格認定講習を受講させて、各種障害を理解してもらうことと、障害者雇用に対する理解と支援について勉強する機会を設けたいと考えている。上司を含め職場全体が障害への理解を深めることにより、障害のない者からだけではなく、障害者からも気軽に双方向のコミュニケーションがとれるような雰囲気を作ることが可能と思われる。 担当業務や作業場所の変更に関しても、障害の理解を深めたり、ジョブコーチの支援を受けながら、無理のない対応を実現したいと考えている。 なお、今後の障害者雇用の拡大については、必要に応じて適宜検討する予定である。 |
③ | 総括 最後に、今後障害者雇用に取り組む企業に対してアドバイスするとすれば、次のとおりである。
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障害者雇用に秘策はない。あえて言うなら、とにかくトライし彼らを理解するよう努め、彼等の目線で職場を見つめることではないだろうか。そうすることで自然と障害者雇用の意識やノウハウを身に付けることができると考えられる。それは、社員個人だけではなく、その部署や、ひいては会社全体に醸成されうるものであろう。当該事例からは、経営トップの意志と上司の熱意が、本当に素晴らしい取り組みを実現する原動力であることを理解することができた。また、障害者本人のコメントからも明らかなように、障害者雇用とワーク・ライフ・バランスとディーセント・ワークの三つは相互に連携する要素であり、これらの実現が、ノーマライゼーションの推進につながることが実感できる事例であった。
繰り返しになるが、「人間として生き生きしている自分がいる」という障害者本人のコメントが、印象的かつ象徴的に当該事例の特徴と素晴らしさを物語っている。
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